第45話 絆の剣、そして……
主人公が新たな力に目覚めます!
Cランクに上がるための試験クエストを受けると同時に、依頼主であるヒライト家の頼みで“ログム山”に赴いた俺達。
「Dランク冒険者最後の壁のモンスター」とも渾名されている“フライングタイガー”の予想を超えた強さと戦術に予想を大きく上回る苦戦を強いられていた。
諦める事なく立ち向かおうとした瞬間だった。
(これは、一体……?)
不意に俺の頭の中へ、水面に落ちた滴が波紋を起こしたような感覚に襲われた。
かつて、ミレイユと出会ってすぐにピンチの状況に陥った時と同じような感覚だ。
(真の意味で信頼できる仲間に、汝の力と意思を共有し合い、共に困難を乗り越えよ)
瞬間的に、何者からの声が俺の頭の中に流れて来た。
同時にこれがどんな能力かが直感的に分かった。
「クルス。ほんの少しいいか?」
「はい?」
俺はさっき感じた事とそれを活かせるような作戦を伝えた。
「え?仮に本当だとしても、色々とリスクが伴うのでは……」
「俺もまだ本格的に理解し切れてはいないけど、まずは俺とクルスだけでやって見て、どれほどなのかを……」
「いやいやいやいや、待って下さい。トーマさんの事だからそのスキルとやらは信じてみますけど、実戦でいきなりそれは……」
「その時の責任は俺が持つ!どうか、力を貸して欲しい!!」
「……」
俺の言葉を聞いたクルスは、それ以上言わなかった。
「トーマさん、あなたは僕に新しい居場所と希望を与えてくれた人。だからこれ以上言う気はありません!僕はその賭けに乗ります!」
俺が試す試さない以前の話ではなく、共にいるメンバーの安否を考えての発言だ。
「ありがとう!もしも命が危ないと判断したら最悪、逃げてもいい!」
「分かりました!」
俺も改めて覚悟を決めた。
そして発動させる……。
「ユニークスキル【ソードオブシンクロ】!」
俺は本当についさっき目覚めたスキルである【ソードオブシンクロ】を発動した。
「「ウオォォッ!」」
「グルルルル」
俺とクルスは勢いよく踏み込んでいった。
俺は【ソードオブハート】を発動させた事で一時的な身体能力とスキル強化を得ている。
しかし、ここから違う点が二つある。
「ガアアァァ!」
「ハッ!」
“フライングタイガー”が【岩石魔法LV.1】の『ロックバルカン』を放って来るが、俺とクルスは【脚力強化】でスピードを上げているが、俺だけでなくクルスの動きも格段に早くなっている。
≪トーマさん、僕の身体がいつもより軽く感じて、力が漲る感じです!トーマさんの言う通り、本当にこれって……≫
≪あぁ、思った通りだ!≫
俺は直感的にこのユニークスキル【ソードオブシンクロ】の効果が理解できた。
一つは仲間に【ソードオブハート】を貸し与える事であり、もう一つはその相手とテレパシーで通じ合える事だと……。
実際にクルスも、今の俺と同じようにオーラのような光に包まれている。
≪≪トーマさん!クルス!≫≫
≪セリカ、ミレイユ、動けるのか?≫
≪何とか動けます!ただ、トーマさん達の声が頭に流れてきたんです!これって新しいスキルでしょうか?≫
≪ザックリ言えば、その通りだ。そして、セリカとミレイユも【ソードオブハート】が一時的に使える!≫
≪本当にあのパワーアップが私達にも使えるなら、チャンスはありますね!≫
≪そうだな、敵も俺達もダメージを抱えている!一気に行くぞ!≫
≪≪≪ハイ!≫≫≫
俺達は力を振り絞りながら突っ込む。
「ギャアオオオォォォ!」
“フライングタイガー”は今日見た中で一番の雄叫びを発した。
手負いの自身と勝負に出ようとする俺達を見て、ここが勝負どころであると野生の本能がそれを感じ取ったのだろう。
すると周囲に多くの岩を風で巻き上げ、無差別に放ってきた。
≪【岩石魔法LV.1】と【風魔法LV.1】の合わせ技?≫
≪こんな事するモンスターは初めてだわ!≫
≪奴も本能で悟ったんだろうな。ここが正念場だって!≫
≪任せて下さい!≫
「【風魔法LV.2】『ストームリベレーション』!」
土も混ぜた大量の岩石を強風と共に打ち出してくる光景に、セリカは【風魔法LV.2】『ストームリベレーション』と言う両手から大きな風の壁を展開して受け止める。
「全部返すわよ!」
≪クルス!≫
≪分かってる!≫
セリカは気合一閃の声を発しながら、大量の岩石を跳ね返した。
一時的に【ソードオブハート】で強化しているので、受け止める力や返す力にも凄まじさをまざまざと感じた。
「ガアァァ!」
“フライングタイガー”は右へ横っ飛びで躱すも、顔や身体の一部に岩石が当たった事でダメージを負っている。
グサグサグサッ!
