第187話 そして、俺の手に渡る
ダンジョンで発見されたあのアイテムが遂に……。
俺達はウェシロスで起きた事件を解決してティリルへと戻ってきた。
それからすぐに王都ファランテスにあるビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部へと向かう事になり、その代表であるゼラカール・フォートレイン総帥と邂逅するのだった。
「これが……その……」
「あの時見つけた例のアイテムの名前」
「伝説の宝具……」
「その名前が明かされたって事か……」
(ベカトルブ近辺で発見されたダンジョンの最奥で見つかり、俺一人でやった時にようやく引っこ抜く事ができて、俺が使った時にその効果を発揮した。これがその……“ヴァラミティーム”)
改めて見せつけられ、俺達は息を飲んだ。
名称が分かった事もあるが、無意識に一種の重みを感じているのだから。
「ゼラカール総帥。あの……」
「トーマよ。握ってみるといい」
「はい。では……」
俺はゼラカール総帥に許可を貰ったのを確認して、改めて“ヴァラミティーム”を手に取り、少しずつ力を込めて握りしめた。
「おぉ……」
(何だろう?心なしか、最初に握った時よりも持ちやすい。と言うよりも……)
ダンジョンの最奥で初めて握った時はやっと抜けた時の感触はありつつも、見た目の重厚感はそのままに、握った時の感触はどこか軽やかさを抱く自分がいる事に気付いた。
確かにあの時よりも鍛えて戦闘の経験を超えてきたのは本当だが、自分でも疑問に思いそうなくらいに震えるような気がしてならなかった。
「トーマさん?」
「握ってから固まっているような気がしますけど……」
「え?あ?いや、大丈夫!久しぶりに握ってみて感傷に浸ったと言うか……」
セリカとクルスに言われて我に返ったが、俺はすぐに取り繕った。
二人に言われるのも納得な程に、最初に握った時と今しがた握った時と感触が違ったのは事実だったけど、それは当の俺にしか分からないだろう。
それほどまでに違っているのだから。
「ゼラカール総帥。ありがとうございます。また、手にする機会が得られて私は……」
「それについてだがトーマよ」
「はい……」
俺が少しの間剣を握って感傷に浸っていた時、ゼラカール総帥から声を掛けられ、その方角に身体を向けた。
そうしてゼラカール総帥は口を開き……。
「この“ヴァラミティーム”をトーマの正式な所有者として授かって欲しい!」
「え!?」
俺はそう言われて、固まるしかなかった。
それはセリカやミレイユ、クルスやエレーナも同義だった。
「確認したのだが、トーマのギフトは『何でも屋』と言う非常に稀有なモノであり、この“ヴァラミティーム”を抜いたそうだな」
「はい、その通りです」
「調査した文献によれば、そのギフトに反応してあらゆる武具に姿形を変えると言う旨が記載されていたのだ。確か、入手したその場で少し試したそうだな」
「はい。使ったスキルに応じて瞬間的に剣やロッド等、自在に形状が変化しているのは、私達も確認しております」
「【気配遮断】スキルを使った際にも短剣のような姿になっていましたね」
「攻撃系の魔法だけでなく、【回復魔法】等の補助系の魔法でも形が変わっていましたね」
「なるほど……」
ゼラカール総帥の質問や調べた結果を聞いて、俺達は思い当たる節をそれぞれ伝えた。
それを聞いたゼラカール総帥は納得したように頷いた。
「皆の証言からするに、“ヴァラミティーム”は我々の調査や文献に記されている通りであるのは、間違いないと思ってよいだろうな」
「は、はぁ……」
「それにしても、スキルに適した武具へ自由自在に変えられるギミックがありながら、どうして無冠って渾名が付いているんですかね?」
ゼラカール総帥がそう言った後、クルスが不意に意見を述べた。
