第240話 王女様のお忍び
異世界ファンタジーならばよくあるアレなお話です!
晴れてBランク冒険者へと昇格する事になった俺達【トラストフォース】。
いつもの冒険者生活を送る中、ビュレガンセ王国騎士団東方支部のトップであるナターシャさんらと共にビュレガンセ王国第二王女のリリーネ・デュ・ビュレガンセ様を護衛し、王都ファランテスまで辿り着いた。
何とビュレガンセ王国を治める女王陛下であるアイリーン・デュ・ビュレガンセ様と謁見する機会を得た後、宴席の場まで招待されたのだった。
ビュレガンセの王宮にて、女王陛下のアイリーン様との謁見と宴席、そして重大な話をされて一夜を過ごした俺やセリカ達。
その翌日……。
「久々の王都の城下町だな」
「やっぱり栄えてますね~」
「改めて訪れると本当にそれだよな」
俺達はビュレガンセ王国の王都ファランテスにある城下町に来ている。
ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部に立ち寄り、組織のトップであるゼラカール・フォートレイン総帥との要件を済ませてから初めて訪れて以来だ。
改めて見ると、城下町には老若男女問わず、普通の民間人から冒険者らしき人物まで多種多様な人達で賑わい、活気に満ちていた。
「じゃあ、二度目の王都散策、行ってみるか!」
「「「「おぉお~~~!」」」」
俺達はまた王都の城下町を散策する事になった。
露店で串焼きやデザートを買って食べ歩きながら、服やアクセサリーが展示している店を見て回るウインドウショッピングも楽しんだ。
中でも……。
「ねえねえ!このワンピース可愛くない?バランスの取れた青と緑の感じとかさ~」
「それも良いね!こっちのパンツもカッコよくて可愛さも両立してるデザインで素敵よ!」
「それでしたらこちらのジャケットと合わせてみるのも面白いと思いますよ!それからこのブーツとか……」
「やっぱり女子の買い物は若干騒がしいな……」
「ですね……」
女性の買い物に付き合わされる気持ちに浸る俺とクルスを他所に、セリカとミレイユとエレーナは洋服についてテンション高く盛り上がっていた。
こうして見ると、キャッキャと楽しそうにしているセリカ達が可愛く見えて仕方がない。
王都には今日まで泊めてもらえる事をアイリーン様の計らいで許され、明日の午前中には発つ予定だ。
ビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長であるナターシャさん達は先に戻る事となり、それからは俺達と別行動となった。
ナターシャさん達もせっかくにと誘ったものの、「やる事が他にもあるから、申し訳ない。誘ってくれて感謝する」と断られてしまった。
生真面目でしっかりした人なのはもう分かり切っているけど、俺としてはどっかで休暇を取るなりして欲しいとも思っている。
そうしてのんびりと城下町を歩いている俺達だったが……。
「にしても、王都の城下町は本当に大賑わいだな。規模が段違いってところ以外はティリルに通じている部分があるよ」
「もっと言えば、グリナムのような緑が栄えている場所もありましたしね……」
「ここから少し歩けば、レグザリアのような場所もありますから、メインストリートには貴族の方々が見られますからね」
「そう言えばノイトレオもここから近かったですよね?」
「何か今まで巡ってきた街の特徴を詰め込んでいるような気がしますね」
「確かに……」
エレーナの指摘通り、俺達が巡ってきた街々の要素を大なり小なりとは言え、取り入れているのではないかと気付いた。
最初に訪れた事のなかった場所に赴いたのもあったが、改めて言われるとそう捉えざるを得なかった。
それでも、本当に色んな人達で賑わい栄えているこの城下町を見ていると、国の中心地は多面的に良い場所なんだと感じさせてくれる。
首都は国の象徴とも言われているが、今いるこのビュレガンセの王都ファランテスは正にそれだ。
そんな事を考えている時だった。
「ん?あれは?」
「クルス、どうした?」
「あの人……」
俺達は声を掛けられた方角を見やり、セリカ達もつられるようにその視線を向ける。
人気のない路地裏にはピンク色のカーディガンにスカートのカジュアルな装いに眼鏡をかけており、一見すると王都に住んでいる民間人だと思われるその女性は脚を怪我している子猫に【回復魔法】をかけて治していた。
ギフトは恐らく『僧侶』か『付与術士』、もしくは『治癒師』かもな……。
「はい!もう大丈夫よ!痛くないからね!」
「ミャァア~」
(この気配……)
「あ、あの……」
「ひゃい!?え……?」
クルスはこっそりその女性に近付いて声を掛けると、女性は素っ頓狂な声を上げながらビックリした。
俺達の方を見ていた女性も一瞬だけ固まっていた。
「トーマさん。クル……あ……」
(やばっ。名前出しちゃった!)
