第57話 眠らない街イントミス
ここからドタバタになっていきます!
Cランクに上がり、気持ちを新たに邁進する俺達【トラストフォース】。
【アテナズスピリッツ】におけるギルドマスターであるカルヴァリオさんからのギ極秘クエストとして、領内で密かに蔓延る闇ギルドの調査を命じられる。
俺達以外ではクルスがかつて所属していたCランクパーティー【パワートーチャー】と
実力者揃いのBランクパーティー【ディープストライク】に白羽の矢が立った。
馬車に揺られて約一時間少々——————
「着いたぞ!ここがイントミスだ!」
「「「「「「「「オォォォ~!」」」」」」」
俺達の目の前には、いくつもの建物が立ち並んでおり、レンガ造りや石造り、中には10階以上はある金属の壁で覆われている形まで様々だ。
所々で派手な装飾が施された看板や外観をしている建物がある事から、飲食店の他にも娯楽施設があると分かる歓楽街だ。
昼下がりなだけに、飲食や武具を扱うお店しか空いておらず、娯楽施設は概ね閉まっている。
リフレッシュ目的で来る冒険者だけでなく、ストレス解消のために近隣の貴族がこぞって来る事も珍しい話ではないとの事だ。
「ティリルと比べれば、若干殺風景な気がしますね……」
「もしかして、昼間は閉めているお店が多いんですかね?」
「イントミスは歓楽街を持つ街として有名だからな。ショーや演劇などの娯楽を生業にする店が多く乱立してる分、夜になったら賑わうぞ」
それらの要素から、イントミスを「眠らない街」と渾名する者も多い。
ケインさん先導の下で俺達はある場所へ向かった。
「ここがイントミスに拠点を置く冒険者ギルド【ベスズプレイフル】だ」
目的の場所である冒険者ギルド【ベスズプレイフル】へと辿り着いた。
俺達が所属している【アテナズスピリッツ】に負けないくらいの大きさと広さをした立派な建物である。
大きな違いがあるとすれば、装飾が他の娯楽施設並みに華美であり、看板にお金をかけてしまって大丈夫なのかって一瞬思った。
そして俺達は入っていく。
「失礼します。【アテナズスピリッツ】より派遣された者です。【ベスズプレイフル】のギルドマスターからの依頼で参りました」
「【アテナズスピリッツ】の皆様ですね。お待ちしておりました。早速ご案内します」
中に入ってみると、基本的な内装は俺達の所属しているギルドと似てはいるが、ところどころに絵画やイベントを知らせるポスターが張られている。
【ベスズプレイフル】に所属しているのは俺達のようにクエストを受けて冒険に出る者はもちろん多くいるが、違う点がある。
「ここのギルド、パフォーマーとか音楽家とか多くないですかね?」
「はい、正統派な冒険者はおりますが、娯楽を生業にするギフトを持っている方が他のギルドよりも多く在籍しております。故にクエストの中身も討伐や採取以外にも、華麗なダンスが見たいや素晴らしい音楽が聞きたいなど、冒険者向けのギフトではやりにくいクエストが飛んで来る事も珍しくないのです」
「ティリルでもお祭りが開催される事はありますけど、もしかして、こちらのギルドから派遣される事って……」
「はい。クエストを受けたら近くから遠くの場所へ赴いてお仕事される事はかなりの頻度でございます」
「うちのギルドよりも、あまり武闘派を抱えていないって聞いた事がありますね」
セリカやミレイユは思った感想を口にする。
【ベスズプレイフル】はダンスや曲芸、音楽や絵描きを生業にするギフトを持つ人物が多く、その分武力では劣ると共有された。
Cランク以上の冒険者やパーティーも複数あるが、【アテナズスピリッツ】ほど多くはない。
「マスター、【アテナズスピリッツ】から派遣された冒険者12名をお連れしました」
「通しなさい」
「皆様、こちらがギルドマスターのお部屋でございます。どうぞ……」
事務員の案内で部屋に入っていく俺達は【ベスズプレイフル】のマスターと対面する。
「ようこそお越しくださいました!初めまして!私がこの【ベスズプレイフル】のギルドマスターを務めている、ルチアーノ・エルロンです。今回は来ていただいて感謝します!」
目の前にいる営業スマイル全開の女性こそ、イントミスを拠点にする冒険者ギルド【ベスズプレイフル】のマスターであり、協力を求めてきたルチアーノ・エルロンさんだ。
僅かに黄色のかかった赤色のロングヘアーに活動的で情熱に満ち溢れたような印象を感じさせる均整のとれた美しい女性だ。
着ている服装もオフショルダーの紺色のシャツに黒色の裾にかけて少しずつ広がるタイプのパンツに編み込みタイプのサンダルを履いている。
気さくな業界人のようなイメージを感じざるを得ない印象だ。
ハイヒールを履いているから、ケインさんと同じくらいの身長に見えるため、ファッションモデル顔負けにスタイルも抜群だ。
「カルちゃんは元気にしている?あの冒険大好きだった……」
「はい、お元気にしていますって、カルちゃん?」
「そう、私も現役時代は冒険者だったの!パーティーは違ったけど、アライアンスで一緒にクエストへ行った経験が何回かあるの!本当にThe・冒険者って人だったわ!」
「そうだったんですね。ルチアーノさんも冒険者のキャリアがあるんですね!」
「あるわよ~!」
ルチアーノのさんもまた、カルヴァリオさんと同じく、現役時代は高名な冒険者だった。
現役時代はAランク冒険者として『特級魔術師』として活躍していた事や、カルヴァリオさんと共に冒険に出向いた経験がある事を教えてくれた。
