第48話 初体験!貴族の空間!
主人公たちが貴族のパーティーに参加します!
Cランクに上がるための試験クエストを受ける中、“ログム山”で「Dランク冒険者最後の壁のモンスター」とも渾名されている“フライングタイガー”との戦いを制した。
依頼主であるヒライト家の現当主であるアスバン様の計らいで、彼が治めているグリナムで安らかな一時を過ごしていた。
夜の時刻、とある会場の控室——————
「うおーーーー!」
(これが貴族の服装と言うモノかーーーー?)
俺はグリナムにある大きな公民会館で他の領土の領主やその関係者を招いたパーティーに参加していた。
今の俺は深緑を基調にしたいかにも英国貴族のような服装に身を包んでいた。
なぜこう言う事になっているか……
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パーティー開催日の昼前—————
「え?我々が他貴族の領主や関係者との交流を深めるパーティーに招待ですか?」
「あぁ、見ての通り、ミクラも回復の傾向にあってな。君達のお陰だ、感謝する」
(それ聞くのはもう何回目だろう……)
アスバン様から妻であり、病床の身に伏していたミクラ様の回復を助けてくれたお礼の一つにと参加を打診されたのだ。
こう言ってはあれだが、俺はもちろんセリカやミレイユも貴族が集う類のパーティーに参加した経験はなく、Cランクパーティーに数ヶ月いた事のあるクルスもない。
そもそも社交界なんて、俺にとっては夢物語とさえ思っていたくらいだ。
「ティリルにある冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に結果を報告したところ、君達がCランクパーティーに相当する実力者だと知った」
「そして、私や娘のチェルシアにとって最愛の存在であるミクラを助けていただいた。素晴らしい冒険者である君達を是非とも、私の名の下で紹介したいと思っている。だが、社交の場であると同時に、仕事における互いの発展に役立てるための交流会であるから堅くならなくてよい。社交の場に相応しいお召し物もこちらで用意する。」
おいおいおいおいおいおい!少なくとも俺らから見れば話がデカいぞー。
セリカらも漏れなく「非現実的な世界に放り込まれるの~?」みたいな顔だぞ。
しかし、ここまで言って下さるのならば断わるのも野暮だし、アスバン様も「基本付いて回るくらいのスタンスで良い」と言っているので、余計な事をしなければ大丈夫だろう。
こうして俺達はそのパーティーへと参加する運びになったのだ。
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そして現在に時を戻し—————
「俺がいた現実世界における貴族なんてもう廃れていたようなもんだったし、それを今こうして自分がリアル貴族みたいな恰好をするなんてな……」
「あの、トーマさん?」
「おう、クルスか?って……」
俺を気に掛けてクルスが声をかけてきたが、茶色を基調にした貴族らしい仕立ての良い服装に身を包んでおり、髪型もオールバックになっていた。
前髪のせいで少し分かりにくかったけど、クルスって少し幼さは残っているけど、しっかり整った顔立ちをしているから、いざという時に決めれば相当なイケメンに見えるんだよな。
「何か、貴族の息子って感じがするな……」
「それを言うならトーマさんこそ……」
「トーマさん、クルス!」
「おう、セリカ、ミレイユ……って!?」
「うぉ……」
俺とクルスが謙遜し合う中、パーティーに参加する準備を終えたセリカとミレイユが近付いてきた。
そして目をやると俺達男二名は固まった。
「ヒライト家お抱えのメイドさん達にお着替えの準備やヘアセットもしてくれまして……」
「着てみるのは憧れてましたけど、いざそうなると少し動きにくいような気が……」
(す、素敵だ……)
セリカとミレイユはパーティーに参加する服装の用意やヘアメイクを担当するヒライト家専属のメイドにしてもらっていた。
セリカは銀髪によく映えそうな空色の人魚の脚をイメージしたようなスカートに群青色のグローブを身に付け、髪型も結婚式に参加するようなヘアスタイルと、いかにもお嬢様らしい装いとなった。
