第254話 挑戦前の盃
初めて出会ったBランクパーティーが大きな事に挑戦します!
晴れてBランク冒険者へと昇格する事になった俺達【トラストフォース】。
俺達はいつもの冒険者生活を送っていた。
(ユニークスキル【ソードオブハート】!)
「【剣戟LV.3】『疾空双閃』!」
「ギャァアアアアア!」
俺達は採取系のクエストのため、ティリルから東にある小山へと赴いていた。
その道中でモンスターとの戦闘をする場面はあれども、仲間達との協力でこれを退け、目的の素材を採取する事に成功した。
「これでクエスト達成だな」
「目的の素材も回収できたので、早く帰りましょう!」
「そうだな」
セリカに促されるまま、俺達は山を後にした。
ギルドへ戻った頃には夕方となっており、完了報告を済ませた俺達はこのまま食事に洒落こもうとした時……。
「トーマ。皆」
「「「「「ん?」」」」」
「その様子だと、クエストを終えたばかりのようだね」
「ケインさん!」
声を掛けてくれたのはBランクパーティー【ディープストライク】のリーダー格であるケインさんであり、同メンバーであるフィリナさんやニコラスさん、エルニさんやマーカスさんもいる。
私服姿な事から、今日はオフのようだ。
「トーマ達がクエストに行っているって聞いたから、この時間帯ならギルドにいると思って来てみたんだけど、やっぱり会えたよ」
「そうだったんですね。俺達に何か用が……」
狙ってギルドに赴いた事から、ケインさんなりの考えがあるのは確かだろうが、その表情はどこか硬かった。
数秒の間を取って、ケインさんが口を開く。
「もしもこの後、予定がなければ一緒に食事でもどうかな?話したい事があってね……」
「え?」
何と飲みの誘いだった。
その割にはケインさんを始めとする面々の表情はどことなく言いにくそうとも、何かを伝えるのを躊躇っているようにも見えた。
だが、ケインさん達とだったら一緒に飲むのも悪くないと思っているので、俺達は快諾した。
それから勧められた飲食店に入っていく。
「「「「「カンパイ~!」」」」」
入ったお店は数カ月前からできたようであり、それだけに内装もオーソドックスながら木の香りがほんのりと漂う雰囲気の良い空間だった。
ケインさんによると、中々大変なクエストや仕事を終えた時はこのお店を使っている事を教えられ、料理も美味しく値段も良心的だ。
食事と酒を味わってしばらくした頃、落ち着いたムードになっていった。
「トーマ達とこうして飲むのは久しぶりだな」
「そうですね。私達がCランクに上がってしばらくした頃に一緒に食事した時を思い出します。あの時は軽めでしたけど」
「あの時はエレーナやマーカスもパーティーに入っていない時でしたからね」
「言われてみりゃその通りだ」
しばらくの談笑が続いた後、ケインさんは少し厳しい面持ちになり、フィリナさん達も追随するように表情を変えていった。
「あの……ケインさん。皆さんも何かお話があって俺達を食事に誘ったんですよね?狙って誘っていたようにも思えたんですけど……」
「その事についてなんだが、トーマ達に伝えておきたい事があってね。他に親交のあるパーティーにも既に伝えてあるんだけど……」
俺が問い掛けると、ケインさんは真剣な表情で口を開いた。
「俺達……。Aランク昇格を懸けたクエストに挑む事が決まったんだ」
「え?」
ケインさん達によるAランクの昇格を懸けたクエストに挑戦しようと言う意思表明だった。
つい最近、ウィーネスさんが率いる【ブリリアントロード】もそれを受けるために出立したのを知っただけに、驚く以外の気持ちが出て来ないくらいだ。
それから冷静になって話を戻す。
「それは凄いですね。ですが、どうして……」
「率直に言えば、数カ月はティリルから遠い場所に行ってしまうからな。親しい人達の顔は見ておきたかったってのが本音なんだ」
「しばらく会えなくなっちゃうから、その前に一度、こうして腹を割って話す機会が欲しかったのよ」
「なるほど……」
そう言うケインさんとフィリナさんの表情はどこか諦観したようだった。
昨日と今日にかけ、中長期に渡って会えない事を考え、親交のある人達としばしの別れの挨拶に回っていた事を教えられた。
俺達が最後との事だ。
「それにしても、ウィーネスさん達の時もそうでしたけど、やっぱりAランクの昇格を懸けたクエストって難易度が凄く高いのですよね?それこそ、Bランクの昇格を懸けたクエストよりもずっと……」
「そうですね。資料を見る限りでも、トーマさんの言う通り、厳しいのは確かですね。まるで自分達がAランク冒険者になったら求められるだろう要素が詰め込まれているような内容だと思っています」
「場所も私達が行った事すらないような未踏の地。行って戻るだけでも一カ月はかかるような場所ですね」
