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第295話 【カルヴァリオ視点】愛する家族の為に

ギルマス目線のお話です!

何気に馴れ初め話もあります!

「ただいま」

「おかえりなさい」


私はギルドマスターとしての仕事を終えて自宅に帰って来た。

出向かえたのは妻であるソアラだ。


「今日も遅かったのね」

「ああ。仕事が溜まってはまた来ての繰り返しだ。明日も朝が早い」

「そう。それならしょうがないわね」

「ピオーナは?」

「もう寝てるわ」

「そうか……」


私には娘であるピオーナがいる。

ここ最近は【絶黒教団】が関連する事件や対応に追われており、いつもより多忙な時間を過ごしている。

そのため、帰りが日を跨ぎかける事も珍しくなく、忙し過ぎてギルドにある仮眠室で寝泊まりするパターンもある。

今日はギルドマスターとしてやるべき仕事は全て終える事が叶い、こうして帰宅できた。


「ソアラとピオーナには悪い事をしてしまったな。それも現在進行形でもあるが……」

「私はいいのよ。ご飯は?」

「ギルドで食べてきた。水は欲しいな」

「用意するわ」


私がそう言うとソアラは苦笑した。

家族の時間を作るように心掛けているのだが、事情が事情なだけにどうもな……。


「ふう……」

「ちゃんと食事は取ってる?」

「それは問題ないさ。これでも野菜は食べているよ」

「だったらいいんだけど……」


私はリビングのテーブルで一息着いた。


「……」

「どうした?」


コップに注がれた水を飲んでいると、ソアラが私の顔を凝視していた。


「大きな戦いが近付いているみたいな顔をしてるわね」

「ッ!?それは?」


不意打ちで物騒な言葉を言われた。

ソアラは時折であるが、大人の女性が使うには少々恐い物言いをする事がある。

私は思わず視線を明後日の方向に向けた。


「やっぱりね」

「なぜ、そう言い切れるんだ」

「あなたがギルドマスターとして運営している【アテナズスピリッツ】に所属している冒険者パーティーの【トラストフォース】のセリカさんだっけ?一時は意識不明になって入院していた……」

