第31話 有名人になってきました‼
「トーマさん、セリカ!」
「あぁ、分かってる!」
「逃がさないよ!」
「「ハアァァァ!」」
Dランククエストであるティリル付近で発生していたゴブリンのコロニー殲滅の討伐クエストに勤しんでいた。
俺達がティリルから王都ファランテスに赴いている間、他の冒険者パーティーが様々なクエストに勤しんでいる中、たまたま残ったままになっていたDランクパーティー向けのコロニー殲滅系クエストを受ける事になった。
コロニー殲滅はスライムのコロニー殲滅で前にセリカとやった経験はあるものの、今回はスライムよりパワーもスピードもあるゴブリンの群れが相手となった。
当然、下位種である“ゴブリンポーン”は80体近くおり、“ゴブリンソルジャー”10体ほどいたので、スライムの群れを相手にするのとは勝手が違った。
「半分は片付いたな」
「“ゴブリンポーン”は20体ほどで“ゴブリンソルジャー”は半分ってところですね」
「私も体力はまだありますよ」
「そうか……」
半分ほどを片付けたところで俺達は背中合わせになりながら、状況を確認する。
そうして…。
「セリカ、ミレイユ、あそこに散るぞ!」
「ハイ!」
「ハイ!走るーー……!」
セリカはタッと駆け出すも、ミレイユは全力疾走気味だ。
ミレイユも体力アップのトレーニングはやっているものの、俺達に比べるとまだまだ克服し切れていないので、走り方が少し雑になっている。
ゴブリンの連中は俺達が逃げる方向に皆走って追いかけてくる。
「【風魔法LV.2】『デルタウインドスパイラル』‼」
「【炎魔法LV.2】『フレイムトルネード』‼」
「「「「「「ギャアァァーーー!」」」」」
ゴブリン達が一列に固まったところで、セリカの【風魔法LV.2】とミレイユの【炎魔法LV.2】による同時攻撃によって一気に殲滅した。
【風魔法】は【炎魔法】によって、風の空気に含まれる酸素によって、炎がドンと大きく燃え上がる事による相乗効果によって、強烈な威力を生み出す事を知っていた俺のアイデアを取り入れた事で、見事に上手くいった。
セリカとミレイユは少し疲れた様子だが、後一体残っている相手がいる。
「お前がこのコロニーのボスだな」
「グルルルルル」
“ゴブリンポーン”と“ゴブリンソルジャー”は全滅したものの、このコロニーにおける最後にして最強の相手がいる。
改めて俺は【簡易鑑定】で確かめる。
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名前:ゴブリンナイト
種族:ゴブリン
レア度:D
スキル:
―
【概要】
ゴブリンソルジャーの上位種。
パワーや頑強さで知られるオーガやオークに比べると強度で劣る分、フットワークは軽く手先が器用であり、Eランクの冒険者パーティーは出くわしてしまったら撤退を推奨せざるを得ない戦闘能力を誇る。
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“ゴブリンソルジャー”の上位種である“ゴブリンナイト”だ。
ゴブリン特有の外観を残しつつも、体格は半回り以上ありながらシュッとしており、両手には剣と盾が握られ、金属の胸当てが据えられており、正に騎士のような装備をしている。
下位種のゴブリンにないような凛とした振る舞いを少なからず感じた。
「ゴオォォ!」
「グゥ!」
“ゴブリンナイト”は俺に勢いよく突進し、振りかざす剣を俺も持っている剣で何とか受け止める。
【腕力強化】で受け止めるが、“ゴブリンナイト”の総合的な強さは下位種とは大分引き離されており、正に硬い物を強くぶつけるような力で押し込もうとしていた。
俺も少し後ずさりした。
「グオー!」
(やっぱり力はもちろん、駆け引きを要求される相手だな…)
しばらく剣の撃ち合いが続いた。
知能があるだけに、勢いだけの相手ではない事も直感できた。
