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第42話 ヒライト家の皆様

この話から、貴族との関わりを持つようになり始めます!


4人のパーティーになった俺達【トラストフォース】はCランクに上がるための試験クエストを受ける事になり、依頼主が居住している土地へと向かっている。


馬車に揺られて約2時間が経過した。


「ここが『グリナム』か~」


俺達はビュレガンセでも屈指の農作物の収穫量を誇り、「農耕の街」として有名なグリナムへとやって来た。

ティリルほど石造りの建物が立ち並んでいる訳ではないものの、要所要所で緑や自然を感じさせる草木や小さな花畑があって、心なしか田舎町のように空気が美味しく感じた。

実際、野菜や果物を扱う八百屋や花屋は数店あっていずれも中々大きく、出されている品物一つ一つが丹精込めて栽培されているのが見ていて伝わって来る。

高い漁獲量を誇るシーゾスを海の街とするならば、グリナムは緑の街と言ったイメージだ。


「グリナムは久しぶりに来ましたけど、やっぱり空気が美味しいですね~」

「私も来るのは数か月ぶり……、あ!あそこのお店新しくできてる!」

「ティリルと比べれば自然を感じると思うのですが、いかがでしょうか?」

「うん、確かにね……」


セリカやミレイユ、クルスはそれぞれ間隔に差はあれども、クエストや欲しかったモノを手に入れるのに訪れた経験があるようであり、嬉しそうな表情だった。


「では、早速行こうか!」

「「「ハイ!」」」


感想もほどほどに俺達はビュレガンセ王都の衛兵が派遣されているグリナムの駐在所を訪れ、クエストで来た旨を報告すると、ヒライト家のカントリーハウスへの道のりを教えてもらい、その足で向かった。

歩いて30分過ぎ……。


「失礼します。今回のクエストを受けていただけるDランクパーティー【トラストフォース】の皆様方とお見受けしますが、間違いはございませんでしょうか?」

「はい、間違いありません」


賑やかな街の少し離れた場所に大きな屋敷へと辿り着いた。

グリナムの街にある家屋の数倍はあろう大きく頑丈そうだが、貴族らしい荘厳さを感じさせるような壁で囲まれたような外観だ。

庭も走り回れるくらいに広く、美しい花がところどころに咲いている。

そこへいかにも執事と感じさせるような服装をした年配の男性に出迎えられた。


「チェルシア様、今回のクエストを受けて下さる冒険者の皆様がお見えになりました」

「はい」


そうして女性の一声が聴こえ、「はい」の二文字だけだが、その声は凛とした強さのようなモノがあった。


「ようこそお越し下さいました。私は、現ヒライト家当主アスバン・ヒライト子爵長女、チェルシア・ヒライトと申します。この度は我々が依頼したクエストを引き受けていただき、誠にありがとうございます」


如何にも強そうな護衛2名を連れて、一人の女性が現れた。

綺麗に広がる草原のごとき若葉色のミディアムヘアーにウェーブがかかっており、流れる清らかな川のように透き通った水色の瞳に、絹のように白く健康的なはりと艶で潤った肌の端麗な顔立ちをしている。

一目で一流の職人が高級な素材で作ったと直感させる明るめの紺色を基調にした仕立ての良いワンピースに身を包む姿は、貴族令嬢特有の気品を感じさせる。

カーテシーと言う淑女らしいお辞儀と振る舞いをしているこの美しい女性こそ、子爵の爵位を授かった現ヒライト家当主アスバン・ヒライトの一人娘にして、正真正銘の貴族令嬢である——————


チェルシア・ヒライト様だ。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

「早速本題に入らせていただくために、まずは屋敷の応接室へとご案内いたします」

「「「「は、はい!」」」」


チェルシア様の促されるままに、俺達は屋敷の中へと入っていく。

正に自分は貴族ですと言わんばかりに美しく立派な内観の玄関が俺達の前に広がっており、通路や壁はもちろん、要所で置かれていた数種類の骨董品も使用人やメイドの掃除がよく行き届いているのが分かるくらいに清潔で綺麗な空間が飛び込んだ。


(俺初めてだぞ……。貴族の館の中に入るなんて……)