俺の質問に対し、ニコラスさんとエルニさんは答えた。
物理的にも、精神的にも、体力的にも過酷な内容なのは想像するだけで分かりそうなほどだ。
一度Aランクの昇格を懸けたクエストに挑んだ事のあるリカルドさん率いる【ウォールクライシス】や現在進行形で挑んでいるウィーネスさん率いる【ブリリアントロード】の事を考えると、ただの応援だけでは足りなくなりそう。
「けど、俺はやってみたいと本気で思っている」
「マーカスさん?」
「俺が前にいた【ティア―オブテティス】では、仲間に良いように利用されては自分をあまり曝け出す事も、やりたい事もできなかった。けど、今は自分の目標や夢のために頑張れている。ケインさん達と一緒に過ごしている内に、それを取り戻す事ができた。だから、Aランクの昇格を懸けたクエストに挑むのは不安であるけど、ワクワクもしているんだ」
そう言うマーカスさんの表情は希望を持っているように見えた。
マーカスさんはかつて所属していた冒険者ギルド【ティア―オブテティス】では自分のやりたい事を思うようにできず、利用され続ける日々を送っていた。
拠点にしていたウェシロスで起きた大きなトラブルを経て、ティリルにある【アテナズスピリッツ】に移籍し、ケインさん達のパーティーに入った。
加入後は『重戦士』ならではの立ち回りや強みを活かしてクエストの達成に何度も貢献し、その信用を確固たる物としてみせた。
防御力に優れたマーカスさんのお陰で、ケインさん達のパーティーは更なる安定感を得るようになり、現に今ではAランクにも届きそうになっている。
「前のパーティーの頃ではイメージもできなかったけど、ケインさん達と一緒なら、できると思ってる。少なくとも、俺はな……」
「マーカスさん……」
「ふっ。マーカスの言う通りだな。俺達【ディープストライク】はその夢に手が届きそうなところまで来たんだ。そのために準備や鍛錬も念入りにしてきた。ずっと前から望んでいた事が手を伸ばせば届きそうな目標のためにな」
「アタシはケインが行くところならどこまでも行くつもりなのは本当でも、Aランクに駆け上がるのは、今となってはアタシにとっての夢でもあるのよ。ここまで来たならば喧嘩上等な勢いでやってやるわよ!」
マーカスさんに続くように、ケインさんとフィリナさんも意思を伝える。
ニコラスさんとエルニさんも言葉には出さないが、決意の表情が見て取れた。
「こうしてトーマ達の顔を見ていて、夢とか先の事とかを語っていたら、何だか活力が湧いてきたような気もするな。うじうじと悩みそうになった自分が馬鹿らしく思えてきたよ」
「まあ、それを言っちゃうなら、アタシもなんだけどね」
「私もです」
「同じく」
「俺もですよ」
ケインさん達も迷いやモヤモヤを吹き飛ばせたようだった。
それを見ていて俺達もホッとする事ができた。
「これからAランクの昇格を懸けたクエストに臨むのでしたら、俺からも言いたい事があります。もしもAランクに上がったとしても……。ケインさん達は俺の……俺達の憧れの冒険者です。だから信じます」
「ありがとう。お陰で迷いを振り払う事ができたよ」
そう言うケインさんと俺はエールの入ったジョッキで乾杯し合った。
それから俺達はケインさん達との近況報告や思い出話まで、夜が更けるまで語り合ったけど、本当に楽しくて有意義な時間を過ごす事ができた。
翌々日————————
「ありがとう。見送りに来てくれて」
「俺達も好きでやっているだけなので、気にしないで下さい」
「何だか悪いな……」
ケインさん達はAランクの昇格を懸けたクエストに臨む出発日を迎えた。
俺達もこの後クエストに向かうのだが、時間まで余裕があるので、見送る流れになった。
「ケインさん。あの……」
「トーマ。皆……。結果がどうであっても、俺達はやれる限りの最善やベストを尽くす。悔いだけは残さないさ」
「そうですか……」
気付けば、ケインさん達もティリルを出ていく時間を迎えるのだった。
フィリナさん、ニコラスさん、エルニさん、マーカスさんと次々に馬車の中に乗っていき、ケインさんが最後に乗ろうとした。
「トーマ!皆!」
「「「「「ッ!?」」」」」
「次に俺達と会う時は……。今よりも凄い奴になっている時だぜ!」
「ハイ!」
ケインさんは決意と希望、そして、更なる飛躍を約束せんばかりの表情を見せ、俺と固い握手を交わすのだった。
そしてケインさん達は新たなる挑戦の地へと赴き、俺達はその背中を見届けた。
(俺達だって……。もっと先へ……)
こうして俺達も気持ちを新たにした後、クエストへと赴くのだった。
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