第215話 ヌルマナ
久しぶりにミレイユ目線の話になります!
いつもの冒険者生活を送る中、【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんからBランクの昇格を懸けたクエストに挑む事を進言された。
Bランクパーティー【ウォールクライシス】のリーダー格であるリカルドさん達から監督される形で森林型のダンジョン攻略に挑む事となり、私達は奥まで進み、ダンジョンのボスモンスターである“レッドブルーバイコーン”と相対している。
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回想・ベカトルブに出発する数日前———————
「ミレイユって【炎魔法】と【氷魔法】は今の時点でどのくらいのレベルまで習得しているのかな?」
「【炎魔法】はLV.2で【氷魔法】はLV.2までモノにしています。【水魔法】はLV.3まで行ってますよ」
「へ~。その年で【氷魔法】のLV.2を会得しているなんて、センスあるわね」
「ありがとうございます」
私は【ブリリアントロード】の一員であり、『魔術師』のリエナさんから特に教えを受けていた。
同じギフトを授かっている事と【水魔法】や【氷魔法】を得意とする者同士と言うのが大きかったんだけどね。
リエナさんとは魔法による戦術や役回りについて実践を通して鍛錬を重ね、お互いに気付いた点を伝え合う事で、それぞれの実力向上に役立てていった。
Bランクの『魔術師』なだけにリエナさんの実力は本物だったため、思い返せば、勉強になる事が沢山あった。
そんなある時、リエナさんから教えてもらった情報があった事を思い出した。
「『ヌルマナ』?」
「私は【炎魔法】が使えないから上手く説明できないけど、【炎魔法】から発せられる熱気と【氷魔法】から発せられる凍気を複合させる事で、消散作用を帯びた魔力を発生させ、それを練り上げてぶつける魔法があるのよ。魔法によって生じる熱気と凍気を融和させる事で、消散作用を持った魔力が作り出されるの。別名『ヌルマナ』。それで作り上げられた魔法を受けてしまえば、名前の通り、跡形もなく消えて無くなってしまうわ」
「話だけ聞いていたら物騒な魔法ですね……」
簡単に言えば、【炎魔法LV.1】『ファイヤーボール』は熱気を、【氷魔法LV.1】『フリーズショット』は凍気を魔力によって形成させ、それぞれを炎の玉や氷の弾丸として放つのではなく、バランス良く融合させて放つって事だ。
リエナさん曰く、【炎魔法】の熱気と【氷魔法】の凍気を入り混じらせる事で、感知に力を入れないと全く分からないくらいに微弱だけど、消散作用を帯びた魔力、『ヌルマナ』が発生すると教えてくれた。
【炎魔法】と【氷魔法】をバンバンと放てばそれが発生する言う意味ではなく、魔力を帯びた熱気と凍気が周囲の温度や湿度に至るまで、最高の状態で調和して初めて生まれるとの事だ。
微弱だったら自然に空気の中で霧散してしまうため、気にする者も少ない。
「もしかしてリエナさん、私がその『ヌルマナ』を生み出せる力があると……」
「今は知識の一つとして、頭の片隅に置く程度で構わないわ。飽くまでも可能性の話のつもりで言っているだけだからさ」
「は、はい……」
「それに、【炎魔法】と【氷魔法】を会得していれば誰でもできる類の物じゃないのよ。魔力量は当然だけど、【炎魔法】の熱気と【氷魔法】の凍気をバランス良く調整させないと『ヌルマナ』は発生しないの。加えて、『ヌルマナ』を高密度で練り上げてコントロールするだけの技量やセンスがなければ、何年かかってもできないと言われるくらいに高難度よ。実際、私も【炎魔法】と【氷魔法】を会得している『魔術師』とは何人か会った事あるけど、『ヌルマナ』を発生させる事ができた人はいなかったわ」
「そうですよね……」
リエナさんの解説を聞いて、私はその場で納得できた。
炎と氷、熱さと冷たさ、熱気と凍気、燃やすと冷やす、少なくとも温度を連想させる要素で言えば、ものの見事に正反対だ。
そもそも【炎魔法】と【氷魔法】は魔法の属性で見ても、自然現象に倣って考えても、真逆と言うか、水と油のようなものだ。
私自身、試しにやってみたけど、想像していた以上にコントロールが難しく、空いた時間を使って何度も練習しているものの、魔法攻撃として使うのは現状叶っていない。
「難しいな……」
(『魔術師』ならともかく、モンスターとかで『ヌルマナ』を作り出せるなんて事……ないと思いたいな……)
当時はそう思っていた。
回想終了———————
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(まさか……。あれって、リエナさんが言っていた)
「キュォオオオオオオ……」
私はあの時の懸念や不安が現実になっている場面を目の当たりにしている。
相対している“レッドブルーバイコーン”が二本の角の間に形成しているのは、【炎魔法】と【氷魔法】を会得している者でも簡単に生み出せない特殊な魔力である『ヌルマナ』だった。
それが高密度に圧縮されていき、白銀に輝く光の玉となった。
次の瞬間。
「皆、避けて!」
「「「!?」」」
「ミレイユさん?」
「キュァアアアアアア!」
私はトーマさん達に回避するよう大声で叫び、エレーナの腕を引っ張ってサイドステップをした。
その時、“レッドブルーバイコーン”が額から生やす二つ角の間から『ヌルマナ』が込められた白銀の光球を解き放つように、一筋の太いレーザーが発射された。
それから少しの時間が経って……。
「マジかよ……?」
「今のって……」
(まさか……『ヌルマナ』を操るモンスターと出会ってしまうとはな……)
リカルドさん達【ウォールクライシス】の面々はしっかり回避したお陰で無事であり、『魔術師』であるウォードさんは驚愕の表情をしていた。
ほんの少しだけ土煙は上がったが、レーザーが通り過ぎた道や障害物は跡形もなく消えていた。
「トーマ達は?」
「あ!あれを!」
ブラゴスさんがトーマさん達の身を案じる中、レミーさんが何かを見つけたように指を差している。
「キュアアアアア!」
「ぐっ!」
気付けば、“レッドブルーバイコーン”はトーマさん達に再び攻撃を仕掛けており、戦局は振出しに戻ってしまったような状況になった。
(『ヌルマナ』を発生させられるモンスターがいるなんて、しかもダンジョンのボスモンスターが使えるなんて……。本格的にヤバいじゃない……。エレーナが掛けた【支援魔法】もタイムリミットが迫っている)
私達は諦めてこそいないが、ダンジョンの恩恵を得ている“レッドブルーバイコーン”の恐ろしさを改めて認識した。
だが、私はある作戦を考えついた。
(危険な賭けになるかもしれないけど、やるしかない!トーマさん達を信じて……)
「エレーナ、ちょっと……」
「はい!」
私は隣にいるエレーナにそっと耳打ちした。
それから「分かりました」の一言をもらい、杖を構えてトーマさん達や“レッドブルーバイコーン”に目をやる。
(考えている事が本当なら、恐らく……)
私は……。いや、私達は一つの賭けに打って出るのだった。
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