ミレイユもセミロングヘアの明るい茶髪と相性が良さそうな鮮やかな薄紫色をベースにした、膝下まで裾が伸びているAラインのドレスに身を包んでいた。
しっかりと化粧をすればより綺麗になると思う二人だったが、その想像を軽く飛び越えた。
絶対にモデルとかできちゃうな……。
「どうでしょうか……?」
「似合うよ!二人共、凄く素敵だよ!」
「良かった……」
「トーマさんがそう言うなら、大丈夫って思えてきました!」
セリカもミレイユも恥じらいと嬉しさを混ぜたような表情をしていた。
クルスも若干見惚れていたような気はしたが、突っ込まないであげよう。
「皆様、準備が整っているようですね」
「「「「……!?」」」」
俺達はパーティーに参加すべきお召し物に着替えたヒライト家の皆様を見やった。
「準備が整っているようでしたら、行きましょう!」
アスバン様、チェルシア様、そして病気から大分回復されて健康的な姿になりつつあるミクラ様が、パーティーに参加するための華やかかつ清廉な衣装に身を包んでいた。
何よりミクラ様がこうしてパーティーに参加できるくらいに回復していたのはホッとした。
ただ、人前に出る時以外は極力部屋で休むのが前提になっているけど、それでも回復傾向にあると分かっただけでも安心した。
そして俺達はアスバン様らの案内で会場に入っていく。
「「「「オオォォォッ!」」」」
会場内には豪華絢爛なインテリアに要所で並べられたテーブルの上には美味しそうな料理と飲み物が置かれ、貴族らしき人物が多く歓談されている様子が飛び込んで来た。
アスバン様らを他所に、俺達は驚きでいっぱいだった。
「皆様、落ち着いて……。私やお父様、お母様に付くような形でいれば大丈夫です……」
「は、はい……」
「今回は交流が主になる。身の回りの世話役と思っていただいて構わんよ」
強張りそうな表情をしている俺達に対し、アスバン様とチェルシア様は冷静になるように優しく穏やかに諭してくれた。
流石は貴族と言ったところだな。
「お、では付いてきてもらえないかな?」
「分かりました」
それからはアスバン様らに付き添う形で動いたが、内心かなり緊張している。
俺達は要所でお辞儀や本当に自信を持って説明できる範囲で歓談に入る形でしか会話に入れていないものの、アスバン様とチェルシア様のフォローで何とかなっていた。
ミクラ様も俺達が「素晴らしい冒険者の皆様です」の旨を含めた説明をしてくれたのもあって、本当に困った状況に直面はしなかった。
ミクラ様が病気から回復されている事を労うような貴族や権力者の方々が多くいる事から、ヒライト家の面々がどれほど重宝されていて、愛されているかが何となく分かった。
「ふうー。この格好で動き続けるのは中々慣れないな……」
「ドレスなんて私達ほとんど着る機会がないからね……」
「普段のギルド飯がどれだけ気楽なのかが改めて分かったよ」
(少し疲れてるな~。かく言う俺も……)
一時間ほど経ち、俺達はホールから少し離れたスペースで休んでいた。
普段は冒険者らしくカジュアルで動きやすい格好でいる事がほとんどなだけに、お金持ちの貴族が着るような洋服や靴で動くのは結構大変だ。
俺やクルスはともかく、セリカやミレイユは靴底が高めなハイヒールを履いているため、長い時間立つだけでも意外と脚に疲れが貯まりやすいのだ。
加えて自分とは畑違いな空間にいるのも精神的に結構疲れるため、体力以上にプレッシャーがかかりやすい。
慣れない場所にいると無意識に気を張ってしまうし、疲れやすいのは分かったものの、ヒライト家の面々を始めとする他の貴族は慣れているのだろうか、そつなく振舞っている。
「君達、お疲れ様だね」
「アスバン様!」
休んでいる俺達の下に、アスバン様らヒライト家の皆様がやってきた。
「君達に是非とも紹介しておきたい方がいてね。よろしいかな?」
「はい……」
アスバン様がそう言うと、俺達は姿勢を正して立ち上がり、導かれるがままに歩く。
「お待たせしました。彼らです……」
「アスバン様?」
「紹介しよう。このお方は私の古くからの友人であり、ティリルを始めとする土地を治めているハイレンド領の領主である、ロミック・ハイレンド伯爵だ」
