第291話 【セリカ視点】やっぱり私って……
久々のセリカ視点のお話です。
「ふう~。スッキリした~」
私達Bランクパーティー【トラストフォース】はビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長を務めるナターシャさんら騎士達と共に赴いた調査を終えてティリルに戻っている。
シャワーを浴び終えた私は寝間着に着替え、水を飲みながら自分の部屋へと戻っていった。
「私のために開いてくれた宴席とは言え、飲み過ぎちゃったな。ウィーネスさんとも久々に会えたのもあったけど……」
私は【絶黒教団】の幹部の一人であるギーバによって操られ、トーマさんと望んでもいない戦いをさせられた。
最終的にはトーマさんがユニークスキル【ソードオブシンクロ】を上手く利用した方法で洗脳を解き、ギーバを倒した。
私はギーバの洗脳を振り解いた代償に精神的に強いショックを受けた事でしばらくの間ではあるけど、意識不明になってしまった。
数日前に意識を取り戻した後に退院し、私の全快を祝う宴席を開いてくれた。
今は大分収まったものの、いつになく豪快に飲んでしまったから不快感は若干残っている。
「でも、楽しかったな」
大きくも危険な組織の存在はまだ残っているけど、ガス抜きをする機会が少しでもあるって言うのは、肉体的にも精神的にもありがたい事だしね。
そろそろ寝付こうとした時だった。
「はい?」
「セリカさん」
「この声、エレーナ?」
ノック音がしたので反応し、扉を開けるとエレーナがいた。
エレーナもシャワーを浴び終えたのか、私と同じく寝間着姿だった。
だが、私は黄緑色を基調にしたサロペットにホットパンツとカジュアル装いなのに対し、エレーナはピンク色を基調にしたネグリジェと薄手のガウンを羽織っている。
こうして見ると、エレーナってお嬢様なんだなって再度思わせてくれるし、育ちの違いと言う物を感じさせる。
それで卑屈になる気はないけどさ。
「どうしたの?」
「セリカさん。大丈夫かなって思いまして。酔っぱらってしまった事を含めて……」
「ああ、そう言う事ね……」
「「……」」
部屋の前で沈黙して数秒……。
「あのさ、ちょっと言いたい事があるんだけど、立ち話もあれだから入ってよ」
「え?は、はい……」
私はエレーナを自分の部屋に招き入れた。
「セリカさん。お話とは一体……」
数秒の沈黙を破って私は口を開く。
「エレーナ。本当にありがとう」
「え?」
(この展開……。どこかで……)
正直に言って、エレーナにはお礼を言わずにいられなかった。
私が操られてから洗脳が解け、目を覚ますまでの経緯を知らされているだけに。
「ミレイユやクルスから聞いたんだ。私が意識を失っている間、魔法で治療したり、看病もしてくれたりで……。正直、感謝しかできないくらいに助かった。本当にありがとう」
「セリカさん」
私はエレーナに深く頭を下げた。
【絶黒教団】の幹部の一角であるギーバを倒したのはトーマさんだけど、操られた私や他の騎士達を救い、私が全快になるまで面倒を見てくれたのはエレーナだ。
今回の事件において、私にとってのMVPは彼女だと思っているくらいに。
「何を言っているんですか?セリカさんはわたくしにとって大切な仲間であるのは間違いありませんよ。親友だとも思っています。それに、セリカさんがいなくなったら……わたくしも悲しくなってしまいますよ。ですから率先して看病の役目を買って出たのも、わたくしがセリカさんともっと一緒にいたい、そうしただけです。もちろん、ミレイユさんやクルスさん、トーマさんも同じですよ」
「……」
そう言ってエレーナは暖かく柔和な笑顔を見せてくれた。
何て良い子なの……。
私はエレーナが天使、いや、女神様の使い?はたまた、女神様そのもののように見えた。
皆に愛されるのがよく分かるくらいできた子だ。
