第53話 それぞれの動き
次へ繋がる小話的な内容です!
とある小山の麓————————————
「ハハッ!あんな辺鄙な村で意外と食料が取れたよな!」
「本当だぜ!金はねえのに作物は無駄にあるのはマジでラッキーだぜ!」
「金目のモンもそれなりに取れたし、今回は結構な収穫っすよ!ですよねカシラ!」
「あぁ、そうだな。今日も中々の収穫だぜ!とりあえず近くの村2,3カ所を襲ったら拠点変更だ!」
「ハイ!定期的な拠点変更は身の安全を守るですね!」
「それな~っすわ!」
「出た!お前のそれな~。と言うネタ!」
「「「「「ギャハハハハハ!」」」」」
そびえ立つ山の付近でアジトのような場所で食料やお金を雑に扱いながら下品に笑う男の集団達が騒いでいた。
酒も入っているのか、その悪ノリっぷりに拍車をかけているような気がする。
その集団の中心である盗賊団のカシラらしき人物は他の団員よりも背が高く筋肉質なうえに強面だった。
風貌や振る舞いで分かる悪人たちだ……。
酒場でガヤガヤと騒ぐ雰囲気でいたのだが……。
ピカーーーン!
「「「「「!?」」」」」
「なんじゃぁあ!?」
突然響く炸裂音や閃光と共に強烈な爆風がアジト内を襲い、団員の大半が動きを止めた。
強烈な不意打ちだ。
「こんな昼間からよく下品な騒ぎができるよな……」
「何だお前ら!」
盗賊団のカシラらしき人物が狼狽しながらも威嚇するような声を上げながら振り向く。
「酷い事をする輩達の粛清に動く正義の味方だよ!」
盗賊数名を鞘に納めたままの剣で卒倒させていく。
そう言いながら現れた俺達【トラストフォース】のメンバーだ。
奇襲に成功したのもあって、ミレイユの【氷魔法】による拘束やセリカとクルスの見事な捕縛もあって、次々と制圧していった。
残るは盗賊団のカシラらしき人物ただ一人。
「テメェ!こんな事してタダで済むと思ってんのか?」
「思ってない事もないよ!ここでお前を倒しちゃえばチャラだし!」
「俺を舐めるなよ!これでもかつてはDランク冒険者の中でも最強と言われた俺の実力を思い知らせてやら―!」
そう言って盗賊団のカシラはロングナイフを抜いて俺に襲い掛かって来た。
集団を率いるリーダーなだけあってその踏み込みは中々堂に入っているけど……。
「フン!」
「ギャァアア!」
(セリカやクルスの方がまだ速くて鋭いな……)
俺はサッと躱し、そのリーダー格を峰打ちで昏倒させた。
勢いは確かにあったし、毛の生えた冒険者ならばこれでお終いだと思うけど、異世界に来てからも鍛錬やトレーニングを、モンスターとの戦いで修羅場を超えてきた俺から見れば、あっけないものだった。
そうして始末するべき盗賊団は拘束した上でティリルに常駐している衛兵らに引き渡してギルドに完了報告をした。
「盗賊団の確保、お疲れ様でした。」
「ありがとうございます!」
状況の成否を馴染みの受付嬢であるナミネさんに報告を終えた。
それからはアライアンスで結んだ数組のCランク・Dランクの冒険者パーティーらとギルド飯に洒落こんだ。
相手は冒険者崩れの盗賊団とは言え、数カ所に拠点を構えた連中が相手だったので、【アテナズスピリッツ】に所属する冒険者パーティー数組が協力し合って解決に動いていた。
俺達が襲撃をかけた拠点の一つを潰し、他にアライアンスを結んだ冒険者パーティー達も壊滅に成功したお陰で、ティリル近辺に根差している盗賊団の根絶に成功したのだった。
「にしても、本当に凄いな!【トラストフォース】の皆さんは!」
「また機会がありゃ、アライアンスを組んで冒険に行こうぜ!」
「我々ともどうか是非!」
「ありがとうございます……。また機会があれば……」
俺達は一緒に解決へ乗り出したパーティーらと飲み食いをしながら親交を深めていった。
他のパーティー達と酒を飲み交わしながら働きを労い、仲を築き上げていくのは本当に有意義であった。
アライアンスを組んだだけに分け前は折半になったが、しっかりと話し合ったお陰で、蟠りができないようにしておいた。
「ふえ~盗賊を始めとした輩退治って、モンスター討伐とは違うモノがあるな~~」
「うん、そうだね……ってミレイユ!また飲み過ぎよ!」
「これは二日酔い確定ですかね……」
「かもな……」
ほぼいつものような状況だが、酒に酔いやすいミレイユの介抱をしながら帰路に着くパターンになった。
