第36話 思わぬ曲者
存在感の薄いキャラの強さやメリットを見せ付けます!
俺達はCランクパーティー【パワートーチャー】のリーダーであったドキュノさんから追放されたクルス君とアライアンスを結んでDランク向けのコロニー殲滅クエストを遂行している。
密林型コロニー———————
「シャアァァーー!」
「グルルルル……」
「ゴロロロロ……」
陽の光が僅かしか届かないジャングルのように草木が生い茂り、幅が広い川も流れており、蒸し暑ささえ感じさせうるジメジメとした陰気な空間は不気味ささえ漂っていた。
ワニやトカゲ、ヘビや半魚人のような外観をしたモンスターも相当な数であり、中には二足歩行している人型のような姿をした個体もいる。
のそのそと散歩するように動くモンスターからその場で寝ているモンスターまでそれぞれが自分の生活をするようにいた。
「「「「グガォ?」」」」」
モンスター達は不意にピカッと瞬く光に向けて視線を送る。
ドーーーーーーーーーーーーーン!!
「「「「「ガギャーーーーッ!!!」」」」」
当たり一面が強烈な爆発が発生し、僅かな時間を置きながら2つ目3つ目と爆発が続き、モンスターは次々と光の粒子となって消滅していき、残っているモンスターは呻き声を挙げながら弱り果てていた。
「今ですよ‼」
「オッシャーーーッ!」
「あ、既にモンスターが何体か弱ってる!」
「奇襲成功!!」
舞い上がる煙の中から、俺達は入り口から一気に突っ込んでいった。
コロニーはあちこちボロボロになっていたものの、生き残っているモンスターの半分は既に虫の息となっていた。
「上手くいきましたね、トーマさん!」
「あぁ、予想以上に上手くいったな!クルス君の作戦!」
そう、この爆発物による奇襲は、アライアンスを結んで一時的に行動しているこのクルス君が立案したのだ。
回想・数分前———————
「クルス君、これって……?」
「ハイ、『ショックボム』の詰め合わせです!これが今回の作戦のキーになります!」
「へぇ~」
見た目は無色透明のような液状で約15センチの筒に入れられているが、刺激を与えれば爆発するアイテムだ。
それが何十本と敷き詰められていた箱が3つほどあり、これがクルス君の言ってた作戦の重要なウエイトを占めている。
「僕が見つからないようにこれをコロニーの各所に置いていき、それが終わったら入り口付近でこの炸裂弾で誘爆させます」
「え、どうやって置いていくのでしょうか?」
「バレないようにしても、中にいるモンスターは警戒心が強いんですよ」
「ご心配なく。僕には【気配遮断LV.2】があります。このスキルは文字通り、人やモンスターから気配を感じ取られないように行動する事を可能にさせます」
「もしかして、モンスター達に気付かれる事なく『ショックボム』の詰め合わせの箱をばらばらに置いていって、爆発で全滅させるって事かな?」
「概ね正解です。ただ、トーマさんの言っている事は、そうなるのがベストって意味です」
クルス君の説明と彼が持っているアイテムやスキルから、何を考えているのかを理解した。
但し、その表情は少し険しかった。
「これでコロニーのボスまで全滅させれば確かにベストです。防御力の低いモンスターを殲滅させるのは可能でしょうが、中には頑強さや反応速度にも優れたモンスターが何体かいるので、良くてもダメージを与えて弱らせるのが関の山でしょう……」
「そんな事ないさ‼これで俺達に有利に働いてくれる状況ができればそれでいいよ‼」
「残っているなら残っているで、私の魔法で一気に倒せばいいだけです‼」
「いきなり多くのモンスターを相手にするよりも、体力も魔力も充実したまま有利に戦えるのは、これ以上ないメリットですよ‼」
「セリカやミレイユもこう言っている!その方法で行こう!」
「皆さん、分かりました!」
クルス君の考えた作戦に、俺達は満場一致で賛成した。
「では、行ってきます!」
「爆発物の扱いには十二分に気を付けて下さい!」
「セットが完了したらすぐに戻って来て下さいね!」
「頼んだぞ!」
俺達はクルス君を見送るのだった。
「あ、一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「「「……?」」」
クルス君は何かを思い出したように一瞬俺達の方に身体を向けた。
「セットが終わるまでは皆さん、物音はあまり立てないようにしていただければ幸いです」
「分かった」
補足事項な一言を伝えて、【気配遮断LV.2】を使ったクルス君は歩を進めるのだった。
回想終了———————
「手加減はしないよ!」
「ギャァ!」
「これはコロニー殲滅クエスト。容赦なく行っちゃうよ!」
「ガバアァァ!」
爆破によるダメージで弱っているモンスター達にセリカは速い突きでトカゲを人型にしたようなモンスターの心臓を一突き、ミレイユはワニのようなモンスター数体に【炎魔法LV.1】の『ファイアーボール』で次々と倒していく。
「俺も負けてられないな!」
「それなら僕もです!」
俺とクルス君も、ボロボロになりながら立ってくるモンスターを次々と切り伏せていく。
爆破による奇襲はイメージしていた以上に上手く行っており、以前に比べると格段に効率良くモンスターの殲滅が進んだ。
バシャアァ!
