第190話 駆け巡るニュース
久々にあの人物達が登場します!
俺達は王都ファランテスにあるビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部へと向かう事になり、その代表であるゼラカール・フォートレイン総帥と邂逅した。
俺はゼラカール総帥より、ベカトルブ近辺で発見されたダンジョンの最奥で見つけた魔道具“ヴァラミティーム”を正式に授かる事になった。
「ふぅ。色んな意味で凄かったな。王都って……」
「本当にそうでしたね。お店も充実していた上にクオリティも高いところが多くありましたよ」
「冒険に使うアイテムだけじゃなくて、気に入った私服も買えちゃいました!」
俺達は王都を発ち、ティリルへと向かう馬車に乗り込んで帰路に着いている。
ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部のトップであるゼラカール総帥と会った後に王都の城下町で思い思いの時間を過ごした。
本当に賑やかで活気溢れた素晴らしい場所であり、ティリルの何倍も広いため、一日だけではとても回り切れなかったので、また機会があったら行ってみたいと思う。
「僕は初めて王都ファランテスに来たのですが、本当にビュレガンセの中心地だって思わせてくれますよ。貴族の方を何人も見かけましたし……」
「王都には行政や司法を始めとする統治機関が一斉に集まっていますからね。ビュレガンセの王国騎士団本部もありますから、軍事面における要も担っていますよ。加えて貴族街もありますよ」
「へぇ~」
(本当にこの国の中心なんだな。王都ファランテスって……)
クルスとエレーナの言った事実に対し、俺は王都の凄さと重要性を感じ取っている。
この異世界に飛ばされて、初めて国の王都を訪れると知った際、ゼラカール総帥に会うと言う目的を忘れそうになるくらいの好奇心も抱いていた。
ゲームやアニメで見た事があるような非常に立派な街並みを見て、本当に心が躍った。
憧れていた世界の中心を自分の目と耳、そして肌で体験できた事に感動も覚えた。
その中で俺にしか使えない武器とされる“ヴァラミティーム”をビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部のトップに位置するゼラカール総帥より賜った。
それだけに王都を訪れる機会をもらえたのは幸運以外の言葉が見つからないくらい、有意義かつ新鮮だった。
「いつかまた来ような」
「「「「ハイ!」」」」
俺はセリカ達に機会があればまた訪れる事を約束した。
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◆
ベカトルブ・冒険者ギルド【アンビシャノブアレス】
「おいおい、聞いたか?ウェシロスで起きたヴェヌトイル商会やクジャール伯爵家が起こした事件?」
「知ってるぜ。何でも裏で黒い取引やら危険な魔道具やらを開発していたんだってな」
「加えてビュレガンセ王国騎士団西方支部のトップが不正に加担していたんだろ?ヤバいよな~」
「しかも“ゴーレム”の改造手術を施したモンスターもいたとかって……」
ここはベカトルブを拠点にしている冒険者ギルド【アンビシャノブアレス】だ。
ビュレガンセ国内に数ある冒険者ギルドの中でも武闘派として知られており、かつてダンジョン攻略を共にした経験がある。
ウェシロスとベカトルブは物理的な距離は相当離れているものの、気鋭の商会や伯爵の爵位を持つ貴族が悪質な事件を引き起こしたニュースはやはり広まりやすかった。
【アンビシャノブアレス】に所属している冒険者達はその話題で持ちきりだ。
「けど、最終的には何とかなったんだってな」
「あぁ、それを解決したのって……」
「ウェシロスで起きた事件について話をしているのか?」
「あ、ガイキさん!」
そこで冒険者達に声を掛けたのは、【アンビシャノブアレス】に所属しているAランクパーティー【飢狼団】のリーダー格であるガイキさんであり、メンバー達も揃っている。
どうやらクエストから帰って来た様子だ。
「俺達もギルドに戻る道中でそのニュースは聞いたぞ。その事件に【アテナズスピリッツ】の冒険者達も一枚噛んでいたんだってな」
「ハイ!確か、ガイキさん達と一緒にダンジョン攻略に加わっていましたよね?」
「あぁ。Aランクパーティー【ノーブルウィング】の面々は当然だが、Cランクパーティー【トラストフォース】のトーマ達も、あの時から見どころがあると思ってんだよ」
