第192話 相談事
久しぶりにあの魔術師が登場します!
俺達はウェシロスで起きた事件を解決してすぐに王都ファランテスにあるビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部を訪れた後、拠点にしている街であるティリルに戻っていた。
そんな中、相談事のため、Aランクパーティー【ノーブルウィング】のリーダー格であるウルミナさん達の下を訪れている。
「お時間いただきまして、本当にありがとうございます」
「いいわよ。私達も暇を持て余していたところだったから」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ウルミナさん達が拠点にしている邸宅にお邪魔している。
中は俺達が入っても窮屈にならない広さの空間になっており、シンプルながらも清潔な家具も備えられている。
ルエミさんからお茶菓子を振舞われたが、これもまた美味しかった。
【ノーブルウィング】にはウルミナさんやルエミさんの他にも、ジーナさんやランディーさん、ラルフさんと言うメンバーがいるものの、アイテムや日用品の買い出し及び鍛錬等でそれぞれ外出している。
「カルヴァリオさんから聞いたけど、ウェシロスの一件、お疲れ様だったわね」
「はい……」
「行方不明になった冒険者達の捜索のはずがいつの間にか大事件に巻き込まれるとはね……」
「クジャール伯爵家やヴェヌトイル商会、ビュレガンセ王国騎士団西方支部の黒い繋がりもあったと聞いた際には驚きを禁じ得なかったわ」
「そうですね……」
案の定、ウルミナさん達もウェシロスで俺達が遭遇した事件について把握している。
かなりのニュースになったからな。
それから俺は一つの報告をした。
「それからですね、見せたい物があるんですよ。ベカトルブ近辺で発見されたダンジョンの最奥で見つけた、あの……」
「あぁ。確か、ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部で預かるとかってなった魔道具よね?」
「そのトップであるゼラカール総帥より正式に賜る事になりました」
「そう。あの魔道具はトーマに渡ると思っていたわ」
王都ファランテスにあるビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部に赴き、その経緯をウルミナさん達に伝えた。
結果はほぼ読めていたのか、ウルミナさんは達観した様子だった。
「それで、相談事って言うのは?」
「はい。実を言いますとですね……」
話もそこそこに俺は本題を切り出す。
「ほ~。【土炎風水魔法】を習得しちゃったのね~」
「はい。“ゴーレム”の改造手術を施された“メガオーク”との戦闘で【水魔法】と【土魔法】を会得して、それからですね」
「ウルミナだって現時点ではそこまでできていないのに、トーマが……」
(これもトーマが持つ『何でも屋』のギフトの恩恵なのかな?)
俺が【土炎風水魔法】を会得した事やその時の状況を伝えると、ウルミナさんとルエミさんはかなり驚いていた。
ルエミさんによると、『魔術師』のギフトを持ち、国内でも屈指の冒険者として知られるウルミナさんですらまだ叶っていないとの事だ。
ウルミナさんは【炎魔法】とその発展版である【爆撃魔法】、【土魔法】と同じく発展版である【岩石魔法】、【風魔法】の合計5種類の魔法が使える。
一方、【水魔法】はまだ会得していない。
(LV.1の段階ではあるけど、【土炎風水魔法】を会得できる『魔術師』は世界を見渡しても、歴史を辿っても非常に少ない。『魔術師』でも【炎魔法】・【水魔法】・【風魔法】・【土魔法】の内3種類を会得できれば天才的と見られるだけにだ……)
「ウルミナさん?」
「え?あ~、少し呆けてたわ。いや~、まさか生きている間に【土炎風水魔法】を会得してみせた冒険者に出会うのは初めてだったからさ。驚かされちゃったわ」
ウルミナさんは心の底から感心している様子だった。
魔法を中心とする『魔術師』であり、超一流の実力と豊富な知識を持つウルミナさんから見ても、【土炎風水魔法】を会得できた俺に一層の興味を抱いているのが分かる。
「トーマ達はしばらくの休養を命じられているのに冒険に出向く格好で来ているって事は、実戦形式で何かを試してみたいって思っているのかな?」
「実はそうなんです。実際に身体を動かしたり、スキルを見せた方が何か掴めるような気がしたので……」
「なるほどね……」
ウルミナさんの考えている通り、俺達が冒険者ルックで来たのはそのためだ。
スキルや技を口頭で何度も言うより、実際に見てもらった方が早いからね。
「それなら、近くの草原で見せてもらってもいい?興味が湧いてきた!」