「結論を言う前に、教えたい事がある。全能とは何でもできると言う意味だ。“ヴァラミティーム”は剣や杖、槍やロッド、手甲や盾にもなれる。斬撃や武術による攻撃や防御、魔法による攻撃やサポートも可能にする武具だ。言ってみれば、自分が持つ魔法やスキルを本人の成長に合わせて底上げしてくれる武器と断じてもいいだろう。それだけ変幻自在に姿形を変えられる、全能と称されるのに無冠つまり何か一つでも頂点に立った事のない武器と誰かが称しても不思議ではない。ここで私がこの“ヴァラミティーム”について何を言いたいか、もしくは無冠と渾名されている理由が分かる者はいるかな?」
突如としてゼラカール総帥が説明を混ぜたクイズのような事を言い出すと、エレーナが手を挙げて答えを言った。
「無冠と渾名されているのは、その場に合わせて変化させるだけだからでしょうか?」
「その通りだ。何故そう思ったのかな?」
エレーナの答えに対し、ゼラカール総帥は正解と答えてくれた。
「『剣士』を始めとする近接戦を得意とするギフト持ちもいれば、『魔術師』を始めとする中遠距離戦を得意とするギフト持ちが当然います。基本的にギフト次第では戦い方がいくらか決められている以上、習得しているもしくは得られる可能性があるスキルに合わせて、自分の手に馴染むか一段上の武具を使う方がセオリーであり、効率的だからです。分かりやすい例で言えば、武器と魔法による戦法を得意とする『軽戦士』や『重戦士』は、魔法の杖よりも斬ったり叩いたりする武器をメインにする方が確実に強くなります」
「確かにね……」
「なるほど。愛用している武器に合わせて戦闘スタイルを確立していく方が基本的に合理的であり、最もですね」
「そもそも、トーマさん以外使えないと思いますけど……」
(そうなんだけどな)
エレーナの意見に対し、セリカ達も合点がいったような仕草をしている。
聞いているゼラカール総帥はふむふむとした様子だ。
「素晴らしい答えだ。私もこうして話を聞いていると、やはりトーマに持っていて欲しいと思っている。それから、これは私の直感や想いではあるのだが、この“ヴァラミティーム”も、相応しい持ち主に出会えたようにも見えるぞ」
「“ヴァラミティーム”が……俺を探している?」
俺は“ヴァラミティーム”を凝視しながら、ダンジョン攻略での出来事を思い出している。
あの時、ダンジョンの最奥まで辿り着けたとしても、俺がいなければ入手する事さえ叶わなかったはずだ。
何より、受け取って欲しいと頼まれたのにこのまま眠らせたままにするのは勿体ないし、振るってみたい好奇心が込み上げている自分がいる事にも気付いた。
俺は思案した末に……。
「ゼラカール総帥……。この“ヴァラミティーム”。私が受け取ってもよろしいでしょうか?」
自分が使いたい意思をハッキリ示した。
「そう言ってくれると思ったよ。この時と場を以て、トーマ・クサナギを“ヴァラミティーム”の正式な所有者として認めよう」
「ありがとうございます!」
ゼラカール総帥は快く認めてくれた。
セリカ達も万感の思いを抱いたような表情で喜んでくれた。
「では、これにて私からの話は終了とさせてもらう」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
こうして、ゼラカール総帥との対談は終了を迎えた。
後は帰るだけだが、その時、ゼラカール総帥が口を開いた。
「そうだ。君達は王都に来るのは初めてかな?」
「え?はい、初めてです」
「そうかそうか。もしもこの後、王都で何か用事でも無ければ観光してみると良い。君達が拠点にしている街に無い物が沢山見たり聞いたり知る事ができるやもしれん。せっかくの機会にどうか……」
「はい。そうしたく思います。皆は……?」
王都を観光してみないかと提案され、俺はセリカ達に大丈夫かどうかの視線を送った。
「トーマさん!是非とも観光したいです!」
「私も!」
「僕も!」
「せっかくですので、わたくしも……」
「では、観光します!」
「うむ。思いっきり楽しみなさい」
こうして俺達は王都を観光する事になった。
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