第248話 祖父との再会
クルスの祖父が登場します。
好々爺です!
晴れてBランク冒険者へと昇格する事になった俺達【トラストフォース】。
いつもの日常に戻る中、俺達はクエストのため、クルスの生まれ故郷であるビラドを訪れる事となった。
俺達は被害の元凶となっている“ワーウルフロード”と相対し、激しい戦いの末に勝利した。
「ふう~!何とか上手くいった!」
「お疲れ様です、ミレイユさん」
『ヌルマナ』を帯びた【炎魔法LV.2】&【氷魔法LV.2】『デリートレーザー』を放ったミレイユはプレッシャーから解放された事に安堵したのか、その場でへたり込み、エレーナが労った。
練習で撃つ事はあっても、戦闘中に決める事ができたのは初めてなだけにだ。
俺はセリカやクルスと共に駆け寄った。
すると……。
「グッ!」
「クルス!」
「だ、大丈夫です……。ポーションで応急処置しますので」
「嘘よ!臓腑にはギリギリ届いていないけど、看過していい傷じゃないわよ!」
クルスは“ワーウルフロード”の鉤爪による一撃を袈裟にもらっており、セリカの言う通り、放置するのはマズイ傷を負っている。
あの禍々しい魔力を伴った一撃ならば尚更である。
そこにエレーナが歩み寄った。
「【回復魔法LV2】&【聖属性魔法LV.2】『ホーリースクラブ』!」
「これは……?」
(傷が治っていく。それに、あの黒い魔力も消えている……)
エレーナは回復に加え、浄化作用を持っているであろう魔法をクルスに掛けると、傷は見る見る治っていき、禍々しい魔力も残滓一つ残さずに消した。
「ありがとう、エレーナ。君の魔法は本当に凄いな」
「礼には及びませんよ。万が一って事もありますから」
クルスが全快になったのを見て、皆はホッとしている。
「よし!落ちた魔石や素材を回収して、ビラドに帰るか!」
「「「「ハイ!」」」」
こうして俺達は倒したモンスターが落とした魔石を始めとする素材を回収し、周囲を調査しながらビラド村へと戻っていった。
怪しそうな人物や現象も一通り確認したものの、それらしい要素は無かった。
「おぉ!皆さん、帰られましたか!」
「はい。元凶となっているモンスターは我々が討伐しました。もう安心ですよ」
「ありがとうございます。何とお礼をしたらよいのか……」
「良かったですね」
俺達は完了を報告すると、モーゼさんは大いに喜んでいた。
特にクルスはホッとしたような表情を見せている。
「本当に良かったのう」
「おぉ。テルゾさん。来ておったのか?」
「ッ!?」
応接室の奥から一人の男性が俺達の前に現れ、名前を聞いたクルスの表情が変わった。
「おやおや。貴方様方が今回のクエストを引き受けて下さったのですね……。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ……」
「……」
杖を突きながらゆったりと歩いている好々爺な雰囲気を与える白髪と立派な髭を生やした壮年の男性はテルゾ・ロッケルさんであり、村における相談役のような仕事を担っている。
今回のクエストを発注するように提案したのもこの方だ。
そして……。
「久しぶりじゃのう。クルス……」
「爺ちゃん」
「「「「爺ちゃん!?」」」」
(この方がクルスのお爺さんか……)
クルスの実の祖父でもある。
家族との再会にクルスの表情も綻んでいる。
「Bランクパーティーが対応するとは聞いておったが、まさかクルスやその仲間の方々とはのう。面白い事じゃ」
「そ、そうだね。僕もビックリだよ」
クルスはテルゾさんとの会話もそこそこに、俺達にも視線を向けた。
「皆様。クエストは完了となりましたが、この後はどのようになさるのかね?」
「既に日も暮れていますので、村にある宿屋で一泊してから帰ろうと思っております」
「そうか。でしたら、儂の家に泊まるとよい。客人4名を泊めるだけの部屋はあるし、クルスは自分の部屋で寝ればよい。ただ、若干埃は被っているから、掃除はある程度やってもらうがのう」
「いいの?爺ちゃん?」
「儂は構わんよ。それに、クルスの仲間ならば、歓迎しない訳にはいかん。悩みの種を解決して下さったお礼を込めて宴会も開こう」
「ありがとうございます。何か恐れ多いような……」
何とご厚意で宿代が省けて村全体で宴席の場を開いてもらえる事になった。
クルス曰く、今のテルゾさんは昔よりも身体を悪くしているものの、村を良くするのに長く貢献した実績もあってビラド村の相談役に就いており、村の中での発言力や権力もそれなりに大きいとの事だ。
今はまずまずの給料と若い頃からの蓄えで生活をしているようであり、裕福でこそないものの、日常生活を送るのに問題はないらしい。
偶にだが、クルスもクエスト達成で得た報酬の一部を送っている事を教えられた。
本当に良い奴だな。
それから夜を迎えて……。
「では、クルスの久々の帰省とトラブルの元の解決、そしてビラド村の発展や健勝を祈って……。乾杯!」
「「「「「乾杯~~!」」」」」
あっという間に宴会の準備が進み、村全体で開かれただけに規模も中々に大きかった。
クルスを中心に、俺達にも美味しい料理やお酒を振る舞われ、今回のクエストの件や冒険の事まで質問されたものの、悪い気分はしなかった。
