第259話 再会と成長の実感
第五章、始まります!
俺達はBランクパーティー【トラストフォース】。
サブリーダーのセリカ、中遠距離攻撃の要であるミレイユ、斥候と感知に優れたクルス、サポートに優れたエレーナと共に冒険者生活を送っていた。
「ふう。これでクエスト達成だな」
「しかし、まさか“ログム山”にまた“フライングタイガー”が棲み付いていたとは思いもしませんでしたよ」
「本当にそれだよね!私なんか懐かしさも覚えたくらいだったからさ!」
「あぁ。確かトーマさんとセリカさん、ミレイユさんとクルスさんは前にやり合った事があるんですよね」
「そうだよ。ただ、あの時は一体だけだったけど、今回は二体いたから難易度はあの時よりも跳ね上がったようなものだけど……」
俺達はクエストに赴いており、内容は“ログム山”に生えている“キトサンフラワー”の採取を終えたところだ。
“フライングタイガー”はDランクパーティーだった頃に一度やり合った事があり、当時の俺達から見れば相当な強敵であり、当時メンバーではなかったエレーナを除いた4人で交戦し、苦戦の末に勝利した。
今回はその“フライングタイガー”が二体同時に現れると言うイレギュラーがあったものの、これらを討伐する事ができた。
エレーナの【回復魔法】のお陰で後に引くような傷にならなかったのもあり、クエストは大変良い結果で終える事ができたと言ってもいい。
「あの時は厳しい戦いになりましたけど、今回は二体も現れたのに余力を持って倒す事ができたんですよね……」
「そうですね。やっぱり、私達がそれだけ強くなって、経験を重ねてきたのもあるって気がしなくもないって思いそう……」
「かもしれんな……」
(理由はそれだけじゃないと思うけど……)
セリカとミレイユの言う通り、今の俺達【トラストフォース】はBランクパーティーにまで駆け上がる事ができており、当時よりも実力が格段に上がっているのは間違いない。
多くの強いモンスターや敵と戦った経験もその糧になっており、今の実力に繋がっているのは紛れもない事実と表されても過言ではない。
個々の実力の向上もそうだが、何よりも大きいのはエレーナの加入だと思っている。
実際、エレーナの【支援魔法】や【付与魔法】によるサポートや【回復魔法】による戦線の安定を俺達にもたらし、【聖属性魔法】等の攻撃手段による援護の参加もあって、話の盛り過ぎかもしれないが、比較的スムーズに対処できたとも考えているくらいだ。
初めて相対した時はそれが無かったと言う事実があるだけにね……。
「それはそうとしても、クエスト達成が叶って何よりですね」
「確かにな。早く戻って報告しよう」
討伐に至るまでの話をしながら、俺達は山を下り、戻っていった。
グリナムへと。
「いや~、本当にありがとう。やはりトーマ殿が率いる【トラストフォース】の皆様にお願いして本当に良かったと心から思うよ。お陰で“キトサンフラワー”も手に入ったから業者に売るストックもできて、危険なモンスターを討伐できて何よりだよ」
「恐縮です……。アスバン様」
俺達にお礼を言って功績を称えて下さったのはヒライト子爵家の当主であるアスバン・ヒライト様であり、指名の依頼を出したお方だ。
ヒライト子爵家はグリナムを始めとする複数の町村を治めており、俺達が初めて面識を持った貴族だ。
当初はDランクからCランクへの昇格を懸けたクエストに臨むつもりだったが、アスバン様の妻であるミクラ様の病気を治すのに必要なのが“キトサンフラワー”であり、採取している中で“フライングタイガー”と遭遇し、戦いの末に討伐して達成した過去がある。
その縁もあって、アスバン様を始めとするヒライト子爵家とは今でも友好的な関係を築けており、有事の際には俺達が所属している【アテナズスピリッツ】にも指名の依頼を出しているくらいだ。
「それにしても、皆さんがBランクに昇格されたって話を聞いた時、私は胸が高鳴りもしたよ。初めて会った頃からとても成長されたんだと……。そして、ミクラを助けてくれたのが皆さんで良かったと……」
