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第255話 【カルヴァリオ視点】とあるギルマスの一日

ギルドマスターの一日を描きます!

冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】からほど近い距離の住宅街、一軒の住宅がある。

石とレンガによる二種類の鉱物で造られた四角い二階建ての建物であり、周囲よりも気持ち大き目なサイズのしっかりした家だ。


「ん……朝か……」


人が二人寝ても十分に寝返りが打てるダブルベッドが置かれた10畳以上はある寝室に一筋の陽光が差し込んできた。

私は光に起こされるように身体を起こした。

ベッドのすぐ傍にある小さな丸テーブルに置かれた常温の水をコップに注ぎ、一杯を飲み干す。

それから寝室を出た私はリビングへと向かった。


「おはよう。ソアラ」

「おはよう。あなた」


キッチンに立って朝食を作っている明るい茶髪のセミロングヘアをした女性の名前はソアラ・クレイス。

私の妻だ。


「早いな。手伝うよ」

「ありがとう。じゃあ、スプーンやフォーク、取り皿とかをテーブルに並べといてくれる?」

「お安い御用だ」


ソアラはせっせと料理を作り、私は食器を用意しながら籠にパン数個を乗せ、テーブルに揃えていった。

出来上がりが近付いた頃……。


「おはよう~」

「おはよう」

「おはよう。ピオーナ」


ベージュ色のショートヘアをしたパジャマ姿でリビングにやって来たのはピオーナ・クレイス。

私とソアラの娘だ。

知っている者は知っている事だが、私は妻のセアラと娘のピオーナの3人家族の所帯持ちである。

3人が揃ったところで朝食が完成し、全員が椅子に腰を掛けた。


「「「いただきます!」」」


テーブルにはパンとサラダの他にも、ベーコンエッグと野菜のキッシュがあり、栄養バランスを考えたメニューになっている。

私もピオーナも八分目に済まそうと思いながらも、ソアラは料理上手なため、少し食べ過ぎてしまう事もしばしばあるくらいだ。

それから食べ終えると、ピオーナも後片付けを手伝い、私はギルドに出勤する準備を整えていく。


「では、行って来る。帰りはそれほど遅くならないと思うから」

「お父さん、いってらっしゃい」

「いってらっしゃい、あなた」


私はソアラとピオーナに見送られながら家を出た。

朝が早いのもあってか、道行く人はまばらではあるが、それなりの人達が歩いていた。

数分歩くと、私がギルドマスターを務める冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に到着し、主な仕事場である執務室へと入っていく。


「さて、今日もやるとしよう」


私のギルドマスターとしての一日が始まった。

ギルドマスターはギルドの運営全般を監督するのが主な仕事だ。

所属している冒険者の登録やランク管理、施設の維持、資金繰り等を把握して、ギルドがスムーズに機能するように取り仕切っていく。

別の冒険者ギルドから移籍を希望する冒険者が登録する際の審査や、ランクの精査にも直接関わったり、問題を起こした冒険者の処遇の最終決定権も持っている。

続いて重要な仕事は依頼の管理と調整だ。

街や町村、王侯貴族から寄せられるモンスター討伐や素材の採取、用心の護衛任務等を集め、依頼の難易度や報酬を見て、適切なランクの冒険者に仕事を振り分ける事も大切な仕事だ。

依頼内容に不備や誤認が無いかの精査をしていかなければ、本当はCランク以上の冒険者がやらなければならない筈が、間違えてDランク以下の冒険者が受けて失敗してしまうリスクが伴うからだ。

それに加え、BランクとCランクの昇格を懸けたクエストに挑む権利を与えるかどうかもギルドマスターの私が判断をしており、実力と経験が十分と見られれば昇格の機会を与えるようにしている。

時折、緊急性の高い依頼、例えば大規模な災害や強力なモンスターの襲来があった場合、ギルドマスターである私が冒険者達を招集して作戦を立てるパターンもある。

頻繁ではないものの、冒険者が依頼主とトラブルを起きるケースもあり、そのような場面では私が間に入って仲裁をしたり、時には厳しく指導したりする。

このように、私を始めとするギルドの運営に関わっている者達は日々、所属している冒険者の皆が伸び伸びと活動できるように回している。


「う~ん!取り敢えず、一段落したな」

(あ~。面倒だった~)


仕事始めから私は執務室に籠りっぱなしで事務作業に追われていた。

職員から束になって渡された依頼人の資料の精査とクエストの結果、所属している冒険者の動向や伝えるべき事項、ギルドの財政状況と多種多様の書類と格闘していたため、中々に肩が凝った。

現役時代はAランク冒険者として強力なモンスターとの戦いや未開の地の探索、危険地帯まで赴いて貴重な素材の採取等、最前線で戦う過酷さはあったけど、ギルドマスターとなった今ではこれまた違った大変さがあるなと改めて感じる私だった。

挽き立てのクーフェを嗜みながら一息ついていた頃、扉をノックする音が部屋に響く。


「失礼します。【ノーブルウィング】のウルミナです」

「はい。どうぞ」

「失礼します」


扉を開けて入ってきたのは、【アテナズスピリッツ】に所属しているAランクパーティー【ノーブルウィング】のリーダー格であるウルミナであり、サブリーダーのルエミ、同メンバーのジーナ、ランディー、ラルフもいる。

