第46話 家族の笑顔
頭の中でイメージして見ていただければ幸いです。
Cランクに上がるための試験クエストを受けると同時に、依頼主であるヒライト家の頼みで“ログム山”に赴いた俺達。
「Dランク冒険者最後の壁のモンスター」とも渾名されている“フライングタイガー”との戦いは激しかったが、俺は戦いの中で目覚めたユニークスキル【ソードオブシンクロ】を発現して見事に勝利を捥ぎ取り、依頼主であるヒライト家の現当主であるアスバン・ヒライト様が求めている“キトサンフラワー”を持ち帰る事に成功した。
「ただ今戻りました!ご覧の通り、“キトサンフラワー”の採取に成功しました!」
屋敷に入ると、アスバン様とチェルシア様が出迎えてくれた。
そして、何十本もの“キトサンフラワー”を見せた。
「おぉ!こんなに沢山採ってきていただけるとは……」
「お父様、これだけあれば……」
「あぁ、そうだな。すぐに手配した薬師を呼びなさい!」
「ハッ!」
チェルシア様の表情に明るさが灯り、アスバン様は「善は急げ」と言わんばかりに、事前に手配していた特効薬を作れる薬師を呼んだ。
すると準備が整っているのか、早速特効薬作りに取り掛かってくれた。
しばらく時間がかかるから待つ流れになったのだが、後はプロに任せるって事にしよう。
「【トラストフォース】の皆様、この度は我々ヒライト家のクエストを引き受け、そして達成して下さった事を心より感謝を申し上げる!」
俺達は最初に訪れた応接室に招かれ、アスバン様とチェルシア様は深々と頭を下げた。
「あ、頭を上げて下さい!我々もクエストでやっただけですから……」
「君達の勇気ある行動のお陰で妻が助かるのだ。礼を言わずにはおれんよ!」
「お母様は当主であるお父様の仕事を日々支え、グリナムと隣の領土の方々との関係を良くするために自ら社交界にも出られておりました。かく言うこの私もですが……」
(貴族も大変なんだな……)
俺達は宥めるが、アスバン様とチェルシア様は感謝の意とミクラ様がヒライト家のために日々努力している事を教えられた。
「私が治める街の一つであるグリナムの市民からもチェルシアはもちろん、ミクラの事を慕ってくれている者は大勢いて、病状の身である事をとても心配されているのだ。家族を助ける事ができたのと同時に市民の皆様や懇意にしている他の貴族の方々にも良い報告ができる一助を担ってくれて、そなた達は我々の恩人だ。」
「きょ、恐縮です……」
「お役に立ててなによりでございます」
「早く良くなる事を願っております……」
アスバン様からミクラ様とチェルシア様がグリナムの市民の皆様にとても慕われている事を知り、恩人と見られているセリカやミレイユ、クルスも畏まる。
「皆様が挑まれたクエストは随分と過酷だったように見えるのですが……」
「え?まぁ、そうですね……」
「でしたら、お父様……」
そこにチェルシア様が、俺達が挑んだクエストの大変さを察すると、隣にいるアスバン様に耳打ちするように何かを話している。
「此度の仕事は大義であった。しばらくの間、この屋敷で過ごして身体を休めていただきたく思う。無論、食事も一日三食を提供しよう!」
「よ、よろしいのでしょうか?」
「あぁ、構わんよ!クエストや旅の疲れを癒すつもりでいて欲しい」
「ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます!」
「「「ありがとうございます!」」」
アスバン様の計らいにより、自身が拠点にしている屋敷で休養を兼ねて過ごす事を許してもらえた。
正直、【ソードオブシンクロ】や【ソードオブハート】を使用した俺に加えて、セリカやミレイユ、クルスも身体は回復アイテムで概ね元通りだが、精神力は消耗していた。
一時は宿を借りて一泊して帰るつもりだった俺達にとっては渡りに船だった。
前日にも食事を振舞われ、風呂を貸してもらえたが、食事は普段食べるギルド飯や自炊で食事しているモノと比べるのもおこがましいくらい豪華で、お風呂も現実世界の温泉旅館さながらの広さと絢爛さだった。
ただ、インテリアはいかにも貴族って感じだったけどね……。
それをしばらく味わえるのは正直言って嬉し過ぎだ。
(でも、慣れてしまわないようにしよう……)
生活水準は引き上げるのは簡単だが、一度引き上げた生活水準は中々下げられない。
それだけは肝に銘じて、セリカ達にも言い聞かせようとする俺だった。
その翌日の正午前——————
「お母様!」
「ミクラ!」
「あなた、チェルシア………」
ヒライト家の現当主であるアスバン様とそのご令嬢であるチェルシア様が飛び込んで来ていた。
「心配をかけてごめんなさい。でも今は、自分でもハッキリ分かるくらいにスッキリした気分よ……」
病床の身にいたミクラ様が療養している部屋だった。
昨日まで病気にかかっていたアスバン様の妻にしてチェルシア様の母親であるミクラ様が生気を取り戻したような健康的で美しい笑顔を向けていた。
緊急で呼んだ腕利きの薬師により作られた特効薬が効いているようであり、それを聞いた両名が飛んで来たって訳だ。
「ミクラ、本当に大丈夫なんだな……?」
「えぇ、お陰様でね………」
「お母様……」
「チェルシア。心配をかけたわね……」
「ミクラ!」
「お母様!」
アスバン様とチェルシア様の泣きそうな表情をよそに、ミクラ様は柔らかく穏やかな笑顔を見せていた。
アスバン様はミクラ様の左手を取ってその額を近づけ、チェルシア様は身体を寄せた。
治療は成功し、ミクラ様の安全が確保された瞬間だった。
俺達もその現場を陰から見守っていたが、良くなった様子を見ていて胸が熱くなった。
セリカとミレイユ、従者の皆様の目には微笑ましい表情をしながら一筋の涙が静かに流れ、クルスは安堵した表情が浮かんだ。
掬われて本当に良かった……。本当に……。
想像以上にハードでシリアスなクエストに挑んだけど、沈みかけていた表情に明るい笑顔や嬉し涙を見て心が暖かくなった俺達であった……。
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