「「ん!?」」
女性は俺とクルスの名前を出したが、やってしまったと言わんばかりに口を紡ぐんだが、クルスが発した一言でその女性の正体が分かってしまった。
「もしかして、リリーネ様でございますでしょうか?」
「「「ッ!?」」」
「クルス。マジかよ……?」
「はい。前に王都の城下町に訪れてトーマさんと行動していた時、フード付きのパーカーを被っている女性とぶつかった事がありましてね。その時の気配とリリーネ様と相対した時の気配、そして……。今こうして向き合っている時の気配が一致しているんですよ。後、良く知る人とのリアクションもしていたのもあったのも一つですけど……」
「「「「……」」」」
そう言ったクルスの言葉を聞いた女性は……。
「よく気付かれましたね。そう、わたくしです」
「リリーネ様!?」
何とリリーネ様だった。
これってあれじゃないか?王族のお姫様がお忍びでぶらりと町を散歩するみたいな?
「「「「「……」」」」」
「立ち話も何ですし、場所を変えませんか?」
「そう……ですね……」
それから俺達はリリーネ様を連れて近くの喫茶店に入る事になった。
後に俺達は6人が入れる個室の部屋で話を聞いた。
「「「「「市場調査!?」」」」」
「はい!時々お忍びで、町に来ては王都に住まう人々の生活ぶりやどんなお仕事が栄えているか等を自らの目で調査しているんですよ!」
「それで……そのような格好で町に繰り出したと……」
「そうなんです!」
(どえらいアグレッシブな事を……)
リリーネ様が王族の着用するであろうドレスとは程遠い格好でいたのは、お忍びでファランテスの城下町に赴いてはその現状を調べるためにやっている事を知った。
王族として、王都の城下町がどんな風になっているかを知りたい気持ちが分からなくはないものの、随分と大胆な事をするんだなと思うしかなかった。
「そのカーディガンか眼鏡って魔道具ですよね?変装の類をするための……」
「独特な魔力を感じましたね」
「そうなんですよ!これは羽織り、掛けるだけでわたくしである事を隠し、別人だと誤認させるための魔道具なのです。伝手を辿って作っていただきました!」
(そんなドヤ顔で言われても……)
フフンと言わんばかりのリリーネ様の様相に俺達は多方面で凄いなと思わざるを得なかった。
ミレイユとクルスも達観したような様子だった。
リリーネ様が羽織っている認識を阻害させるための類の魔道具は腕のいい『錬金術師』でなければ作る事も難しく、今の俺達でも普通に買おうとすればかなりの金額が出ていくくらいに高価な物だと教えてくれた。
そんな貴重な魔道具をいくつも持っているのだから、王女様って、王族って凄いんだなと思うしかなかった。
「それにしてもクルスさん。認識操作効果のある魔道具を着用しているわたくしによく気が付く事ができましたね。部下にも優秀な『シーフ』のギフトを持つ諜報員も複数いるのですが、易々と見つける事ができなかったのに……」
「そうですね……。初めて王都の城下町に来た時、フードを付けた女性とぶつかった事がありまして、その時の気配とさっき見た気配が一致していたからだと思います」
「クルスは人の顔と名前を覚えるのが得意ですからね。そこに気配を感じ取る能力と合わせて、気付く事ができたのでしょう」
「凄いですね……。これを着ているわたくしを見抜ける方は中々いなかっただけに……」
クルスが気付けた理由を伝えると、リリーネ様は感心した様子を見せている。
前から人やモンスターの気配を感じ取る事に優れてはいたが、まさか魔道具による認識を誤認させる効果まで掻い潜るとは、恐れいった。
