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第34話 追放されたシーフ

一人のシーフがキーパーソンになります!


ギフトの一つである『シーフ』。

俺が今いるこの世界においては、泥棒と言う名の犯罪者ではなく、冒険者向けのギフトとして扱われる。

『シーフ』のジョブを持つ者は、機動力と気配の察知及び遮断に長け、罠の感知の能力を持っているのがほぼ当たり前である。

中には複雑な構造をしている建物や空洞等の位置をマッピングして把握できる者もいる。

故に、モンスター討伐系やコロニー殲滅系においては事前に敵戦力の偵察や分析による作戦立案の土台を築く礎を担い、主にパーティーの縁の下の力持ちのような役割を担う。


ギルド併設の飲食スペースで座っている俺の目の前にいるのは、そんなギフトを持っているクルス・ロッケルと言う20歳の青年だ。

濃いグレーの髪色に動きが少し効いたような後ろ襟足が伸びたマッシュヘアに焦げ茶色の瞳をした少し落ち着いた風貌が特徴的である。

ギフトに違わず、来ている服装も黒を基調にしたノースリーブの変哲もないパーカーの上に硬革の胸当てに黒い革パンツを着用している。

指ぬきの短いグローブを両手に着用しており、見える腕からはそれなりに鍛えたであろう筋肉が見えている。

そんなクルス君だが……。


「僕、【パワートーチャー】を辞めさせられたんです……」


【パワートーチャー】とは、数か月前にCランクへ昇格したばかりのパーティーであり、クルス君はその一員だった。

悲痛さが残っているような表情を見せながら口を開いた言葉は、パーティーの追放と言う余りに非情で残酷な宣言だった。


「え、何で?」

「仲良しに見えたのに何だって急に……」

「あの時会った時点ではパーティーメンバーの仲は悪くなさそうだったのに……。まぁ、ドキュノさんが馴れ馴れしい気はしたけど……」


【パワートーチャー】のリーダー格であるドキュノ・ビルイさんは冒険者ランクCの『中級槍術士』であり、社交的な男性ってイメージが強く、悪い人には見えなかった。

同じメンバーであるカズナさんやフルカと言うそれぞれ『中級アーチャー』や『中級軽戦士』で冒険者ランクCの女性であり、あの時点では険悪な雰囲気を感じなかった。


「皆さんと出会って数日後の事でした……」


クルス君は振り絞るように言葉を紡ぎ始める。

事の発端は、俺達が【パワートーチャー】と出会った翌日、俺達がビュレガンセで屈指の港町であるシーゾスにクエストで赴いていた頃の話だった。




クルス視点———————


僕達【パワートーチャー】は調査系クエストで、ティリルから何キロか離れている洞窟に赴いていた。


「よーし!ここが今日のクエストにおける舞台だな?」

「如何にもって感じ!」

「今回もサクッとこなしちゃいますか!」

「そうですね……」


Cランクパーティーで【トラップ感知LV.1】以上のスキルを持った冒険者がいれば軒並みやりやすいと言われている洞窟へと挑んでいた。


「てなわけで、クルス頼んだぜ!」

「は、はい……」

(【トラップ感知LV.2】!)


