第32話 港街で知った領地事情
今回は日常的な話と次に繋がるお話です。
Dランククエストを次々にこなすようになった事で、ギルド内でも大分知れ渡ってくるようになってきた俺達【トラストフォース】は今日もクエストに出向いている。
「うおらぁーーーーー‼」
「「「「「オーーーー!」」」」」
朝6時頃、俺達は今、ビュレガンセで屈指の港街『シーゾス』に赴いていた。
レンガ造りや木造をベースにした家や建物が立ち並び、大きな港の側には複数の大きな船がいくつも点在している。
漁船はもちろん、観光やアクティビティ目的の小型船や旅客船まで、船の種類は様々だ。
このシーゾスには、外国から多くの人達が様々な理由で渡航して来る。
今回赴いた目的は、「食用魚類の漁に行きたいけど、人手が足りないので手伝って欲しい」の内容のクエストであり、実際に船乗り達と一緒に大きな漁船に乗って魚を沢山捕まえる仕事のお手伝いをしていた。
シーゾスにある王都ファランテスの王城から派遣された衛兵数人が詰める駐屯所に俺達が出向く事を前もって伝えられており、依頼主から仕事をもらったと言う訳だ。
「漁師の皆さん、指示されたお魚は魔法で氷漬けにしておきました!」
「おぅ、ありがとうな!こいつはすぐに冷凍保存してやりたかったから助かったぜ!」
「お役に立てて良かったです!」
「よーし、今日はこれでもう十分だ!帰るぞ‼」
「でしたら、私の魔法で風を起こしまーす!」
「「「オォォーー!こりゃいいや‼」」」
俺は【気配探知LV.1】で魚群を探し、そこを【腕力強化】を重点にしながら、魚が大量に入った網を力強く引き揚げて漁獲量アップに貢献した。
【氷魔法LV.1】が使えるミレイユは新鮮さが売りの一部の食用魚類を冷凍する事で新鮮さを損なわないまま保存できるようにして、ミレイユの【風魔法LV.1】による普通の風起こしで船の帆に風を当てて加速させ、予定よりも早く港に帰る事が叶った。
漁師の皆さんは非常に喜んでくれており、特にセリカとミレイユはこれでもかってぐらいに褒められまくっていた。
魔法によって仕事の役に立ったのはもちろんだが、中年の漁師さん達から俺に、「こんな別嬪さん二人と一緒に冒険してるなんて贅沢だな‼」と軽くどやされた。
まぁ、セリカとミレイユは可愛くて綺麗だからね!
「うわー、凄い大きな市場ですね!」
「あちこちで漁師さんや商売人みたいな方々がいますね!」
「朝7時から9時までは内で採れた魚を買いに飲食店の方々と商売してんだ!」
「採れた魚の漁や状態、希少性によって値段とかを決めている感じですかね?」
「その通りだ!兄ちゃん、分かってんじゃねぇか!」
「ま、まぁ、はい……」
俺がこの世界に飛ばされる前には今いる市場と似たような場所があり、ニュースやドキュメンタリー番組で業者同士において魚の売買をしているシーンを見た事が数回ある。
恐らく魚介類を買いたい人がいて、漁師さんが適正な値段を交渉し合いながら商売をしていて、それで互いにwin-winな取引をしているのは見て取れる。
「そこの漁師さん、ちょっとよろしいでしょうか……?」
「はい、何か欲しいものが……あ、あなたは!?」
「「「……ッ!?」」」
別の場所で一人の中年漁師が話しかけられて、急にギョッとしたような表情に変わった。
俺達は反射的にその方角に視線をやる。
「この新鮮な“シルベストフィッシュ”を5匹ほど頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「こ、これはこれは、いつもご贔屓いただき感謝しております。もちろんご用意いたします」
「こちらこそいつも感謝しております。値段はこれくらいで……」
「ありがとうございます!」
“シルベストフィッシュ”と言う新品の剣のように輝く銀色の鱗と1メートルほどの体長が特徴的な白身魚で、食用魚類の中でも結構値段が高く、刺身にして良し、ムニエルのような焼き魚にして良しの万能食材なのだ。
しかし、中々多くは獲れないと言われており、「1匹獲れただけで普通の青魚200キログラム分に相当する」と言われるくらいだ。