「そう言えば、市場調査のためにって仰ってましたけど、何故そのような。それこそ、今お召しになっている格好で……」
「一言で纏めるならば……。ビュレガンセを良くしていくためですわね」
俺が質問すると、リリーネ様は迷いなく答えた。
「こう見えてわたくし、自分の目と耳で感じた事しか信じない性分なんですよ。お城に籠ったままでは国民が本当に何を思い、考えて生きているかは分からないと思っているのです。
国民と同じ目線で考え、同じ悩みを共有し合って初めて、自分は王族だと認める事ができると。だからこそ、わたくし自身の手で道を切り拓いていく力を身に付けるための一つとして、お忍びで町を見て回っているのです」
「リリーネ様……」
「何よりもわたくし自身、立場に驕って横暴で器量の小さな人間になってしまいたくないのです。わたくしは真の意味で、人に寄り添える自分に……。そして、多くの人々を助けられる自分になりたいのです」
これまた驚いた。
ファンタジーでも結構ある王女様がお忍びでぶらりと言うのは本当だが、ビュレガンセと言う国の利益や今を生きる国民の幸せを考えての事であり、自分自身の成長の糧にしようとする気持ちや姿勢が本物である事を教えてくれた。
リリーネ様の姉であるミーシャ様も国を背負って頑張ろうとしている話を聞いているだけに、その気概を感じ取れた。
まあ、良く言えばアグレッシブな行動派で、マイナスな意味で言えばちょっとお転婆とも取れちゃうんだけどね。
「何か……。分かったような気がします」
「トーマさん?」
俺の言葉にセリカが頷く。
「私もこのビュレガンセとは違う国に行った事はございませんが、ティリルを始め、様々な街で多くの人々が強く逞しく生きていて、それでいて別々の個性を持っていると思います。それもこれも、リリーネ様達を始めとする王族の方々が正しい権力者としての自覚を持って治めている賜物だと私は考えています。アイリーン様。ミーシャ様。そして、リリーネ様が王族としてビュレガンセを治めているから、この国に生きている人達が笑顔で過ごせているお陰なんだと勝手ながらに思っています」
「トーマさん……」
俺がこの世界に飛ばされて初めて降り立ったのがこのビュレガンセであり、他の国に行った事はない。
だから他の国がどう良くて悪いか、どんな問題抱えているかどうかは現時点では分からないのもまた事実。
だが、リリーネ様のお陰で、ビュレガンセと言う国をもっと好きになるきっかけも与えてくれた。
俺がこの世界に飛ばされて主に過ごしてきた場所がビュレガンセと言うのはあるけど、冒険者として生きて、触れ合った人達の暖かさや優しさに触れたからっていうのが何よりも大きかったから。
こんなにも立派な王族がこの国を治め、国民の幸せのために動いてくれている事に気付く事ができたのだから。
「リリーネ様のお話を聞いて、アイリーン様やミーシャ様のお話を聞いて……。私はこのビュレガンセと言う国を一層好きになりました。私も冒険者を通して、この国を良くできる一助を担えればとも思います」
「わたくしもです」
「私もです!」
「僕もです!」
「私もです!」
「皆様……。ありがとうございます。そう言っていただけると、努力してきた甲斐があると自分を褒める事ができます!」
俺達の本心を聞いたリリーネ様は美しい花が咲いたような笑顔を見せてくれた。
それから城下町を一緒に散策する事になり、夕方に王宮へと戻っていった。
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