「キエェェーー!」
「「「「……ッ?」」」」
(【簡易鑑定】!)
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名前:”フィッシャーナイト”
種族:フィッシュ
レア度:D
スキル:
【水魔法LV.1】
水魔法を使用できる。
【概要】
水棲系のモンスター。
ヒューマンの形にフィッシュを混成したような風貌をしている。
モンスターながら、魔法を操るだけの魔力と成人したヒューマン並みの知能を持っている。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
川から半魚人のような風貌をした身長2メートル近くはあろう2匹の“フィッシャーナイト”が、近接職の戦士が使う槍を持って、俺やクルス君、セリカとミレイユに近付いていく。
「川の中に潜んでいたのか?」
「このモンスター、【水魔法Lv.1】を使える。皆、気を引き締めていこう!」
「「「ハイ!」」」
そして“フィッシャーナイト”はそれぞれに襲い掛かる。
「ガアァ!」
「グウッ!」
(やっぱりパワーあるな!)
「……ッ!」
俺は一体の“フィッシャーナイト”の持つ槍による剣みたいな斬撃を凌ぐが、やはり強い。
隙を突くようにクルス君が二本のロングナイフで後ろから斬りかかろうとした。
「ガァ!」
「うおっ!」
“フィッシャーナイト”は本能的にクルス君に後ろ蹴りを浴びせようとするが、彼は辛うじて地面を転がりながら躱す。
すると“フィッシャーナイト”は俺から距離を取り、その隙にクルス君の下へ行く。
「クルス君、大丈夫か?」
「はい、何とか……」
「グルオォ……」
“フィッシャーナイト”のパワーやスピードはもちろん、戦闘経験を重ねた戦士のような立ち回りに想像以上の苦戦を強いられた。
「【炎魔法LV.1】『ファイアーボール』!」
「グウゥ!」
「クッ!」
(陸地でもこんなにフットワーク軽いの?)