僕は洞窟や生い茂った森林に出向いた際には必ず【トラップ感知】のスキルを使い、安全に進めるかをまずは確認する役割を引き受けていた。


「少なくともこの入り口から500メートル以内にトラップはないですね。ですから……」

「よーしクルス!前衛は任せたぞ!」

「え、あ、はい……」


どこかのクエスト、特に行った事がない場所には必ず僕が前に立たされた。

トラップがどこにあるか分からないのは恐い上に、【トラップ感知】のスキルを持っているのは僕だけだからその時の采配については割り切って行っていた。

『アーチャー』のカズナさんも背後からの奇襲を防ぐために警戒してくれていたから調査系クエストを始めとする様々なクエストも、今でも積極的にこなせていた。






僕は『シーフ』と言うギフトを授かってからはFランククエストを必死でこなしていき、冒険に役立つと思って身体を鍛えながら頑張ってきた。

Eランクになっても、【気配探知LV.1】・【気配遮断LV.1】・【トラップ感知LV.1】のスキルを中心に自分でやれる事をやってきた。

剣術も独学ながら頑張って、当時は冒険者ランクEだった僕でも対処できるモンスターを相手に力を高めようとしてきた。



「クルス、俺らのパーティーに入らねぇか?【トラップ感知】のスキルを持った冒険者を探してるんだよ!」


当時18歳でまだEランク止まりだった僕に声をかけたのは、当時Dランク冒険者で【パワートーチャー】のリーダーを既に張っているドキュノさんだった。


「俺ならお前と一緒に上へ行けると思うんだ。俺らのパーティーで冒険しないか?」

「……」


僕はドキュノさんの差し出した手を取った。

カズナさんもフルコさんもDランクだったのに仲間として迎えてくれたのが嬉しくてたまらなかったから。


「ハイ!クルス・ロッケルと申します!今後ともよろしくお願いします!」

「そんな固くなるなって!俺はドキュノ・ビルイ、よろしくな!」

「「よろしくね~!」」


こうして【パワートーチャー】の一員になった。

僕はドキュノさんが行った事のない場所では僕の事を重宝してくれるようになった。

コロニー殲滅でも【気配探知】や【気配遮断】による偵察をして作戦立案に役立てる事で、その成功率アップに貢献してきた。

不意討ちによる斥候的な役割を担って戦いを有利にするための働きもしてきた。

後方から支援する事だって忘れずに一生懸命やってきた。


「やったぜ!クルス!Cランクパーティーになれたぜ、俺達!」

「アンタが入ってからクエスト達成が楽になったよ!」

「早くCランクになってね!応援してるよ!」

「役に立てて何よりです!もっと頑張ります!」

「おう、頼むぜ!」


一年前、僕の冒険者ランクはDに上がり、数ヶ月前にはCランクパーティーへの昇格が決まって、ドキュノさん達の心からの笑顔で喜んでくれた姿を見て、頑張って良かったって思っていた。


この時までは……。



「クルス、俺達の装備品がこの通り傷付いたから修繕しといてくれ!」

「私のもお願い!」

「クリーニングもしといてね!」

「は、はい……」


Cランクになって少しして、ドキュノさん達は今まで分担し合っていた身の回りの装備品や武器の修繕や保守を始めとする雑用を押し付けるようになっていった。


「クルス、お前が先に上手く不意打ちかまして数減らしておいてくれよ!」

「え、でも、僕が持っている攻撃型のスキルじゃ半分も削り切れるかどうか……」

「女々しい事言わないでよ、男でしょ!」

「上手くやったら隠れた後に適当な援護だけで済ませていいから!」

「俺と違って積極的に前衛で戦うんじゃないんだからそれくらいやってくれよな!」


周囲から実力者と見られるCランクパーティーと言う羨望によって、ドキュノさん達が増長するような態度を取り始め、僕への扱いも雑になっていった。

最近では、屁理屈を付けては僕だけ報酬の分け前で食事をおごらされるようになっただけじゃなく、装備も新調どころか修繕に当てるためのお金すら出そうとしてくれなくなった。


大きく運命が変わったのは、あるクエストに挑んでいた時だった。


「うん、トラップはないですね」

「よーし、この洞窟もほぼ巡る事はできたな!サンキューなクルス!」

「お前のような斥候役は本当に便利だぜ!」

「あ、ありがとうございます……」


クエスト自体は大きな問題もなく終わる事ができたけど、ドキュノさん達が僕へ向けられる態度は仲間と言うより、「トラップ避けや斥候に便利な都合のいい道具」みたいな扱いだった。

洞窟を抜けるために地上へと向かっていた頃……。


「ん?あれは……?」

「どうしたんだよ?何ボーっとして……」

「あそこ!何か特殊な魔力を発する箱があります!」

「マジかよ?」

「本当?」

「こっちです!」


そう感じた僕は指を差した方向へ走ってみると、調査系クエストで見つかる事がある宝箱を確認した。

【トラップ感知】を使いながら箱や周囲に細心の注意を払いながら確認して開けて見た。


「どうだ?何が入ってんだよ?」

「このアイテムは?」


トラップに引っかかる事も、途中でモンスターに襲われる事はなかった。

しかし……。







「え?ドキュノさん、今なんて?」

「何だよ、聞こえなかったか?」



「クルス、お前には【パワートーチャー】を抜けてもらう」


とある酒場でドキュノさんが「話したい事がある」と言われて赴いた。

待っていたのは、ドキュノさんから告げられたパーティーのクビ宣言だった。


「ど、どうして?何で僕が抜けてしまう事に……」

「決まってんだろ?今日のクエストで見つけたこれだよ!」


狼狽する僕を他所に、ドキュノさん達は誇らし気にゴーグル状の魔道具を見せ始めた。

その表情は余裕さの中に醜さを僅かに滲ませていた。


「お前がたまたま見つけた宝箱の中に入っていたこの『トラップスコープ』って言う魔道具なんだけどな、目に掛けるだけで視界に映るトラップを感知しながら通った道をマップとして管理できるっつーかなりのレアアイテムだって分かったんだよ」

