第232話 流氷の剣姫
ナターシャの実力の一部が垣間見えます。
晴れてBランク冒険者へと昇格する事になった俺達【トラストフォース】。
いつもの冒険者生活を送る中、ビュレガンセ王国騎士団東方支部のトップであるナターシャさんらと共にビュレガンセ王国第二王女のリリーネ・デュ・ビュレガンセ様を護衛する仕事に就く事となった。
「一匹は任せて下さい!」
「頼んだ!」
道中、“アーマーリザード”と言うモンスターが3体現れて襲い掛かって来た。
俺達はナターシャさんら騎士と共に対処へと動いた。
「速攻で片づけるぞ!クルス!」
「はい!」
「ガァアアア!」
俺はクルスと一緒に肉薄し、セリカはミレイユとエレーナを守るようなポジションに立った。
「ガァアア!」
「「フン!」」
「【炎魔法LV.1】『ファイヤーボール』!」
「ハッ!」
「ギャァアアアア!」
「トーマさん!懐へ!」
「おぉお!」
俺は“アーマーリザード”の頭に【炎魔法LV.1】『ファイヤーボール』をぶつけてダメージを与えながら煙を発生させ、クルスは投げナイフでその眼にぶつける。
早くも視界の半分を奪われた“アーマーリザード”は痛みで仰け反っていた。
その瞬間を……。
「フン!」
「ヤァア!」
「グガァアアア!」
俺とクルスは一瞬で間を詰めて、“アーマーリザード”の腹部を斬り裂いた。
外側は硬い鱗で覆われているものの、その内側は柔らかいため、上手くそこを突けば討伐するのは難しくなく、それを証拠として示すように、虫の息となっている。
追い討ちを掛けるように俺が踏み込む。
「【剣戟LV.2】『地雷斬』!」
「ガァアアアアア!」
俺は剣の形にした“ヴァラミティーム”を振りかざし、“アーマーリザード”の身体を斜め一閃に振り下ろして斬り裂く。
致命傷を負った“アーマーリザード”の身体は魔石を残し、光の粒子となって消えた。
「よし!」
「こっちは片付きましたので、ナターシャさん達の援護に……」
「そうだな。大丈夫と思いたいが、駆け付けよう!」
俺達はナターシャさん達の下に向かおうとした。
「うわぁあああ!」
「ッ!?」
騎士達は別の“アーマーリザード”に苦戦しているようだ。
護衛を担うだけの実力はあるものの、やはりモンスターを相手にするのは若干向いてないようであり、押され気味だった。
鋭い鉤爪が一人の騎士を捕えようとした時だった。
「【土魔法LV.1】『アースバインド』!」
「ゴアッ?」
「【付与魔法LV.2】&【回復魔法LV.2】『オーバーヒール・ブレイク』!」
「ガァアアアアア!」
「今です!」
「オリャア!」
「グギャァアアア!」
俺は【土魔法LV.1】『アースバインド』による土を操って“アーマーリザード”の右腕を掴んで一瞬だけ動きを止め、エレーナの追撃によってその身体をグズグズに崩壊させていく。
普段はお淑やかなエレーナの中々にえげつないその攻撃魔法を見る度にギャップを感じざるを得ないが、改めて見ると強力だと感じさせる。
完全に怯んだところに騎士達が切り裂いて致命傷を与え、その身体は粒子となって消えた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう。助かった」
「貴殿らがいてくれて良かったよ」
「いえ、滅相もないです」
助けた騎士達からお礼の言葉を言われた俺達はすぐに気持ちを切り替えて、最後の一体を相手にしているだろうナターシャさん達の下に行こうとする。
エレーナは手傷を負っている騎士数名に【回復魔法】を施している。
「え?」
「あらら……」
「トーマ殿達も終わったか?」
「はい」
俺達が駆けつけた頃には、ナターシャさん達も“アーマーリザード”の討伐を終えていた。
流石は騎士団支部の隊長と言ったところか。
「クルス。他にモンスターは……」