「ガアァ!」
「ミレイユ!」
「ッ!?」
一方のセリカとミレイユも、もう一体の“フィッシャーナイト”に苦戦を強いられていた。
ミレイユの【炎魔法LV.1】の『ファイアーボール』の連打も見事なフットワークで躱され、近づいたところを槍で突かれかけたところ、セリカが剣で軌道をそらした。
「ハアァァァ!」
「ガアァ!」
セリカは接近して連続斬りを放ち、“フィッシャーナイト”は受けに回った。
槍は剣を持った相手ならば、ある程度離れた距離からでも撃ち合えるメリットを持つが、言い換えれば懐に潜られたら後手に回りやすい欠点がある。
セリカはそれを理解しているのか、距離を詰めて剣を四方八方から振っている。
「ギイィ!」
「ッ!」
(近づかれるのが嫌なのか、距離を取りたがってる。だったら……)
「ゴオォ!」
「セリカ!そいつ【水魔法】を撃つよ!」
「!?」
“フィッシャーナイト”は距離を取っていき、槍の不利な状況に引き込もうとしたセリカだったが、ミレイユは魔法を撃ってくると声を張り上げる。
「バアァ!」
「くっ!」
放たれたのは、三日月状をした強烈に圧縮された水の刃であり、セリカは紙一重で避けた。
「本当に魔法攻撃が使えるなんてね」
「あれって【水魔法LV.1】の『アクアスライサー』よ。モンスターなのに魔法が使えるだけでも厄介なのに、あの動きは槍を得物にしている戦士そのものだわ」
ミレイユの近くに転がったセリカは“フィッシャーナイト”の厄介さを改めて認識し始めている。
魔術師で【水魔法】を得意とするミレイユも、一目見て何の技名かを見抜き、腕の立つ近接職のような駆け引きを要求させる立ち回りに苦戦を強いられると直感した。
間違いなく、この二体の“フィッシャーナイト”がこのコロニーのボスだった。
(あの力強さとフットワーク、更には【水魔法】なんてな……)
「まるでモンスターと言うより、魔法を扱う戦士とやり合ってる気分だな……」
「そうですね、“フィッシャーナイト”はレア度Dのモンスターですけど、下手なCランク冒険者を随分と手こずらせるって情報もあります」
俺とクルス君、セリカとミレイユはそれぞれ苦戦を強いられ、再び斬り合いに雪崩れ込む。
「ガアァ!」
「こいつまた……って?」
俺と斬り合う一体の“フィッシャーナイト”が距離を取った瞬間、川に潜った。
川から狙い撃つのが目的かと頭を過った。
考える俺の横で、クルス君は既に【気配探知LV.2】を発動させている。
「……ッ?セリカさん、ミレイユさん、もう一体がそっちに行きます!」
「「……ッ?」」
クルス君がそう叫んだ瞬間……
「ガアァ!」
「「何?」」
俺とやり合った“フィッシャーナイト”が川から急に飛び出し、セリカとミレイユはその突発的な動きに驚いていた。
「シャアァー!」
「キャアァ!」
飛び出した方の“フィッシャーナイト”が放つ【水魔法LV.1】の『アクアスライサー』を放つが、飛ばされて来たミレイユは必死に横っ飛びで躱す。
「グウゥ!」
(やばい!左脚が……)
しかし、ミレイユの左ふくらはぎには横一文字の傷が付いており、満足に動けない状況に晒されていた。
「グガアァァ!」
「ハッ?」
もう一体の“フィッシャーナイト”が片膝を突いたまま青ざめたままのミレイユに向かって槍を突き出してくる。
「【風魔法LV.1】『エアロショット』!」
「ギャア!」
「ミレイユ!」
セリカは“フィッシャーナイト”の頭部に【風魔法LV.1】による『エアロショット』と言うバスケットボールサイズまで圧縮された空気弾をぶつけ、数秒仰け反らせる事には成功し、その隙に【脚力強化】でミレイユを担いで俺とクルス君の下に合流する。
「ミレイユ、大丈夫か?」
「はい、何とか……」
「想像以上に厄介ですね……」
「槍の特性を上手く生かした立ち回りと駆け引き、加えて【水魔法LV.1】による中遠距離攻撃、強いです……」
「「グオォォ!」」
俺達は“フィッシャーナイト”の想像以上の強さと知性の高さに驚嘆しながらも、何とかできないか思考を巡らせる。
「あの、クルス君、ちょっと聞きたいんだけど……」
「何ですか?」
「奇襲で使ったあの爆発物ってまだ残ってたりする?」
「『ショックボム』はもうありませんが、威力と引き換えに扱いやすい小型の炸裂弾はまだあります」
「そうか、それならさ……」
俺達が一カ所に固まっている事から、耳打ちで作戦を立てた。
2秒あるかないかで伝えたため、どこまで俺のアイデアが伝わるか分からないが、このままではやらなきゃやられる。
「「ガアァァ!」」
「「「「ッ?!」」」」
二体の”フィッシャーナイト”は槍を持って襲い掛かって来た。
やるかやられるか、俺達は命を賭けた作戦に打って出る。
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