第279話 捕らわれたセリカ
とんでもない事態に遭遇しようとします!
「隊長。申し訳ございません。私がいながら……」
「それはいいんだデニス。まずは何が起きたかを説明するんだ」
俺達Bランクパーティー【トラストフォース】はビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長を務めるナターシャさんら騎士達と共にティリルから離れた廃屋敷へ調査と捜索に赴いている。
今はナターシャさんの右腕のような存在であり、東方支部の副隊長を務めるデニスさん達と合流したのだが……。
「トーマさん。皆、ごめんなさい。私のためにセリカが……」
「ミレイユ……」
「「……」」
ナターシャさん達と少し距離を空けたところにて、ミレイユは泣きそうな顔をしながら俺達に何度も謝罪し、クルスとエレーナも悲しそうな表情になっている。
そう、デニスさん達B班に同行したセリカとミレイユだったのだが、最初に調査を行った時とメンバーの数が合っていないのだ。
いないのはデニスさんの部下の騎士一名とセリカなのだ。
「まずは落ち着こう。一体何が……」
「じ、実は……」
俺が冷静にさせる言葉を掛け、クルスとエレーナが寄り添うと、ミレイユは落ち着きを取り戻していった。
「一つの怪しい部屋を発見したんです。それから……」
ミレイユは何が起きて、セリカがどうなったのかについて語り始める。
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回想・廃屋敷の一室———————
「皆、警戒を怠らな……む?」
「フフフフ……」
(男性の声?でも、姿が見えない)
「ッ!」
「総員!武器を構えろ!」
ホールのように広い部屋で男性の微かな笑い声が聞こえ、セリカとミレイユ、デニスさん達も即座に戦闘できる態勢を取った。
その場に緊張が走り抜けていく。
次の刹那……。
「ッ!?ミレイユ!」
「キャッ!」
「セリカ殿?」
何かを気取ったセリカは咄嗟にミレイユを空いたスペースに突き飛ばした。
その時……。
「グウ!」
「セリカ!」
(何だ?黒い魔力か?)
「「グワーッ」」
「む?」
突如として、タコの触手を模ったような赤黒い魔力がセリカを襲い、絡み付いてきた。
更には騎士一人にも同様に全身を巻き付けるよう宙へ浮かべる。
「【氷魔法LV.3】『アイスガトリング』!」
「どうだ?」
ミレイユはセリカと二人の騎士を絡め取っている触手のような魔力に向かって、大量の氷塊を一斉掃射する【氷魔法LV.3】『アイスガトリング』を放つ。
しかし……。
「グッ!」
(他の触手が壁になって大して当てられていない。その上、すぐに再生しちゃう)
まるで妨害するかのように、別の触手が盾になり、ボロボロになっても数秒で再生してしまった。
他の騎士も触手を斬り落とそうとしても、しなやかでいながらもミスリル並みの硬さをしているせいか、思うようにいかない。
「ハッ!?」
「【剣戟LV.3】『螺旋流牙』!」
不意打ちのように潜んでいた触手がミレイユを襲うとしたが、デニスさんが螺旋状の魔力を纏った突きでこれを阻止した。
ナターシャさんの右腕で副隊長なだけに、剣の腕は本物だ。
「うわーーー!」
「くっ!うっ!」
(全身を巻き付かれているせいで剣も握れない。魔法を出す余裕も無い!)
