第201話 移籍を希望してきた冒険者
ウェシロスで起きた事件に関わったあの冒険者が登場します!
俺達はウェシロスで起きた事件を解決してすぐに王都ファランテスにあるビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部を訪れた後、拠点にしている街であるティリルに戻っていた。
俺達はしばらくの休養を満喫している。
「それにしても、何の用で俺達を呼んだんだろうな?」
「会わせたい冒険者がいるから来て欲しいって、相手は一体誰なんでしょうね?」
「さぁ。誰か心当たりない?」
「僕は無いですね」
「クルスさんに同じくです」
俺達が所属している冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんに呼ばれ、ギルドに足を運んでいる。
クエストに関係する話ではないから私服で来て問題ないとの事で、俺達はお言葉に甘える形で冒険者ルックではなく、カジュアルな格好で出向いた。
「トーマさん、皆さん、お待ちしておりました。ご案内します」
「ありがとうございます」
受付に行くと、馴染みの受付嬢のナミネさんに案内される形で会議室へ入っていく。
因みにウィーネスさん達【ブリリアントロード】も呼ばれているとの事だ。
「失礼しますって……え?」
「あ、あなたは……」
部屋にはカルヴァリオさんやウィーネスさん達が先に来て椅子に座っているが、その中に一人の男性がおり、面識があった。
俺達はその男性を見て目を見開いた。
「久しぶりだね。トーマ。皆……」
「マーカスさん?」
そう、ウェシロスを拠点にしている冒険者ギルド【ティア―オブテティス】に所属しているBランク冒険者であるマーカス・クレヴァンさんである。
ヴェヌトイル商会の会長だったゲルグオとは親戚関係であり、ウェシロスで起きた事件に巻き込まれた人物の一人だ。
何故【アテナズスピリッツ】に来ているのか、俺達はただ驚くしかなかった。
「どうして、マーカスさんが……?」
「それについて話す機会を設けるために君達を呼んだんだ。まずは座りなさい」
カルヴァリオさんに促される形で俺達も席に着いた。
マーカスさんは直立不動で近くに立っている。
「休養期間中に呼んでしまって申し訳ないね。今回君達を呼び出した理由は他でもない、こちらにいるマーカスについてだ……」
「はい……」
話し合いが始まり、カルヴァリオさんが仕切り、口を開いた。
「私からまず結論を言わせてもらいたい……。マーカス・クレヴァンを我が【アテナズスピリッツ】に引き入れたいと思っている」
「え……?」
それは思いもよらぬ内容だった。
諸事情によって前に所属していた冒険者ギルドを抜けて別のギルドに移籍する事そのものは珍しい話ではなく、それもギルドによって千差万別だ。
正式な手続きを踏めば、他国や他地方の冒険者ギルドから移籍する事も可能であり、なんなら大規模のギルドが小規模のギルドと丸ごと合併するケースもある。
しかし、開いた口が塞がらない理由は別にある。
「マーカスを我々のギルドに引き入れると言う事は、何か理由や狙いがあるって考えてもよろしいのでしょうか?」
「理由や狙いについて疑う気持ちを持つのも当然だ。だが、マーカスの意思もどうか聞いて欲しいのもある。ここからはマーカスの口から聞いてもらいたいと思っている」
「はい……」
ウィーネスさんの考えを聞いた上で、カルヴァリオさんはマーカスさんに自分の意見を伝える機会を与えるように行った。
一歩踏み出すマーカスさんは厳かに口を開いた。
「私は……。【ティア―オブテティス】を脱退しました」
「え……?」
マーカスさんは力を振り絞るように声を発した。
「ウェシロスで起きたあの事件は多方面に大きな影響を与えました。冒険者界隈や騎士団、それから関係する方々に少なからぬ波紋をもたらしたと思っており、自分が関わっていたのもまた事実です。私が所属していた【ティア―オブテティス】の冒険者や【アテナズスピリッツ】に属しているギンゼルさん達を始め、冒険者の皆様に多大な危害を及ぼした結果は、過去の事象で済ましてはいけないと思っております」
(何もかも自分が悪いみたいな言い回しだな……)
「ですから、ケジメの意味を含めて、私は【ティア―オブテティス】を抜けました。ヒルダさんの進言もございます」
「それから王都での事情聴取を終えた後、ティリルに、アタシ達のギルドに赴いたって事かな?」
「はい。その通りです……」
マーカスさんの説明に対し、ウィーネスさんは怪訝を含めたような表情をしている。
事件はともかく、マーカスさんは責任を感じているようにも見えた。
「それでも、冒険者を続けたい気持ちはあるので、【ティア―オブテティス】に所属している冒険者達もフォローをしてくれました。ヒルダさんやミリアさん達も無理に抜けなくてもいいと励ましてくれました。しかし、ウェシロスに住む民衆達にとっては受け入れ難いようで、その……。いつまでも迷惑や苦労をかけたままにしてはいけないと思い、脱退を決意しました」
「なるほどね……」
「そこでヒルダさんは、紹介状を書いて下さり、【アテナズスピリッツ】に行くように進言されてこちらに来ました」
「事情は我々のギルドも把握していたからね。改めて言わせてもらうけど、私は彼をウチのギルドに迎えようと思っている」
「お願いします!【アテナズスピリッツ】に入れていただきたいです!」
マーカスさんが現れた理由は分かった。
多くの人達の声を聞いて、考えた末に出した結論であるならば、俺達がそれ以上言う事は何もない。
「マーカスさんは冒険者を続けたいって仰っていますけど、その気持ちに嘘偽りはないと捉えてよろしいでしょうか?」
「はい。本気です」
「……」
俺が確認すると、マーカスさんは力強く答えた。
その眼には再起してやり直して見せんばかりの気概に溢れている。
セリカ達に視線をやると、首を縦に振った。
バダックさん達も同様だ。
それから数秒の間を置いて……。
「俺達としては、マーカスさんを迎え入れる事に賛成です!」
「アタシ達も同意見です!」
「ッ!」
「では、決まりだね。マーカス、後で正式にギルドに登録手続きをしてもらえるように私から手配しておこう」
「ありがとうございます!」
俺達はマーカスさんをギルドに迎え入れる事に賛成した。
このまま放置できないのもあるが、【ティア―オブテティス】の冒険者達からもマーカスさんの人柄が良い事を聞いており、セリカ達を守ってくれた恩もある。
だから断る理由はない。
俺とウィーネスさんはマーカスさんの下に歩み寄る。
「これからはアタシ達【アテナズスピリッツ】の仲間よ!よろしくね!マーカス!」
「歓迎しますよ!」
「ハイ!よろしくお願いします!」
マーカスさんは深く頭を下げ、再起する姿勢を見せた。
新天地でやり直すのは想像以上に厳しい事の方が多いけど、マーカスさんならやっていけると、俺は信じている。
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