第238話 この世界は……
異世界に来た理由が分かります!
晴れてBランク冒険者へと昇格する事になった俺達【トラストフォース】。
いつもの冒険者生活を送る中、ビュレガンセ王国騎士団東方支部のトップであるナターシャさんらと共にビュレガンセ王国第二王女のリリーネ・デュ・ビュレガンセ様を護衛し、王都ファランテスまで辿り着いた。
何とビュレガンセ王国を治める女王陛下であるアイリーン・デュ・ビュレガンセ様と謁見する機会を得ただけでなく、宴席にまで招待される事となった。
そして……。
(アイリーン様は俺が異世界から来た人間である事を把握している?)
「その反応……。やはりそう言う事なのですね……」
「はい……。ですが、どうやって私が異世界から来た事を……」
「ウェシロスで起きたビュレガンセ王国騎士団西方支部の汚職事件でトーマ達の名前を知った事がきっかけですよ。それから王都ファランテスにあるビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部にもコンタクトを取って情報提供してもらいました。それを基に王国騎士団や諜報員達に調査させた結果、トーマが私達と住んでいる世界とは全く違う異世界から来た事が明らかになったのです。加えて、【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオからも確認が取れております」
「ッ!?」
アイリーン様の真剣で核心を突いたような表情を見て、俺はこれ以上誤魔化すのは不可能だと受け入れざるを得なかった。
「今まで隠していたようで申し訳ございません。私は……」
「そこまで怯えなくても大丈夫です。私の意志で聞いている事なのですから……。それに、私が存命している間に異世界より来た人間と出会えるなんて、心から幸運に思っているのですから」
「そ、そうですか……」
「はたまた、運命とも捉えているくらいですから……」
そう言うアイリーン様の表情は柔らかくあるが、どこか無邪気であり、こうして見ると、一国の女王と言うよりも普通の女性みたいだった。
「さて、私の感想はここまでとしまして、トーマ。今一度聞きたいのですが、一体どうやってこの世界に来たきっかけや経緯等を教えていただきたく思います。できる限り、具体的に……」
「は、はい……。では……」
打って変わって凛とした表情で見据えるアイリーン様に対し、俺は答えた。
俺が初めてこの世界に来た時の状況やそのきっかけを……。
「なるほど……。そのようにしてこの世界に来た……。いえ、来てしまったと言う事でしょうかね?」
「はい……。そうなりますね……。この世界に来る前まで、ショックな出来事が重なって、本気で異世界とかに飛び込んでみたいのような事を思っていたら、後は突然でしたね。それでセリカと出会って、色々あって現在に至ると言う訳です」
「そうですか……。やはり……」
「アイリーン様?」
話を聞き終えたアイリーン様はまるで納得したような様子を見せている。
俺は背筋を伸ばし、固唾を飲んで聞く姿勢を見せた。
数秒の間を置いてアイリーン様が口を開いた。
「私自身も完全な意味で断言する事はできませんが、トーマがこの世界に呼ばれたのは……。この世界の誰かが“招きの神の手招き”と言う魔道具を使われたんだろうと思っています」
「“招きの神の手招き”……?」
その言葉に俺は動揺せざるを得なかった。
「“招きの神の手招き”とは、この世でも特段に希少とされる。この世と全く別の世界を繋ぐ橋渡しを担うと言われている魔道具であり、トーマがこの世界に呼ばれた大きな要素だと考えています」
「そんな魔道具によって、俺がこの世界に……」
「トーマから聞いた話とこの世界に来た経緯を鑑みれば、その可能性が最も当てはまると思わざるを得ないと捉えています。私達で様々な資料を確認及び調査した“招きの神の手招き”の発動するトリガー……と言うよりも合致する条件や要素があったのです」
「合致する条件や要素。それは……?」
アイリーン様の真剣に見据えるような眼差しに俺は思わず気を引き締めていく。
数秒の間を置いて……。
「自分がいる世界とは別の異世界の存在を信じ、心から行ってみたいと言う純粋な想いを持つ事。それが条件だったのです」
「え?」
その答えはシンプルであったが、同時に意外だとも思った。
俺自身も前いた世界で生活している時からファンタジーの世界に常々憧れていた事は本当だったし、自分が住んでいる世界とは別の次元がある可能性も信じていた。
仕事柄、ファンタジーに触れる機会もかなり多かったため、それが異世界の存在を知らず知らずのうちに強めていた自分がいたと考えれば、説明が付かない事もない。
ただ、そのタイミングとやらがあまりにも突然だったから最初は困惑しかなかったけどね。
「確かに、この世界に飛ばされる直前まで、異世界に行けたらいいなみたいな事を本気で思っていましたし、その……」
「それ以上は語らなくてもよいのです。だが、こうしてトーマと相対した時に約束したい事が一つだけあります。どうか聞いて欲しいのです」
「はい……」
優しく言おうとするアイリーン様を前に、俺は改めて背筋をピンと伸ばした。
そして……。
「トーマがこの世界に来たのは運命の悪戯と呼んでも不思議ではない事であり、当の本人である貴方も只事で済ませていい事柄でないだろうと捉えています。だからこそ……。だからこそ、どれほどの月日を掛ける事になったとしても、トーマが元いた世界に戻るための手段や算段を見つけ出します。この私、ビュレガンセ女王陛下であるアイリーン・デュ・ビュレガンセの名の下にお約束します」
「あ、アイリーン様……」
「どうか……信じて託していただきたいのです」
そう言い切るアイリーン様の表情には確かな決意と覚悟が宿っており、頭まで下げる姿を見て、俺自身も本気でそう思えた。
本当にやり切ろうとしているんだと……。
「アイリーン様。お顔を上げて下さい」
「ッ!?」
「ご協力とお心遣い感謝します。確かにこの世界に飛ばされた時は驚きと困惑でいっぱいだったのは間違いありませんでした。ですが、そのお陰で嬉しい事もあるんですよ。夢に見ていた世界に自分がいるこのワクワクしている気持ちは今も消えていませんし、まだまだ味わってみたい事が沢山ある自分もいます。もちろん、危なかった事や悲しかった事もそれなりにありましたけど、何よりも……。セリカにミレイユ、クルスにエレーナ。冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】の仲間達。仲良くなった他の冒険者ギルドの人達。クエストを通して出会った人達。私にとって大切な繋がりが沢山できて、その中で過ごした時間は本当に有意義で充実した物であった事に嘘はありません。間違いなく、私にとってはかけがえのない大切な存在です。それはリリーネ様とミーシャ様、そして、アイリーン様も同じです」
俺はこの世界に飛ばされてから体験した事、見た事、聞いた事、感じた事、そして出会った人達の大切さを打ち明けた。
「それに、仮に私が前にいた世界に戻る手段を見つけたとしても、まだまだ今いる世界でできる事はやり尽くしたいとも思っています。ですからアイリーン様も自分を追い詰め過ぎないでいただきたいです」
「そのお言葉を聞けて、私も嬉しく思います。ありがとうございます」
そう言うアイリーン様の顔に笑顔が灯った。
正直に言って、俺が前の世界へ戻る方法を見つけたとしても、今立っているこの世界で体験できる事は許される限り体験したいし、ビュレガンセとは違う国も見てみたい。
何より、セリカ達ともっと一緒にいたいから……。
「少し長くなってしまいましたが、戻りましょう。まだまだお料理もお酒もございますので……」
「はい!」
俺とアイリーン様は宴席の場に戻っていった。
それからはリリーネ様とも食事と会話を楽しみ、会が進むにつれて皆リラックスしたような様相になっていき、緊張も解れてきた。
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