「はい。探ってみますね」
俺はクルスに別のモンスターがいないかを探らせる。
すると……。
「ッ!?もう一体います!さっきのよりも強い気配が!」
「何!?」
クルスが“アーマーリザード”以上に怖気を覚えそうな気配を感じ取って声を張り上げた。
地響きと共に現れたのは……。
「ゴガァアアアア!」
「コイツも“アーマーリザード”か?いや、しかし……」
同じく“アーマーリザード”だが、俺達が先ほど倒した個体よりも一回り以上大きい。
どうやらボスのようだ。
「デカい……」
「恐らく先ほど僕達が倒した奴のボスかと……」
「グルルルル……」
「ナターシャ隊長?」
再び戦闘態勢を整える俺達だが、それを他所にナターシャさんが前に出る。
「私が相手をしよう」
「しかし、隊長……」
「あなた達は姫様の守りを固めて。それに……」
ナターシャさんの部下の騎士達が心配するのを他所に、彼女は淡々と指示を飛ばした後、俺達に視線をやった。
「トーマ殿達にも、私の力の一端を見せておきたいと思ってるの」
何と一人で相手取る姿勢を見せた。
騎士団支部の隊長だから実力は問題ないとは思うけど、万が一って事もあるから、いざという時は乱入してでも助けるつもりだ。
そう思った瞬間だった。
「ガァアアア!」
(速い!)
ナターシャさんは凄まじいスピードで“アーマーリザード”との間合いを詰めていった。
「【水魔法LV.2】『アクアジャベリン』!」
「グォオ!?」
「【氷魔法LV.2】『メガブリザード』!」
「ガァアアアアア!」
水の槍を生成した【水魔法LV.2】『アクアジャベリン』は“アーマーリザード”の頭に飛んで行くが、鎧のような鱗で覆われた腕で防がれてしまった。
だが、少し削れている事から、全くダメージがないわけではない。
そこに間髪入れずに【氷魔法LV.2】『メガブリザード』で右半身を凍らせていった。
「それにしても、『軽戦士』なのに【風魔法】や【雷魔法】がメインじゃないタイプの人を初めて見た気がするんだけど……」
「私もですよ……」
「飽くまでもその傾向が目立つだけですからね」
俺が思った言葉に対し、セリカとクルスが渇いたような口調で漏らす。
『軽戦士』のギフトを授かった者は【剣戟】スキルや【風魔法】を主に習得しやすくなり、更には【雷魔法】も習得するケースも多く聞いている。
但し、それは傾向があるだけであって、『軽戦士』だから【風魔法】や【雷魔法】しか会得出来ないなんて事はない。
形は変わるけど、Bランクパーティー【ディープストライク】の一員であるマーカスさんも『重戦士』ながら、【水魔法】や【氷魔法】を得意としているようなパターンもある。
また一つ、新しい発見をしたと思った。
「ガァアアアアア!」
「ムッ!」
(まだ足掻くか……。だが……)
「ハッ!」
「ギィアアアアアア!」
必死に足掻く“アーマーリザード”に鋭い袈裟切りを浴びせるナターシャさん。
続いて彼女は少し距離を取った後、魔力を練り上げていき、白が混じった群青色のオーラを身体と細剣に纏わせていく。
その研ぎ澄まされた魔力とオーラは見ている俺達でもハッキリ認識できるくらいに洗練されているのが分かる。
「【剣戟LV.2】&【氷魔法LV.2】『フリージングスラスト』!」
「ギャァアアアア!」
眼にも止まらぬスピードで踏み込み、懐に入ったナターシャさんは“アーマーリザード”の腹部を正確に貫き、そこからいくつもの氷柱が突き出している。
外側からがダメならば内側から攻めるってのが一目で分かるものの、モンスター相手とは言え中々にえげつない一撃だ。
致命傷を負った“アーマーリザード”の身体は魔石を残し、光の粒子となって消えた。
「クルス殿!他にモンスターは!?」
「モンスターの気配はありません!」
