第195話 思わぬ来訪者
思わぬ人物がティリルに来ました!
俺達はウェシロスで起きた事件を解決してすぐに王都ファランテスにあるビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部を訪れた後、拠点にしている街であるティリルに帰って来た。
休暇を満喫している中、ハイレンド伯爵家の嫡男であり、エレーナの実兄であるガレル様とヒライト子爵家のご令嬢であるチェルシア様とティリルで再会した。
「まず……状況を整理しようか……」
「そうですね」
「「「……」」」
リビングには俺達がいて、目の前にはガレル様とチェルシア様がいる
チェルシア様と再会した俺とセリカはとりあえずと言う意味で彼女を拠点にしている邸宅へと招待した。
だが、数分後に別行動をしていたミレイユ達がガレル様を連れて戻って来た。
これには俺もセリカもビックリであり、ガレル様の実の妹であるエレーナが一番驚いたとの事だ。
離れて生活している兄弟が連絡も無しに現れるなんて誰でも驚く事だからね。
まぁ、それを言うなれば、グリナムに住んでいるチェルシア様がティリルに来ている事をさっき知った時には、ちょっとした青天の霹靂になったからな。
「まずはわたくしからお兄様に質問をしたく存じますが、よろしいでしょうか?」
「はい」
「どうして、お兄様はこの街に来ているのでしょうか?」
「それは……あの、だな……」
エレーナの質問に対し、ガレル様の目は明後日の方向に向いている。
申し訳ないみたいな顔だ。
一呼吸を置いてガレル様は……。
「一言で言えば……。エレーナ。お前がどうしているかなって事だな……」
「お兄様……」
観念したような、もう取り繕うのも無理だと悟ったように、ガレル様は開き直ったように、潔く打ち明けるように口を開いた。
そんなガレル様を見たエレーナも憂いを交えたような表情へと変わった。
「私もそうだが、父上もエレーナの事が純粋に心配なのです。ウェシロスの一件は私達ハイレンド伯爵家も存じ上げており、危険な出来事にも遭遇している事も把握しております。それを聞いた父上もいたくエレーナの安否を気に掛けておりますが故、少なからずでも様子を見に行こうとティリルまで赴いた次第でございます……」
「ガレル様……」
ガレル様にとってのエレーナはたった一人の妹だから、親心ならぬ、兄心に気に掛けるのは当然だと思う。
「それで変装した上で、エレーナの様子を見に行ったと……」
「はい……。ただ、クルス殿に看破されはしましたが……」
(流石はクルスだな……)
本音を零しているガレル様はシリアスな中に深慮を交えたような表情を浮かべている。
「無論、トーマ殿達の事は信用している。先のウェシロスで起きた事件の解決にも貢献した事は我々の耳にも届いており、素晴らしい功績だと断言できる。そして、日々成長していると確信するには充分だ。しかし、妹のエレーナがどんなに強い決心で自分の道を貫けども、兄として純粋に心配なのが本音なんだ。それは父上も、ハイレンド家に仕える者達にとってもな……」
「お兄様……」
そう言うガレル様の表情は憂いを帯びているようにも見える。
兄が妹を心配するのは当然の事だから。
「まぁ、手紙の一つでもしたためた上で訪問するのが筋なはずのところを省いてしまったのは、私の落ち度であるのだがな……」
「本当ですよ!」
「すまない」
本音を伝えられたガレル様はエレーナにちょっとだけ窘められた。
こういう場面を見ていると、やっぱり兄妹なんだなって思わせてくれる。
「訪問する時のやり方は今後反省していただくとして、お兄様……。わたくしの事を気に掛けて下さり、誠にありがとうございます。お父様や従者の皆様には、トーマさん達と日々を逞しく生きている事をお伝えいただきたく存じます」
「エレーナ……。突然訪れて驚かせるような真似をして申し訳なかったな。でも、今のお前を見て思っている事もある。本当に……逞しく、立派に成長しているな」
「お兄様……」
こうしてエレーナとガレル様の兄妹揃っての対話を終える事になった。
エレーナだって、クエストや鍛錬を日々こなしているからね。
続いて、チェルシア様とのお話だ。
「それで、チェルシア様は何故ティリルにいらしているのでしょうか……?」
「あ、はい。わたくしはですね……」
俺が質問すると、チェルシア様はその理由を答えてくれた。
「観光ですわ!」
「「「「「え?」」」」」
それに対し、シンプルな答えをあっけらかんとした表情で言った。
俺達はポカンとした。
「観光……でしょうか……?」
「はい!」
「それで、このティリルに……?」
「まずはグリナムに近い街の一つであるここまで来たのです!」
「因みに護衛の方とかは……」
「観光なので連れていません!」
(((((え~~?))))