「ガァッ!?」
翼に三本のナイフが飛んできており、その内の一本が付け根辺りに刺さっている。
「これでもう、空中を飛ぶ事は叶わない!」
「グルルッ!?」
クルスが一瞬の内に回り込んで投擲用のナイフを当ててそのままに、勢いよく煙玉を投げ付けると、その巨体を中心に白煙が広がる。
“フライングタイガー”の両翼はもうほとんど動かせないため、視界を塞ぐ煙を払う事もできない状況に、少なからぬ狼狽を見せている。
「【剣戟LV.1】『隠座双突』!」
「ガギャアァァ!」
巨体の後右脚を二振りのロングナイフが貫通していた。
クルスの【気配遮断LV.2】による見事な不意打ちだ。
これで機動力は激減となったが、まだ倒れる様子はない。
≪クルス、離れて!≫
≪分かった!≫
「ガオォ!」
「ハアァ!」
“フライングタイガー”は動く前脚を強引に横へ振るうも、クルスは後方宙返りで躱して距離を取った。
そしてミレイユがその前に立つ。
「【氷魔法LV.1】『ブリザード』!」
「ゴボオォォォ!」
ミレイユの【氷魔法LV.1】『ブリザード』を放った。
【ソードオブハート】によって強化されたその吹雪の勢いは、初めて見た時よりも遥かに激しく、みるみるその巨体が凍っていく。
「ガアオオォォォ!」
数刻して、“フライングタイガー”は雄叫びを挙げながら、纏わりついていた氷は砕けた。
「【炎魔法LV.2】『フレイムジャベリン』!」
「ガオォ!!」
【炎魔法LV.2】『フレイムジャベリン』によるダメ出しの一発を放ち、“フライングタイガー”も【岩石魔法LV.1】の『ロックウォール』で防御しようとしたが、強化された圧縮された炎の大槍は岩石で作られた壁を抉りながら突破し、その体躯を焼きながら吹き飛ばす。
≪トーマさん!≫
≪今です!≫
≪最後は任せます!≫
≪あぁ!≫
俺はセリカ、ミレイユ、クルスの声に応えるため、【ソードオブハート】を全開に放ちながら剣を構える。
「ウオオォォォ!」
俺も腹の底から気合の方向を放ちながら、突っ込んで懐を取った。
「ガバアァァァァ!」
“フライングタイガー”は全ての力を振り絞らんばかりの叫びと【岩石魔法LV.1】と【風魔法LV.1】を複合した光線を放とうとする。
「これで終いだ……」
「【ソードオブハート】&【剣戟LV.1】『斬鉄剣』!」
俺は渾身の一撃を叩き込んだ。
“フライングタイガー”が放とうとする光線を撃とうとする瞬間諸共に……
ザンッ!