「ありがたきお言葉です」
「今日は疲れたでしょう。本日は我が屋敷で一泊して、英気を養うといい」
「ありがとうございます。でしたら、お言葉に甘えて……」
俺達はアスバン様のご厚意でお屋敷に泊まる事を許された。
誰でも彼でもとはならずとも、アスバン様は気を許した人には太っ腹なところがあるって前から思っている。
以前にクエストをやり切れた時もそうだったから。
「夕飯の時間になったら従者を寄こして報告に向かわせる。ゆっくりするといい」
「ありがとうございます。失礼します」
俺達は応接室から出て、自分達が泊まる客室まで向かっていった。
「トーマさん。皆様……」
「あっ。チェルシア様」
その前に立っていたのはアスバン様やミクラ様の一人娘であるチェルシア様であり、俺がこの世界に来て初めて出会った貴族令嬢の方だ。
Cランクの昇格を懸けたクエストの中で縁ができてからは懇意を持つようになり、表現は何にしても、立場を超えたような人間関係を築いていると思っている。
「ご無沙汰しております」
「ごきげんよう。お久しゅうございます」
チェルシア様は淑女らしいお辞儀をしていただいた。
立ち話も何なので、客室に入れる事にした。
「お手紙でお伺いしておりましたが、【トラストフォース】のBランク昇格が叶って何よりでございます。おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
「初めてお会いした時はDランクパーティーだったのが、今ではBランクパーティーの仲間入りとは……。本当に凄いですね!」
「そ、そんな。褒め過ぎでございますよ」
俺達がBランクになった件はチェルシア様にも文通で知らせていた。
そう言えば、彼女がCランクからBランクまで上がった事を知った際、自分の事のように喜んでいたとさっきアスバン様が言っていたな。
「本当の事を申し上げているだけですよ。思えば、トーマさん達がいなければ、当時、病床に伏せていたお母様はどうなっていたかも分かりませんでしたし、わたくしやお父様、ヒライト家に仕える騎士や従者の皆様、領民の方々も酷く心を痛めていた事でしょう。それを救っていただいたのはトーマさん達であり、わたくし達にとっては命の恩人と言って良い、大切な存在です。本当に……出会えて良かったです」
「チェルシア様……」
そう言うチェルシア様は穏やかで柔らかな笑顔を見せてくれた。
初めて出会った頃は想像していた以上にシリアスな内容に驚いたけど、振り返ってみれば、あの時の俺達はCランクの昇格を懸けたクエストである事を忘れるくらいに必死だったな。
俺のユニークスキルの一つである【ソードオブシンクロ】の覚醒もあったけど、何よりも皆の頑張りがあったから乗り越えられて、チェルシア様達も笑顔を取り戻せた。
「あの時の俺達はガムシャラでしたからね」
「そうですね。当時Dランクだった私達から見れば、魔法攻撃が使えて飛行能力を持った“フライングタイガー”は正に化け物と言ってもおかしくありませんでしたからね……」
「本当に絶体絶命だったんですけど、トーマさんが【ソードオブシンクロ】を発現させて勝つ事ができたんですよね」
「思い返しても、あの時の身体の奥底からゴーッと湧き上がるような力の感覚は今でも覚えていますよ。凄く疲れましたけど!」
「そうだったな」
Cランクの昇格を懸けたクエストに臨んだ時の話を思い出しながらの会話で盛り上がっていった。
当時は俺達の仲間になっていなかったエレーナからも「それでそれで?」みたいな勢いで聞かれた事もあり、結構具体的に話す事になってしまったが、それも楽しい一時だった。
食事やお風呂、寝る以外の時間はチェルシア様にBランクとなって以降の近況報告をそれぞれに話し合いながら、一夜を過ごしていった。
(何だか……楽しいな……)
そう思いながら一日を終えるのだった。
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