第325話【ウルミナ視点】理想の仲間とは……
ウルミナ達もティリルに向かいます!
「【ヴァルキリアス】全員が無事よ!すぐに治療を!」
「酷い怪我をしている者もいる!【回復魔法】や“ハイポーション”の用意を!」
「急いでくれ!」
「「「はい!」」」
「ミリア!皆!」
私達【ノーブルウィング】は複数の冒険者パーティーとビュレガンセ王国騎士団南方支部の面々と【絶黒教団】の根城だった島にいる。
現在、私は相方であるルエミや他の冒険者パーティーと島の海岸で少しの休息を取っており、船を出す準備を整えるために騎士達が慌しく動いている。
そこへ同メンバーであるジーナとランディー、ラルフがAランクパーティー【ヴァルキリアス】の面々と一緒に帰還してきた。
「皆、大丈夫?」
「私とメロ、フォネは魔力の枯渇寸前ですけど、ミリアとターニャが……。一応、フォネの【回復魔法】や手持ちの外傷回復のポーションによる応急処置はしておいたんですけど……」
「「ッ!?」」
私とルエミはジーナ達の下に駆け寄るも、その目に飛び込んだのは深刻な光景だった。
メロやフォネはジーナに担がれているが、魔法の使い過ぎでぐったりしており、説明してくれたライラも同様だ。
しかし、ランディーに背負われているミリアとラルフに背負われているターニャは応急処置のお陰で目立った外傷は概ね治っているものの、看過していい状態ではない。
「ミリア!ターニャ!」
「うぅ……」
「うぁ……ウルミナさん……。無事だったんですね」
「私はいいの!船に運んで!」
私は【ヴァルキリアス】全員を船に運ぶようルエミ達に指示を飛ばした。
「出航の準備が整った」
「ありがとうございます!私達はこの島を出てミリア達を治療院に運んだ後、ティリルに向かいます!」
「分かった。後の事は我々に任せていただきたい」
「お願いします」
船を出す準備の完了を教えてくれたのは南方支部の隊長であるガレオスさんだ。
状況を説明すると、ガレオスさんの計らいで船の中へ通してもらう事になり、ベッドのある一室でミリアとターニャを横に寝かせた。
それから間もなく、船は出航するのだった。
◇—————
「うぅ……あぁ……」
「「「ミリア!」」」
「ライラ。メロ。フォネ……。あっ!ターニャは?」
「大丈夫。ターニャは横にいるし、命に別状はないわ」
「え?」
船に運ばれたミリアは治癒効果の高い回復アイテムを使った末に数時間眠っていたものの、最終的にはハッキリと意識を取り戻した。
ふと頭を捩ったミリアはすぐ隣に眠っているターニャがいる事を確認した。
「大丈夫よ。眠ったままだけど、命に別状は無いわ。直に目を覚ますと思う」
「は……はぁ……。本当にありがとうございます」
「礼には及ばないわ。無理に動かなくていいから」
私はミリアを落ち着かせるつもりで今の状況を説明したけど、すぐに割り切れたかのように冷静になってくれた。
一時は錯乱してしまうのではないかと懸念していただけに、ホッとした。
ちなみに医務室にいるのは【ヴァルキリアス】全員と私、ルエミとジーナの女性メンバーだけだ。
ランディーとラルフは自室で休んでいる。
まあ、この後もやる事が沢山あるからね。
「ライラ達から聞いたけど、【絶黒教団】の幹部と鉢合わせ、凄い戦いを繰り広げたんだね?それで、今のようになったと……」
「はい。間違いありません……」
【ヴァルキリアス】とミザリーの戦いの顛末はライラ達から既に共有されている。
もちろん、私達が幹部の一角を担うアルーナと戦い、勝利した事も彼女達に伝えてある。
「私が言えるかどうかは分かりませんけど……。少なくとも、私の魔法やメロとフォネのサポートが無かったら、非常に厳しかったと思います」
「振り返ってみればそうでしたね。幹部格なだけあって、本当に強かったです」
「一歩間違えれば、【ヴァルキリアス】の誰かが命を落としていた場面がいくつもあったって、断言するしかないほどの状況でした」
「そう……」
ライラやメロ、フォネはそれぞれがその時の戦いを振り返る感想を口にした。
私達はその現場に居合わせてこそいないけど、その表情は真剣そのものであり、激しい戦いであった事を物語らせている。
「本当に過酷な戦いでしたね……」
「ミリア。しゃべって大丈夫なの?」
「まあ、何とか」
するとミリアが口を開いた。
ベッドに乗せた時よりも血色が良くなっており、ゆっくり会話ができるくらいには回復しているようでホッとした。
