第250話 【エレーナ視点】これから先の事
今回はエレーナが主役のお話です!
晴れてBランク冒険者へと昇格する事になったわたくし達【トラストフォース】。
いつもの日常へと戻る中、わたくし達はクエストのため、クルスの生まれ故郷であるビラドを訪れる事となり、被害の元凶となっていた“ワーウルフ”や“ワーウルフロード”達を倒してティリルへと戻ってきました。
所属している冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】へと戻って来たわたくし達。
クエスト完了の報告をしたのと同時に、ギルドマスターであるカルヴァリオさんにビラドで遭遇した禍々しい魔力を纏った“ワーウルフロード”についても共有しました。
労っていただいただけでなく、今回の一件を厳しく見て、ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部やビュレガンセ王国騎士団東方支部にも報告して調査や対処に動いてもらえるように取り計らって下さいました。
ビラドは東方支部の管轄ですので、そこの隊長であるナターシャさん達も力になってくれる事でしょう。
何にしても、わたくし達にできるのはそこまでだ。
数日設けた休養日の中、わたくし達はある場所に赴いています。
「ご無沙汰しております。お父様、お兄様」
「久しぶりだな。エレーナ。こうして顔を合わせる事ができたのは嬉しい限りだ」
「元気そうで何よりだよ」
「ありがとうございます」
目の前にはハイレンド伯爵家の当代当主であるロミック・ハイレンドであり、わたくしの父でございます。
その隣には後継者であり、わたくしの兄であるガレルお兄様だ。
そう、わたくしの実家に来ており、客間の一室にいる。
「おっほん。娘とこうして会う事ができたのは嬉しいのだが、トーマ殿達も連れてどういう風の吹き回しなのかね?」
「シンプルに申し上げれば……。お父様とお兄様の顔が見たくなって、声が聞きたくなったって事ですね」
「「それだけ?」」
「はい!」
お父様の質問に対し、わたくしは素直に答えました。
同行して下さったトーマさん達は理由を知っているので表情は崩していませんが、お父様やお兄様も目が点になっています。
わたくしがふと家族に会いたいと思ったのは、先日赴いたクルスさんの生まれ故郷であるビラドでのクエストがきっかけです。
クルスさんのお爺様であるテルゾさんが彼と仲良く接する様子を見ていて、わたくしも自分の家族の顔が浮かび、会いたい気持ちが強まり、こうして実家を訪れました。
「まあ、良しとしよう。面と向かって言うのは初めてだが、エレーナ。皆の者。Bランクへの昇格、本当におめでとう!交流のある君達の活躍、嬉しく思っているぞ!」
「有難きお言葉でございます!」
お父様はわたくし達がBランク冒険者に昇格した事を褒め称え、トーマさんは感謝の言葉を述べ、礼儀正しくお辞儀をした。
現状についてはわたくしも定期的にお父様へ手紙で報告をしていますので、お父様やお兄様も概ねの状況は把握している。
お父様はともかく、お兄様の方が手紙を出す回数が多いくらいであり、「ちゃんと食事を取っているか?」や「風邪はひいていないか?」等、本当にありきたりな内容な事も珍しい話ではありません。
気に掛けて下さるのは嬉しい事ですが、わたくしもそんなに子供ではないのに……。
それからわたくしはお父様とお兄様に近況を報告し、トーマさん達も補足事項をつけ加えるような形で会話にも入りました。
それからしばらくした頃……。
「ふう。夢中になって話をすると、時間が早く流れるように感じるな」
「そうですわね」
気が付けば夕暮れになろうとしていました。
わたくしはお父様にトーマさん達を屋敷に一泊する許可を取り付けておいたため、食事も振舞ってもらえる事になりました。
「もうすぐ食事の時間だな。エレーナ。しばしの間、私とガレルの三人で話がしたいのだが、良いか?」
「わたくしは問題ございませんよ」
「俺達も大丈夫です」
するとお父様がわたくしとお兄様のみで話したい事があると申し出て、トーマさん達もそれを了承しました。
「そうか。食事の時間になれば、メイド達が知らせるように伝えておくから、トーマ殿達は客室で待っていてもらえないか?」
「承知しました」
そう言ってトーマさん達は部屋を後にします。
それから少しの沈黙が部屋の中を包んでいきます。
この空気にお父様とお兄様の表情から見るに、和やかな会話が始まるとは思えず、どちらかと言えば、真面目な話になる事は間違いないでしょう。
「して、エレーナよ。今から話す事は伯爵としてもそうだが、一人の父親として話をさせてもらうよ」
「はい……」
トーマさん達がいた時とは打って変わり、お父様とお兄様の表情は真剣さを帯びています。
それからお父様が口を開きました。
「単刀直入に聞くが、いつまで冒険者稼業を続けるつもりだ?」
「ッ!?」
今の生活をどのくらいの期間続けるかどうかの質問であり、わたくしは表情を少しばかり崩してしまいました。
わたくしは15歳の頃、職授の儀で『付与術士』のギフトを賜り、冒険者の道を志しました。
過去に冒険者がお父様の領地でトラブルを解決して見せた様子に立ち会ったのもあって、冒険者として様々な場所に行っては悩める人々のために戦うその姿に対し、わたくしは一種の憧れのような想いを抱いていました。
爵位を持つ貴族の出身者の中にも、冒険者を志す者は一定数いるのも確かです。
