第47話 しばしの休息
火曜日はお休みする予定ですが、本日はSSのような形で公開します!
Cランクに上がるための試験クエストを受けると同時に、「Dランク冒険者最後の壁のモンスター」とも渾名されている“フライングタイガー”との戦いを見事に勝利を捥ぎ取り、依頼主であるヒライト家の現当主であるアスバン・ヒライト様の妻はであるミクラ様の治療に大きな貢献に成功した俺達であった。
その翌日——————
「こうして見ると、本当に賑やかだなー、グリナムって……」
「グリナムから少し外れた農村では豊富な作物が採れて、この街やティリルなどで流通しているんですよ」
「そうなんですか……って!」
「何故チェルシア様が案内役を!?」
「うふふ。お父様やお母様からも許可は頂いていますし、近くに護衛の付き人もおります」
「確かに、いつでも飛び出せるような男性が数名近くにいますね」
「万が一の保険です!父の意向ですが……」
グリナムの案内役と言うのが、アスバン様やミクラ様の一人娘であるチェルシア様だった。
数人の護衛が近くに構えてこそいるが、貴族のご令嬢がふと街に一人で出歩くのは中々の事件モノである。
それでも、その時のチェルシア様は初めて見た時の仕立ての良いワンピースではなく、上はカーディガンとブラウス、下は裾が朝顔のように広がったスカートを履いており、つばの広い帽子にメガネをかけた姿であり、いかにもどこかのお嬢様ルックだった。
本人なりの変装だろうが、貴族令嬢特有の品が漏れ出ているので隠し切れていない気はすると言うのは止めておこう……。
「私もグリナムには来た事があるんですけど、緑と活気に溢れるって再度感じますね」
「はい!グリナムはお父様が領主として管理している街の一つです!お野菜や肉類を始めとする多くの作物を市民の皆様で育て、流通させているんですよ!」
「食料だけでなく、体力や魔力の回復効果がある薬草やポーションを売っているお店もところどころにあるような気がしますね……」
「この街には、薬草の栽培や回復アイテムを生成するお店も多くあるのです!皆様が拠点にしているティリルと比べますと、冒険に向いた武具を揃えたお店は少ないですが、その分日々の生活に役立つアイテムを取り扱うお店が多いのです」
「言われてみれば、武器屋の類のお店を中々見かけませんね」
チェルシア様の言う通り、ティリルと比べれば野菜や食肉を扱う八百屋とポーションを始めとするお店が多いものの、代わりに武器や冒険に役立つアイテムを取りそろえるお店は片手あれば足りるくらいにしかなかった。
あってもオーソドックスな武器くらいしか取り揃えておらず、護身用の戦闘補助アイテムの方が多く取り揃えられている。
逆に農家向けの道具やアイテムを揃えたお店が目に付くほどだ。
「このグリナムは農耕の街としてビュレガンセでも有名なのと同時に、緑と平和を愛する街としても知られているのです。もちろん、王都の衛兵を多めに派遣していただく事や我々ヒライト家が抱える護衛を担っていただける屈強な実力者を専属で雇う形で治安維持に努めるようにしております」
「言われて見れば、ティリルよりも王都から派遣された衛兵が多い気がする……」
「人手が欲しい時には、ティリルにある冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】へ定期的にクエストを発注する時もあります!近隣のモンスター討伐や素材の採取が主ですが……」
「そうなんですね……」
グリナムの周辺には瑞々しく美味しい野菜を栽培する農家や質の高さがセールスポイントの酪農家が多くいて、ビュレガンセ国内各所にそれらを届けている。
アスバン様の考えもあって、ティリルやシーゾスなどの広い場所へ食物を届けられる流通ルートを多く確保しており、それがグリナムの農作物のクオリティを支える助けにもなっている。
どんなに美味しい食材も、流通がしっかりしていない、それを届ける手段が整わないまま食べてもらえなければ、意味が無いからだ。
「皆様、あのお店でランチをしませんか?私も好きなんですよ!」
「わ、分かりました!」
「私、あのお店初めて見ました!」
「何々?『本日オススメの野菜盛り合わせソテー』か……」
チェルシア様の一言で、俺達は昼食をいただく事になった。
カフェテラスのあるレストランであり、緑と花が咲いている雰囲気の良い場所で食事をする事になったが、それが美味しさに拍車をかけてくれるような気がした。
俺はクルスが気になっていた『本日オススメの野菜盛り合わせソテー』を食べたが、どの野菜も絶妙な火加減でいつつも、瑞々しさとシャキッとした食感がしっかり残っているからとても美味しかった。
セリカとミレイユはチェルシア様と料理を楽しみながら活き活きとトークを楽しんでいた。
貴族令嬢として比較的閉鎖された空間で過ごす事の多かったチェルシア様にとっては、冒険者として生きて頑張り、様々な経験をしたセリカやミレイユの話は刺激になっているようだった。
セリカやミレイユも、チェルシア様の話を聞いていて、自分とは違う生活や生き方をしている事を知りつつも、理解を深めようとしていた。
階級制度こそあれども、そこは同世代の女の子同士って事だな。
ランチを済ませた後、体力や魔力を回復させるポーションをいくらか購入した。
パッと見て回復関連ならば、品揃えもクオリティの高さもティリルにあるアイテムショップすら上回っている気がした。
セリカらも美味しそうなお菓子やお茶を試食しながら味わいながらお店を巡っており、洋服も見て回りながら試着もしていた。
セリカとミレイユの冒険に出る格好ではなく、清楚な雰囲気からカジュアルな服装まで思い思いに着ているけど、やっぱり美人で可愛い。
最近までミクラ様の事で心配していたチェルシア様が楽しそうなのも嬉しかった。
「いかがでしたか?グリナムは?」
「はい、ティリルとは違った活気と緑の溢れる素晴らしい街でした」
「以前来た時にはなかったお店も結構ありましたね!」
「料理もお菓子も美味しかったです!」
「品質の良いポーションも購入できて良かったです!」
「お気に召されたのでしたら幸いです!」
夕方にはヒライト家のカントリーハウスであるお屋敷に戻っていた。
本当に有意義でリフレッシュのできた一日を送る事ができたと実感した。
緑豊かな街のグリナム……。本当に素敵な場所だな……。
クエスト抜きにして、何度でも行きたくなりそうなくらいに居心地が凄く良い……。
「あの、チェルシア様……」
「はい……?」
俺は思わずチェルシア様を呼び止めていた。
「グリナムって緑豊かでいながらも、活気付いていて優しさや暖かさを感じられる本当に素晴らしい街ですね!また訪れたいくらいです!」
俺は言えるだけの、表現できるだけの事を見せた。
ありふれたような言い方だけど、思った事をそのまま伝えた。
「ありがとうございます。そのお言葉を頂ければ、それ以上に嬉しい事はございません……」
セリカ達も微笑ましく頷きながら、「素敵な街です」と示すジェスチャーもしていた。
こうして、グリナムで存分に楽しめる一時を過ごす俺達であった……。
「面白かった!」
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