「私達【ヴァルキリアス】はミザリーと言う女幹部と交戦しました。勝利できたのも、こうして戻って来れたのも、仲間達の存在あっての結果だと受け止めています」
「なるほどね」
「あの女は倒さなければならない敵なのは間違いありませんでした。ただ……」
「ただ?」
ミザリーについて語るミリアの表情はどこか憂いを帯びていた。
「黒い魔力や魔改造によるパワーアップもあっただろうけど、それを抜きにしても本当に強かった。身体能力もそうだけど、二振りのレイピアによる剣術や身体捌きは達人のように洗練されていて、戦闘センスやメンタリティーも凄まじく高く、狂気的でいながらも、一種の潔さを持っていました。あの実力を手に入れるのに、数多の月日を掛けて鍛錬と努力を積み重ねてきたのがやり合う中で理解できたんです。どんな理由で道を踏み外してしまったのか、【絶黒教団】に身を置いたのか、今となっては分からないですけど、一人の戦士として敬意を覚えました。もしも、敵同士ではなく、冒険者にしても何にしても、違う形で出会い、切磋琢磨し合えるライバルだったらどれだけ良かったかなって、思ったくらいでしたから……」
「「「「「……」」」」」
私を含め、全員が納得もしたような表情をしながら沈黙した。
このミリアが終始一貫で真顔のままに言うのだから、間違いない。
ミザリーは敵ながらも畏敬とも言うべき念を抱く相手なのだったと……。
何より、途轍もない難敵であったと認めざるを得なかったって事を……。
「なるほど。敵ながら見事な相手だったって事ね」
「はい。勝つ事ができたのも奇跡だって我ながら思っています。少なくとも、私一人だけだったら命もあったかどうか……」
ミリアは眠っているターニャに視線をやった。
「魔力の消耗度合だったらミリアだけど、身体の傷や出血量でいったらターニャの方が深刻だったわ。かなり無茶をしたんじゃない?」
「はい。ですが、今回の戦いを乗り切れたのはターニャのお陰と言ってもいいくらい、彼女の存在が大きかったです」
そう言うミリアは儚さと誇らしさが同居したような表情をしている。
「随分と信頼しているのね。ターニャの事を」
ジーナがそれとなく言うと……。
「はい。ターニャはミリアと前衛で絶妙なコンビネーションで戦う、戦闘における要なんですよ。少しアバウトなところはありますけど、その辺の男よりも男らしくて逞しいのです。正直、ターニャがいるのといないのとではパーティーの士気にも大きな影響が出そうなくらいですから……」
「ミリアとターニャの二人がいるから、私達はサポートやフォローに集中できて、自分の役割をしっかりと全うできるんです。それにターニャって、男勝りなところはありますけど、相談事にもよく乗ってくれるくらいに面倒見が良くて、子供が好きだったりと、良いところも沢山あるんですよ」
「戦闘においてだったらミリアに負けないくらいのリーダーシップを発揮する事も珍しくないですし、女性である私から見てもカッコイイところを見せてくれる事も珍しくないんですよ。ターニャがいない【ヴァルキリアス】なんて……考えられません」
ライラやメロ、フォネはターニャの事を称賛するような言葉を揃って発していた。
【ヴァルキリアス】のリーダーがミリアであり、サブリーダーがライラであり、縁の下の力持ちを担うのがメロやフォネとすれば、ターニャはパーティーの士気を盛り立てるムードメーカーのような存在だと思った。
一人一人が互いに助け合い、高め合い、認め合うのは理想のパーティーだって思っているけど、しっかりと見ていれば分かる。
この【ヴァルキリアス】もまた、本当に素晴らしいパーティーだって……。
「そう言えば、船が着くのは……」
「このまま行けば、二時間後には着くらしいわ」
「そうですか。できる事なら、私の【風魔法】で船の帆を煽って加速させる事も———」
「それなら大丈夫よ。私がその役割を逐一担っては加速させているから」
「え?」
実を言うと、急ピッチでティリルに戻らなければいけない手前、コンスタントに私の【風魔法】で船をより早く、確実に進めるようにしていた。
それを知ったミリアは無理を押してまでその役割を担おうとしていたが、私達でそれを窘めるのに少しばかり苦慮したのは、ここだけの話だ。
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