運が絡んだにしても、それを獲った漁師さんは凄いが、そんな高い魚5匹をポンと買える様子を見て俺達はどこの金持ちだと思った。
「あー、あのお方の従者の方々だな~」
「あのお方とは?」
「あちらはビュレガンセ王国伯爵家の当代当主であるロミック・ハイレンド様のお付きの従者とその護衛なんだよ。」
「あのお二人が、でしょうか?」
「あぁ、たまにこの市場に出向いて美味そうで上等な魚介類をポンと買い占めてくるんだよ。まあ、そのお陰で内の商売も結構潤ってんだけどな……」
まさかこんなところで貴族の名前が出てくるとは思ってもみなかった。
ロミック・ハイレンド————————
ビュレガンセにおける伯爵と言う、貴族階級において上の地位に位置する高位貴族の一つ、ハイレンド家の当代当主だ。
伯爵とは、貴族階級においては公爵、侯爵に続いて高位の位にある。
主に先祖から代々受け継がれた土地を運用・管理をしていき、その地域をより良い方向に発展もしくは裕福にしていくのが主な役割である。
王族と共に国の治安と発展に役立てていくと言われるくらいに伯爵と言う地位や存在は大きく、広大なビュレガンセを良い国を目指している王族と言えども、王都ファランテスやその近辺にしか迅速な対応ができないので、王都から離れた地方を管理する真っ当な権力者がいなければ、本当の意味で国の治安は保たれないのだ。
実を言うと、普段拠点にしている冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】があるティリルもハイレンド領の領地内にあり、いわば俺達の現時点では、そのハイレンド家の伯爵による管理下って事だ。
「とまあ、ちょっと難しかったか……?」
「ハイレンド家の伯爵を筆頭にして、その下の複数の下位貴族も手を取り合って、俺達が今拠点にしている街の数々を上手く管理してるのは分かりました」
「概ね理解してるっぽいな……」
「合ってるみたいで良かったです」
(漫画やゲームで得た貴族とはどんなものか知っといて良かった~)
とんちんかんな事を言ってないか気になったが、どうやら杞憂に終わったようだ。
「この後すぐ帰るって予定がないんだったら、市場近くの食堂で飯食わねぇか?」
「新鮮な魚でウマイもん作ってやるよ!」
「え?よろしいのでしょうか?」
「おう、想像以上に頑張って貢献してくれた礼だよ!たっぷり食わしてやる!」
「ありがとうございます!魚料理好きだから楽しみです!セリカ、ミレイユ、行くぞ‼」
「「ハイ!」」
漁師さんから手伝ってくれたお礼に漁師ならではの食事を振舞ってもらえる事になり、セリカとミレイユを促す。
二人は美味しい料理が食べられると嬉しく思いながら、俺に付いていった。
その後は漁師さん達から獲れたばかりの魚の刺身の盛り合わせや揚げ物、焼き物に魚のあら汁のフルコースを振舞われ、俺達はそれに舌鼓を打った。
豪快な振る舞いを躊躇なくする、流石は海の男だなって思う俺だった。
それからは名残惜しそうにシーゾスの町民らに見送られ、俺達は馬車で帰路に着いた。
「ふう、お腹いっぱいだわ」
「お料理美味しかったですね!まさかあんなにサービスしてもらえるなんて……」
「食べきれない分は俺が食べる事になったけどな」
食事を振舞われたのは良かったものの、セリカとミレイユは漁師の方々に偉く気に入られており、あれよこれよとサービスされていた。
シーゾスの漁師達はほとんどが男性なので、女性が船に乗って手伝ってくれたのが嬉しいのは分かるけど、気前が良いと言うか何とやら……。
全員お腹が出そうなくらい食べたので、昼は軽食で済ます事にしよう。
「お昼のクエストはどうしますか?近場で受ける事ができるクエストがあればやっておきたいと思っているんですよ!」
「まずはギルドに戻ってから考えよう!」
「賛成です!」
俺達は馬車に揺られながら、お昼の冒険について話し合って帰路に着くのでした。
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