ワクワクしていたのは本当だが、いざその空間に放り込まれたら緊張しかしない。

セリカとミレイユも緊張している様子だが、Cランクパーティーに所属していた経験があるクルスもどこか落ち着かない様子だ。

約1分歩いて……。


「お父様、今回のクエストを引き受けて下さる冒険者の皆様をお連れしました」

「通しなさい」

「皆様、どうぞお入り下さい」


チェルシア様は優しく応接室へと案内し、使用人の二人が扉を開ける。

応接室と呼ぶには、少々豪華なのではと感じさせる空間が俺の目に飛び込んだ。




「お待ちしておりました。此度のクエストを引き受けて下さる冒険者の者達よ」


そこに現れたのは、一人の中年と感じさせるものの、茶色をベースに立派さと謙虚さをバランスよく両立している仕立てが良いと感じさせる貴族服に濃い緑のオールバックの髪型に顎周りには丁寧に整えられた髭を結わえ、いかにも貴族の当主と感じさせる威厳と自信を感じさせた。

なんならイケオジってくらいに顔立ちが整っている。

その人物こそ、今回クエストを出した依頼主であり、現ヒライト家当主——————


アスバン・ヒライトその人だ。


「まずは話に入ろう。立ち話もなんなので、そちらへ座っていただきたい」

「は、はい……」


アスバン様の言動や振る舞いは紳士的だが、その一つ一つが品に満ちていた。

そして俺達はソファーに座らせてもらい、アスバン様とそのご令嬢であるチェルシア様がその目の前に座っている。

ハッキリ言って、座っている姿を見るだけで緊張する……。


「【トラストフォース】の皆様、この度は私が依頼したクエストを引き受けていただき、誠に感謝する」


アスバン様とチェルシア様はお辞儀をしながら感謝の意を表し、その仕草も貴族らしく品の良さがまざまざと伝わって来る。


「いえ、こちらこそ、恐縮でございます」

「ティリルにある冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】へ一昨日に依頼を出したのだが、こんなに早く引き受けてくれたのだ。感謝の気持ちを抱かずにはいられないよ」


アスバン様は謙虚にそう伝えていた。

貴族と聞いていたから不遜な態度を取ってくるのかと警戒したけど、アスバン様やチェルシア様からはそんな傲慢さや偉そうな振る舞いはほとんど見えなかった。


「今回のクエストでは“ログム山”に生えている“キトサンフラワー”を採取できれば、私やチェルシアが今叶って欲しい事が叶うんだ」

(“キトサンフラワー”……。)

「今叶って欲しい事とは……、一体なんでしょうか?」


俺が質問すると、アスバン様の表情には憂いの顔が少しだけ浮かび、隣にいるチェルシア様の表情にも重い顔が浮かんでいた。





「チェルシアの母、もとい私の妻であるミクラが、“キトサンフラワー”を含めた薬じゃなければ治せない病で苦しんでいるのだ」

「「「「……ッ?」」」」


ミクラと言う方はアスバン様にとって最愛の妻であり、チェルシア様にとっては目標とすべき大切な母だと聞かされた。

2ヵ月ほど前に行った貴族同士の会食に家族で参加したものの、それからしばらくしてミクラ様は強い倦怠感やめまいに襲われるようになり、吐き気を時々催すなど、極力外に出ないようにしなければならない寝たきりの状況とも聞かされた。


「偶々うちの屋敷で残っていた“キトサンフラワー”を混ぜたポーションを3回ほど飲ませた事がありまして、僅かに快復の方向へ向かったのです……。ですが、そのストックはもう尽きかけておりまして……。どうしてもそれを手に入れるために、お父様がクエストを発注した次第なのです」