「ゴバアァァァァァァ!」
俺の力を込めた唐竹割りの斬撃は、“フライングタイガー”の正中線を寸分違わずに振り下ろし、その巨躯は縦に一刀両断となった。
そして光の粒子となって消え去り、その魔石と素材が俺の足元に転がった。
“フライングタイガー”が絶命した瞬間、そして、俺達の勝利を告げるメッセージとなった。
「イヨッシャーーーーーーー!」
「「「やったーーーーー!」」」
片膝を付きながら、俺は勝鬨を上げ、セリカ、ミレイユ、クルスは勢いよく俺の側に駆け寄って勝利の喜びを分かち合った。
「トーマさん!最高です!」
「僕達、やれたんですね!!」
「きつかったけど、良かった!本当に!」
「皆……」
まるで大きな大会で優勝したような状況だったけど、俺にも確かな達成感があった。
俺自身、厳しい状況を乗り越えられた事にホッとしていて、やり切った感覚が駆け巡った。
「「「「ウッ!」」」」
「ふうぅ、何か、ぐったりしたような感覚がしてきました……」
「私も、魔法を撃つために魔力を使ったせいか、凄い疲労感が襲ってきました……」
「トーマさん、【ソードオブハート】を使うと、こんなに体力や精神力を削るんですかね?」
「うん、こう言っちゃあれだけど、【ソードオブハート】を使った時の負担が分かった感じかな?」
「はい、疲れはどっと感じましたけど、トーマさんの気持ちが分かりました!」
戦いの場で発現したユニークスキル【ソードオブシンクロ】を受けたセリカらも、笑顔でいるけど、疲労感も垣間見えた。
【ソードオブハート】を僅かな時間ならばともかく、スキルを交えて何分も使えば体力や精神力も大なり小なり削られてしまう。
だからこそ、仲間達の安否を心配するのも必然だけど、元気な様子だった。
魔法攻撃を連発したミレイユは一際ぐったりしていたが……。
“キトサンフラワー”の採取は完了しており、“フライングタイガー”を討伐して後は帰るだけだが、ダメージや疲労を抜くために少し頂上に留まった。
セリカには俺の【回復魔法LV.1】である『ショートヒール』で治せるだけ治し、クルスとミレイユも魔力回復ポーションを飲んでもらって魔力を回復してもらった。
行くまではもちろんだが、帰り道でもモンスターに遭遇する可能性もあるため、万全な体制にしておきたかったからだ。
「よし、帰るか!」
「目的を果たしたら長居は無用って事ですからね!」
「帰りも僕に任せて下さい!」
「早く戻って、アスバン様達を安心させましょう!」
俺達は帰路に着いた。
クルスが【気配探知LV.2】、ミレイユが【魔力探知LV.2】を発動させながら警戒して進み、俺とセリカがバックアップする形になった。
幸いにもトラップに引っかかる事もなければ、俺一人でも倒せるレベルのモンスター数匹と遭遇しては対処する事ができた。
頂上に向かう途中でモンスターと戦闘しているから数は減ってるんだけどね。
「「「「帰れた—!」」」」
俺達は山の麓まで無事、下山する事ができた。
“フライングタイガー”との激闘を終えた達成感は何にも代えがたい気持ちだ。
「Dランク冒険者最後の壁のモンスターの一体」と渾名されていただけに、凄まじい苦戦を強いられ、途中で覚醒したユニークスキル【ソードオブシンクロ】が発現しなかったら、皆との連携がどこかで間違っていたら、正直どうなっていたか想像できなかった。
だからこそ、こうして戻って来れて本当に良かった。
そして、病状の身であるミクラ様との約束も果たせると……
俺達が歩いてグリナム、そしてクエストの依頼主であるアスバン様が構えるお屋敷に着く頃には日が沈みかけていた。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、作品への応援をお願い申し上げます。