「私がロミックだ。アスバン殿が偉く気に入っている冒険者パーティーであり、彼の妻の病気を治す一助を担ったと聞いて、顔を見たく思った次第だ。」
目の前には灰色の髪をオールバックにした中年男性だが、纏っている高級感あふれる貴族服やよく整った顎髭も相まってその風貌に威厳や風格を感じさせる。
アスバン様が当主のヒライト家とロミック様が当主のハイレンド家は数十年の付き合いであり、抱える領土やその規模に差はあるものの、持ちつ持たれつの関係で手を取り合って領主経営に注力しているとの事だ。
「初めまして。【トラストフォース】のトーマ・クサナギと申します。我々もロミック伯爵様をお目にかかれて大変光栄に存じます」
「君が噂の……。後ろに控える男性一名と女性二名は同じパーティーのメンバーかな?」
「はい……」
俺が自己紹介をすると、すぐ後ろのセリカとミレイユ、クルスも丁寧にお辞儀をした。
「君達が拠点にしているティリルにある冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】は我々ハイレンド家の領内でね……。冒険者の活躍はよく耳に入ってくるのだよ」
「そして、君達が赴いた“ログム山”のクエストを見事に達成した事もね……」
「きょ、恐縮でございます!」
ロミック様が抱える領土にはティリルも含まれており、俺達が所属しているギルドもあるため、俺達を含む多くの冒険者に関係する情報が飛び交う事が多いと話してくれた。
「【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオ殿とは顔馴染みで、時々食事がてらで会う事もあるんだ」
「カルヴァリオさんともお知り合いなのですね!」
カルヴァリオさんとロミック様が旧知の中である事を改めて知った。
ギルドで貴族から指名の依頼を請け負う機会もあると聞いているが、ヒライト家やハイレンド家もその一つであり、ピンキリまであるのも分かった。
「若い頃、彼に私から依頼をする機会が何度かあってね。本当に強くて優秀で、皆に尊敬される素晴らしい冒険者だった。そんな彼も今では冒険者ギルドのマスターになって後進育成に力を注いで、君達のような冒険者と出会えたのも、何かの縁だ……。君が異世界から来た人物と言う事を含めてもね」
「「「「……ッ!?」」」」
ロミック様の何気ない会話の流れで異世界が出てきて俺達はギョッとした。
余程近づかなければ周囲に聞こえないトーンだったからいいようなものの……。
「だからこそ、私は君達に出会えた事も何かの運命だとも感じている。私はね、人との縁や繋がりを大事にしていくスタンスなんだ。こうしてこの場で会えたのも一つの奇縁だ」
「私も、異世界に来て、あなたのような大物と出会えたのも嬉しく存じます。」
「はっはっはっはっは。私を大物と言うなれば、伯爵より上の貴族やこの国や他国の王族はそれこそ雲の上だ。」
ロミック様は基本的には威厳溢れるお方だけど、意外と気さくな人である事に安心した。
「今回は挨拶だ。もしかすれば、クエストで君達とまた出会うやもしれないが、私はその日を楽しみにしているよ。アスバン殿、今回はありがとう」
「いえ、恐れ入ります」
「では、失礼する……」
そう言ってロミック様は別の貴族の方と話に行った。
「ロミック様、随分とお気になられたようですね」
「みたいですね……」
「大物貴族を間近で見ちゃいましたよ……」
「私も……」
「風格凄かった……」
「男爵くらいの貴族なら僕は数回ありますが、伯爵以上は初めてです」
クルスはCランクパーティーにいた期間があっても、今勢いのある伯爵の地位を持つ人物と会うのは初なのか、汗が少し出ていた。
「私達も概ね話したい事も話せたが、これからどうする予定かな?」
「これと言って無いので、明日帰る準備をして寝るだけですね」
「そうか……」
しばらくして、俺達はアスバン様の専用馬車に乗って、彼のお屋敷に戻った。
“フライングタイガー”と相対した時とは全く別物なプレッシャーを味わった一日だったと認めざるを得ない俺達だった……。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