「あ~。クエスト終わりのエールは最高だな!」
「そうですね!村の人達を見ていると、ホッとしますよ。今回のクエスト、引き受けて良かったと思っています」
「エレーナに治してもらったとは言え、身体は本当に大丈夫か?」
「はい。問題ないです」
「楽しんでおるか?クルスにトーマさん」
「爺ちゃん」
俺とクルスが話し込んでいると、テルゾさんが声を掛けてきた。
「それにしても、まさかクエストの中でお前と再会するとはな……。それも、別のパーティーの一員としてじゃが……」
「本当にそうだね。身体とかは大丈夫?」
「普通に歩いて人と喋る分には何も心配する事は無い。ただ、遠出するには人の手を借りなければいけないのが難点じゃのう」
「あははは……」
クルスは祖父であるテルゾさんと最近の事について話し合っている。
テルゾさんは冒険者として頑張っている孫のクルスの活躍を知っては誇らしく思っているようであり、新聞の切り抜きもしていると聞かされた。
自分の家族が上手くいって嬉しくない筈がないのだから。
セリカやミレイユ、エレーナも村人の方々と和やかで賑やかな雰囲気に溶け込みながら楽しんでおり、今日のクエストの疲れも吹き飛んでいるようにも見えた。
(今回のクエスト……。皆にとって……。特にクルスやミレイユにとっては意義のある内容になったかもな……)
俺はそう思いながらエールを飲み干した。
—————————————
◇
「う~。つい飲み過ぎたかも……」
「いつもの事でしょ!」
「まぁ、あの活気のある雰囲気でいたずらに断るのも失礼な気がしなくもないですからね」
俺達はテルゾさんが住んでいる家に案内された。
少なからず年季を感じさせる二階建ての木造建築であるが、セリカやミレイユ、エレーナが入っても窮屈ではない広さの部屋もあったりと、それなりに大きい。
俺は一人部屋で、クルスは冒険者になる前から使っている自室で泊まる事になった。
「それにしても、ビラド村の皆様は暖かくて良い人達ばかりでしたね」
「そうね。のどかな場所って感じがするよ」
仲間の生まれ故郷であるだけに少し贔屓目で見そうにはなるけど、エレーナやセリカの言う通り、緑のある賑やかな村だと俺も思う。
そこに今回のクエストでクルスを含めた俺達のお陰でトラブル解決に繋がったとなれば、また来た時はどんな風に迎えてくるのやらとも考えたが、もう一つ考えて対応しなければならい事がある。
「今後のためにも、あのどす黒い魔力を纏った“ワーウルフロード”については報告が必須だな」
俺は提供された一人部屋でそう思案するのだった。
「ふう。こうしてお前と二人で酒を飲むのは……二年ぶりくらいかのう?」
「それくらい経つんだね。意外とあっという間だと思うよ」
クルスはテルゾさんと居間で酒を飲み直している。
眠れない訳ではないものの、久しぶりにゆっくり飲みたいと言うテルゾさんの希望で飲み交わす事になったらしい。
それだけにセンチメンタルな雰囲気が流れている。
「して……クルスよ。最後にビラド村を訪れてから今日まで、激動の日々を送ったのではないかのう?」
「え?」
テルゾさんの何気ないような一言に対し、クルスは一種だけ固まった。
数秒の沈黙を経て……。
「そうだね。爺ちゃんと最後に会ってから今日に至るまで、長いようで短いけど、一緒に過ごす仲間の分にしても……。濃い時間を送ったって僕も思うよ」
そう言うクルスの表情には嬉しさと憂い、感慨深さと切なさが入り混じったようだった。
それから口を開き……。
「エレーナは伯爵家の令嬢出身なのに高い才覚含めてそれを鼻に掛ける事なく、謙虚で心優しい人格者であり、いつも助けられているよ。セリカは強くいつつも、思慮深さと勇気を兼ね備えている素晴らしい人であり、僕にとっても頼もしいと思っているよ。ミレイユは僕と似たような境遇を経験してきたけど、それに負ける事無く向上心を持ち続けて、仲間を……。誰かを思いやれる優しさを持っている人だよ。それで……。トーマさんは……。本気で僕達を思いやってくれる【トラストフォース】のリーダーであり、心から信じてもいい、僕を絶望から救ってくれた恩人だよ」
「ほう……」
クルスの話を聞いたテルゾさんの表情は柔らかかった。
まるで「仲間でいる事が誇らしいのだな」と示さんばかりに安堵と嬉しさが宿っており、それから俺達の事を話すクルスは活き活きとしていた。
初めて会った頃よりも本当に変わったな……。クルス……。
「それで、今回の“ワーウルフ”やその上位種の討伐のクエストを達成した……うむ。褒美と言うより、儂からもクルスに渡したい物があってなあ」
「渡したい物?」
「少し待っとれ」
それからテルゾさんは席を立って奥にある自室だろう部屋へと入っていき、一分が経った頃に戻って来た。
「爺ちゃん、この箱は……?」
「持っていけ。儂からの餞別じゃ」
机に置かれたのは細長い長方形の木製の箱であり、長い事保管されていたのか、ところどころが少し枯れているようにも見えるが、臭みとかは無い。
「開けてもいい?」
「もちろんじゃ!」
クルスは箱の蓋をそっと開けた。
「これは……?」
クルスの目に飛び込んだのは……?
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