第293話 密偵
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「それにしても、ギーバが人間相手に敗れ去るとはな……」
「ええ。意外だわ。加えて、リソースを生み出す要素も潰されてしまったから、それも何とかしなければね……」
薄暗くも不気味な空間で話をしているのは【絶黒教団】の幹部格であるギグロスとアルメーラであり、アレゴラやミザリー、ジュイネとジュレル、アルーナがいる。
定期的に行われる幹部同士の会合のようだ。
「まあ、アイツは何かと策を弄するのが好みの男だ。何かしらのミスを犯して失態を招いたのだろう。元より好かん性分だからな」
「こうなるのは予想してない事もないけど、意外と早かったわね。少なくとも純粋な戦闘能力は幹部の中でも弱小の部類だったからね。ただ、兵站型としての役割を果たしてくれたのは感謝しているからさ。策士気取りの馬鹿野郎でも、後方支援の要の基盤を担ってくれたのは間違いないし!」
そう言い切るアレゴラとミザリーはギーバを馬鹿にしているような笑みを浮かべながら語り合う。
「にしてもギーバが死んじゃうなんて、ちょっと意外かも~」
「慇懃無礼だったけど、何だかんだ言って面倒見良かったし、お菓子くれる事もあったから寂しい」
幹部にして双子の姉弟であるジュイネとジュレルはギーバがいなくなった事を惜しんでいるようだった。
ただ、心の底からってまでではないようでもある。
「だが、何にしてもだ。幹部の一人を落とされた以上、我々の警戒レベルも上げていかなければどこかで足元を救われるかもしれん。我々に弓を引こうとする者や抗おうとする者は徹底的に排除していかなければならない。あの方のためにもな」
「ええ。我々【絶黒教団】の目的が成就されるのは、あの方の悲願でもあるのだから……」
ギグロスとアルメーラの言葉を聞いた他の幹部達も気を引き締めたような表情に変わった。
「ところでさ~。何でギーバが本拠地にしていた場所が分かっちゃったのかな~。やっぱり辺鄙な場所でやっちゃってたからかな?」
「あれじゃない?何にも無さそうなところにポツンと屋敷があってそれが余計に目立ちまくったって感じの?」
「だとしたら似たような場所で活動している拠点が割れるのも時間の問題だと思うわよ。実際、ウチの末端の連中とは言え、いくつか騎士団や冒険者ギルドに潰されているし……」
「「あり得る~」」
ジュイネとジュレルの見解に対し、アルーナが次に起こる可能性を指摘する。
気怠そうに見えるが、何だかんだで事の大きさを理解しているようだ。
「そうね。冒険者ギルドや各支部の騎士団が近くに無いところで大掛かりな建物の地下に造らせたのは一種の過ちだったかもしれないわね。もしくは……」
「もしくは?何だ?」
気難しそうな表情をしているミザリーに対し、ギグロスが問うた。
「【絶黒教団】にも裏切り者が潜んでいる可能性も否定できないわね」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
ミザリーの見解に対し、幹部一同が少なからぬ驚愕の表情が浮かんだ。
「はあ?何それ?」
「本当にあくまでも可能性の話よ。ただ、【絶黒教団】も規模は拡大しつつあるからさ。何人かは諜報目的で潜り込んでいてもおかしい話ではないでしょ?」
「「む~~」」
アルーナが怒ったところをミザリーが窘めながら見解を述べ、ジュイネとジュレルがしかめっ面をしている。
「でも、ウチらを裏切ろうなんて馬鹿がいるの?私達には到底及ばないにしても、末端の構成員でも少しは黒い魔力を得させているよ。仮に脱走したとしても表社会で生きていくなんてとても……」
「アルーナの言葉も最もだけど、決してあり得ない話でも無いわね」
話を聞いていたアルメーラがミザリーを肯定するような意見を述べた。
「秘密裏に拡大してきた我が【絶黒教団】の信者や配下を増やし続けてきた弊害も危惧するべきだったわ。ミザリーの言っていた諜報のために潜入していた人物についてもね」
「アルメーラさん」
「戦力の拡充を意識するあまり、どこかで見落としていたのかもしれないわね」
アルメーラがそう言い切ると、他の幹部達は納得したような様子になった。
「そうだな。今一度、組織内部を調べる必要があるかもしれん。信用に値しない人物ほど怪しい動きをする傾向にある。例の作戦の準備を進めつつ、裏切者や内通者を洗い出す事も意識しながら立ち回ろう」
ギグロスが今後の方針について固めると会議が終わった。
◇—————
「内通者の調査か……」
内通者の調査を命じられたのはテレンスと言う土のような茶色の髪と頬に刻まれた漆黒の紋様が特徴的な男性であり、【絶黒教団】に身を置いている。
幹部勢を補佐する副官のような人物は組織に何人かいるが、テレンスもその一人だ。
「幹部から直接ご用命をいただけるとは……。長かったな……」
フードの内側に潜めるその表情には長く耐えてきた達成感が入り混じったようだった。
【絶黒教団】の幹部は全員が心から部下を信用し切ってはおらず、大抵の末端は捨て駒同然の扱いをしている。
信頼しているのは側近の部下数名くらいであり、その位置に至るまでの道のりは楽ではない。
このテレンスも幹部達から信頼を得るのに泥臭い仕事を多く担い、遂にそれが叶った。
「危ない事この上ない橋を渡り、ここまで来れたんだ。何としても責務を果たさねば……」
だが、その達成感は幹部からの信頼を得られた事ではなかった。
ある人物への忠義を果たせる喜びであった。
(ビュレガンセを守るため、私はこの命と魂を懸けて戦いましょう……。アイリーン様)
ビュレガンセ王国女王陛下、アイリーン・デュ・ビュレガンセの命を受けて【絶黒教団】に潜入していた諜報員。
それこそがこのテレンスの正体である。
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