第272話 餞別と報せ
俺達Bランクパーティー【トラストフォース】はクエストや休養のサイクルを繰り返しながら冒険者生活を送っている中、物騒な事件やトラブルに遭遇する機会に出くわすようになる日々を送っている。
「トーマさん。今日までグリナムやその周辺の調査や危険要素の排除のために動いていただき、本当にありがとうございます。皆様には感謝しかございません」
「そんな滅相もございません。我々も好きでやっているような事ですので……」
俺達【トラストフォース】はグリナムを中心にいくつもの領地を持っているヒライト子爵家の当主であるアスバン・ヒライト様の依頼を受けて赴き、周辺の調査やモンスターの討伐を行うため、数日ほど滞在していたが、今日でそれも終わりだ。
ビュレガンセ王国騎士団東方支部と連携して脅威となる要素は排除し切れるだけしてきて、仮に出てきたとしても、また出向いて解決に動けばいいだけの話だから。
「東方支部の騎士団もですが、我々以外の冒険者達も定期的にグリナムに来られると思いますので、どうかご安心頂ければと思います」
「ありがとうございます。トーマさん達【アテナズスピリッツ】の皆様が味方で本当に心強く思います」
「滅相もございません。チェルシア様が住まうお屋敷に滞在させてもらえて感謝ですよ。アスバン様とミクラ様にもよろしくお伝えいただければ幸いです」
「はい。もちろんでございます。それから、こちらはお父様とお母様から……」
見送りに来てくれたのはヒライト子爵家のご令嬢であり、俺達とも馴染みの仲であるチェルシア様だ。
ご厚意でお屋敷に宿泊させてもらえたので、心身共に充実してクエストに臨む事ができたので、本当にありがたかった。
そして俺達はチェルシア様から何かが詰まっているような革袋を受け取り、馬車に乗り込みティリルへと向かった。
◇—————————
「そうですか。囚人奴隷達が集団脱走や死傷者を多数出した事件について、リカルドさんがそのような見解を……」
「ああ。その線が強いと見て、ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部や騎士団にも報告をしておいたんだ。他のギルドとも本格的に連携していくつもりだ。それから、今から見せる資料は他のパーティーが集めた情報を基に作成したのだが……」
俺達は冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に戻り、ギルドマスターであるカルヴァリオさんにクエストの結果を報告し、ここ数日における他のパーティーによる調査結果を共有された。
例の黒い魔力を持ったモンスターや輩の存在からそれによって引き起こされた事件の数々まで、聞けば聞くほど、俺達の表情も険しくなった。
話を終えると、俺達は部屋を出て帰路に着いた。
「私達が遭遇したトラブルが各地で起きているならば、相当な問題ですね」
「東西南北にあるギルドもバタバタになっていますから、国全体で解決に動く予感がしてきますよ」
「そうだな。俺達だって他人事で済ましていい内容じゃないし、気を引き締めなければだな……」
セリカやクルスの言っている通り、今はビュレガンセ各地の冒険者ギルドのある街とその周囲を中心に混沌とした状況となっている。
自分や仲間の身を守るにしても、親交のある人を守るにしても、街の治安維持に努めるにしても、他人事のようにスルーや軽く見積もるなんて行いはできないのだから。
それから俺達は拠点にしている家に戻った。
「それにしても、アスバン様も気前が良いと言いますか、何て言いますか……」
「ああ。餞別で貰ったとは言え、嬉しいけど悪いような……」
「「「……」」」
俺はリビングに集まった皆とテーブルに並べられた物を眺めて苦笑いを浮かべていた。
そこには縦に長く横幅が短い羊皮紙を一本の紐で丸められた巻物のような物であり、表面には“プロバケーション”やら“ウォーター”やら“フレイム”等、魔法と思しき名前が記されている。
「使えそうなスクロールをこんなに貰えちゃうとはね……」
そう、スクロールと言うアイテムだ。
普通の生活に役立つタイプのスクロールはその辺のショップで安く買えるものの、戦闘で役立つタイプは高価であり、市場にも中々出回らないと言われていたりと種類も千差万別である。
今回アスバン様から頂いたスクロールは野営や生活に役立つタイプと戦いで役立つタイプであり、数十本の内それぞれ半々程度だ。
「せっかく頂いた物なので、大事に使っていくのが最善ですよ。これやこれってお店で見かける事は滅多にありませんし……」
「あっ。【雷魔法】が使えるスクロールもある!私の【水魔法】と相性が良さそう!」
「“グローアップ”?何に使えるんだろう?」
スクロールは一回使えば光の粒子となって消える消耗品のため、エレーナの言う通り、懇意にしている方からの頂き物である以上、大切に使おうと改めて決める俺であった。
その日、様々な種類があるスクロールを見ては想定している状況に遭遇したら誰がどのスクロールをどんな風に使うかを決めながら打ち合わせをした。
こんな事ができたら……なんて事も話していたら楽しくなってきて、心地良くなるような気分も味わえた。
翌日————————
「う~ん。朝か……」
朝の陽射しによって目を覚ました俺達はいつものように顔を洗い、今日はどうしようか考えている時、ノックの音が玄関に響いた。
(誰だ?こんな朝早くから……)
「はい」
「朝早くに失礼します。我々はビュレガンセ王国騎士団東方支部の騎士です」
「は、はぁ……」
(何で騎士団が俺達の家に?)
「トーマさん、どうかされて。え?騎士団の皆様?」
訪れて来たのはビュレガンセ王国騎士団東方支部の騎士3名であり、後ろからセリカが何事だと思いながら寄って来る。
すると3人の中で身分が高そうな騎士の一人が声を発する。
(何?俺、何か悪い事した?もしくは誰かが……?)
「あの、どういったご用件で……」
「まずは説明からですな。実を申し上げますと……」
それから騎士が話を進め、俺とセリカはそれを聞いた。
話が終わって……。
「え?事件を引き起こした犯人の一人を捕まえた?」
それを聞いた俺達は衝撃の表情を隠し切れなかった。
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