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第251話 【ナターシャ視点】流氷の剣姫の休日

今回はビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長を務めるナターシャがメインです。

私の名前はナターシャ・セルロイテ。


「調査の結果は?」

「A班の調査結果、異状なしでした!」

「B班も同じく!」

「C班も同じく!」

「そう、分かったわ。お疲れ様」

「「「お疲れ様です!」」」


ティリルにあるビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長担っている騎士だ。

各支部の管轄にある街やその周辺の町村の治安維持や犯罪者の取り締まりを主な生業としており、不審な事象の出来事を調査する事も役目としている。


「ふう。まさかあの事件の爪痕でも言うべき要素が絡んでいるとはね……」


最近、ビュレガンセ王国騎士団東方支部で一つの話題になっている事がある。

それは異質かつ危険な禍々しい魔力を纏ったモンスターの出現であり、それを明かしたのは、冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に所属するBランクパーティー【トラストフォース】であり、そのリーダー格であるトーマ殿達だ。

ビュレガンセ王国第二王女であるリリーネ・デュ・ビュレガンセ様の護衛任務で共にして以来、面識を持つようになり、その事案を報告したのが彼等と知った時には驚いた。

聞けばトーマ殿もその異質な魔力を持った相手と向き合った経験がある事を知り、驚きを隠せなかったのは今でも覚えている。


(全く。厄介な事件が起きそうだな……)


私は一人居座る執務室でため息をついた。

その時、コンコンとノックの音が鳴った。


「隊長、デニスです。只今お時間よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「失礼します」


私が許可をしてすぐに執務室に入ってきたのは、ビュレガンセ王国騎士団東方支部の副隊長を担うデニス・ランベルだ。

青味がかかった茶色の短髪と頬に一文字の傷が特徴的な男であり、私が信頼を置いている部下の一人だ。

ギフトは『剣士』であり、隊長である私の補佐に加え、私がいない時には隊長としてやるべき仕事を代行で担ってくれる。

真面目で勤勉、口が堅く律儀な男でもあるため、デニスを慕う者も多い。


「どうした?」

「例の件について、お話がございます」

「話しなさい」


私はデニスの報告を聞いた。


「なるほど……。管轄の境目付近にある森林でもその黒い魔力の残滓が確認されたか……」

「はい。近くに住んでいる方々の目撃情報で判明しました。周囲に被害を及ぼすほどの強さではございませんが、至急、お耳に入れていただきたく思いご報告させていただきました」