「それなら多少ではありますが、名前や写真も載ってますよ。何でも、“ゴーレム”の改造を加えたモンスターを倒したとか……」
「そいつは凄いな」
ガイキさんは俺達の活躍ぶりに感心している。
ダンジョン攻略の件から一目置いてくれているようであり、素直に喜んでいる。
(ダンジョン攻略の時から気になってはいたが、益々力をつけてきているようだな……)
「にしても、ヴェヌトイル商会の会長とあろう者が違法な商売をしていたとはな。会長の息子も確かグルだったんだよな?」
「えぇ。違法薬物を作っていたとかいないとか」
「親子揃って酷い連中なんだな」
「こう言うのをえぇっと……」
「バカボンとかドラ息子とか」
「そう!それな!」
「金や権力に溺れた貴族はどこかで潰れるもんさ!」
「違いねえ!」
「「「「「ハッハッハッハッハ」」」」」
【アンビシャノブアレス】には豪快で賑やかな笑い声が響くのだった。
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◆
「農耕の街」として名を馳せるグリナム
「聞いたか?ヴェヌトイル商会、解散するんだってよ」
「みたいだな。裏でとんでもなく悪い事をしている貴族や西方支部の騎士団と癒着して違法な取引をしていたとかでさ」
「ヤバそうな魔道具を沢山作っていたとかで、そのために冒険者を攫うような事を決行していたらしいよ」
「マジで?本当に社会の闇って感じじゃん!」
緑と自然の豊かさを感じさせる街であるグリナムにもヴェヌトイル商会やクジャール伯爵家の悪行について持ちきりだ。
少なくともヴェヌトイル商会はティリルにも商圏を広げようとしていただけに、比較的近い地域のグリナムに噂が届いていても何も不思議ではない。
「言っても、ティリルに拠点を置いている冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】とウェシロスに拠点にしている冒険者ギルド【ティア―オブテティス】が最終的に解決したって話だぜ」
「あの【アテナズスピリッツ】も介入したのか?いつも凄い活躍を聞かせてくれるな!」
「本当だぜ!」
「確か、ヒライト家の当主であるアスバン様の奥様を助けてくれたパーティーが【アテナズスピリッツ】に所属していたよな!?」
「そうそう。あのギルドには凄い人達が多くいるって話よ!」
俺達が所属する【アテナズスピリッツ】もグリナムではちょっとした英雄のように見られているようだ。
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◆
ヒライト子爵家カントリーハウス
「あのヴェヌトイル商会がクジャール伯爵家やビュレガンセ王国騎士団西方支部のトップと癒着していたとは、随分な事だな」
「確かに衝撃的ではありましたけど、我々の領地に踏み入る前にその本性が明かされて壊滅した事を考えれば、一種の幸運とも言えますね。お陰でヴェヌトイル商会の毒牙にかかる事を避けられたのですから……」
「それもそうだな……」
「そもそも、権力を笠に着て悪事を働くなんて、同じ貴族として許せませんよ」
「確かにな……」
清らかで緑豊かな庭園で紅茶を嗜みながら談笑しているのは、ヒライト子爵家の現当主であるアスバン様であり、隣に座っている気品と若さに溢れている女性はアスバン様の妻であるミクラ様だ。
そして、アスバン様とミクラ様の愛娘であるチェルシア様である。
「にしても、【アテナズスピリッツ】の冒険者達が活躍しているのを聞いていると、何か嬉しい気持ちにさせてくれるな」
「えぇ。彼らの活躍や善行を聞くと、私達も元気が貰えたような気持ちにさせてくれるわ」
「うふふ。お父様もお母様もトーマさん達の事を本当に気に入られるようになりましたね。かく言うわたくしもその一人ですが……」
「当然だろう。トーマ殿達だぞ」
「お父様ったら……」
アスバン様は俺達の事を心の底から信用しては目に掛けているようだった。
妻であるミクラ様を助けてくれた恩が根底にあるとしてもだが、何にせよ、見知った仲である貴族の方々に気に入られる事そのものは悪くない。
実際、グリナムには俺達の事を好ましく思ってくれる人々が大勢おり、ウェシロスに行く前に成り行きで立ち寄った際は凄い歓迎された。
それこそ、こちらが申し訳ない気持ちになりそうなくらいの勢いだった。
「ついこの間に再会したのですが、次第に凄い存在になりつつあろうとしておりますね。トーマさん達……」