「今回は初めてになったけど、対人相手のクエストってあるんだね……。今回の盗賊団の確保って類のクエストは……」
「はい。盗賊団や強盗団の類はギルド側の精査が必須とは言え、舞い込む事がたまにあるんですよ。我々冒険者が受けるクエストって、基本的にはモンスター討伐や素材の採取、未開の地の攻略がメインになりますけど、明確な悪意を持って実害を及ぼす輩を捕縛するクエストがあるんですよ……」
クルスによると、明確な悪意を持っている輩を倒すもしくは捕縛するクエストが舞い込む事があると聞かされた。
盗賊団相手に万全を期すためか、今回のように数組の冒険者パーティーがアライアンスを組んででも解決に動きたい内容だった。
ギルドがそう判断したからだったものの、結果は見事に完遂となった。
「言っても、モンスターを始めとする実戦経験のある冒険者の集団やその中に【気配遮断】や【気配探知】の類を持っている戦力があれば、何とかなる事でしたけど……」
「なるほど……。確かに対人戦だったからね……」
「えぇ……。モンスターを相手にするのとは勝手が違いますからね」
クルスの言っている事に俺は少なからぬ納得を感じていた。
人間同士の争いであれば、使う武器や用いる戦略を互いに発揮し合う事でその真価を発揮するモノである。
冒険者パーティーの目的がモンスターとの戦闘やコロニー殲滅であれば、その体型や弱点、攻撃方法や立ち回りまで千差万別だ。
故にモンスターの特徴を前もって把握しておけば攻略法は見出しやすい。
一方、人間を始めとする知性のある相手であれば、やり合う前も含めての駆け引きが重要になってくるため、蓋を空けて見ないとって形で攻略法を見つけないといけなくなる。
相手が何にしても、大なり小なり最短で解決を図る合理性が必要なのだ。
足りない部分を互いに補い合うのが冒険者パーティーであるけど、それはモンスターや人間の集団で戦う戦闘者達にとっては至上命題と言っていい問題だ
「対人戦も視野に入れた立ち回りも覚えていった方がいいかもな……」
「少なくとも、冒険者の相手はモンスター以外の状況になる事はこの先何度もあると思いますので……」
「それもそうだな……」
クルスの意見や進言を聞いて、俺は少なからず重く受け止めていた。
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同時刻、とある街の宿——————
「いやー、今回の調査クエストは大成功だったぜー!」
「このトラップスコープのお陰で、トラップには引っかからないわ、マッピング機能もあるからスムーズに帰って来れるわで最高よ!」
「本当よね~。加えて攻撃力に優れた新メンバーを加入させたドキュノのプランに従ったのは大正解かもね!」
街の宿屋の一室で酒を飲みながらとある調査系クエストを達成して盛り上がっているのは、Cランクパーティー【パワートーチャー】のリーダーであるドキュノ・ビルイとその仲間達であり、クルスも一時は彼らの下にいた事があった。
ドキュノの側にはカズナとフルカが座っており、お酒が回っているのか、饒舌だ。
そしてその向かいには一人の女性がいる。
「全くだぜ!その上お前が加入してくれちゃったお陰でモンスター討伐も楽になったから万々歳だぜ!なあ?ゼルナ?」
「はい。お役に立てたならば何よりですわ」
彼女はゼルナ・ドゥーチェであり、クルスの後任として入ったCランク冒険者の『魔術師』である。
紫紺の髪色に毛先辺りにロールをかけたロングヘアーをしている妖艶でどこかミステリアスな雰囲気を感じさせる美女だ。
「ところでドキュノさん、ギルドに戻ってきたらどのようなクエストを受けましょうか?」
「そうだな。また調査系クエストもいいが、そこは後々考える事にするわ!」
「分かりました。楽しみにしていますわ。少々お手洗いに……」
「お、おう……」
そう言ってゼルナはお手洗いに入っていった。
「ふふふ、あんなに上機嫌になるなんて、調子のいい事……。それに……」
「このパーティーで、面白い事ができそうだからゾクゾクしちゃう……」
鏡に映るゼルナの表情には、悦に浸ったような妖しい笑みが零れていた。
この時、俺達は知らなかった。ゼルナと言う女性のある行動が、あんな事件を起こしてしまうなんて……。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