「そう、ありがとう」

「それと、私から一つ……」

「ん?」


デニスの報告が一通り終わると、彼女は右手を挙手して声を発した。


「隊長。明日は非番ですよね?確認された場所には私が部下数名を率いて向かいます」

「しかし……」


オーバーワークになり過ぎないように数日のサイクルで騎士達の間で休養日を設けるようにしており、実を言うと、明日は休む予定だった。


「隊長は例の件に携わるようになって以来、毎日のように自ら現場に赴いては調査に勤しんでおられます。少し休まれた方がよろしいかと」

「……。そんなに疲れているように見えた?」

「心なしか、そう見えます」


デニスの言う通り、私はここ最近、毎日のように仕事をしていた。

食事や睡眠は取っているつもりだが、自覚以上に取れていなかったらしい。

民の為に治安を守り、犯罪者を取り締まる騎士団の仕事は多岐に渡るのだが、そうか、そんなに疲れていたか。


「せめて一日は休みを取って下さい!万が一大きなトラブルがあった時には必ず報告するよう部下にも言い聞かせます!どうか!」

「デニス……」


強く進言するデニスは真剣な表情だった。

その場で考え込む事10秒……。


「分かった。一日は休みをいただくとするわ。もしも私が必要な時にはすぐに連絡を寄こすように」

「ハッ!」


根負けする形で私は一日の休みを与えられる事になった。

このデニスと言う男は仕事にはとても実直に励んでいるけど、私の事になるといかんせん感情が昂るような気もする場面があったりする。


「それから、鍛錬も程々にするようにして下さいね」

「はいはい」


余計な一言をと思いつつも、最終的に私は休息を得る機会が設けられたのだ。


翌日—————————————


「ん……。朝か……」


東方支部の隊舎の一つの部屋に朝日が差し込んだ。

騎士団の隊舎は有事の際にはすぐに駆け付けられるように事務所の側にある。

私が利用している部屋は15畳のワンルームタイプであり、棚にはここ最近の活動記録の他にも学術書や剣術の指南書が置いてある。

因みに隊舎にある部屋は騎士団におけるポジションで使える部屋が決まっており、末端の騎士は一部屋を数人でシェアしている。

隊長や副隊長を始めとする役職を与えられれば個室の使用が許される。

私も騎士団に入団したての頃は女4人で寝食を共にしたものだ。


「さてと……」


私は起き上がり、動きやすいラフな格好に着替えると、手に木剣を持って部屋を出た。

向かった場所は……。


「フッ!ハッ!ヤッ!」


近くの公園で木剣の素振りをしている。

騎士団お抱えの鍛錬場に行ってしまうと、目に付いてしまう可能性が大きいため、今回は行かない事にした。

但し、鍛錬の量は無理しない範囲でやる事にしている。


「ハァ……ハァ……フゥウ……」

(休めって言われたから、今日の分はこのくらいにしておこうか?それとも……)

「あれ?ナターシャさん?」

「ッ!?」


汗を拭きながら、気持ち多めに剣を振ろうか考えていた時、一人の男性が声を掛けてきた。


「ケイン殿!」

「ご無沙汰しております、ナターシャさん。もしかして、鍛錬か何かでしょうか?」


それは冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に所属しているBランクパーティー【ディープストライク】のリーダー格であるケイン殿であり、隣のもう一人は体格の良い男性だ。

聞けばケイン殿も私が今いる公園で剣の素振り等の鍛錬に勤しんでいると聞かされた。


「えぇ、そうよ。ちょっと気分を変えようと思ってね。それなら場所を変えてみるのもありだと思ったの」

「そうですか……」

「ケイン殿。そちらの方は?」


咄嗟にそう言ったが、意味合いとしては間違いではないと思ってやったのも確かである。

私は大柄の男性に視線を向けて質問した。


「ナターシャさんと会うのは初めてかもしれないので紹介します。彼は数カ月前に俺達のパーティーに加入したマーカス・クレヴァンで『重戦士』です」

「初めまして。マーカスと申します。数カ月前からケインさん達のパーティーに加入させていただきました。何かしらの形で協力する事になると思われますので、今後ともよろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」


マーカス殿は元々【アテナズスピリッツ】に所属していた冒険者ではなく、かつてウェシロスに拠点を置く冒険者ギルド【ティア―オブテティス】に所属していたのだが、ビュレガンセ王国騎士団西方支部や今は解体されたヴェヌトイル商会、それらに癒着していた悪徳貴族らの所業に巻き込まれた事が原因で、前いたギルドと街を離れざるを得なくなった。

【ティア―オブテティス】のギルドマスターであるヒルダ殿の計らいで今のギルドに所属し、ケイン殿と同じパーティーに所属するに至ったと教えられた。


「その件については西方支部の隊長となったエルヴォスから聞いている。過去の経験から来るいたたまれない気持ちはあるだろう。だが、弱き者のために戦おうとする気持ちや想いは見失わないで欲しいと思っている」

「はい。私もその所存でございます!」


私から見ても、マーカス殿が実直な性格をしているのはすぐに理解できた。

聞けばマーカス殿は防御力の高さが自慢のようであり、敵の攻撃を引き受けて防ぎ、チャンスを作るタンクの役回りを担っていながらも、私と同じように【水魔法】や【氷魔法】を会得しているレアケースな『重戦士』である事も知った。