「そうだったんですね……」


クエストを発注した理由は着いた時に明かすと言われていたが、想像以上にシリアスな内容であったようだ。

俺達から見ればCランクに駆け上がるための試験で来たものの、依頼書には「当主の妻の病を治す素材を探して欲しい」のような文言はなかった。

恐らく、伝手を辿って“キトサンフラワー”が“ログム山”に生えていると言う情報を得て、何とか周りに漏洩しないように救いの手を求めたと言う訳だ。


「恥を忍んでお願いしたい!ミクラを救う一助を担って欲しい!」

「お母様を本当の意味で救うためにも、どうか……どうか……」


国や領土の一部の運営を担う貴族が、冒険者に頭を下げてくる姿に、プレッシャーを俺達は一気に感じた。

思う事や考える事もあるのは、セリカやミレイユ、クルスも同じ気持ちだ。

一瞬迷ったけど……。


「頭を上げて下さい……」

「「!?」」


俺は優しく諭し、アスバン様とチェルシア様はゆっくり頭を上げていく。




「このクエスト、引き受けます!“キトサンフラワー”を集められる限り集めて、お二人の下に戻ります!」


俺は引き受ける決意を固めた。

セリカもミレイユもクルスも、同じ気持ちと言わんばかりの表情だった。

俺達はCランクに上がるための一要素ではあるが、アスバン様とチェルシア様から見れば、何よりも切実な事情を抱えている深い内容だった。

だからこそ、俺は、俺達はこの二人を放っておけなかった。


「おぉ、ありがとう。本当にありがとう!」

「ありがとうございます!」


アスバン様は「私達にできるサポートは可能な限りさせてもらう」と言って、俺達に凄く感謝してくれた。

チェルシア様も泣きそうな顔になりながら、感謝の念を伝えた。

しばらくして、アスバン様との話を終えて「明日はどうぞよろしく頼む」と言われ、俺達は提供された客室に案内されてしばらくそこで過ごした。

その部屋も四人が過ごすには充分すぎるくらいな広さで清潔そのものだった。


「皆様、失礼します」

「チェルシア様……」


それぞれが明日の準備をしている中、そこへ二名のメイドと共にチェルシア様がいらっしゃった。


「皆様に会っていただきたいお方がございます。ただ今お時間よろしいでしょうか?」

「は、はい……」


俺達はチェルシア様に先導されながら、ある部屋へと案内された。


「こちらです。「お母様。【トラストフォース】の皆様をお連れしました」

「お通ししなさい」

(この扉の向こうにチェルシア様の母親が……)


中に入ると、俺達が使っている客室よりも2割増しで広く薄いベージュを基調にした清潔な空間が広がっており、奥にはいかにもお金持ちの貴族が寝るであろう薄いカーテン付きの大きく華やかなベッドがあった。

何かの話し合いか、そこにはアスバン様もいる。


「あなた達が、今回のクエストを引き受けて下さる方々ですね」


上半身を起こしている女性はチェルシア様と同じような髪色をしているが、彼女よりも少し濃さが入った長く綺麗に揃えられたロングヘアーに黄色く輝く宝石のような眼をしており、ワンピース式のシルクの寝間着と、シンプルだけど美しさと気品がひしひしと伝わってきた。

少し痩せ細っているものの、病気一つない健康体であれば、10代後半の娘がいるとは思えないくらい若く見えそうだ。


「紹介しよう。ミクラ・ヒライト。私の妻であり、チェルシアの母だ」

「初めまして。ミクラと申します。この度は“キトサンフラワー”を採取するクエストを引き受けていただけた事を心から感謝の念をお伝えします」

「「「「初めまして。」」」」


貴婦人らしい淑やかで慎ましい振る舞いに感心せざるを得なかった。


「皆様の武運を祈り、明日への励みになればと思いお呼びしました」

「いえ、滅相もございません!むしろこうしてお呼びいただけた事を光栄に存じますが故……。」

「まぁ、冒険者としては大変丁寧かつ紳士的なご挨拶とお話の仕方ですね……」

「きょ、恐縮です!」

(((トーマさんって、挨拶の仕方が凄く上手いな……)))


ミクラ様よりクエストを引き受けてくれたお礼の言葉を伝えていただけた事に、俺は恐縮に思いながら挨拶した。

セリカやミレイユ、クルスは俺の立ち振る舞いに内心驚いていた。

そりゃ、俺がいた現実世界では伊達に社会人生活を10年以上やっていないからな。


「ご覧のように、私の妻は病状の身だ。 “キトサンフラワー”の入った薬を摂取したお陰で少々の持ち直しはできているが、いつ悪化してしまうか分からないのだ……。今回は“キトサンフラワー”を手に入れられる事に賭けて、グリナムでも有数の特効薬を作れる腕の立つ薬師を呼んである」

「そうなんですね……」


アスバン様は事情や治療する手筈を教えてくれた。


「だったら、尚更退けないですね、今回のクエスト」

「はい、こちらも譲れない理由がありますので!」

「そうだね!」

「アスバン様もサポートすると仰っていましたが、我々も準備を重ねて臨む所存でございます!」

「そうか、本当にありがとう!君達は本物の冒険者だ!感謝する!」

「“キトサンフラワー”を取りに戻って来られる事を、心よりお祈りします!」


俺達は改めて決意表明を行うと、アスバン様とミクラ様は再度感謝の気持ちを述べた。

ミクラ様の様相とアスバン様の言葉を聞いたら、気が引き締まるってものだ。

それから改めて、準備や作戦会議を進める俺達だった。




翌日————


グリナムから歩いて一時間ほど、“ログム山”の麓……


「いよいよですね!」

「Cランクに上がって、ミクラ様も助ける。モチベーション上がるわ!」

「準備に抜かりはありません!」

「よし!じゃあ、行動開始だ‼」


「「「「おー!」」」」


俺達【トラストフォース】は“キトサンフラワー”の採取に動き始めた。


「面白かった!」


「続きが気になる、もっと読みたい!」


「目が離せない!」


と思ったら、




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