彼女達はAランク向けのクエストに赴いていたが、それを終えて帰ってきたのだ。


「数ヶ月に渡るクエスト、お疲れ様だな」

「いえ、それほどでも」

「それで……私の部屋まで出向いたと言う事は、今回のクエストで何か異常な事や現象を確認したと捉えていいのかな?」

「流石ですね。鋭いです。今からその件についてご報告させていただきます」


私はウルミナ達からクエストの経緯について報告を受ける事になった。

Aランクの冒険者はクエストを始めとする任務の中で緊急性がある要素を確認した時に限り、アポなしでギルドマスターとコンタクトを取る事が許されている。

まぁ、暗黙の了解と言った類の事だがな。


「なるほど……。ウルミナ達が赴いた場所に例の黒い魔力を帯びたモンスターが発見されたと言う事か?」

「はい。そのモンスターを討伐する事は叶いましたが、明らかに危険な要素と思われた禍々しい魔力の瘴気を感知したに辺り、速やかに報告しておきたく思った次第です」

「そうか……。迅速かつ正確な報告で助かるよ。この件はビュレガンセ王国冒険者ギルド連盟本部にも共有しておく。何にしてもお疲れ様だな。長旅で疲れただろう。最低でも一週間の休暇は取りなさい」

「ありがとうございます」


黒く禍々しい魔力の瘴気が各地で確認された話はこの数カ月で3回は聞いている。

現在は鳴りを潜めているが、かつては闇ギルドと言う犯罪者集団が幅を利かせ、その時にウルミナの話にあった例の黒い魔力を纏う相手と私のギルドに所属する冒険者達が相対した事件があった。

我がギルドからも解決のために派遣されたものの、その中の一名が裏切り者であり、二名は冒険者として再起不能、そして一名が死亡してしまうと言う悲しい結果となった。

その怪しい魔力が微弱ながらも確認された事例が頻繁でこそないものの、知ってしまったら軽視できなくなるため、真摯に取り組まなければいけない。

あの時の悲劇を繰り返さないためにも……。


「後の事は任せてもらうよ。それで話は変わるのだが、トーマ達がBランクに昇格をした事は覚えているかな?」

「はい。滞在先にいた宿にその旨が書かれた手紙で存じ上げております。とてもおめでたい限りでございます」

「直接お祝いの言葉を掛けてくればどうだい?今はクエストに出向いているが、順当に行けば明日か明後日には帰って来ると思うよ」

「そうですね。一週間の休養日の間に行ってみようと思います」


私は改めて、ウルミナにトーマ達のパーティーがBランクに上がった事を伝えた。

休養日を貰えたのもあって、直接伝えたがっているようだ。


「何かお祝いの果物とか買ってこようか?」

「ジーナさん。それ入院している人へのお見舞いですよ」

「あ、そっか。じゃあ、美味しそうな肉や酒でも用意する?」

「食べ物ばっかりじゃないっすか。まあ、それが安牌ですね」


お祝いの品についてジーナとランディー、ラルフが漫才みたいなやり取りをしていたが、それもまた微笑ましかった。


「では、我々はこれで失礼します」

「あぁ。お疲れ様」


そう言ったウルミナはメンバー達と共に部屋を後にした。

一人になって数秒後、私は椅子に深く腰を掛ける。


「また厄介な事が起こりそうな予感だな……」


然るべき機関に報告するための事務的な手間だけならばともかく、禍々しく黒い魔力の話を聞く度に苦い記憶を思い起こさせる。

表立って大きな問題になってしまわない事を祈ってはいるものの、もしも現実になってしまった時は腹を括らねばとならない自分もいる。


「それでも、私は【アテナズスピリッツ】のギルドマスターだ。ギルドに所属する冒険者や街の平和を守るのが私の務めだ。いざという時はいくらでも身体を張るさ」


そう決意する私だった。

それからは事務作業の他にも来客対応や予算会議とその日のうちにやるべき事をこなし、ギルドマスターとしての時間が過ぎていくのだった。


「ただいま」

「お帰りなさい」

「お父さん。お帰り~!」

「ただいま。いい子にしてたか?」

「うん!」


私は仕事を終え、我が家に帰宅した。

そこには無邪気な笑顔で出迎えてくれたピオーナがおり、ソアラも奥から出てきた。

リビングから出来立ての料理の香りが漂っており、正直に言ってよだれが出そうになったが、妻や娘の前でそれははしたないので我慢しよう。


「おぉ。美味そうだな」

「今日は私もお手伝いしたの!」

「野菜の皮を剥いたり配膳くらいだけどね」

「そうか。えらいぞ」

「うん!」


テーブルの中央にはよく煮込まれたビーフシチューがあり、周りには彩り豊かな野菜サラダや絶妙な焼き加減の肉のソテーが用意されていた。

私とソアラの席にはワインが置かれている。

この美味しそうな料理や家族の笑顔を仕事終わりに見たら、疲れや悩みも吹き飛ばしてくれる。


「さぁ、冷めないうちに食べましょう」

「そうだな」

「うん!」

「手を合わせて……」


「「「いただきます!」」」


ギルドマスターとして忙しない日々を送る中でも、家族と共に過ごすこの時間は至福の一時だ。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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