カルヴァリオさんが現役引退を知ってしばらくした後、自分も後進育成に携わりたいと思って退き、今では冒険者ギルドの運営だけでなく、「冒険に向かないギフトを授かった人達の助けになりたい」及び「娯楽を通して人々に活力や可能性を与えたい」と言う考えで自身もギルドマスターの話を引き受けたと聞かされた。
ルチアーノさんがマスターになってからはイントミスやその周辺は栄えるようになり、今の繁栄した地域を作り上げたって話だから純粋に凄いと思った。
会話もほどほどに本題に入っていく。
「今回あなた達を呼んだのはね、イントミスを中心に散見されつつある闇ギルドの調査を主にお願いしたいのよ」
「はい、それは我々が所属しているギルドのマスターでから存じ上げております」
「今ではイントミスも遊行や娯楽として有名な街として国内でも有名になったものの、同時に一種の弊害を生みだしてしまったと遅ればせながら気付いたのです……」
「それが我々のギルドに依頼した……」
「えぇ……。闇ギルドがこのイントミスで発足されていて、闇クエストの発生による犯罪の常態化が進みつつある状況を止めるために皆様を呼んだって訳なのです」
ルチアーノさんは本題に切り込むに比例して、先ほどまでの友好的な笑顔から打って変わり、真剣そのものの表情をしていた。
「私が運営するギルドに所属する団員数名から恐喝から殺人未遂による被害までは少しあり、中でも人身売買が主に行われているとの報告を受けております。現状でメインの被害者は他でもない、【ベスズプレイフル】に所属する冒険者達なのです」
「「「「「「「「「「「……ッ?」」」」」」」」」」」」
ルチアーノさんから聞かされた話は想像以上に深刻だった。
娯楽や遊行の街で有名なイントミスだが、ここ数ヶ月で誘拐による人身売買が主な闇クエストが多発するようになっていた事を改めて知った。
人身売買は当然、違法行為であり、売り飛ばされる先はそれこそ異常な趣味を抱いている貴族やならず者まで様々だ。
遊楽な要素を持った土地ほど密かに犯罪の温床になっているのは前にいた現実の世界でも、ニュースにしても口コミにしてもいくらかは知っていた。
本来は楽しく気持ちを盛り上げさせて元気づけさせる娯楽の仕事をあくどい商売に利用するなんて、許せるはずがない。
極秘に依頼してくれたルチアーノさんがカルヴァリオさんの旧友と言うのもあるが、このまま放置できないとも思い始めていた。
「それで、我々が派遣されたのは……?」
「イントミス以外を拠点とするギルドの皆様に、中立的かつ厳正な行動で闇クエストが発生する現場を抑え、闇ギルドの壊滅のお手伝いをしていただきたいのです!」
ルチアーノさんの話を聞いて考えが読めた。
【ベスズプレイフル】も武闘派の冒険者パーティーや人員を抱えているものの、同じギルドのメンツでそのままやらせれば、イントミスで幅を利かせようとする輩に目を付けられる可能性が高く、警戒された挙句に煙に巻かれる懸念を抱き、外部の協力者に力添えをお願いしたと言う次第だ。
「だからこそ、カルちゃ……カルヴァリオの推薦で選ばれたあなた達に協力を申し出たのです。各パーティーそれぞれ時間をずらして招いたのはそのためです」
「そうだったんですね……」
「リスク分散って感じですか……?」
「……」
「その通りです」
それで各パーティー別に時間を分けて、今いる部屋に招き入れたって訳なのも分かった。
闇ギルドが絡む相談をするのに目立つ行動を取るのは悪手だからな。
「分かりました。改めて我々がその闇ギルドの調査について引き受けましょう」
「ありがとうございます。心強い限りです」
「やってやろうじゃないか?なぁ、お前ら!」
「「もちろん!」」
「全力を尽くします」
ケインさんの言葉に彼のメンバーは「任せて下さい」と示す表情を見せ、ドキュノらはやる気を見せていた。
ただ、ゼルナだけは普段通りの笑みを崩してはいなかった。
「微力ながら、我々もお力添えさせていただきます!」
俺がそう言うと、セリカもミレイユもクルスも真剣な表情をしていた。
「協力も取り付けられたのが確認できましたので、本日見張りについて頂きたいショーのイベントがございます!」
「と、言いますと……?」
ルチアーノさんが協力していただけるスタンスを確認すると、嬉しそうにしており、ケインさんが少しキョトンとした表情を見せた。
「これです!」
そう言われて見たパンフレットは……。
「これに観客側、裏方側、裏通りの番側に分かれてしばらく見張っていただきたいのです!」
「ルチアーノさん、随分とマニアックと言いますか、何と言いますか……」
「中々に刺激的ですね……」
「……」
その内容は、ギリギリな衣装を身に纏ってダンスや歌を披露するショーのイベントであり、そこに的確な役割で仕事をしていくものだった。
ドキュノと俺は苦笑いをしていた。
「各パーティーの代表者に分かれて役割分担や仕事内容について説明しますわ!」
「「「……」」」
「そして、尻尾を掴んだ闇ギルドの胴元もしくはその側近らしき人物の写真がこれ……」
さっきまでのシリアスな表情から打って変わって、陽気な表情を見せるルチアーノさんの動きや言葉を見て、俺達は少し困惑した。
内容がシリアスなのは分かるが、賑わうイメージが強い街で闇ギルドの存在に関連する調査と言う、強力なモンスター討伐とは違った意味でのクエストをやる事にある種のプレッシャーを感じる俺だった。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