「もちろんです!」
「ありがとう!早速着替えてくる!」
「私も!」
そう言ってウルミナさんとルエミさんは自分の部屋に戻って着替え始めた。
俺達は指示された草原で待機する事になった。
「お待たせ!」
「お待ちしていました」
数分した後、ウルミナさんとルエミさんは冒険に出向くような装備をして現れた。
私服姿も新鮮だったけど、やっぱり冒険者ルックの方がしっくり来るな。
「では、早速」
「その前に一つ。【岩石魔法LV.3】『ロックランパード』!」
魔法を見てもらう前に、ウルミナさんが【岩石魔法LV.3】『ロックランパード』で大きな岩壁を作り出した。
恐らく壁打ちにするための壁としてだろう。
「トーマ。あの岩に向かって【土炎風水魔法】を撃ってみて!」
「はい!」
俺はウルミナさんに促されるまま、岩の前に立ち、その場で深呼吸する。
初めて発動させた時の感覚を思い出しながら、右手を前にかざした。
俺の足元から赤、青、緑、黄色の4色の魔力を帯びたオーラが湧き上がる。
「【土炎風水魔法LV.1】『エレメンタルショット』!」
俺の右手から4色の魔力の弾丸が放出され、まっすぐに岩へと向かって直撃した。
「これが……【土炎風水魔法】か……」
「確かに今、4色の魔力の弾丸がトーマさんの手から放たれた……」
【土炎風水魔法】を初めてみたセリカとクルスは驚愕したような表情をしている。
一度見た事があるミレイユとエレーナは改めて感嘆しており、ウルミナさんとルエミさんも好奇心と驚きが入り混じったような顔つきになった。
「最初は半信半疑だったけど、本当に撃てるとはね……」
「ウルミナさん!」
俺の下にウルミナさんとルエミさんが歩み寄って来る。
今の一撃を見て本物だと認めたようだ。
「ギフトの恩恵かもしれないけど、凄い魔法よ。ただ……」
「はい。まだコントロールが覚束ないところがあるって感じていますね」
「予想だけど、【炎魔法】・【水魔法】・【風魔法】・【土魔法】のレベルをそれぞれ一段階ずつ上げていけば、もう一つ上に行けそうね」
「かもしれません……」
ウルミナさんとルエミさんの指摘を俺は受け入れた。
するとミレイユが口を開いた。
「私、トーマさんが初めて【土炎風水魔法】を使用した場面を見ていたんですけど、あの時は何て言うか、今と状況が違うんですよ」
「言われてみれば、“ゴーレム”の改造手術を施された“メガオーク”と相対した時は自然と使っていたような感じがしましたね。さっきと違って……」
「あら?そうなの?」
ミレイユに続いてエレーナがそう言うと、ウルミナさんは食い付いてきた。
「確か、トーマさんのユニークスキルである【ソードオブハート】を発動している時でしたね。【土炎風水魔法】が初めて使われたのもその時でした」
「そう言えば……」
現場を見ていたミレイユの指摘を受けた俺は当時の状況を思い返しながら、ウルミナさんに説明した。
“ゴーレム”の改造手術を施された“メガオーク”との戦いでは、ミレイユやエレーナ、【ブリリアントロード】のバダックさんやリエナさん達と協力し合って勝利した。
【土炎風水魔法】を会得できたのは、【ソードオブハート】を発動している中であり、その時は無意識ながらに力を振るえていた。
俺の経験談にはなるが、【ソードオブハート】を発動している時はただのパワーアップだけでなく、凄まじい集中力を発揮できるようになり、それで上手く扱えたんだと思っている。
まあ、精神力や体力の消耗も凄いんだけどね。
「なるほどね。じゃあさ、その【ソードオブハート】を発動した状態でやってみてくれない?その“ヴァラミティーム”も使って!」
「え?はい、やってみます」
ウルミナさんに進言されて、俺は再び岩壁の前に立った。
今度は右手に“ヴァラミティーム”を持ってだ。
俺はもう一度意識を集中させ、【ソードオブハート】を発動させる。
“メガオーク”とやり合った際、終盤辺りで見せた時と同じように頭が冴え渡り、心なしか視野が、もとい見えている世界が広がったような感覚になっていった。
すると右手に握る“ヴァラミティーム”は俺の胸下辺りまでの長さのロッドへ変わり、その先端には赤・青・緑・黄色の4色に彩られた装飾品が施された立派な物となっている。
そして俺は意識を集中させながら構えた。
「【土炎風水魔法LV.1】『エレメンタルショット』!」
俺はもう一度、【土炎風水魔法LV.1】『エレメンタルショット』をウルミナさんの【岩石魔法】で作った岩壁に放つ。
少なくとも勢いだけならば、最初に撃った時よりも遥かに強いが、果たして結果は……?
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