どことなく、親近感を覚えそうだな。


「二人もこの場所で鍛錬をする事が日課なのか?」

「はい。しばらく前までは私だけでしたが、最近ではマーカスと一緒にしています」

「広さも丁度良く、拠点にしている自宅にも近いので……」

「そうか……」

「それにしてもナターシャさん。こんなところで鍛錬をされていたとは……。てっきり東方支部にある鍛錬所でやっているのかと思いました」

「えぇ。ちょっとね。私はこれで失礼するわ。更なる成長を願っているわ」

「は、はぁ……」


私はケイン殿やマーカス殿と少なからず世間話をした後、平然を装いながらそそくさと去った。

それからは部屋でサッと作れる朝食を食べ、ティリルの街中へと出るのだった。


(女性の部下からアドバイスを貰って着てみたのだが……)

「ねえねえ。あの女性凄く美人そうじゃない!?」

「眼鏡越しでも綺麗な人ってのが分かるわ~」

「あのスタイルと私服の着こなしも抜群ね~」

「ああいう女性って憧れる~」

(中々に視線を集めているな……)


自分なりに休日を楽しもうと思って、前から買っておいたオシャレと機能性を備えたような空色のワンピースを着て、眼鏡を掛けて街に出てみたのだが、周囲からの視線を否応なしに集めてしまっている。

髪型も普段とは違いポニーテールにしているのだが、隠しきれてないのか、それともどこかの有名な美人とでも思っているのか、正直分からなかった。

それからは自分なりに休日を楽しむように心掛けた。

訪れてみたのが……。


(やはり……。こう言う類のお店に来てしまうものだな……)


そう、ティリルにある指折りにして冒険者御用達の武具屋『ロマンガドーン』と言う店だ。

騎士たる者、武具の手入れに余念がないのも確かであり、私も暇があればそうしていると同時に、新しい武具のチェックも欠かしていない。

だからかな、仕事以外で武具を扱う類の店を見ると、つい見てしまう。


「いらっしゃい」


気が付けば、店内に入っていた。

ティリルに拠点を置く冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】に所属する冒険者達にとっては上質かつ強力な武具を置いてある事で有名だが、騎士の私から見ても本当だと思っている。


(かなり久しぶりに入ってみたが、以前よりも上等な武器や防具を揃えているな。加えて、戦闘を補助するアイテムも充実しているような気がする……)


この店は冒険者だけでなく、騎士も食いつきそうになる武具が並んでいる事もそれなりに多い。

私の部下達もここで自前の武具を揃えていると言う話を聞く事から、それだけ信用があると教えてくれている。


(おっ。このミスリル製のロングナイフ、値段も手頃なのに振りやすい。サブウエポンの意味で持っておくのも面白そうだ)

「ほう。軽く振るだけでも洗練された剣技を見せてくれるのう……。東方支部の隊長さん」

「ッ!?」


変装しているのだが、『ロマンガドーン』の店主は不意に私である事を言い当ててみせた。

やはり武具屋を営むだけあって、眼力は本物だ。


「変装してまで入るとは。中々面白い事をしてくれるのう」

「ど、どうも……」

「そのミスリル製のロングナイフ、興味あるのかな?」

「えぇ。私が普段使うレイピアをメインにしつつ、このナイフも武器にしたら、戦術の幅が広がりそうな気がしましてね……」

「ふむ。なるほど……」


気が付けば、私は店主さんと話し込んでいた。

他に人がいなかったのは幸いだったが、相手は武具屋の店主で私は治安と秩序を守る騎士、通じるところはあったようでそれなりに盛り上がった。


「それで、何か買いたい物はあるのかね?」

「でしたら、このロングナイフをいただきましょう。後、“リペアフルード”や小道具も少々」

「毎度あり!」


私は買い物を済ませて店を後にする。

武具屋にフラッと立ち寄りたくなるのは、騎士も冒険者も一緒なのかもしれないな。

それからは美味しそうなお店や服屋に入っては私なりの休日を楽しむのだった。


「う~ん!やっぱり一日休暇を取って良かったな」


夕暮れになり、今日買った物が入った袋を抱えながら帰路に着く私だった。


(デニスの進言を聞いて正解だったかもな……)


働き詰めの日々の中でも休息を取る事の重要さを再認識し、明日の仕事にも精を出そうと気持ちを新たにする私だった。

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