第294話【アイリーン視点】国を守るために
ビュレガンセの女王陛下目線のお話です!
「女王陛下。お時間です」
「すぐに行きます」
私の名前はアイリーン・デュ・ビュレガンセ。
ビュレガンセと言う国の統治を担う役目を日々全うしている女王陛下である。
そんな私だが、ビュレガンセに危機をもたらすであろう一つの事態に直面している。
「女王陛下。今回の会談であの方と国単位で動いていくおつもりなのでしょうか?」
「ええ。届いた報告を基に本格的な対策を練らなければならないわ」
私は女王陛下として、国に安寧をもたらし、保つために今日、一人の人物とコンタクトを取っていた。
侍女と共に一つの応接室へと入った。
ビュレガンセ王宮の中には客間・応接室・会議室など、数多の部屋があり、入ったその部屋は何人も入れられるほどの広さでこそないものの、白を基調にしたとても清潔にされており、洗練さも漂わせる空間だった。
アイリーンは上座の席に通され、下座にいる客人と相対する。
その相手は……。
「この度はご足労いただき誠に感謝します。ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部総帥……。ゼラカール」
「はい……。この度は会合に応じていただき、誠に感謝します」
ビュレガンセ各地にある冒険者ギルドを束ね、ギルド全体で定められている決まり事やあり方の最終決定権を担うビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部のトップを担うゼラカール・フォートレインその人だ。
ゼラカール総帥は国内、特に冒険者が関連する界隈の中では絶対的な権力を持っているのは間違いなく、各地に散らばる冒険者達の協力を得るにはこの方の協力は外せない。
国に及ぶだろう危機を解決するには、騎士団だけでは困難な事も確かにあるのだから。
厳かな空気が漂う中、会合が始まった。
「この度あなたをお呼び立てしたのは他でもございません。【絶黒教団】についてです」
「ふむ。そうじゃろうな……」
会合の話題は他でもない、【絶黒教団】についてだ。
最近になって、禍々しく黒い魔力を持ったモンスターや人間の確認が増えてきており、各地にある冒険者ギルドや騎士団の支部はその対応に追われている。
組織の存在そのものは一年ほど前に把握していたが、その時は規模も小さく目立った動きをほとんど見せなかったのもあり、静観するスタンスを貫いていた。
しかし、この数カ月で囚人奴隷がいる鉱山を爆破させるなどの活動が目立ち始めている。
国単位で対策を進めるべく、ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部の総帥を務めるゼラカール総帥を呼んで話し合いに至る。
それから互いに知っている事や状況の共有、今後の方針、緊急時における行動の擦り合わせまでを真剣に議論していった。
「して、その黒い魔力に対抗する術をどれほど持てるかが鍵になると言う意味ですな」
「はい。そのためには【絶黒教団】が持つ黒い魔力を浄化・鎮静作用のあるスクロールや魔道具の開発と流通、及びその人員確保が大きな焦点になると見ています。我々だけでも最善の結果を出せるようにする所存ですが、あなたの協力が必要不可欠で+す」
「それはもちろんでございます。各地に点在し、かつ機能している冒険者ギルドにもその件を通達しておきましょう。特にエクソシアのスクロールは確保でき次第、早急にギルドへ支給する手筈も整えておきましょう」
「騎士団の方は我々にお任せ下さい。また、緊急時の避難経路や場所、手段も迅速に整え、国民の安全確保をする手筈も用意します」
「そうですな。そちらは王都の騎士団が中心となり、小さな町村は冒険者の手を借りる事も視野に入れるのもよいと思いますぞ」
「貴重な助言、感謝します。それから、もう一つ」
私は重大な情報が記された書簡をゼラカール総帥に渡すように側近の一人に合図をした。
「何と。【絶黒教団】の内情を掴めたと……」
「はい。小規模の段階から長きに渡り、密命を受けた部下より報告がございました」
「それは凄い。して、幹部の人数は残り7人。しかし、分かったのは外見的な特徴や組織の上下関係くらいか……。それにしても、よく取る事が叶いましたな」
「私には優秀な側近や部下がいるのですよ」
「それは羨ましいですな」
「ありがとうございます」
私は先日、【絶黒教団】に潜入している部下から少なからずではあるものの、内部情報を引き出す事に成功した文書を受け取った。
非情に危ない橋を渡らせてしまった以上、得た情報を無駄にするわけにはいかない。
国の防衛を第一にしつつ、組織の壊滅を実現するためにも。
こうして、ゼラカール総帥との会談は一区切りついた。
「最後に一つ、私から確認したい事がございましてのう」
「何でしょう?」
私はゼラカール総帥から投げかけられた質問に答える事とした。
「書簡を見て思ったんですが、【絶黒教団】の幹部であるギーバを屠ったのは冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に属するトーマらしいですな」
「はい。ビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長を務め、その案件に関わり、現場を見ていたナターシャ・セルロイテが出した報告による物ですが、彼女がそう言っているならば、嘘や偽りもないでしょう」
「ほほう……」
私がそう答えると、ゼラカール総帥は「なるほどな」と言いたげなように頷いた。
「あの“ヴァラミティーム”を手にした者が【絶黒教団】の幹部の一角を落とすとは……。思わぬ成果にして、不思議な男だと改めて思わせてくれますな」
「はい。誰が彼をこの世界に呼んだのかはまだ分かりませんが、一つの運命であるとも感じております。この出会いに感謝しなければなりませんね」
「本当ですな……」
少しの談笑を終えた後、ゼラカール総帥は部屋を退出された。
◇—————
「なるほど……。トーマさんが……」
「本当に凄いです」
「最初にそれを聞いた時は少なからず驚いたものよ」
ゼラカール総帥との会合を終えた後、私は自分専用の執務室にいる。
その結果を聞いているのはミーシャとリリーネであり、それぞれがビュレガンセ王国の第一王女と第二王女の肩書を持っている。
姉妹であると同時に私の娘でもある。
「わたくしも前より感じておりましたが、トーマさんって不思議な方ですね。非常に珍しいギフト持ちかと思えば、【絶黒教団】の幹部の一人を討伐されるなんて……」
「ゼラカール総帥と同じ事を言っているわね。リリーネはどう見ているかしら?」
「お姉様と同じくです。もっと言えば、トーマさんとその仲間達も注目しております」
「そう……」
ミーシャもリリーネもトーマ達の事を良い意味で見ているようだ。
Aランク冒険者は国を挙げての行事や指令のためにビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部を経由して受ける事が多い一方、Bランク以下の冒険者が王族と面識を持つ機会は殊の外少ない。
リリーネは市場調査と称してはお忍びで城下町に行く事も珍しくなく、ある時にトーマ達と遭遇した事もあるが、これは本当に偶然だ。
「ですが、今回の【絶黒教団】の件については一個人で解決できるような問題ではございません。国を挙げて国民の安全を守り、解決に動かなければなりません。ミーシャとリリーネの手も借りますよ」
「心得ております」
「はい」
国に脅威が及んでいると分かったならば、やる事は決まっている。
戦いに赴く者達を支え、国民の命と治める国の未来を守る事。
そのためならば、私はいつでも身を粉にする。
それがビュレガンセ王国女王陛下。アイリーン・デュ・ビュレガンセの役目だから。
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