第219話 楽しい打ち上げ
クリスマスなだけに、今回のお話は賑やかな宴席です!
いつもの冒険者生活を送る中、【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんからBランクの昇格を懸けたクエストに挑む事を進言された。
Bランクパーティー【ウォールクライシス】のリーダー格であるリカルドさん達から監督される形で森林型のダンジョン攻略に挑む事となり、ダンジョンのボスモンスターである“レッドブルーバイコーン”と交戦する。
激しい戦闘の末、俺達は勝利し、ダンジョン攻略を成し遂げた。
「そんじゃ。トーマ達のダンジョン攻略とBランク昇格を懸けたクエストの終了を祝って、乾杯~!」
「「「「「「「「「乾杯~~!」」」」」」」」」
俺達はリカルドさん達と宿屋の近くにある酒場に来ている。
ダンジョンから帰って来たのもあって、全員が活き活きとしている。
「「「お代わり!」」」
「早ッ!」
「あの3人はよく飲むからな」
開始早々、リカルドさんとブラゴスさん、レミーさんは一杯目のエールを飲み干してお代わりを要求した。
ウォードさんがそれを耳打ちする形で俺に教えてくれた。
見るからに飲みそうな気はしていたからね……。
「あ~。一仕事終えた後のエールは堪んねえな~!だろ?」
「そうですね。頑張った~って実感できますよ!」
「あぁ。本当に頑張ったよ!ダンジョンのボスモンスターがあの“レッドブルーバイコーン”だって分かった時にはどうなるのかって思ったくらいだからな!けど、お前らは勝った!大したモンだぜ!」
「ありがとうございます」
リカルドさんはダンジョンに潜っている時のシリアスな振る舞いと打って変わって、フランクで快活な表情を見せながら、俺達を褒め称えてくれた。
野生の個体でもCランクパーティーでも勝つのが困難を極めるとの事であり、ダンジョンの魔力を吸収していた“レッドブルーバイコーン”はBランクパーティーでも討伐が厳しいとされている。
過去にリカルドさん達も野生の個体と遭遇して討伐した経験があり、ダンジョンのボスモンスターとして現れた時は驚きを隠せなかったとの事だ。
「個々の実力もそうだが、何よりチームプレーが素晴らしいって思っている。“レッドブルーバイコーン”は知性にも優れているモンスターであるだけに、尚更な」
「あぁ。事前準備も良かったんだろうが、それぞれが信頼し合っていなければ、あれほどのクオリティやスピードで連携を取って動くのは相当難儀だぜ」
「は、はぁ……」
「前衛・後衛・支援までのコンビネーションやダンジョン内での動き方まで淀みなかったし、一人一人の役割を的確にこなしているのが良く分かったよ」
「あ、ありがとうございます……」
ウォードさん、ブラゴスさん、アリエスさんはお世辞抜きで俺達の事を褒めているようであり、素直に嬉しくなった。
「あたし、一つ気になった事があるんだけど……。クルス」
「はい?」
「アンタ、ロングナイフや投げナイフ以外にも何か特殊な形をしたナイフを使ってたわよね?見せてもらってもいい?興味あるのよ」
「大丈夫ですよ。どうぞ」
レミーさんはクルスに興味を持っているのか、彼は“レッドブルーバイコーン”との戦いで使っていたカランビットナイフを取り出した。
「おぉ。ものの見事に真っ黒、いや、漆黒と言うべきね」
「刀身だけでなく、柄までも黒いな」
「ハイ!サブウエポンの意味でトーマさんに買っていただけました!」
「光が反射しないような特殊加工がされている。薄暗い場所で使えば、太刀筋もほとんど読ませないな」
「高かったでしょ?」
「オーダーメイドって類ではありませんでしたが、120万エドルしました!」
「やっぱりね」
「特殊な方法で作られた武具は高いと言うが、これも例に漏れずか……」
今度はクルスが使っている黒塗りのカランビットナイフで話が盛り上がった。
同じ『シーフ』であるレミーさんは随分と興味を示しており、リカルドさん達もどこか夢中になっている。
「いいなぁ。欲しいな」
「僕のですよ!」
「冗談よ!ハイ!自分で買うからさ」
「レミー。いつになく上機嫌だな」
「当然でしょ!若くて将来有望な『シーフ』が現在進行形で育っているんだもの。同じギフトを持つ者としては嬉しい事この上ないわよ!ね!ウォード?」
「ん?」
酒が入ったレミーさんは少しほろ酔いになっているのか、ジョークを飛ばしては場を和ませたかと思えば、今度はウォードさんに話を振った。
するとウォードさんはミレイユの方に視線をやり、数秒ほど沈黙した。
「そうだな……。ダンジョンを見ていて思ったんだが、ミレイユが使えるのは【炎魔法】に【爆撃魔法】、【水魔法】と【氷魔法】で合ってるか?」
「はい。合ってますよ。【炎魔法】と【水魔法】はLV.3で、【氷魔法】と【爆撃魔法】LV.2まで会得していますよ」
「なるほど……」
ウォードさんの質問に対し、ミレイユは正直に答えた。
「ミレイユ……。だけに限らず皆も見ていたと思うが、“レッドブルーバイコーン”が破壊光線みたいな攻撃をしていたのは覚えているか?」
「あぁ、あれだろ?『ヌルマナ』……。だっけ?」
「そうだ。【炎魔法】と【氷魔法】を会得している者だけが生み出せると言う特殊な魔力だ」
「……」
ウォードさんが出した『ヌルマナ』と言うワードに対し、少しの緊張が走った。
