第263話 一人の魔術師が感じたモノ
今後に繋がる話です!
俺達Bランクパーティー【トラストフォース】はクエストや休養のサイクルをしながら冒険者生活を送っていた。
「こちらが今回の報酬です。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
俺達はすっかり友達のように仲良くなった受付嬢のナミネさんからクエスト達成の報酬をいただいた。
「今回のクエストは馬車での旅が長めだったから、美味い物でも食べて帰るか?」
「いいですね!」
「賛成です!」
「確かに、リフレッシュの意味で美味しい物を食べるのもありですね!」
俺の提案に対し、セリカとミレイユ、クルスは賛同し、エレーナもその様子を見て微笑ましく見守っている。
モンスター討伐のクエストだったが、目的地がティリルから片道2日はかかった場所なので、一週間ぶりの帰還となった。
体力はともかくにしても、精神的に応えたかもしれないと思い、今日はティリルでも客単価が高そうなお店で労う事になった。
美味しい物を食べるのは俺も賛成だが、必要以上の無駄遣いだけはしないようにと心掛け、楽しむようにした。
まあ、ミレイユが酔い潰れてはクルスとセリカが介抱し、俺とエレーナがそれを補助しつつも微笑ましい様子で見ているが定番ではあるけどな。
まあ、その時はその時だと思いながら食事を楽しむお店へと向かうのだった。
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◆
トーマ達がティリルに戻って来る5日前——————
「御者さん。ありがとうございます」
「いえ、何の!かの有名な【ディープストライク】の皆さんに乗っていただけるなんて、御者冥利に尽きますんで!」
「それはどうも……」
夕暮れ頃、ティリルの馬車ターミナルから降りてきたのは、Bランクパーティー【ディープストライク】のリーダー格であるケインさんとそのメンバー達だ。
どうやらクエスト帰りのようであり、全員がホッとしたような様相を見せており、ケインさんはパーティーメンバーと共にその場を去り、ギルドへと向かっていく。
「にしても今回のクエストは中々に骨が折れたわよね~。遠出の強力なモンスター討伐だけならともかく、調査や安全地の開拓とかでやる事が予想以上に多かっただけにさ……」
「そう言わない方がいいぞ。お陰で依頼主から予想以上に貢献してくれたって言ってくれたらしいぞ。ギルドにもそう伝わっているらしいが、変に言い回らない方が賢明だぞ」
「まあ、そうね……。早く酒飲みたい」
「クエストの完了報告が先な!」
「ほ~い!」
どことない不満を零しているのは、【ディープストライク】のサブリーダー格にして、ケインさんと幼馴染の付き合いである『武闘家』のフィリナさんだ。
それからケインさんとフィリナさんのやり取りを微笑ましそうに見守っているのは、同メンバーである『魔術師』のニコラスさん。『僧侶』のエルニさん。『重戦士』のマーカスさんの3人だ。
クエストの振り返りをして歩きながら、ケインさん達はそのまままっすぐギルドへと向かっていく。
「この度はお疲れ様でした。こちらがクエスト達成の報酬になります。それから、こちらが月々に支給される支援金でございます」
「ありがとうございます」
俺達はクエスト達成をナミネさんに報告し、報酬とBランク以上のパーティーに定期的に渡される支援金を受け取った。
「これで完了ね!」
「あぁ!予想以上に大変だったから、この後どっか食いに行かないか?」
「いいですね!」
「でしたら、俺!前から気になっているお店がありまして……」
「どこですか?」
「それは……」
「あら?ケイン達じゃない」
「「「「「ッ!?」」」」」
ケインさん達はギルドを出て外食に行こうとしていた時、一人の女性が呼び掛けた。
「ウルミナさん!それに皆様も……」
【アテナズスピリッツ】に所属するAランクパーティー【ノーブルウィング】のリーダー格であるウルミナさんであり、同メンバーのルエミさん、ジーナさん、ランディーさん、ラルフさんもおり、全員が冒険に出るような格好をしている。
「ウエストから帰って来た感じかしら?」
「はい。丁度帰って来たところでして、この後食事に行こうと……。ウルミナさん達も今からクエストに出向く流れでしょうか?」
「ええ。先ほどカルヴァリオさんと話して、これから騎士団の方々と調査に出向くつもりよ」
「そうですか。もしかして、例の……」
「主にそうなるわ」
ウルミナさん達はビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長であるナターシャさんらと合同で調査に赴く予定だ。
Aランクパーティーまで駆り出されると言う事は、只事ではない何かがあるのは間違いないだろう。
「そう言えば、例の黒い瘴気を持った魔力の件だけど、トーマ達も数カ月前にそれ纏ったモンスターと交戦したんですってね?」
「はい。それを聞いた時は少なからず驚いたほどでしたから。帰る道中でもそう言った類の情報も漏れ聞こえてきました」
「何かの悪い予兆とかじゃない事を祈るしかないですけど……。どうでしょうかね」
ウルミナさんの話を聞いたケインさんとフィリナさんも少しだけ剣吞な表情を滲ませている。
ケインさん達【ディープストライク】や俺達はその禍々しい魔力と相対した経験があるだけにだ。
「ウルミナさん達ならば大丈夫だと思いますけど、どうかお気を付けて下さい!我々もできる限りの警戒をしておきます」
「ありがとう。あなた達もクエスト帰りで疲れているでしょう?今日はゆっくり休んで、美味しい物でも食べに行ってきなさい」
「はい。ありがとうございます」
こうしてケインさん達とウルミナさん達とのやり取りが終わった。
「……」
「ウルミナさん?何か?」
「え?いえ、何でも無いわ。さあ皆、行きましょう!」
(ウルミナさんが一瞬見せた何かを疑う。いや、まるでどこかで見たような。いや、あるいは……?)
お辞儀をした頭を上げたケインさんを数秒ほど凝視していたウルミナさんだったが、取り繕う様子を見せ、ルエミさん達を連れてギルドを後にした。
「ねえ。ウルミナ。さっきケインの事をジーッと見ていたけど、彼に何か感じた物でもあったの?」
「いえ。大した事じゃないわ。さあ、ナターシャさんも待ってる。少し急ぎましょう」
「「「……」」」
ルエミさんの質問に対し、ウルミナさんはどこか誤魔化すような仕草を見せ、ジーナさんとランディーさん、ラルフさんは少しだけポカンとしたような顔をしていた。
ウルミナさんはAランク冒険者を冠する『魔術師』であり、それに違わない実力とセンスを実際に兼ね備えている。
仲間である『シーフ』のラルフさんと比べれば気配を感じる能力は劣るものの、魔力ならば同等以上の感知力をウルミナさんは持っている。
そんなウルミナさんはケインさんを見ていて、まだ曖昧であるが、無視してもいい事ではない物を確信していた。
(ケインから微かに感じ取れた……。【聖属性魔法】に目覚めようとしていたエレーナと同じ感覚を……)
そんな疑念のような。それよりも確かな何かをウルミナさんは抱いていた。
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