第54話 ミレイユとクルス
ラブコメ要素もございます!
Cランクに上がり、気持ちを新たに邁進する俺達【トラストフォース】。
武器の新調に伴い、俺とセリカはミスリルの剣、クルスにミスリルのロングナイフを購入するに至った。
それから約二週間——————
「セリカ、クルス!そっちに行ったぞ!」
「分かってます!」
「見えてます!」
「「ハアァァ!」」
俺達はひと気のない丘で発生した“ハイハイエナ”のコロニー殲滅に動いていた。
“ハイハイエナ”はレア度DのモンスターでCランク冒険者ならば、10体程度は簡単に対処できるが、侮れない身体能力を持っており、100体近くを相手にしている状況だ。
繁殖力も高く雑食性なため、放置してしまうと農村に被害が出てしまう可能性が非常に高かった。
「【氷魔法LV.2】『メガブリザード』!」
「「「「「「ガガガオオオォォ」」」」」」
「トーマさん!」
「ありがとう!」
ミレイユによる【氷魔法LV.2】『メガブリザード』で“ハイハイエナ”数十体はみるみる凍っていく。
そして俺が前に出る。
”フライングタイガー”との戦いから新たに習得した魔法スキルだ。
「【ソードオブハート】&【剣戟LV.1】『五月雨突き』!」
「「「「「「ガガガオオオォォ」」」」」」
俺は強力な突きを連続で放った。
すると“ハイハイエナ”は氷と共に砕けながら光の粒子となって消えた。
「【風魔法LV.2】『デルタウインドスパイラル』!」
「「「「「「ガガガオオオォォ」」」」」」
セリカも強力な一撃で数十匹を一気に薙ぎ払った。
「【剣戟LV.1】『隠座双突』!」
最後はクルスの一撃でコロニー殲滅は達成された。
そしてコロニーを破壊したシンボルが落ちた。
「トーマさん、終わりました!」
「よし、クエスト達成だな!」
100匹近くいた“ハイハイエナ”の集団を片付けた俺達は依頼主の町長に完了の報告をすると、凄く喜んでくれた。
今回は以前に訪れたグリナムの離れにある丘で起きたから、解決できてよかった。
ヒライト家の皆様は元気にしてるだろうか……。
そう思いながら帰路に着く俺達だった。
「「「「カンパーイ!」」」」
「あ~美味い!」
「コロニー殲滅した後の一杯は最高ですね!」
「エールにはやっぱり唐揚げだよね~」
「焼きたてポテチもまた美味です!」
Cランク向けのコロニー殲滅は入ってくるお金も多く、今日はパーッと飲み、明日はゆっくり休む事にした。
「改めて思い返すと、セリカもミレイユも強力な魔法攻撃が使えるのは羨ましいな……」
「そんな事ないわよ。クルスだって【気配遮断LV.2】を使った隠密行動や戦術も私達から見れば羨ましいし、むしろ会得出来ないかなって思ってるくらいなんだから!」
「そーそ!『シーフ』ってギフト自体は基本的に後方支援や偵察が専門なんだけど、高いクオリティで剣も振るえる『シーフ』って中々いないわよ」
「そうか……。そう思ってくれるなら自信になるよ」
(クルスが仲間になって結構時間が経ったな……)
クルスが仲間になってから、戦力アップはもちろんの事だが、モンスター討伐やコロニー殲滅でも煙玉や炸裂弾などの補助アイテムを交えた戦術のクオリティがかなり上がった。
今日のコロニー殲滅も、クルスがこっそり敵陣の近くに爆発物を設置して、それを起点にした奇襲もあって大きなダメージを負う事なく終わらせられた。
俺達にとってクルスは、もはやなくてはならない存在になった……。
「……」
「ん?ミレイユ、どうしたの?」
お酒が回りかけているミレイユは不意にクルスの顔をジーッと見ていた。
顔は赤くなってきているが、どこか悪戯っぽい表情をしている。
「クルスって初めて会った頃より、と言うか【パワートーチャー】にいた頃よりもよく笑うようになった気がするのよね~」
「そうかな?」
「そうよ!あの頃のクルスってなんか自分に自信がないと言うかネガティブな印象が強かったし……」