「つまり、『シーフ』特有のスキルを畑違いの私達が使えちゃうって事なの!」

「【気配探知】を持っている私に【トラップ感知】のある魔道具が使えれば調査系クエストの攻略はより楽になるの!」

「後は実力のある『魔術師』や『剣士』とかを1~2名加入させればより盤石って事なんだよ!Bランク、いやAランクだって見えてくる!」

「そ、そんな……」


最近受けた調査系クエストで見つけた宝箱にはトラップの感知や脱出を効率化するためのレアアイテムが3つ発見されたものの、それが僕を追放するきっかけになったのだ。


「可哀そうな眼をしてんじゃねぇよ!今まで重宝してやっただけ感謝しろよ!」

「……」

「私達で話し合って決めたのよ。もっと上のランクへ行くにはアンタを外して戦闘向けの同じランクの前衛が必要なの!」

「悪く思わないでよ!」

「……」


ドキュノさん達の言葉は傲慢そのものだった。

結果的にトラップ感知やバックアップに少なからず役立ってきたのは事実だ。

しかし、単独じゃレア度CどころかDランクのモンスターを倒すのも手こずりがちな僕がいても、激しい戦いについてこれるか不安な事実もあった。



「分かりました。パーティーの追放を受け入れます。ただ……」

「チッ、んだよ追い出される分際で。まぁ、これを手に入れるまではトラップ避けとしては役に立っていたからな。じゃあよ……」


ドキュノさんがカズナさんやフルカさんに目線を送ると、3人は懐から何かを取り出す。


ドゴゴッ!

「ほら、俺らからの退職金だ!ありがたく受け取れよ!」

「これ以上近付いたりお金をせびったりするなら、犯罪者と言う体でギルドに報告しといてあげるから!」

「こんな結果になったのは、アンタがそれだけ役立たずなのが悪いって事だからね!」

「はい、分かりました……」

「じゃあ決まりだな!今までお疲れさん!」

「……ッ!」


僕は3人からそれぞれ一枚の金貨を含めた合計100枚ほどの銀貨や銅貨が入った革袋、そして拒絶と侮蔑の言葉を投げ付けられた。

最終的にドキュノさん達は清々したような表情で、酒場を去っていった。

僕はしばらくの間、悔しさと虚しさ、自分の無力さを嘆くしかなかった。



クルス視点、終了———————


俺達は元【パワートーチャー】のメンバーだったクルス君のこれまでの経緯を聞いていた。


「ドキュノさん、パーティー内でクルス君に何て真似を!」

「いくらなんでもそんな事って……」


俺とセリカはクルス君から聞いた話で、身体の血液が逆流しそうな怒りを覚えていた。

クルス君に目をやると、悔しくも辛いような表情をしていた……。


「何なのよそれ?ふざけてんじゃないわよ……」

「「「…ッ!」」」


声が聞こえた方向に見やると、怒りに震え、青筋がいくつも顔に浮かんだミレイユがいた。


「パーティーのために頑張って、認められようと頑張り続けてきた人を都合の良い状況になった途端にお払い箱とか、マジで笑えないわよ……。今度【パワートーチャー】の誰かに会ったら、私の魔法をぶちかましたいわ……」


細い腕からは想像つかないくらいに握る力が籠り、放置したらドキュノさんらを探して牙を向かんばかりの姿にかなりの戦慄を覚えた。

経緯やきっかけこそ違うものの、ミレイユもかつて所属していたパーティーのメンバーから酷い扱いを受けた挙句、囮役として見捨てられた経験があった。

だからこそ、ドキュノさん、いや、ドキュノら【パワートーチャー】の面々がやった事に強烈な怒りや嫌悪感を覚えるのも合点がいった。


「あ、あの……皆さん」

「「「ん……?」」」


クルス君が窘めるような振る舞いを見て少しずつ怒りが収まった。


「僕のために怒ってくれたのは凄く嬉しいですけど、もうフリーの身です。だから、やれる限りのクエストをこなして冒険者として頑張って……」

「あのさ、クルス君……」

「はい?」


初めて会った時と今日までの経緯を聞いた時の話をしてくれたクルス君の姿を見て、辛い経験や悲しい思いをしたのを鑑みて、誰かのために頑張れる事が感じられた俺から見ても、このまま放置するのはどうしてもできなかった。

甘いと言われても、また別の言葉を言われても構わない気持ちを持ちながら、クルス君に話を持ち掛ける。


「一時的な期間でいいから、君と俺らでアライアンスを結んでみないか?」

「「トーマさん!?」」

「…ッ!?」


そう言ってクルス君は眼を見開いた。


アライアンスを結べば、事前に話し合うのは前提だが、協力してくれた人物やパーティーメンバーに分け前を与えなければいけない制約はあるため、よほど切実な理由や互いにお金以上のメリットがなければ易々と結ぶ者はそうはいない。


だが、俺はクルス君に対してまだ抽象的ではあるが、何かの可能性を感じた。


面白いエピソードを投稿できるように頑張っていきます


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