第39話 クルスの過去
新メンバーのクルスの過去が明かされます!
クルス視点———————
ビュレガンセの王都から離れた農村で一人の男の子が生まれた。
物心付いた頃には、まだ勤労ができる年の老夫婦と共にいた。
その子供の名前は『クルス・ロッケル』と名付けられた。
僕は幼い頃から育ててくれた祖父母の苦労を幼心に抱きながらも、その支えとなるために手伝い続けて生計を立てる家庭で生きていた。
僕の両親は、生まれてしばらくして事故で命を落としてしまったために、その顔を知らないまま生きていく事を余儀なくされた。
農家の孫であるために、祖父母の確かな愛情と周囲の農夫らと支え合う環境のお陰で裕福でこそないものの、幸せに過ごせていた。
冒険者と言う名前に縁がない中で過ごしてきたある日、8歳になった時に転機が訪れた。
「この村を脅かすモンスター達の脅威は全て排除しました。もう安心です!」
「ありがとうございます。何とお礼を申し上げれば良いか……」
村人達だけでは到底解決できないようなモンスターの繁殖が起きており、そのせいで収穫物が落ち込んだ時期があった。
頭を悩ます中で一つの冒険者パーティーのお陰で解決した事があった。
戦闘の経験がほとんどないような村人しかいないような老若男女で占められていた中で、見事に解決して見せたその姿は、憧れを抱かせるには充分だった。
まだ幼かった僕はある日、祖父母に一つの決心と夢を伝えた。
「僕、あの時助けてくれた冒険者のように、色んなところに行ってみたい!そして、困った人達を救うような人になりたい!」
幼心ながら、純粋な想いを伝えた。
「そうかそうか。クルス……本気でそう思うならば、やってみなさい」
「私らは応援するよ……」
僕の祖父母は新しい夢を見付けた孫の気持ちを阻む事無く尊重してくれた。
それからは冒険者として必要な知識や知恵を村人達から不確かながらも参考になりそうなモノをかき集めていた。
聞いた話を基に身体を鍛え、棒切れを持って武器を持った戦闘の訓練を独学で行った。
そして僕が15歳になり、最寄りの町にある教会で『職授の儀』を受ける事になった。
授かったギフトは『シーフ』だった。
冒険者に向くか向かないかで言えば向いてない事はない。
『剣士』や『軽戦士』などのような接近戦に向いてもなければ、『魔術師』や『アーチャー』のような中遠距離戦に向いたギフトではない。
後方支援に向いたギフトだったからだ。
あちこちに出向いてはモンスターと戦うのに適しているかどうかのギフトは前から予習をしていたが、まさか自分が前線で戦うのに向いてないギフトを授かるとは思ってなかった。
最初は肩透かしだったけど……。
「それでも、戦いや冒険の役に立てる!誰かの支えになる!」
そんな志を抱きながら村を出て、冒険者として頑張るスタートを切った。
ティリルにある冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】で冒険者登録を行った後に、Fランク冒険者から始める事になった。
僕が16歳になってしばらくした頃にはEランク冒険者となり、ティリル周辺の土地を中心にクエストをこなす日々が当たり前になっていった。
依頼した人々の感謝の言葉や笑顔を受け取る度に、やりがいを感じるようにもなった。
しかし、そんなに現実は甘くなかった……。
「う~ん、できる事ならば『支援士』や『魔術師』ならば考えてもいいんだけどね……」
「ですが、僕はトラップを感知できて、自分の気配を消すのが得意ですので偵察とか……」
「悪いんだけど、ごめんな。Dランクくらいになればまた考え直すよ」
「そうですか……」
僕は本職の戦闘に向いていないギフトである『シーフ』が足枷になってしまう場面に遭遇する機会が増えてきていた。
基本的にモンスターと直接戦闘する機会が少ない後方支援系のギフトは、戦闘向けのギフトと比べると成長速度が遅めだ。
後方支援系のギフトの中で、味方の戦闘能力を向上させたり回復を得意とする『支援士』や『僧侶』などの聖職者系のギフトは需要があるものの、『シーフ』はモンスターの討伐やコロニー殲滅にはそれほど重宝されなかった。
そのため、採取系や調査系のクエストでなければ、アライアンスを結んでもらうのも難しくなってきた。
アライアンス時における分け前も、話し合いやリスクなどを事前に決めた形とは言え、モンスターを積極的に倒してきた訳ではないため、若干少なめだった。
村を出る時に祖父母と農民の方々から、冒険者デビューのお祝いに手頃な武具や数十万エドルを支度金としてもらったものの、格安の宿を取りながらクエストをこなして生計を立てるのが大変になってきた。
安上がりなクエストをこなしながら日常を送っていたそんな時だった。
「なぁ、クルス・ロッケルってのはお前か?」
「は、はい……。どちらさまでしょうか?」
僕は一人の男性に声をかけられた。
逆立った焦げた茶色の髪型に右頬には一文字の傷があり、少し吊り上がった目をしていた社交的で活発さを感じさせる男性だ。
年齢は僕よりも5歳ほど年上に見えるな……。
「紹介が遅れたな。俺はDランクパーティー【パワートーチャー】でリーダーをやっているドキュノ・ビルイって言うんだ」
「ドキュノさん、ですね。初めまして、僕がクルス・ロッケルです」
「話には聞いていたんだが、トラップの感知とかが得意なんだって?後、戦闘も少しこなせるとかどうとか……」