俺もモンスター討伐系のクエストを何回も受けてきたからか、向き合う相手の実力や立ち回りも肌感覚で分かりつつあった。
「おら、来いよ」
「グオッ?」
俺は剣道における正眼の構えをした状態を解き、両腕をだらんとしたような仕草を取る。
「ガァァッ!」
馬鹿にされたと思った“ゴブリンナイト”は「舐めているのか!?」と言わんばかりに斬りかかっており、勢いよく剣を振り上げてきた。
「【ソードオブハート】&【剣戟LV.1】!『破鉄突き』‼」
「ゴバアァァーーー‼」
俺はスキルを発動させて“ゴブリンナイト”の懐に一瞬で潜り込み、その心臓を貫いた。
そうしてその身体は魔石を出して後ろに倒れながら光の粒子となって消えた。
そして俺は再び【剣戟LV.1】による『破鉄突き』を放ち、コロニーのシンボルを破壊した。
「やったぞーーー!!」
「見事です!トーマさん!」
「クエスト達成ですー!」
戦いを見守っていたセリカやミレイユも俺の側に駆け寄り、その喜びを分かち合った。
こうしてクエスト達成の為の証を集め、倒しまくったゴブリン達の魔石を集めてその場を立ち去る事になった。
「それにしてもトーマさん、前より増して自信と勇気に満ちた戦いぶりでしたね!」
「え……?」
「あの“ゴブリンナイト”と一騎打ちして最後には勝っちゃうなんて、見事ですよ!」
「そ、そうかな…?」
俺は謙遜しているが、セリカとミレイユは大いに褒めていた。
俺が“ゴブリンナイト”とやり合う流れになったら「俺がヤバいと思ったら援護して欲しい」と前もって打ち合わせていたものの、最終的にはスキル込みとは言え、俺一人で勝てた。
クエストに行かない日はセリカやミレイユらと共に修行や筋トレしていたお陰だ。
そしてモンスターに勝てるようになったら自信が付いて、スキルを覚えたり成長する事ができれば精神力も少しずつ付いてくる。
やはり自信と精神力の強さは、目に見える強さだけでは測れない実力に繋がる…と。
心なしか、セリカやミレイユもどこか活き活きと立ち回りながら戦っていたように見えたから、彼女らも自信を以前より持てるようになったのだろう。
大金があれば強力な武具はその場で得られても、自信は一朝一夕ではない時間をかけていかないと得られないのだから…。
「はい、確認しました。お疲れ様です!」
「ありがとうございます」
俺達はギルドに戻り、馴染みの受付嬢であるナミネさんにクエストの完了報告もした。
レア度Dの“ゴブリンナイト”を含めたコロニー殲滅はDランクパーティーでもかなり苦労すると言われるだけあって、報酬も金貨が25枚の25万エドルをもらえた。
加えて大量のゴブリン達から拾った魔石も換金してもらい、プラスアルファで更に数枚の金貨もいただけた。
始めた頃に比べれば入ってくるお金も増えてきたけど、いたずらに贅沢しないようにだ。
「明日はどんなクエストに挑戦しましょうか?」
「この調査系クエストとかどうかな?」
「こっちの採取系も割りがいい感じですよ!」
次にどんなクエストを請け負うかを相談し合い、段取りを決めたらギルド内の食事スペースでおつまみやエールを味わう。
もちろん、浪費しない程度で楽しんでいるが、冒険を終えた一杯は本当に美味いんだよね。
三週間後————————。
「じゃあ、今日もクエストに行くか!」
「「ハイ!」」
今日も俺達はセリカの家を出てギルドに向かい、掲示板を眺めていた。
体力にも余力がある俺達は討伐系のクエストを受けようとした。
「あのー、【トラストフォース】の皆様ですよね?」
「「「……ん?」」」
一人の男性が声をかけてくる方角に俺達は視線を向けた。
「聞いてますよ!Dランクパーティーでありながら、最近勢いが良いって評判でして、声をかけてみたんですよ!」
「は、はぁ……」
「あの、確か皆様って……」
4人の冒険者パーティーの内のリーダーらしき男性が声をかけてきた事に俺は何事と思ったが、セリカは知っているような声を出した。
