第184話 振り返り
ウェシロスを発ちます!
俺達は同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされ、Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。
皆の協力のお陰で解決に至り、俺達が拠点にしている街のティリルへと戻ろうとしていた。
「では、俺達は先に戻って、終了の報告をします」
「お願いね。アタシ達はギンゼル達を連れてティリルへ戻るから」
「分かりました」
俺達はウェシロスを発ち、ティリルへ向かう馬車に乗り込んだ。
ウィーネスさん達は【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達の回復を見計らい、連れ添いの形で一緒に帰る事となり、もう数日ウェシロスに残る事となった。
急ぎではないため、普通の馬車でゆっくり帰る事にする俺達だった。
「ふぅ。これで終わったな」
「そうですね。ギンゼルさん達も見つかって、その流れでビュレガンセ王国騎士団西方支部の腐敗やクジャール伯爵家の悪い企みも潰せて、一件落着ですね」
「それにしても、【ティア―オブテティス】のAランクパーティーとも面識を持てたのは、これまた幸運でしたね」
「大変な事の方が多かった気はしますけど……」
「……」
俺達はウェシロスに赴き、経緯を振り返る中、ミレイユだけは無口だ。
と言うのも……。
「ミレイユ。やっぱり両親の事は……」
「え?あ~、うん」
(まだ引きずってるっぽいな……)
ギンゼルさん達の行方を探している中、ミレイユはウェシロスで自分を置いて蒸発した両親であるガンギさんとミラユリさんと再会したのだ。
その時はミレイユが突然いなくなった怒りや悲しみをぶつける形で終わったものの、彼女の両親はヴェヌトイル商会の御者でブラックな労働をさせられていた事が後に判明した。
同時に密かに手に入れていたヴェヌトイル商会のあこぎな商売をしている証拠の一部をエルヴォスさん達に提出していた。
それもあって事件の解決を進めるきっかけにもなり、会長であるゲルグオやその実子であるギゼオロの逮捕に貢献できたのだ。
ミレイユの両親も知らずに加担されていたとは言え、今は事件に関わった人物として、王都で事情聴取を受けている。
「お父さんとお母さんも辛い思いをしてきたのは分かっているつもりよ。思えば、少しだけど明らかに苦労してきたような表情をしていたな」
「言われてみれば、そうだったような……」
「少しは話くらい聞けばよかったのに、嫌な感情がとめどなく込み上げてきて、凄い悪口を言って、止めようとしたクルスの事を思わず引っ叩いちゃったし……」
「あれは中々効いたな。あんな細腕のどこに男顔負けのパワーがあるのやらって……」
「その節は本当にごめん!」
「もう気にしてないよ」
ミレイユとクルスはそんなやり取りを交わすと、エレーナが質問を投げかける。
「ミレイユさんはご両親の事は今でもどう思っているのでしょうか?まだ許せないとか……」
「正直、今はどちらとも言えないかな。でも、もしも再会したらハッキリさせようと思ってる。本気で反省して、過ちを償う姿勢を見せてくれたその時は……。その時は、私の大事な両親として、迎え入れようと思う!」
「ミレイユさん……」
ミレイユはキッパリとそう言い切った。
暗い思い出を抱かせた相手が実の両親であれば、それを水に流すのは容易ではない。
それでも、どうするかを最終的に決めるのはミレイユであるため、俺達は見守るだけだ。
「それにしても、今回は協力して下さった方が多かったのもありますけど、ヒルダさんから借りた魔道具とかも大きかったですよね」
「そうだな。あの“気配遮断ローブ”は凄く役に立ったな」
「ヴェヌトイル商会が直営する店から手に入れたって言ってたんですけどね!」
ノージンら悪徳騎士達を誘き寄せて拘束する際、俺達はヒルダさんから“気配遮断ローブ”と言う魔道具を貸し与えてくれて、そのお陰で作戦を成功させるに至った。
経営する商会傘下のアイテムショップに置いてある魔道具によって自分達の首を絞めた挙句に身を滅ぼすとは、何とも皮肉な話だ。
ウェシロスやその周辺にある町の武具屋やアイテムショップの大半はヴェヌトイル商会参加であるため、会長であるゲルグオの逮捕によって空中分解していった末に殆どが店を畳まざるを得なくなった。
「新しい武具を買える場所が少なくなるのは冒険者達にとっては痛手になりそうだな」
「確かにそうですけど、恐らくまた別のお店が出ると思いますよ。冒険者ギルドがある街に武具屋やアイテムショップが少ない事は、商売人から見れば、それだけ出店のチャンスになりますからね」
セリカの言う通り、冒険者ギルドがあるのに近くに武具やアイテムを売っているお店が無いと言うのは、冒険者から見れば不安を覚えそうな問題だ。
だが、それは裏を返せばもっと上質な物を取り揃えてくれるお店ができる可能性もあるとも言える。
今回の一件でウェシロスは複雑な問題に巻き込まれてしまったけど、今は元通りになってくれる事を願うばかりだ。
「クジャール伯爵家の当主であるポドルゾやその派閥貴族の当主が何人も王都に移送されてしまったけど、街の治安維持とかは大丈夫かな?エルヴォスさん達が当面の間何とかしてくれそうだけど……」
「今回の事件を聞いた王都の騎士団本部からも何名かが派遣される形で来ると思いますよ。王都の騎士団本部は騎士の数も質も、東西南北にある騎士団支部よりも遥かに上ですから」
「それなら大丈夫そうだな」
エレーナの解説を聞いて、俺は胸を撫で下ろした。
ビュレガンセ王国騎士団西方支部の内部腐敗を浄化する事には成功したものの、その代償として大半の騎士が解任された事で、著しい人材難になってしまった。
王都にある騎士団本部からその分補填する事になるため、一時的にそれは解消されるが、あくまでもその場凌ぎのため、急務となる。
エルヴォスさんの手腕に期待するしかないが、彼ならばやり切ってくれるだろう。
「今回はかなりデカいトラブルに巻き込まれたって感じだったな……」
「厳しかったですけど、楽しくもありましたよ!ウィーネスさん達と一緒に仕事ができて、ミリアさん共直接お会いできて!」
「そうね!女性だけのAランクパーティーを初めて拝めたのは本当に幸運でしたから!」
セリカとミレイユは活き活きとした表情をしている。
自分よりランクが上の女性冒険者と面識を持ち、交流が持てたのは本当に有意義だから。
「僕も、意義のある仕事だったと思っていますよ。モレラさん達との修行を存分に活かす事ができましたから!」
「わたくしもです」!
「そっか。良かったな」
(俺も……あの時の力をもっと自由自在にコントロールしなきゃだな……)
俺達は今回の経験を基にして、更なる高みへと昇っていく事をそれぞれの心の中で誓うのだった。
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◆冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】・執務室——————
「お疲れさん」
「マスター。失礼します」
「……」
ギルド職員と話を終えて一人椅子に座っているのは、【アテナズスピリッツ】のギルドマスターであるカルヴァリオさんだ。
「行方不明になったギンゼル達が見つかり、生存していて良かったよ……」
どうやら俺達がウェシロスに出向いた一件が解決した事の報せのようであり、ホッとした様子を見せている。
「トーマ達の活躍も目覚ましいな……。それから……」
カルヴァリオさんがそう呟くと、机の一番上の引き出しに手を掛け、中にある一通の手紙を取り出した。
「これを渡すのが楽しみだな……」
送り主には『ビュレガンセ冒険者ギルド連盟本部』と記されていた。
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