「セリカ!」
「ミレイユ殿!それ以上はマズイ!うおっ!」
しかし、何本もの触手が荒れ狂うように振り回してくるせいで近づく事も叶わず、セリカと一人の騎士は抵抗虚しく、伸びてきた触手が出てきたであろう床のドアに引きずり込まれていった。
追おうとするミレイユだったが、危険を感じたデニスさんに止められた。
「一時撤退だ!部屋を出て隊長が率いるA班と合流するぞ!」
「「「「「ハッ!」」」」」
「そんな。デニスさんの部下もですけどセリカが!」
「気持ちは分かるが隊長達と合流して態勢を整えるんだ!」
「うぅ!セリカーーーーー!!」
現状もそうだが、未解明な点が多いままで深追いするのは危ないと判断したデニスさんは一時撤退を決断し、渋るミレイユを強引に連れ出した。
ホールに響いたのは、ミレイユの切なさや悔しさが入り混じった叫び声と虚しいこだまのみだった。
後に騒ぎを聞きつけた俺達と合流し、事の顛末を共有して今に至る。
回想終了———————
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「そうだったのか」
「セリカさん。ミレイユさんを庇って……」
「私がもっとしっかりしていれば、セリカやデニスさんの部下の騎士も……」
後悔して涙ぐみそうになっているミレイユを悲しげな表情で見つめるクルスとエレーナもかける言葉が見つからない様子だ。
そんな時だった。
「よし!助けよう!」
「「「え?」」」
「だから言ってるだろ。セリカを助けに行くって。それ加えて東方支部の騎士の皆さんもな」
俺は即断でセリカを助けに行く事を決めた。
それを聞いたミレイユ達もポカンとしたような表情に変わっている。
「ついさっきの出来事だったら、セリカと一人の騎士もまだ無事な可能性もあるだろ?それなら今すぐに行けば、無傷は流石に厳しいだろうけど心身共に何の影響もないまま助けられるって事だろ?もちろん、リスクは承知の上だけど、何よりも放ってはおけない。セリカは【トラストフォース】のサブリーダーにして、俺達のかけがえのない仲間だからよ!」
俺はそう言い切った。
セリカに昨日貰ったばかりの首飾りを握りしめながら……。
「そうですね。それに、セリカ達を助ける中で【絶黒教団】やそれに関係する証拠や次に繋がる何かを見つけられるかもしれませんしね」
「その黒い魔力が絡んでいるのでしたら、わたくしの魔法は必要になります。必ずお役に立ってみせます!」
クルスとエレーナの目に光が宿っていった。
それを見たミレイユも触発されたように立ち上がる。
「トーマさん。ありがとうございます。お陰で、私もセリカを助け出すって気持ちを新たにする事ができました。そう思ったら、いつまでも落ち込んでいるなんてできません!それに、ずっと魔法の鍛錬を続けて会得したあれがありますから!」
「おっ。あれか?」
「ええ!あれよ!」
「あれとは何でしょうね?」
「さあ?」
ミレイユも気力を取り戻していったようで何よりだ。
あれと言うのが何かは気になるものの、どうやらクルスは知っているようだ。
それから俺達とナターシャさんはデニスさんや彼に同行していた騎士の方々から見知った情報を共有される事になった。
「なるほど……。何にしても、トラップ等を躱しながら攫われた者達を見つけるにはクルス殿の協力は必要不可欠になるな。それから人手もトーマ殿のパーティーメンバー以外に4人は欲しいな」
「それでしたら、東方支部の騎士団だけでなく、【アテナズスピリッツ】にも協力を仰いだ方が良いと思いますよ。事情を伝えれば、協力してくれる筈です」
「そうしてくれるのならば助かる。早速、一筆書こう。トーマ殿、協力を求めている旨や今の状況も書いて問題ないか?」
「はい。むしろお願いします」
作戦が纏まってすぐにナターシャさんは部下に用意させた羊皮紙に増援を寄こしてもらう協力要請と現状を羽ペンで書き記していった。
書くスピードも中々早いだけではなく、育ちの良さも感じさせるくらいにナターシャさんは字も綺麗だ。
「では、頼むぞ。なるべく早めにな」
「承知しました!」
ナターシャさんの部下の騎士は先ほど彼女が書いた羊皮紙の書簡を受け取るや否や、ティリルに向かって馬を走らせた。
距離はそれなりにあるが、基本的には一本道のため、何事も無ければ増援もすぐに来てくれるだろう。
「ナターシャさん。ありがとうございます」
「礼には及ばないさ。それに、攫われた仲間を助け出したい気持ちは私も同じだからな。私はビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長なのだからな」
流石はナターシャさんだ。
『流氷の剣姫』と言われるほどの卓越した実力に加え、擦れ違えば思わず振り向きそうな美貌をしているうえに部下の事も大切に思っているとは……。
この人は見目だけでなく、心まで美しい人だと改めて感じる。
「これより私は【トラストフォース】の4名と部下の騎士4名を連れて先ほど話にあった部屋へ突入する。その間にデニスは残った部下達と共に周辺の見張りを頼む。騎士団の者や冒険者の者が来たら同行する形で案内してもらいたい。信頼しているぞ」
「ハッ!お任せ下さい!」
「では、我々も行こう!」
「ハイ!」
こうして、俺は攫われたセリカと東方支部の騎士達を救出するために行動を開始するのだった。
セリカから受け取った首飾りを揺らしながら……。
(セリカ。待ってろよ。お前は俺が必ず取り戻す!)
しかし、その先に待っていたのは俺達にとって最凶の敵であり、最悪な現実だった。
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