「そうよね。私達だって、エレーナがいなくなったら寂しいよ。だから会えて良かったよ」
「うふふ……。わたくしもです」
少しの間だけだが、エレーナと二人きりで話をした。
その中でトーマさんがギーバと戦っていた時の話題が出た。
その時の戦いを見ていたエレーナが説明し終える。
「はい。少なからず見る事ができたんですけど……」
「トーマさんがそこまで……」
エレーナが語ったのはその時のトーマさんの姿だった。
私を操ったギーバに対し、怒りのままに何度も殴り、何度も蹴り、そしてトドメを刺した時の姿はまるで鬼のようだったと。
それが本当なら、今まで見た中でトーマさんが一番怒っていた事になる。
「トーマさんは仲間を何よりも大切にされる方だから、きっとその怒りが力を引き出したんだと思うよ。前にも言ったけど、【ソードオブハート】ってトーマさんの感情の昂り具合によってパワーアップするって……」
「セリカさんへの想いが力に変わったんでしょうね」
「そうかもね……」
ユニークスキルと言い、【土炎風水魔法】と言い、私を救ってくれた事と言い、本当にトーマさんにはいつも驚かされる。
いや、初めて会った時からを今までの事実を鑑みれば、無限の可能性を秘めていると言っても大袈裟でなければ、【絶黒教団】を相手にしても乗り越えていけると信じられる自分がいる。
頭で考えるだけでは及ばない凄まじい何かを持っているって……側にいて思わずにいられなくてしょうがなくなってしまう。
それだけにトーマさんの事をその度にそう思っては、興味を切らさずにいられなくなる私がいる。
それは打算抜きの話を抜きにしてもだ……。
「トーマさんは……時に私の想像を超えては悪い状況を覆すような凄い可能性を持っている人だから、私も信じさせたくなる何かを持っているのよね」
「確かに……トーマさんは人の心を震わせる魂を持っているって思わせてくれますよ。だから……」
「そんなトーマさんから心だけではなく、魂を削ってまで想ってくれるセリカさんが羨ましくてしょうがないです!」
「ッ!?」
ちょっ、え?それってまるで私がトーマさんの事を……。と言うかエレーナってトーマさんの事を……。え?
「ま、待ってよ!エレーナ。その、トーマさんは……。まあ……。私にとって……」
言葉に詰まってしまった。
正直、自分が今どれだけ顔を赤くしているか分からないくらい。
でも、確かに言える事もある。
「トーマさんは……私にとって大切な存在よ。それだけは誰が何と言おうと揺るがない事実だし、誰にも否定させない」
「……」
トーマさんと初めて出会った時から一緒に行動して、その姿を見続けてきた。
笑った顔。
怒った顔。
無邪気に楽しむ姿。
勇ましい姿。
人のために尽くす姿。
優しいところ。
逞しいところ。
そんなトーマさんを私は……。
「そうですね。セリカさんはそうでなくてはです!もうすぐ日を跨ぎますので、わたくしも寝ますね。おやすみなさい」
「うん。おやすみ。エレーナ」
柔らかく笑うエレーナはそう言って部屋を出ていった。
すると扉を開けようとした時、ふと立ち止まって……。
「セリカさん」
「ん?」
「トーマさんって本当に強くて優しい人ですよね。わたくしのリーダーがあの方で良かったと心から思っています。ですから……」
エレーナは私の方に向き直った。
「トーマさんの事、しっかり繋ぎ止めてくださいね。あまりにうかうかし過ぎてしまうと、誰かに取られそうな気がしますよ。例えば……」
「へ?」
「では、失礼します」
悪戯っぽい笑顔と自分の顔を指差す仕草を見せるエレーナはそう言いながら今度こそ部屋を出ていった。
私は思わず固まった。
「ど……どういう事?」
その日、私は悶々としたような気持ちを抱きながらベッドで眠った。
翌日、私が起きた時に寝不足となっていたのは、ここだけの話だ。
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