第43話 Cランク昇格クエスト
この話の時点で過去最強のモンスターと遭遇します!
Cランクに上がるための試験クエストを受ける事になり、依頼主であるヒライト家のある土地へと向かった俺達。
そこで聞いた想像以上にシリアスと思わざるを得ない事情を知って、俺達は気を引き締めて目的地の“ログム山”へ向かっているのだった……
「お待たせしました。まずは入り口近辺から向こう500メートルほどにモンスターやトラップの気配はございませんでした」
「山って割りに高さはまあまあ低い方だけど、広大なのが面倒ね」
「狭い道でのモンスター奇襲は要注意だね」
「では、トーマさん向かいましょう!」
「よし、では行こう!」
俺達はクルスの事前偵察でモンスターの奇襲やトラップに対応する準備を整えて山の中に入っていく。
標高は500~600メートルくらいだが、その分森林のような生い茂る植物と岩石が入り混じった道が中心の広大さが特徴的だ。
“キトサンフラワー”がどんな形状や色の植物かは写真をもらっているものの、時折モンスターを倒しながらになっても、奥に進まない事には始まらない。
(何より、貴族の方からあんな風に頼まれては、退く訳にはいかない!)
今回はCランクに上がれるかどうかがかかっているものの、今回はグリナムと言う農作物の収穫量がビュレガンセでも屈指の街を治めるヒライト家の現当主であるアスバン・ヒライト様から直接のクエスト発注で赴いているのだ。
アスバン様の妻であるミクラ様が病の身であり、“キトサンフラワー”がどうしても必須である事を知ったものの、その願いを聞いたのもあって、何とか助けたい思いで動いている。
それからしばらくして……
「ッ?!」
「クルス?」
「皆さん、この先にモンスターが何体かいます!」
「「「ッ!!」」」
クルスが俺達を制する言葉を発し、足を止める。
今いるメンバーでモンスターや人の探知をするスキルである【気配探知】の範囲や感度が一番高いクルスは警戒心を高めていた。
「猛獣型のモンスターや鳥獣型のモンスターがそれぞれ5体ほどいますかね?鳥獣型は“アンガーイーグル”ですね」
「“アンガーイーグル”は知ってるけど、猛獣型も強い感じか?」
「一体一体ならば楽勝でしょうけど、一度に襲われるのは苦しいですね……」
「こっそり近付いて何とかしてみるってのは……」
クルスによると、獰猛で集団でかかられると厄介なモンスターの集団がその先におり、正攻法でやるには厳しいと俺達は勘付いた。
「でしたらトーマさん、これを使ってみませんか?」
「「「??」」」
ミレイユは懐から布で包まれた袋を取り出して中を見せる。
「そんな効果があるならそれはいいな!」
「ハイ!ですので僕が……」
ミレイユの見せたアイテムを見たクルスが食い付いた様子を見せていた。
そうしてクルスが【気配遮断】スキルで各所にバラ撒いて数分後……。
「「「「「グオォォ?」」」」」
体長2メートル以上のジャガーみたいなモンスター達が焼き肉みたいな匂いを感じて一カ所に集まって来ていた。
加えて、“アンガーイーグル”5羽もまた、その近くで気になるような匂いがする事に気付いたように一斉に集まろうとしていた。
「【氷魔法LV.1】「フリーズショット」!」
「「「「「ガアァァ!」」」」」
“アンガーイーグル”5羽は氷弾を受けて一カ所に固まるように首から脚まで氷漬けになってほとんど動けない状況になり、他のモンスター達も突然の奇声に動揺の声を次々と挙げていた。
「今がチャンス!」
「ヤアァ!」
「では僕も!」
「「「「「ガルルオォ?」」」」」
ジャガーのようなモンスター達も驚いた様子だが、時既に遅しだ!