「ミレイユ。“レッドブルーバイコーン”が『ヌルマナ』を伴った破壊光線を放った時、防御ではなく回避をするように叫んでいたけど、前から知っていたのか?」
「はい。Bランクパーティー【ブリリアントロード】の『魔術師』であるリエナさんから本当にさわり程度ですけど、『ヌルマナ』について知りました」
「リエナ?あぁ。アイツから聞いたのか?」
「そうですね。……ってウォードさん、リエナさんの事を……」
「そりゃ知ってるぜ。【土魔法】と【岩石魔法】を得意として、【水魔法】と【氷魔法】の技量やセンスに関しては俺が知っている『魔術師』の中では上位にいると踏んでいる」
「本当ですか?」
ウォードさんはそれを聞いて、サラッとリエナさんの事も褒めているようだった。
思い返せば、俺達はウェシロスで起きた事件で“ゴーレム”の改造手術を施された“メガオーク”と交戦した際、そこにリエナさんもいた。
リエナさんの魔法、特に【氷魔法】による援護や防御は本当に頼りになったと言っても大げさではないし、彼女がいなければ生きて帰れた保証も無かったと思っているくらいだ。
「そんで話は変わるけどミレイユ。お前はその『ヌルマナ』を発生させるための条件を持っているって訳だ。だから……その……。俺としては……ミレイユがどう化けるのかは楽しみにしていない事もない」
「ウォードさん……」
酒を飲んでいるだけに顔が赤くなっており、その力のお陰なのか、ウォードさんはどこか照れ臭そうに、間接的にミレイユに期待を寄せているようだった。
「何~。楽しみにしてない事もないって、ツンデレ?いつになくキザっぽい事言っちゃってる~!」
「男性のツンデレは恋愛に効果無しだと思うよ~?」
「やかましい!俺はだな……」
「「「「「「「ハハハハハハ!」」」」」」」
レミーさんとアリエスさんに軽く茶化されたウォードさんは半ば強引にその場を収めるように窘めた。
普段はクールで理知的な印象のあるウォードさんだけど、飲みの席ではユーモアのある一面を見せるんだって思わせてくれた。
それからしばらく酒の場が和やかに盛り上がりつつある中……。
「あの~。アリエスさんに一つご質問があるのですが……」
「ん?どうしたの?エレーナ?」
会話が静まりかける中、エレーナはアリエスさんに一つの質問を投げかけた。
「クエスト中に聞くのも不躾と思って伏せていたのですが、アリエスさんとBランクパーティー【ディープストライク】の『僧侶』であるエルニさんと同じ苗字をしておられますが……」
「!?」
俺を含めてセリカやミレイユ、クルスが思っていたであろう疑問をエレーナがサラッと吹っ掛けた。
クエストはもう終わったとは言え、さり気なく核心を突くような質問をしてくるのもエレーナである。
「もうクエストも終わった事だし、抱いているだろう疑問に答えるのもいいって判断して言うわ。エレーナの言う通り、Bランクパーティー【ディープストライク】の『僧侶』であるエルニは私の実の妹よ」
「「「「!?」」」」
(やっぱりか……)
アリエスさんはエルニさんの実の姉である事を素直に明かした。
聞けばアリエスさんが『職授の儀』で『付与術士』のギフトを授かり、冒険者になって少しした頃からリカルドさん達の目に留まり、サポートに優れた人物を欲していた彼らの誘いを受けて、【ウォールクライシス】の一員になったとの事だ。
本音を言えば、妹であるエルニさんと一緒に活動したかったところだったが、結局それは叶わなかった。
エルニさんが『僧侶』のギフトを授かった時には、「粘りに粘って待てばよかったかも」と後悔していたらしかったが、お互いに冒険者に向いたギフトなのもあって、今では割り切っているらしい。
今は隙間時間を作って互いに会って近況報告や情報共有し合っているのだが、ここ数カ月は中長期のクエストが重なっているのもあって、それもできていないと聞かされた。
文通で大まかな状況は互いの近況を知り合っているようだが、姉妹なのに会えないでいる状況が続くのは、もどかしい気持ちになりたくなるのも無理は無い。
俺達は最近のエルニさんについて知っている事をアリエスさんに教えた。
「そう……。エルニ……頑張ってるんだね。所属しているパーティーメンバーの役に立って、トーマ達の事も助けてくれて……。新しいメンバーとも仲良くやっていて……」
「はい。立派にやっているって俺達は思いますよ……」
「そう……。小さい頃は私にお姉ちゃん、お姉ちゃんって言っていたあの子が……」
(え?アリエスさんって泣き上戸?てか、シスコン?)
エルニさんの最近の状況について聞いたアリエスさんは少し涙ぐんでいた。
離れていても、実の妹の事を可愛く思っているんだな。
それを見ていると、Bランクパーティー【デュアルボンド】に属しているエリーさんとサーシャさんの異父母姉妹を思わせる。
血は繋がっていないけど、本当の姉妹のように仲良しだからな……。あの二人。
「エルニに会ったら、私はしっかり頑張ってるって伝えておいてね」
「は、はい……。勿論でございます……」
俺達はアリエスさんに懇願染みたような頼みを請われ、それに応えた。
それからは思い付いた限りの話題を出しながら、お酒を飲み、美味しい食事を楽しんだ。
(あぁ……。楽しいな……)
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