第220話 振り返りと気付き
いつもの冒険者生活を送る中、【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんからBランクの昇格を懸けたクエストに挑む事を進言された。
Bランクパーティー【ウォールクライシス】のリーダー格であるリカルドさん達から監督される形で森林型のダンジョン攻略に挑む事となり、ダンジョンのボスモンスターである“レッドブルーバイコーン”と交戦し、激しい戦闘の末に俺達は勝利し、ダンジョン攻略を成し遂げた。
翌日————————
「じゃあ。俺達はもう一仕事終えたらティリルに戻るつもりだ!先に戻っててくれ!」
「ハイ!今回は本当にお世話になりました!」
俺達はBランクの昇格を懸けたクエストの監督を担って頂いたBランクパーティー【ウォールクライシス】のリーダーであるリカルドさん達に頭を下げた後、馬車に乗り込んだ。
Bランクの昇格を懸けたクエストに挑む為に訪れたノイトレオを発つ事にした。
他にやる事がないのもあるけど、帰って休みたい気持ちもあったからね。
「いや~!今回は色々と大変だったよな~」
「そうですね。でも、やり切れたって私は思いますよ!」
「僕もです!」
「わたくしもです!」
「あのボスモンスターは本当に強かったって改めて思いました!」
俺達は馬車の中で昇格を懸けたクエストについて振り返っている。
すると話の中で上がったのは……。
「“レッドブルーバイコーン”の魔法攻撃、あれは強力でしたね」
「あぁ。モンスターで3種類以上の魔法攻撃をしてくるのは初めてだったな。【土魔法】や【岩石魔法】を使って来た“フライングタイガー”が可愛く思えたわ」
「確かにな……」
「“フライングタイガー”って飛行性能を持ちながら、魔法攻撃を備えたモンスターの事ですよね?」
「うん、そうだよ」
「その時って、エレーナが加入する前の話だったからね」
「ダンジョンのボスモンスターでこそはなかったけど、当時の僕達から見れば、とんでもない苦戦を強いらされていたから……」
「そうだったんですね……」
(そう言えば、俺とセリカ、ミレイユとクルスが“フライングタイガー”とやり合った事を知らなかったっけ……)
こう言ってはあれだが、Cランクの昇格を懸けたクエストの最中で出くわした“フライングタイガー”は当時の俺達から見ればかなりの強敵だったと思っている。
あの時は個々の連携や立ち回りにミスがあったら大怪我かそれどころではないダメージを負っていた可能性が大いにあったし、何よりもユニークスキル【ソードオブシンクロ】を戦いの中で目覚めていなければ勝てなかったかもしれない強敵だった。
Bランクの昇格を懸けたクエストで遭遇したダンジョンのボスモンスターであった“レッドブルーバイコーン”もまた、立ちはだかる試練として相応しいと思っているし、セリカ達も同じ事を考えているだろう。
エレーナのサポート、ミレイユの援護と機転、クルスの新しい武器を活かした戦法、セリカの新技が噛み合わなかったら、乗り切る事ができなかったかもしれない。
「思い出したんだけど、エレーナが“レッドブルーバイコーン”の片脚に何か魔法を掛けた場面があったんだけど、あれって……?」
「あぁ。あれは【付与魔法LV.2】&【回復魔法LV.2】『オーバーヒール・ブレイク』って言う技ですよ。あれも一種の攻撃技なんです」
「【回復魔法】で攻撃って……」
ミレイユはエレーナが使っていた魔法について質問すると、彼女は答えてくれた。
「【付与魔法】によって対象の部位に【回復魔法】を集中的に掛ける事で、身体に過剰な回復を促すんですよ。過剰な回復を引き起こされる事によって、モンスター等の生物の細胞や皮膚等の人体を構成する組織を破壊するんですよ」
「何つーか、健康なのに風邪薬や回復ポーションを過剰に飲んだら逆に不健康になるような現象をモンスターとかに与える魔法って感じだな」
「イメージとしてはそう捉えて問題ありません」
エレーナの説明を聞いて、その技の恐ろしさを俺達全員が理解した。
ポーションや薬は身体の怪我や病気を治すためにあるものだ。
戦いで傷を負った時、高熱になった時、何かしらの病気にかかった時には身体を癒す薬を服用すればいい。
だが、それは身体に異常がある時の話であり、健康そのものなのに服用すると逆に身体を悪くしてしまう。
言うなれば、エレーナの【付与魔法LV.2】&【回復魔法LV.2】『オーバーヒール・ブレイク』はその現象をより誇大に再現させているような技だ。