「……あ、あぁ……」

「私もその時に彼女を診たんだけど、普通じゃない魔力の残滓が残っていたのを確認できたのよ。今は問題なしだけどね」

「……詳しい内容は話せないが、まあ、正解だ。よく分かったな」

「何年あなたの嫁さんをやっていると思っているの?元Aランク冒険者にしてギルドマスターの奥様を舐めないでよね!」


そう言ってソアラは無邪気に微笑んだ。

妻になって15年は経っているけど、鋭かった。

変に隠すのも悪いと思った私は極秘事項に触れない範囲で打ち明けた。

ギルドや騎士団が総力を挙げて対応している事から近日の予定などを……。


「随分と大きな動きになっているわね。そりゃ連日帰りが遅くなるのは当然か」

「その通りだ。お陰で各方面への対応に追われていてな……」


気付けば、会話にも華が咲いたような雰囲気になった。

ギルドの内部情報を話さない事を一番に考えながらとなっているが、それ以外は世間話に近いような内容だけに、気付けばリラックスもできた。


「リカルドったらその女性冒険者にな!」

「そうなのね。それにしても……」

「どうした?俺の顔に何か付いているか?」


するとソアラが俺の目を儚げな様子で見つめている。


「ふと思い出したわ。あなたとの出会った時の事を……」

「え?あぁ……」


私の頭の中に過ったモノ。


「15年前、初めてソアラと俺が出会ったのは……。あのティリルの治療院だったな……」

「そうね。あの頃のあなたは……」


15年前の私はAランク冒険者としてバリバリ活躍していた。

自分で言うのもあれなんだが、当時の私は実力も知名度もトップクラスの冒険者と渾名されては非常に大きな富と名声を得ていた。

思えば、その時が私の冒険者としての人生の全盛期だったと過言ではなく、そんな時期であっても冒険者としての誇りと信念を胸に邁進していった。

だが、ある大きなクエストに臨んだ際、成功こそしたものの、その時に私を含めたメンバーの大半が重篤な怪我を負った。

私の場合は胸に深い切り傷や左腕や右脚に少なからぬ後遺症を負った程度で済んだのだが、中には身体の一部を欠損した者もいれば、車椅子生活を余儀なくされた者もいた。

そして、当時所属していたパーティーリーダーはその場で受けた大傷が元で命を落とした。

当然、パーティーは解散を余儀なくされてしまい、同時に私も冒険者稼業を廃業せざるを得なくなってしまった。

Aランク冒険者の肩書を失った事もそうだが、もう二度と冒険ができないと言う事実に直面して心が折れた。

描いていた夢や胸に秘めた希望が粉々になってしまったのが自分でもハッキリ理解できてしまった。

俺はティリルにある治療院で決して短くない期間のリハビリを受けた。

しかし、後遺症を克服したとしても、もう全盛期のような力は取り戻せない、あの時のような栄光の時代に戻る事もできない、一介の冒険者に返り咲く事もできない。

その先に何があるのか……分からなくなった。


「ソアラと出会わなければ、こんな風に生きてはいなかったのかもな……」

「かもしれないわ」


ある日、治療院の看護師として勤務していたソアラと出会った。

だが、冒険者を続けられなくなった当時の私はやけくそ気味だったのもあり、最初は素っ気ない対応を貫いていた。

実際、ソアラの前にも担当の看護師が数人いたものの、リハビリをサボる、味の薄い病院食にケチを付ける、苛立つあまりに八つ当たりをするなどの問題行動をよく起こしてはその度に交代させてしまった。

しかし、ソアラだけは違った。

私が何かやらかした時はその度に正面から説教してきた。

時には、「かつてはAランク冒険者だったとしても、いい大人がいつまでも過去の栄光に縋りつくんじゃありません!」って渇を入れられた事もあったな。

正面から向き合い、甲斐甲斐しく世話を焼いてくるソアラの姿を見て、私は不思議と心を開いていった。

それからは真面目にリハビリに取り組むようになり、ソアラのサポートもあって、軽い運動ができるくらいには回復していった。

退院してからは定職に就き、その後にソアラに会いに行った。

そして、私は「初めて出会った日からずっと好きです!ぜひともお付き合いして下さい!」と私から告白した。

するとソアラは二つ返事で受け入れてくれた。

Aランク冒険者になった時と同じかそれ以上に嬉しかった私は思わず彼女を抱きしめていた。

それから私は一緒に生活を共にするようになり、その半年後に私はソアラと結婚し、後にピオーナが生まれた。

穏やかな生活に慣れたある時、私がAランク冒険者として活動してきた功績が評価されたのか、冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】のギルドマスターにならないかとビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部から推薦を受けた。


「付き合ってしばらくしてからギルマスになるなんて、その時は世の中何が起きるか本当に分からないって心から思ったよ」

「そうね」


最初は躊躇したものの、ソアラから「冒険者に戻る事は不可能でも、冒険者の背中を押して上げる仕事とかが向いてると思うよ。あなたのその経験と知識と知恵は必ず後学の糧になるわ!」と背中を押してくれたのもあって、私は受け入れた。

ギルドマスターの仕事と家庭の両立は容易い事ではないものの、その生活も楽しくてしょうがないとも思えるようになった。


「あなた」

「何だ?」

「……」


昔話に一区切りが着いた時、ソアラは少しの沈黙を破って口を開いた。


「私を選んでくれてありがとう。そして、あなたを心から愛しています。今も……これからも……」

「ソアラ……」


私はソアラが伸ばした手をそっと掴んだ。


「俺もだよ」


私には愛する家族がいる。だから……。


◇—————


翌日の朝、私は仕事場であるギルドの執務室に入ると、一つの棚の前に立った。

一見すると活動記録や予定表が束ねられたファイルや複数の書物で詰められているが、横に押すと棚がズレ、その向こうには小さ目な空洞と一つの箱がある。


「ソアラ。ありがとう。お前のお陰でギルドマスターとしての覚悟を決める事ができたよ」


そう呟きながら、箱に入っている一つの物を取り出した。


「全盛期の力こそ出すのは難しいだろうが……。大切な人達を守れるならば、私も戦おう」


一目で上物だと分かる銀色に輝く長めの刀身をした片手剣と上質な軽鎧。私の現役時代に愛用していた武具だ。

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