「【剣戟LV.1】『斬鉄剣』!」
「【剣戟LV.1】『風雅斬り』!」
「【剣戟LV.1】『隠座十字』!」
「【炎魔法LV.2】『フレイムトルネード』!」
「「「「「ガアァァ!」」」」」
そして、モンスターの集団を一掃した。
「思った以上に上手く行ったな!」
「にしてもクルス凄いよ!私が魔法を発するまで“アンガーイーグル”達はほとんど気付いていなかったような感じだったよ!」
「何にしても上手くやれてよかった」
魔法攻撃を得意にしているミレイユの一撃をほとんど悟れられないまま“アンガーイーグル”らを倒せたのは、クルスの【気配遮断LV.2】の副次的な恩恵によるものだった。
その恩恵とは、「【気配遮断LV.2】を使っている自分と触れている相手がスキルを使うまではその人物の気配も遮断できる」だった。
クルスはモンスター達に近付く時にはミレイユも同伴させて、『ジャーキーパウダー』と言うダメージは全く与えられないが、食欲をそそる美味しそうな匂いを醸し出させるアイテムをいい塩梅で置いていった。
そこからは各集団別への対処を取っていき、ミレイユによる【氷魔法】で“アンガーイーグル”数羽を拘束した後に待機していたメンバーで気を取られているモンスターを一気に倒し、後はゆっくり始末していったって作戦だ。
「トーマさん、モンスターの奇襲を一番に警戒しながら進んだ方が賢明です!」
「だったら、クルスは【トラップ感知LV.2】で、俺とセリカで【気配探知LV.1】でモンスターの襲撃警戒、ミレイユは【魔力探知LV.2】で同じく襲撃の警戒を頼む!」
「「「ハイ!」」」
警戒心を高めながら奥へと歩いていき、モンスター数匹と遭遇する事はあっても、連携を取りながら倒していき、比較的広い範囲で隠れられそうな場所を見付けては休憩を取って先へ進んでいった。
「【剣戟LV.1】『斬鉄剣」!」
「グバアァァ!」
実力にバラツキはあれどもモンスター数体を斃す中、俺は道中にて、かつてクエストで倒した事のあるレア度Dの“ハイオーク”数体と遭遇したものの、倒す事ができた。
その時よりも大分鍛えてレベルが上がったのもあってか、余力を持って倒す事ができるようになり、それはセリカやミレイユ、クルスも同じだった。
「“ハイオーク”くらいならば、自分が出せる戦いができれば倒せるくらいには至ったって感じで捉えていいのかな?」
「少なくとも、私達が“ハイオーク”1~2体と悪くない状態で戦えば、倒せるレベルには達していると思っていいかもしれませんね!」
「私も、今までは魔法をぶつければいいって思っていましたけど、それ以外の方法に目を向けたら、戦いの幅が広がったって気がしなくもないような……」
「クエストに挑んでいれば、どんなイレギュラーが起きるか分からないからね……」
「「分かります~!」」
(トーマさんは異世界から来たと言ってたけど、要所で芯を食うもしくは正攻法のままでいれば考え付かないやり方を教えてくれたりで、伊達に歳は食っていないと言うか、今ある手札で有効な戦術を立てるのが上手いって言うか……)
「クルス、どうかした?」
「いえ、何でも。まだ先にモンスターの気配はしますので、陣形を崩さないように進んでいきましょう!」
「そうだな!“キトサンフラワー”を見つけるまでは気が抜けないな!」
セリカとミレイユは感心しながら褒めており、クルスもどこか訝しげながら称えている。
それでもクエストは続行中であり、モンスターとどこで遭遇するか分からない状況である以上、皆で周囲を警戒しながら先へと進んでいく。
取れる休憩を少しずつ取りながら、モンスター数匹と遭遇しながらも、連携を取ってやった事で大きな怪我一つなく進んでいった。
頼り切りにならないようにはしているが、クルスの加入によるパーティー全体の危機管理能力の向上は、想像以上に大きかった。
ちなみに倒したモンスターの魔石や素材の回収も忘れていなかった。
「もうすぐ頂上に着きそうだね」
「頂上まで来てしまいましたけど、もしも“キトサンフラワー”が生えていなければ……」
「その時は、山のふもとを降りながら探してみるしかないですね」
「……」
土地の広さはあるものの、標高が凄く高い山ではないため、俺達は“ログム山”の山頂まで近づいてきた。
モンスターと遭遇する回数は山頂へ進むに比例して減っていた。
「このままテッペンまで進めそうですね!トーマさん!」
「みたいだね。そこで“キトサンフラワー”が見つかればいいんだけど……」
「見つからないは見つからないで、麓を目指しながらの捜索になりますけどね……」
「そうはなりますけど、その時はその時です!」
クルスの口数も減っている。
俺達のパーティーで最も感知に長けたクルスが一番気を張っていた。
クルスはモンスターや人の気配だけでなく、トラップの感知にも優れている。
それが未開の地を攻略する一助を担っており、彼の働きなくして、俺達がベストに近いコンディションでここまで来れたのだから感謝しかない。
