第51話 ミスリルの剣
遂にあの武器が手に入ります!
Cランクに上がり、気持ちを新たに邁進する俺達【トラストフォース】。
リペアフルードでも完璧な修繕も難しくなってきている俺達の装備を新調するために行動を始め、資金確保のためにある場所を訪れていた。
「ティリルの裏通りにこんな場所があるとは……」
「僕も数回訪れた事はありますが、中古武具の販売や買取をしてくれるお店が軒を連ねています。もちろん、それもピンキリですが……」
「私は好んで利用したくないけど、使い古しのモノを扱う店を当てにするならここなんですよね……」
「そもそも、女性一人で入るのもちょっと勇気がいる通りなんですよ」
普段は冒険者や商人、一般の市民で賑わう街で有名なティリルだが、そんな所でも陰日向に商売をしている通りもある。
それが今いる街の裏道である。
別名『骨董もどきの通り』。
中古品を扱う武具や衣服を扱うお店が多く並ぶ店だ。
全体的な雰囲気も陰気で薄暗さを感じさせるものの、ほとんどが真っ当な商売をしており、俺が知る限りでは人の道に外れた所業をしている店の情報は入っていない。
「まだ昼前なのに、暗い雰囲気を感じるな……」
「あまり太陽が当たらないっていうのもありますけど、店も店ですからね……」
「トーマさんは馴染みがないと思いますけど、中古品を扱うお店にも需要はあるのです!」
「冒険者は基本的にしっかりした装備を整えるためにも、『ロマンガドーン』を始めとする武器屋を使うべきなところ、切実な理由でこう言った中古品を扱うお店を利用する人もそれなりにいるんですよ。だから中古品を扱うお店の商売も結構成り立っているんですよ!」
「ミレイユもそんな経験があるのか?」
「まあ、実家の関係で知った感じ……、ですけど……」
各々が意見を並べる中、行商人一家の娘として生きてきたミレイユの発言は合点がいった。
冒険に出るならば、予算内で整えられる装備はしっかり用意するものだ。
だが、諸々の事情で正当な武器屋ではなく、中古品を扱う武器屋を頼る者が大なり小なりであるが、いるとの話だ。
ある者は新品の武器を買うのも渋るもしくは節約に力を入れたい若手冒険者。
ある者はお金に余力はありながら、思わぬレア物を期待して賭けに出る冒険者やきまぐれでコレクションにしたがるお金持ちの貴族。
そして、買い替えたお金を確保するために、武具を売りに来る冒険者。
俺達の今回の目的は資金確保だ。
「トーマさん、あそこが中古品を扱う武器屋の中でも比較的品揃えが良くて買取にもしっかりやってくれるお店、『オルドン』です!」
「へえ、ここが……」
外観は通常の民家より少し大きい程度だが、年季の入ったボロさを感じた石造りだ。
看板も少し傾いている辺り、何年も補修をしていないように見えた。
「失礼します」
「おう、いらっしゃい」
(随分とぶっきらぼうだな。)
入ってみると冒険者が使うだろう剣や槍、盾や鎧を始めとする武具が多く並んでいた。
それでも、今まで武具の手入れを行ってきた賜物と言う気はないが、リペアフルードで修繕や保守をしてきた経験もあって、誰にも触れられていない新品や手を加えられた中古品の区別も感覚的に分かってきた。
中古品しかないだけに、どの武具もボロさが目立ち、特に盾や鎧は手入れがあまりされていないようにも見えた。
「あの……」
「おう、何だい?……」
俺が問うと、中々ぶっきらぼうな態度だった。
「武具を売りたいのですが……」
「ん?見せてみな……。【商人鑑定】!」
【商人鑑定】とは、モンスターから出る魔石やその素材を始めとするアイテムの詳細を明かすスキルだが、俺が持っている【簡易鑑定】では分からない具体的な情報を見極められるため、モノの売買を生業とする商人には切っても切り離せないスキルである。
数分ほど、俺やセリカが使ってきた剣とクルスが愛用していたロングナイフ一本をじっくりと店主が見ている。
「おう、これだったら買った時の金額とまではいかないが、よくて半額くらいの金額で買い取れるぜ!」
「本当ですか!?」
「大抵は見てくれだけ治せればいいやってスタンスで売ってくる奴が多いんだけど、日頃からしっかりと手入れしているのがよく分かる」
(それが普通だけどね……)
((前のパーティーで雑用の一環でやらされてたからな……))
俺は思わず声を上げてしまった。
店主もぶっきらぼうなだけで、根が悪い人じゃないのも分かった。
「ほら、合計で50万エドルだ」
「ありがとうございます!」
「トーマさん、この金額なら……」
「あぁ、いける!」
俺達は嬉しさを抱えながら店を後にし、その足で『ロマンガドーン』へ向かった。
「店主さん、これで前に言っていた武具を購入させていただきます!」
「合計で450万エドル、確かに受け取った!」
さきほど買い取ったお金に加え、ヒライト家の依頼で受け取った報酬とCランククエストで得たお金である武器を購入した。
「やっと手に入れたな。ミスリル製の剣を!」
「はい!」
「僕が使っていたロングナイフよりも遥かに振るいやすいです!」
「やっぱりミスリルは綺麗だねー」
俺とセリカはミスリルで作られた片手剣、クルスは一振りのロングナイフであり、こちらもミスリル製だ。
出費はデカいが、一人一人の戦力向上とより良い冒険をするためと思えば、未来への投資として受け入れられる。
纏まったお金が入ったら、今回何も新調していないミレイユにも、『魔術師』が使う武具やアイテムも買ってあげよう。
お金も贅沢しなければ二~三カ月は食べていけるくらいの蓄えはあるため、またクエストに出向いて報酬をもらう生活にはなるものの、死活問題ってほど深刻ではない。
何にせよ、また頑張ろうと言うモチベーションも高まってきた。
そして……。
(ファンタジーの世界で憧れた剣をこうして握れている!最高だ……)
「トーマさん!顔が綻びまくってますよー」
「セリカ、あれって……」
「うん、完全に自分の世界に入ってるね」
また一つ、できたら嬉しい願いが現実になった瞬間にいる俺でした。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