「確かに、うちのパーティーに来てからは、感情表現が豊かになってきたよ」
「そうですか……?そんなに僕って……」
「本当にそうよ!ほら今こうなってる~」
「ちょ、ミレイユ……」
言われてみると、クルスは前のパーティーを辞めるまではどちらかというと自分の感情をあまり出さない印象だったが、セリカとミレイユの言う通り、【トラストフォース】に入ってからは笑顔が増えている。
きっとこれが本来のクルスの姿なんだろう……。
明日はギルドにどんなクエストが張り出されるか、買い足しておきたいモノがないかを話し合いながらギルド飯を楽しんだ。
「ミレイユ、ほら!しっかり歩きなよ」
「明日はお休みでしょ~、ゆっくり行こうよ~」
「確かにクエストには行かないけどさ~」
「ミレイユって酔いやすいのを自分で知ってるはずなのによくお酒飲むよね」
「明日は休養日だから、まぁいいですけど……」
俺達は拠点にしているセリカの家へと向かった。
メンバーの中では悪酔いしやすいミレイユをクルスが介抱しながら歩いている。
俺とセリカは後ろから見ている。
「あっ!」
「ミレイユ!」
「「ッ!?」」
酔いもあって小石を踏んだ拍子にバランスが崩れたミレイユの身体は後ろ向きで倒れかけたが、クルスは咄嗟に彼女の手を取り抱きかかえた。
「大丈夫か?ミレイユ……?」
「うん……。平気……」
「「……」」
ミレイユの眼前にクルスの顔が急接近している。
モンスター討伐では身体を預け合ったりする機会はあれども、咄嗟とは言え、二人の今の距離感は数十センチほどだった。
俺とセリカは呆けていた。
(こうして見ると、ミレイユって可愛いな……)
(クルスってよく見たら、意外と男前に見える……)
クルスとミレイユが無言で赤くなりかけながら見つめ合う事、十数秒……。
「二人共大丈夫かー?」
「え?あ?だだだだ、大丈夫です!ミレイユ、怪我は……」
「私も……平気平気!ごめんなさい!」
((一瞬だけ恋人みたいな距離感だった!))
思わぬ状況にミレイユの酔いも一瞬で大分醒めたようだった。
周りに人がいないのはいいものの、クルスとミレイユはちょっとだけ気まずい状況になって眠りに付くのだった。
尚、寝る直前でクルスは俺と一緒の部屋で、ミレイユはセリカと一緒に寝ている部屋で色々とトギマキしながら否定していまくったのは、ここだけの話である。
翌日—————
「買いたい物は全部買えたかな?」
「僕は問題ないです!」
「セリカやミレイユは?」
「後は今日の晩御飯の食材を購入したいですね」
「私はもうない」
「じゃあ、ギルドに向かって受けられそうなクエストを確認しに行こう」
休養日の昼下がり、俺達は冒険に必要なアイテムや日用品の買い出しに出ていた。
朝一番にクルスとミレイユは昨晩の事で必死に謝っていた。
それからはいつものメンバー同士のほどよい距離感に戻ってはいる。
まぁ、そうなるよね……。
それからギルドに向かって掲示板を見ていた。
「どれがいいかな~?」
「最近モンスターと戦闘するクエスト続きですけど……、ここは……」
張り出されている依頼書に目を通しながらどんなクエストを受けたいか見ていると……
「あれ?クルスじゃねぇか?」
「「「「ん?」」」」
一人の男性がクルスに話しかけ、俺達はその方向に目をやった。
その声には聞き覚えがあるものの、その口調は茶化す気持ちも混じっているようだった。
「久しぶりだな!」
「ドキュノさん?」
この男はドキュノ・ビルイと言うCランクパーティー【パワートーチャー】のリーダーであり、かつてのメンバーだったクルスを追い出した張本人だ。
クルスから辞めた経緯を聞いているだけに、俺達の表情にも静かな怒りが滲み始めている。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