「よし!これで大丈夫だな!」
「「「「「オォオオオオ!」」」」」
「あの“アーマーリザード”を相手に無傷とは!」
「流石はナターシャ隊長だ!」
「いつ見ても惚れ惚れしそうな剣捌きと魔法だぜ!」
ナターシャさんはクルスに他に潜んでいるモンスターがいないかを確認させたところ、どうやら問題がないようだ。
他の騎士達もナターシャさんの戦いを見ていて歓喜の声を上げた。
「引き続き、姫の護衛に戻るぞ!」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
「「「「「はい!」」」」」
ナターシャさんの凛とした号令に彼女の部下の騎士達だけでなく、思わず俺達も背筋を伸ばして返事をしてしまった。
それから馬車は再び王都へと足を進めていった。
「トーマ殿。皆。先ほどはありがとう。感謝している」
「いえ、とんでもございません。流石はビュレガンセ王国騎士団東方支部の隊長。一人で相手取って討伐するなんて凄いですよ!」
「【水魔法】と【氷魔法】による剣術のコンビネーション攻撃は私も見ていて感動すら覚えました!」
「騎士として当然の事をしたまでだ」
俺達はべた褒めしたが、ナターシャさんは涼しい顔で言葉を返していた。
史上最年少でビュレガンセ王国騎士団の一支部の隊長を担い、『流氷の剣姫』と言う二つ名を持つだけあって、身体能力、剣技に加えて魔法のクオリティやレベルが相当優れているのを再認識した。
騎士でいながらもモンスター討伐もお手の物とは恐れ入るしかない。
「私も少しだけ見えていたのだが、トーマ殿達も見事な立ち回りだったぞ。流石はBランクパーティーと言ったところだ」
「え?」
「自分が倒すべき相手を倒しただけでなく、押されていた私の部下も助けてくれたそうだな。貴殿らがいなかったら、何人も負傷者を出していたか分からなかった。本当に感謝する」
「あ、頭を上げて下さい!」
初対面の時から思っていたが、ナターシャさんはクールで冷静なポーカーフェイスに見えるものの、内面は謙虚で礼儀正しく、認めるべきところは素直に認める潔さを持っている。
一支部の隊長を任されるのも、実力や知性だけでなく、こう言った人格面によるのも大きいと勝手ながら思っているくらいだ。
「今回の護衛を請け負ってくれたのがトーマ殿達で良かったと心から思う」
「ありがたきお言葉です」
騎士団支部の隊長でありながら、その感謝の言葉と振る舞いは本物と感じ取れた。
本当に良くできた女性だ。
ビュレガンセ王国騎士団西方支部の前隊長で貴族と汚職に走った挙句に投獄されたノージンやそいつに加担した奴等にも爪の垢を煎じて飲ませたいと思ったのは、俺だけじゃない筈だ。
再び馬車を走らせて数時間……。
「そろそろ王都に着く頃だな。降りる準備をしていただきたい」
「分かりました」
俺達やリリーネ様を乗せた馬車は王都ファランテスまで目と鼻の先まで来た。
王都のメインストリートを通っていき、改めて見ると、ティリルとは比較にならないスケールだ。
だが、今回は観光目的ではなく、リリーネ様の護衛のために来ているので、安易な気持ちでいるのは考え物だから再度気を引き締める。
それから向かったのは……。
「さぁ。降りるぞ」
「はい!」
(ここが……)
ナターシャさんに促されて降り立った場所。ファンタジーの世界であれば到底切り離す事の出来ないロマンの中のロマンと言っても大袈裟ではない。
王都ファランテスにある数々の大きな建物の中でも他を突き放すような規模と荘厳さ、そして威光を感じざるを得ない建造物。
(ビュレガンセの王宮……)
そう……俺達はビュレガンセの王族が住まう王宮。その門まで来たのだった。
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