「すみません、申し遅れました。俺はCランクパーティー【パワートーチャー】でリーダーをやっているドキュノ・ビルイって言うんですよ」
「ドキュノさん、ですね。初めまして、トーマ・クサナギと申します」
「私はカズナです!よろしくお願いします!」
「私はフルカです!仲良くしていただければ幸いです!」
「どうも……クルス……です」
ドキュノ・ビルイさんと言う冒険者は逆立った焦げた茶色の髪型に右頬には冒険でできただろう一文字の傷に少し吊り上がった目をしていた社交的で活発さを感じさせる男性だ。
上背は俺より少し高くて革鎧を纏い、両腕には手甲と両脚には軽めの甲冑を身に付け、背中には背丈ほど長く立派な槍を背負っている。
聞いたところ、冒険者ランクはCの『槍術士』だった。
ドキュノさんの後ろには彼のパーティーメンバーと思しき人物が男性一人、女性二名がおり、女性二名の内一人はピンク色のツインテールで活動的な雰囲気が特徴的なカズナと言う『アーチャー』であり、もう一名は薄い茶色のショートヘアに勝気な雰囲気が特徴的なフルカと言う『軽戦士』とそれぞれの冒険者ランクはCだ。
ドキュノさんと言う男性とは別にもう一人いるが、濃いグレーの髪色に動きが少し効いたようなマッシュヘアをベースとする後髪は長めの襟足に陽気なドキュノとは対照的に少し落ち着いた風貌が特徴的なクルスと言う男性であり、『シーフ』と彼だけが冒険者ランクはDであり、パーティー最年少との事だ。
「おいおい、クルス~相変わらずノリ悪いぞ~」
「すいませんね、こいつちょっと暗くて陰気ですけど、トラップの感知や後方支援、偵察や斥候はまあ優秀な奴なんで助かってるんですよ……」
「は、はい……」
ドキュノさんはクルスさんに体の良いような説明をしているが、その振る舞いはフレンドリーを通り越してどこか馴れ馴れし過ぎている感じもした。
「今回はちょっと挨拶に来ただけなんで、もし機会があればアライアンスする形で一緒にクエストに行ければ幸いです」
「そうですか……」
「俺達これからクエストに出向くんで、今日はこれで……」
「おーい、行くぞー!」
「うん、分かった!」
「じゃあ、行こう行こう!」
「……失礼します」
ドキュノさん達は挨拶を済ませてギルドを発っていった。
Cランクパーティーって事は、ビュレガンセ内に領地を構える貴族が発注したクエストや他国からの応援クエストを受けられるって事であり、実力者として周囲から見られると言う意味でもある。
ランクで見れば、さっきのクルスさんと言う男性以外は俺達よりも上だから、目指すべき目標の一つと言えなくもない。
「俺達も名が知れてきたのかな?」
「かもしれませんね……」
「名前が売れているなら売れているで結構です!」
「では気持ちを切り替えて今日は……って、あれ?」
「どうしたの?」
セリカが掲示板を見ていると、一つある事に気付き、ミレイユが聞いてきた。
「残ってるクエスト、Dランク向けはあっても、ここから近くても馬車で片道三時間くらいかかるクエストしかないですね……」
「「え………?」」
どうやら今日は、ティリルから結構離れた街へ赴くクエストに行く事が確定してしまったようだ。
「食用魚類の漁に行きたいけど、人手が足りないので手伝って欲しい」と言う内容であり、泊りがけで行かなきゃならない上に、頂く報酬も先のゴブリンコロニーの殲滅よりも少なかった。
交通費や宿泊費は出してもらえて現地の食材もいただけるのはありがたいが、遠出しなければいけないのはちょっとキツイと思った。
Dランククエストも大分こなせるようになり、名前も知られるようになった事で、どこか浮かれていたせいで忘れていた。
人生って、やっぱり甘くないな……。
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