貴族を始めとする富裕層の身でありながら冒険者になるのも、世界の広さを体感してみたい、多くの経験を重ねて成長していきたい、様々な土地を巡って見識を広めたい等と幅広い。
自分の成長に繋げていくパターンもあれば、堅苦しい生活や家督を継ぐ事に嫌気がさして家出もしくは勘当同然の末になっているパターンもあります。
わたくしの場合は前者です。
「最初に言っておくが、当然、トーマ殿やその仲間達の事は信頼している。実際にCランクからBランクに上がる事が叶っており、現在進行形で実力を磨き、成長しているのは先ほどの会話で把握している。お前が駆け出しの頃に比べれば逞しくなっているのも確かだ。だがな……」
「俺も言いたい事は父上と概ね同じだ。冒険者になりたい理由は知っているし、なる事を許したのも、広い世界を経験して、それを糧にエレーナの成長へと繋がるならばそれも良いと思ったのが大きい。父上の領地以外の場所に行った事は経験になっているんだろう?」
「はい。間違いなく、自分の力になっていると信じています」
お父様とお兄様が何を伝えたいかは分かっています。
冒険者は危険と隣り合わせの稼業であり、一つのミスや過ちが大きなトラブルに繋がり、それで命に関わる大怪我をする事もあれば、本当に死んでしまう事もあります。
そのため、駆け出しの頃にはお父様の伝手で【アテナズスピリッツ】のAランクパーティーに修行で付き添わせて欲しいと懇願し、わたくしは同じギフトを持っているルエミさんと言う方から特に指導を受けました。
そのお陰で冒険者としての持つべき知識や心構えが身に付き、戦う術を手にする事が叶ったのです。
バックアップして下さったお父様には感謝しています。
「お二人としては、それなりに冒険者としての経験をもう何年か積み重ねた後、引退して戻って来て欲しい。と思っているように見えますが……?」
「……。半分ほどはな……」
「近いうちに冒険者を辞めろと言うつもりはない。さっきも言ったように、トーマ殿やセリカ殿。ミレイユ殿やクルス殿は信用に足る冒険者だと思っている。それに嘘はないんだけどな……」
この後お兄様が何を言おうとしているのか、わたくしは既に察しが付いていました。
「可愛い妹を半永久的に危険と隣り合わせの稼業をやらせ続けるのは兄として、無論、父上も親として心配なんだよ」
「お兄様……」
お兄様の意見を横で聞いているお父様の表情には心配と杞憂が入り混じっているようにも見えました。
確かに、伯爵家の娘であるわたくしが冒険者を志すのはただのエゴかもしれません。
もしもわたくしがどこにでもいる平民だったり、貴族令嬢だけど家族との折り合いが険悪で家出していたとしたら、きっとこんな話をする機会が巡って来る筈もないのだから。
お父様やお兄様の事は大好きですし、引退も視野に入れるような話を持ち出したのも、わたくしの遠くない未来の人生についても考えてくれているからこそだと理解できます。
だからこそ、わたくしは伝えなければなりません。
「お父様……。お兄様……。ありがとうございます。わたくしの事を思って下さって。確かに危ない橋を渡っているようにも見える事でございましょう。ですけど、わたくし……。トーマさん達と一緒にいろんな場所を巡って、いろんな体験を皆でして、知見も広まって成長していけている今が楽しいんです!」
「「エレーナ……」」
「それに、わたくし自身も様々な方々と触れ合って、こんな考え方もあるんだって新しい発見をしていくのも、面白くて刺激になるって、ハッキリ分かってきたのです!冒険者をずっと続けていくかどうかの答えはこの場で出せませんが、将来の事についてはわたくしなりに考えて結論を出す所存でございます。むしろ、冒険者時代の経験を活かして領地発展に貢献したい気持ちもございますよ」
わたくしは自分の本心を伝えた。
そして、お父様が口を開きます。
「そうか……まだまだ冒険者を続けたいか……。だが、将来の事や領地経営もしていく姿勢を持っている事が知れて、安心したよ」
「もしもエレーナが永久に冒険者を続けるような答えを出そうものなら、俺も父上も胃薬が手放せなくなってしまうよ……」
「そこまで将来に無頓着ではないですよ!」
お父様はホッとして、お兄様は諦観したような様子を見せ、わたくしは頬を少しだけ膨らませました。
数秒の沈黙の中、わたくし達は顔を合わせ……。
「うふ。うふふふふふふ」
「「ハハハハハハハ!」」
わたくし達に笑顔が零れた。
こうして家族で腹を割って話すのはしばらく無かったけど、ちゃんと話せて良かったとわたくしは思っています。
「旦那様。お食事の用意ができました」
「ありがとう。さあ、行くぞ」
「「はい!」」
コンコンとノックをしたメイドさんの一人が扉越しで食事の準備ができた事を伝え、お父様に促されるまま、わたくしとお兄様は付いて行った。
少し廊下を歩いた頃……。
「エレーナ。お前の気持ちは分かった。しかし、無茶はし過ぎるなよ」
「分かっております」
「万が一不埒な輩に付きまとわれたら俺に言うんだぞ」
「その時が来たらの話ですけどね」
そんな話をしている時だった。
「エレーナ。食事が済んだら、後で私の執務室に来なさい」
「はい。何かまだ話す事がございますのでしょうか?」
「話……。いや、正確にはエレーナにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
お父様の言うプレゼントが何なのか?それを今から楽しみにするわたくしなのでした。
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