「はい……」
ドキュノさんは自己紹介を終えた後、本題を切り出すような表情をしていた。
「お前さえ良ければ、俺らのパーティーで冒険しないか?」
「え……?」
思わぬ誘いだった。
嬉しいと思う反面、自分でいいのかと言う考えも過った。
「俺はお前に可能性を感じてるんだ!是非にってな!」
「……」
僕は少し考え込んだ後に……。
「僕で良ければ、よろしくお願いします!」
「おう、よろしくな!」
僕はドキュノさんの差し出した手を取った。
こうして僕は【パワートーチャー】の一員になった。
既にメンバーだったカズナさんもフルコさんもDランクだったけど、仲間として迎えてくれたのが嬉しかった。
それから僕はドキュノさん達と行動を共にするようになった。
ドキュノさんは『槍術士』なだけに槍の扱いが上手で、一人でレア度Dのモンスターをあっという間に倒せる力量を持っていて、リーダーシップもあった。
カズナさんとフルカさんも相応の実力を持っていて、僕は付いていくのに必死だった。
「クルス!今の不意討ちは見事だぜ!」
「流石は『シーフ』ね!」
「てか“ゴブリンソルジャー”くらいだったら全然戦えるじゃん!」
「ありがとうございます!」
ドキュノさん達は僕の働きを誉めてくれるようになった。
煙幕や炸裂弾などの小道具を交えた戦法も、【気配遮断】でこっそり爆発物を仕掛けて奇襲を行う方法もドキュノさんらのアドバイスで思い付き、お陰でモンスターとの戦闘にも貢献できるようになっていった。
それから僕はDランク、ドキュノさんらはCランクへと昇格した。
僕もドキュノさんらに追い付けるように頑張ろうと気持ちを新たにした。
はずだった……。
「え?ドキュノさん、今なんて?」
「何だよ、聞こえなかったか?」
「クルス、お前には【パワートーチャー】を抜けてもらう」
僕は突然、ドキュノさんからパーティーのクビを言い渡された。
理由はある調査系クエストで僕が見つけた『トラップスコープ』って言う、目に掛けるだけで視界に映るトラップを感知しながら通った道をマップとして管理できるかなりのレアアイテムを手にしたからだ。
そして僕は結局、パーティーから出て行く事になった。
ドキュノさんら3名からお金が入った革袋を投げ付けられ、中に入っているのは金貨一枚と残りは銀貨や銅貨の合計100枚ほどだった。
ハッキリ言って、格安の宿に何日くらいかは泊まれる金額だが、今までの働きを思えば割に合わなかった。
思い直すと、ドキュノさんらがCランク冒険者になって少しした頃から調子づくような行動や言動が増えていたような気がした。
実力があるのは確かだけど、それを自慢げに周囲へアピールするようにもなって、僕にもCランクパーティーの一員でいられるのは自分のお陰だと言ってのける場面も目立った。
自信家で社交性溢れる人柄をしていると思っていたけど、実際は自己顕示欲が強くて周りを利用する事しか考えない人間で、カズナさんとフルカさんも同じだった。
「今まで一体、僕は何をしていたんだろうか……?」
それから数日、僕は一人でこなせるクエストを細々と引き受ける生活を送った。
そんな中で……
「僕、【パワートーチャー】をクビにされたんです……」
僕はある日、トーマさんとギルドの掲示板前で再会した。
辞めた経緯を話すと、トーマさん達は凄く怒ってくれた。
ミレイユもパーティーから酷い扱いを受けた挙句に見捨てられた経験があるからか、一際怒りに燃えていた。
それからアライアンスを結んで、ある大湿原で発生したコロニー殲滅のクエストを受ける事になり、いつものようにトラップ避けや斥候の役回りをこなそうとしたけど……。
「ん?クルス君、疲れてないか?」
「え……?」
トーマさんはクエスト中、周囲に警戒をするために精神力を削っている僕の事をいつも気遣ってくれて、セリカとミレイユも気に掛けてくれた。
ドキュノさん達といた時は、そんな言葉をかけてくれた事なんてなかったから驚いた。
「皆さん、ありがとうございます。本当は凄く助かっています」
トーマさん達は、本当に優しかった。
自分だけリスクを背負わされていた前のパーティーにいた頃よりも、ずっと暖かくて、僕の事を大切に思ってくれた。
意見やアイデアを尊重してくれて、信じ切れなかった僕自身を信じ抜いてくれた。
そして、コロニー殲滅も成功するに至った。
クエスト達成後にギルドへ戻り————————
「僕を、【トラストフォース】に入れていただきたいです!」
「「「え……?」」」
僕はトーマさんのパーティーに入りたいと思いっきり頭を下げていた。
トーマさん達なら、信じても良いって心から思えて、一緒に冒険したいと願った。
「俺達【トラストフォース】は、クルス・ロッケルを迎え入れる!一緒に頑張っていこう!」
「ありがとうございます!皆さんのお役に立てるよう、精一杯努めていきます!」
こうして僕、クルス・ロッケルは【トラストフォース】の一員になれた。
僕と同じような境遇を経験してきたミレイユ。
どんな時でも仲間を思いやり、皆の事を見てくれるセリカ。
そして、僕に新しい道を示し、手を差し伸べてくれたトーマさん。
守りたいと思える本当の仲間に出会えたこの瞬間を、僕は一生忘れない……。
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