「ただ、この技には欠点もございますよ。過剰回復によるダメージを与えると言う性質から、怪我をしている相手にはダメージを与えるどころか、逆に回復を促してしまうせいで却って敵に塩を送る形になってしまうんです。だから、無傷の相手に使わなければ、大きな効果は見込めないんですよ。加えて、人間にしてもモンスターにしても、生物ではない相手には全く効果がないのです。それこそ、“ゴーレム”とか……」
「なるほど……」
「誰でも効いたら、本当の本当に反則級よね……」
どんなに強力な技やスキルでも、本当の意味で完全無欠な要素は持っていないと言う事であり、何かしら一つは欠点があるという物だ。
だが、エレーナがそんなえげつない攻撃手段を持っていた事を思い出すと、戦慄してしまう俺がいるのも事実だ。
「あんな攻撃手段を持つエレーナって……俺達の中でも意外とえげつなかったりするのかな?」
「かもしれないですね」
「トーマさん。セリカさん。何か?」
「「いや、何でも!」」
俺は耳打ちで確認したセリカと一緒にエレーナから得も知れない牽制をされたのであった。
「僕もずっと気になっていた事があるんですけど、“レッドブルーバイコーン”が放っていた破壊光線みたいな物ですけど、【炎魔法】と【氷魔法】の複合によって放たれたのではないかって思っているんですよ!あれも凄まじかったなって……」
「あれは【炎魔法】と【氷魔法】を会得している者にしか使えない『ヌルマナ』って言う特殊な魔力で生成された破壊光線よ。『ヌルマナ』を凝縮した魔法攻撃は何もかもを消し飛ばすような力を発揮するのよ。まさかモンスターで使ってくるとは夢にも思わなかったんだけどね……」
クルスの話にミレイユが説明した。
「そう言えば、それを見た時のミレイユって、防御ではなく回避する事を大声で張り上げながら叫んでたな。実際に破壊力ヤバかったし……」
「【炎魔法】と【氷魔法】を使える人にしか『ヌルマナ』を発生させる事ができない上に、それをコントロールして攻撃魔法を編み出せる『魔術師』も相当少ないって聞いた事があるんですよ。それこそ、Aランク相当の『魔術師』やそれに類する実力者でないと……」
「なるほどね……」
“レッドブルーバイコーン”が見せたあの強力な光線は【炎魔法】と【氷魔法】を使えれば誰でもできる事ではなく、相当なセンスや技量の持ち主でなければ攻撃魔法として撃つ事も叶わないと聞かされた。
ミレイユ自身も暇を見つけては『ヌルマナ』を生み出し、扱うための修行はしているものの、現時点では実際に使いこなせていないとの事だ。
「モンスター。それもダンジョンの魔力を受けたボスモンスターがその『ヌルマナ』を使ってきたら、そりゃ焦るわな……」
「『ヌルマナ』についてはリエナさんから聞いていたんですけど、その情報が無かったら、私達ボロボロになっていたと思いますよ」
「にしても、あの“レッドブルーバイコーン”がその破壊光線を撃とうとした時、ミレイユは【炎魔法LV.1】『ファイヤーボール』で妨害したら、暴発したんだよね。それって何か関係があるのかな?」
「【炎魔法】で熱気を、【氷魔法】で凍気をそれぞれ掛け合わせる事で『ヌルマナ』を生み出すんですけど、双方をバランスよく調整するのが大前提であって、どちらかが強すぎれば目の前で暴発しては自分がダメージを受けてしまうんですよ。繊細なコントロールが求められる場面で外側から【炎魔法LV.1】『ファイヤーボール』をぶつけてやれば、そのバランスが滅茶苦茶になって自爆するかなって思いながらやったら、上手くいったって訳です……」
「そうだったんだな……。ありがとう」
改めて思い返せば、ミレイユが援護して暴発を誘わなかったら万事休すだったからな。
援護してくれた事に加え、咄嗟の機転で窮地を切り抜けるきっかけをくれた彼女には感謝しかない。
そうしてしばらくすると……。
「皆……ありがとうな……」
「トーマさん?」
「皆がいてくれたから、俺達はあの状況を乗り越える事ができた。ありがとう!」
「「「「……」」」」
俺は感謝の気持ちを素直にセリカ達へ伝えた。
「わ、私こそ……」
「ねぇ」
「僕も感謝してますよ」
「わたくしもです!」
そんな暖かな空気に包まれながら、馬車の旅が続くのだった。
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