第269話 膨らむ懸念
事態が動きます!
俺達Bランクパーティー【トラストフォース】はクエストや休養のサイクルを繰り返しながら冒険者生活を送っていた。
そんなある日の事だった。
「それは……また、大変な……」
「ああ。初めて知った時には私もだが、殆どのギルドマスターが驚いた。いや、戦慄すら覚えたと言った方が正しいかな……」
俺は所属している冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんに呼ばれて執務室に来ている。
今回呼ばれたのはカルヴァリオさんが直近で参加したギルドマスター会議にて話題となった内容をBランク以上のパーティーに共有するためだった。
Aランクパーティーの【ノーブルウィング】はクエストに出向いているから手紙で伝え、Bランクパーティーでギルドマスター会議の内容を知っている【ウォールクライシス】の面々は大体把握しているのもあってこの場にはおらず、今はビュレガンセ王国騎士団東方支部の騎士と共に事態の調査へ赴いている。
だからいるのは俺とセリカ、【ディープストライク】のリーダー格であるケインさんとサブリーダー格のフィリナさん。【ブリリアントロード】のリーダー格であるウィーネスさんとそのサブリーダー格のバダックさん。【デュアルボンド】のリーダー格にして中心人物であるイアンさんとイオンさんだ。
俺達はカルヴァリオさんが出席したギルドマスター会議で議題に上がった事を中心にそれと関連するだろう話を聞いていた。
「騎士団との合同調査クエストや今の話を聞いてそんな気はしていましたが、予想以上に過酷な状況になっているんですね。街や住んでいる人達の安全も本気で考えなければ……」
「ええ。大変な事になり兼ねないわ」
そう言うケインさんとフィリナさんの表情は険しかった。
「複数のモンスターが現れたり、例の黒い魔力を持ったモンスターが拠点にしているティリルどころか、ベカトルブやウェシロス周辺でも似たようなトラブルが起きてるって事は、只の自然現象で片づけるにはおかし過ぎるわよね」
「はい。モンスターの発生はともかく、これまでの情報を照らし合わせても人為的に引き起こされた事件と捉えても過言ではないと思われます」
「人の手で起きる事は迅速に対応していく事が大前提です」
ウィーネスさんの見解に対し、イアンさんとイオンさんも自分の思う意見を述べる。
俺達が拠点にしている街以外の場所でも同じような現象やトラブルが発生しているのを見て、皆の表情は硬くなっており、シリアスなムードが立ち込めている。
「何にしても、今回の事件は他人事で済ませていい話でないのは火を見るよりも明らかだ。ティリル周辺でそれぞれにて、騎士団と連携して事に当たって欲しい!ただし、未知の要素もまだまだ多い分、危険と判断したら決して深追いはし過ぎないように!」
「「「「「ハイ!」」」」」
こうして招集からの会議が終わり、俺とセリカは帰路に着いた。
「Bランク以上のパーティーが中心で騎士団と手を取り合いながら事に当たるのはいいんだけど、おかしな事が多くなっていると思えてならないな」
「そうですね……。モンスターの大量発生はともかく、黒い魔力を持ったモンスターに加えてそれを持った輩も確認されるなんて……。ウィーネスさんも言ってましたけど、自然現象の類でないのは確かですよね。本当に人の手が加えられているかのような……」
(確かにさっきの話を聞いても、俺達が目の当たりにしてきた事を鑑みても……。自然に降って出てくるような事象じゃないのは火を見るよりも明らかだな)
拠点にしている家に戻り、留守番をしていたミレイユやクルス、エレーナにも内容を共有する事になり、聞いた全員が気を引き締めているとも、プレッシャーを感じているような表情をしていた。
勘付いてはいたものの、改めて聞かされたら驚きを隠せなくなるのは多くの人間が当てはまると言う事だ。
そうして一夜を過ごした。
翌々日————————
「オラァア!」
「ハァア!」
「「ギャバァアア!」」
「周辺で潜んでいるモンスターは一匹もおりません。まずは安心と思っていいですね」
「そうか……」
俺達はグリナム近辺に現れた黒い魔力を纏ったモンスターが現れたのを受け、討伐に動いてそれを解決したのだった。
その報告をするため、ある人物の下を訪れている。
「本当にありがとう。トーマ殿達【アテナズスピリッツ】の冒険者の皆様にはいつも助けられていて、感謝の念を抱かずにはいられないよ」
「いえ、滅相もございません。こちらこそ……」
その相手はグリナムを中心にいくつもの領地を持っているヒライト子爵家の当主であるアスバン・ヒライト様であり、顔馴染みの貴族だ。
俺達はその依頼を受けてグリナムに赴いており、今日から数日の間は周辺の調査を行うため、滞在する予定だ。
本来だったら宿屋で滞在する予定だったものの、アスバン様の計らいでお屋敷に泊めてもらえる事になった。
食事も提供してくれるので凄くありがたい。
成果報告をアスバン様に伝えると、俺達は宿泊のために提供された部屋へと向かった。
「ふう……。ここに来るといつも良くしてもらえちゃうな。ありがたくも申し訳ない気もするけど……」
「同感です」
「ですが、せっかくご提供いただいたのですから、いたずらに無碍にしてしまう事もまた申し訳ないので、ここはご厚意に甘える方向にしましょう。良くしていただいたならば、その報いに応えるって意味で取り組んだ方がアスバン様もお喜びになるかと……」
「それもそうだな……」
エレーナの言う通り、恵まれた部屋や環境を用意してくれたのならば、良い結果を出す事で応えるのが筋だと考えている。
モンスターの討伐はもちろんだが、依頼主や人々を危険から守るのが冒険者の仕事であるならば、やれる事で助けになるべきだと思うし、変にそのご厚意や気遣いを突っぱねてしまうよりも遥かに有意義だ。
「トーマさん。皆様。ごきげんよう」
「チェルシア様」
部屋の前にいるのはアスバン様の一人娘であるチェルシア様であり、馴染み深い仲の貴族令嬢だ。
グリナムに来たら必ずと言っていいくらいの頻度で会うほどになった。
「この度はグリナム周辺のモンスター討伐や調査を引き受けて下さり、誠にありがとうございます。お礼の言葉をお伝えしたく参りました」
「いえいえ、そんな!」
(さっきアスバン様にも同じ事言われたんだけど……)
「ここ最近、グリナムやその近辺の町村にも少なからぬ被害を受けてしまっており、領民の方々も頭を悩ませておりました。騎士と連携して事の対応に当たって下さらなければ、今以上に酷い事になっていたと思われます。本当に感謝です」
「は、はあ……」
チェルシア様からもお礼の言葉を言われた。
初めて会った時から思っていたけど、チェルシア様は本当に良くできたお嬢様だと感心させられる。
それからは夕食までに互いの近況報告をしながらお茶菓子を楽しんだ。
明日も頑張ろう。
翌日————————
「皆様!今朝の新聞ですが……」
「チェルシア様?」
俺達が泊まっている部屋にノックの音がして開けると、チェルシア様が只事ではない表情と手に握る新聞を持って駆け込んで来た。
「今朝の新聞を見て、トーマさん達のお耳に入れていただきたい事がございまして……」
「!?」
俺はチェルシア様から受け取った新聞を広げ、側にいるセリカ達も一読した。
「トーマさん。これって……」
「嘘だろ……?」
その新聞の表紙にはこう書かれていた。
〈鉱山に服役している囚人奴隷が集団脱走!人為的な襲撃事件か!?〉
見ただけで分かる。これはとんでもない大事件であると……。
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