「そうかもしれんな……。だが、私はトーマ殿達がどれほどの武功を重ねようとも、どれほど偉くなろうとも、彼等は彼等だと信じている。それはチェルシアも見てきたであろう」
「それは……」
「強いだけではない、優しくて誠実な心をしている方達よ。あの時、再びここを訪れた時にはまた会う事を約束してくれた。私はそんな彼等ともう一度会いたいと思っているし、会えると信じているわ」
「お父様……。お母様……」
どこか寂しそうにしているチェルシア様に対し、アスバン様とミクラ様は優しく諭す。
チェルシア様は俺達が遠くに行ってしまうかもしれない虚しさをどこかで抱えていた様子だった。
「そうですね……。トーマさん達はトーマさん達ですから!」
チェルシア様は花が咲いたような笑顔を取り戻した。
俺達もできた繋がりは大切にしていきたいから……。
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◆
ハイレンド伯爵家カントリーハウス・執務室
「まさか、かのクジャール伯爵家がビュレガンセ王国騎士団西方支部のトップやヴェヌトイル商会の会長とあくどい所業を裏で行っていたとはな……」
「私もそれを知った際は開いた口が塞がらないような気持ちになりましたよ」
立派な屋敷の一室で言葉を交わしているのは、ハイレンド伯爵家の当主であるロミック様とその実子であるガレル様だ。
エレーナの父と兄でもある。
ロミック様達はウェシロスで起きた事件を既に把握しており、その表情はショックと悲しさが混在したようだった。
「父上、確かクジャール伯爵家とも交流はございましたよね?」
「数度しか会っていないが、ハッキリ言って表向きの付き合い以上にはならないと心のどこかで感じていたのが本音だな」
治めている領地の地理上、数回ではあるものの、ロミック様はクジャール伯爵家の当主だったポドルゾとも面識があるようだった。
「民衆の気持ちを蔑ろとまではいかないものの、自分の都合の良いように考え、私腹を肥やそうとする側面が強く見えてな。表面上はウェシロスを始めとする治める領地の人々から反感を買ってしまわないくらいに立ち回ってはいたが、私はどうにもな……」
「ヴェヌトイル商会の会長であったゲルグオやその実子であるギゼオロ、ビュレガンセ王国騎士団西方支部のトップだったノージンを相手に賄賂を渡しては不都合な事実を揉み消させていたのは数年前との事でしたね」
「自分に賛同している派閥貴族や富裕層以外の者には見下すような態度が見え隠れしている噂も度々聞いていたからな。加えて、裏では公にできないような悪い噂があったから、信用はしないようにはしていたのだが、やはりやっていたって訳だ」
「関係を持たなかったのは幸いだと私は考えております。もしも我が領地にまでクジャール伯爵家やヴェヌトイル商会の影響が及んだらと思うと、怖気を抱きそうですよ……」
「全くだな」
ロミック様とガレル様は今回の事件を引き起こした当事者であるクジャール伯爵家やヴェヌトイル商会を随分と批判していた。
同じ爵位を持ちながら、悪事に走った貴族がいる事を許せないようであり、自分の事のようにやるせない気持ちになっている。
「ビュレガンセに限った話ではございませんが、貴族全員が真っ当な人柄をしている者ばかりではございませんからね」
「お前は間違っても、クジャール伯爵家の当主みたいにはならないようにな」
「心得ております。反面教師として捉え、精進していく所存でございます」
「うむ」
ガレル様はポドルゾのようにならない決意をロミック様に表明した。
まぁ、ガレル様なら大丈夫だと思う。
「ところで父上。エレーナについてですが……」
「そうだな。活躍していて、元気でいるのは良い事だな……」
「仰る通り、私としてはずっと見守る所存でございますが、一つ……考えている事がございまして」
「何だ?」
何かを提案したそうな様子のガレル様はロミック様に話を切り出した。
聞いたロミック様が口を開く。
「それは構わないが、安全のために護衛は一人付けさせてもらうぞ」
「承知しました。ありがとうございます」
そして、話を終えたガレル様はロミック様の部屋を出ていった。
一人になったロミック様は椅子に深く腰を掛ける。
「可愛い子には旅をさせてみようかね……?」
ロミック様は窓の外を見ながらそう呟くのだった。
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