来た理由が分かったのは良いとしても、子爵家のご令嬢が護衛も無しでティリルに訪問するとは、大胆と言うか無茶と言うか……。
ガレル様は『剣士』のギフトを持っており、自分の身を守るだけの力量を持っているから大丈夫だろうけど、チェルシア様のギフトは戦闘に向かないタイプのため、一人で観光のためにティリルに来る行動力も備えている事に驚きだ。
チェルシア様はもっとお淑やかで控えめでインドア派な方だと思っていただけに……。
「だ、大丈夫なんですか?一人で来訪するなんて……」
「アスバン様もミクラ様もよく許しましたね」
「はい。お父様とお母様からも社会勉強の一環として行ってみるといいとお許しをいただけました。護身用の魔道具やアイテムもいくつか身に付けておりますので……」
「そうなんですね……」
俺達は心配したが、どうやらチェルシア様は自衛するための魔道具を持ち歩いているようであり、少しホッとした。
側にいるミレイユによると、バリアを発生させるエンブレムや強力なモンスターすら牽制できるアイテム等、戦闘手段を持たない貴族が自衛のために有効な魔道具であると説明してくれた。
流石に丸腰で娘をお出かけさせるほど、アスバン様とミクラ様も迂闊ではないからね。
「先ほど社会勉強の一環って仰ってましたけど、観光だけが目的ではないって事でしょうか?」
「はい。お父様が領主として主に治める街であるグリナムをより良い場所にするため、訪れた場所の良い所や参考になる所を巡っているんですよ!」
「なるほど……。グリナムを発展させるための視察って感じですかね?」
「その通りです!」
俺がそう言うと、チェルシア様は笑顔で答えてくれた。
グリナムは緑と自然が溢れる街であり、農作物も豊富に採れる素晴らしい場所だ。
今のままでも十分良い街だと思っているけど、取り入れられる要素を探しに出て更なる発展を目指しているチェルシア様は好奇心とバイタリティーに溢れる人格者である事を再認識させてくれる。
ウェシロスで起きた事件の黒幕の一人であったクジャール伯爵家のポドルゾと比べても月とスッポン、いや、月とヘドロくらいの差があると見てなくもない。
今思い返せば、俺がこの世界に飛ばされて来てから初めて出会った貴族がチェルシア様なんだよな。
Cランク昇格を懸けたクエストに挑んだ時に接点を持ち、それ以降は会う度に良くしてくれるから、本当に嬉しく思っている。
「ちなみに、いつ頃からティリルにいらしてたのでしょうか?」
「昨日から近くの宿で泊まっておりまして、もう2、3日ほどしたらグリナムに戻るつもりです。いろいろな場所をもっと巡ってみたいので……」
チェルシア様は後3日ほどティリルに滞在するつもりだった。
そこで俺はある提案を持ち掛ける。
「そうですか。でしたら、一緒にティリルを巡ってみませんか?俺達も休養期間を設けられているので、案内できますよ!」
「え?よろしいのでしょうか?」
「もちろんですよ!皆もいいかい?」
俺はチェルシア様にティリルの観光に同行する事を提案して、セリカ達にも同意を求めてみた。
「私は大歓迎ですよ!グリナムをご案内していただけたので、今度は私達がティリルを案内しますよ」
「私も美味しいお店とか知っているから、そちらにも行ってみましょう!」
「まだ宿屋に泊まるおつもりでしたら、わたくし達の邸宅にいらして下さい!部屋もございますよ!」
「よ、よろしいのでしょうか?」
「はい。チェルシア様やヒライト家の皆様にはお世話になっていますから」
「皆様。ありがとうございます!」
こうして俺達とチェルシア様のティリルやその周辺地域の観光が決定した。
チェルシア様とガレル様は宿泊している宿屋にそれぞれ戻る事になり、彼女の視察を兼ねた観光は明日やる事になった。
明日が楽しみだ……。
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