クルスを捨てた連中にも、そこは感謝だな。
そして……
「ねえ、あれって頂上っぽくないか?」
「「「……ッ?」」」
俺達は“ログム山”の山頂のすぐ近くまで辿り着いた。
それを知って頂上と知ると走り出したい気持ちになったが、何か起きるか分からないから、ここから先ははやる気持ちを抑えながら、俺に加えてセリカとミレイユも【気配探知LV.1】や【魔力探知LV.2】を発動させて周囲に気を配りながら少しずつ進んでいく。
「ここが“ログム山”山頂か!」
そうして俺達は山の頂へと辿り着いた。
そこには岩肌で覆われた正方形かもしれない形状の閉鎖的ながら、ところどころに緑の草花が生い茂っていた。
「てっぺんは意外なくらいに緑が広がってる感じだ……」
「さっきまでのモンスターやごつかった道のりが嘘みたい……」
「山を登り切った人にしか見れない光景……とも言えなくもないような」
俺達は思わず少しの感動を覚えながらも、何かないかと見渡した。
「トーマさん、あれってもしかしたら……」
「ん?」
クルスが指を差した方角を見ながら歩いていく。
「やっぱりだ。“キトサンフラワー”です!それもこんなに!」
「写真と照らし合わせても外見は完全に一致している感じだ」
「そうか、念には念を……【簡易鑑定】で確かめるね」
一見するとヒマワリのような形をした黄緑の花びらが特徴的な植物を見付けた。
それが本当に“キトサンフラワー”であるかを【簡易鑑定】を発動した。
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名前:キトサンフラワー
種類:植物
レア度:C
【概要】
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(え?名前が分かって、これが“キトサンフラワー”なのは確かだけど、概要が表示されていない。それにレア度Cって……。やっぱりか?)
【簡易鑑定】を使って目的の“キトサンフラワー”であるのは分かった。
【簡易鑑定】はレア度D以下のモンスターやアイテムの名前及び特徴は把握できるものの、レア度C以上は名前と種類とレア度以外の情報を得られない事を改めて知った。
【簡易鑑定】で詳しい情報まで分からない状況にとうとう直面はしたが、“キトサンフラワー”の採取が最優先なのと、それを使った特効薬を作れる薬師を手配している情報は入っているので、まずは採れるだけ採った。
「トーマさん、なるべく根っこは傷つけないように心得たうえでこれだけ確保しておきました!」
「ありがとう」
「トーマさん。採取は終わりましたので長居はしない方がよろしいかと……」
「そうだね。ヒライト家の皆様も待っている。早めに下山しよう」
多く採取した後は、モンスターの遭遇による余計な戦闘を避けるために俺達は下山しようと動いていた。
「ん?」
「クルス、どうした……?」
何かを感じたようなクルスを見て俺は声をかける。
「何か来る!伏せて下さい!」
「「「ッ!?」」」
クルスが叫ぶと、俺達は頭を抱えて咄嗟に身をかがめた。
「グオォォォ!」
空から野獣のような方向がつんざき、それを背中に感じながらそれを通って行った。
「あれは……?」
俺は背中に翼を生やした虎のようなモンスターを見て【簡易鑑定】を発動した。
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名前:フライングタイガー
種族:ビースト
レア度:D
スキル: 【風魔法LV.1】、【岩石魔法LV.1】
【概要】
独特な模様と剣のような牙に加え、大きめな翼を生やしたモンスター。
野性的な動きに魔法攻撃のスキルが複数使える。
その強さから、「Dランク冒険者最後の壁のモンスターの一体」とも渾名されており、総合的な強さは下手なレア度C以上のモンスターを凌駕する。
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レア度Dのお陰で詳しい特徴は分かったものの、魔法が2種類も使えるとか、強くないか?
「あのモンスターは【風魔法LV.1】と【岩石魔法LV.1】が使えるぞ!」
「本当ですか!?」
「魔法を2種類も使えるって、その時点で魔術師染みてきていますね!」
「不意に襲って来たのも、縄張りを荒らされた事に憤りを覚えている感じかと……」
「ガオォオオオオオオオオオオッ!」
“フライングタイガー”が高らかに放つ叫びに圧を覚えつつも、俺達は構えた。
コイツを倒さなければ、俺達の安否はもちろん、帰りを待っているヒライト家の皆様に言い訳が立たない。
俺達は戦闘態勢に入って向き合う。
そして俺達は、目の前の強敵に戦慄する事になる。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
「目が離せない!」
と思ったら、
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