第183話 一人の騎士の想い
エルヴォスの気持ちが出ています!
俺達は同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされ、Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。
想像以上に大きなトラブルや内容だったが、皆の協力のお陰で解決に至った。
「いや~、まさかあんな盛大にやってもらっちゃうとはね~」
「ビックリよ。半分は遠征先の話だったのに皆ったら……」
「でも、楽しかった」
「まぁ、帰ってきて早々に大事件の対処に追われたのは驚いたけど……」
「そうね……」
宴席の場を片付け終えて帰路に着くミリアさん達は夜道を歩いている。
それぞれが思い思いの感想を言い合っていた中……。
「……」
「ミリア?どうかした?」
「ん?」
ミリアさんが少し考え込んでいるところにライラさんが声をかけた。
「トーマさん達の事を考えてた」
「ふ~ん。そう」
ミリアさんが笑顔でそう言うと、必要以上に踏み込み過ぎるのは野暮だと判断したライラさんはそれ以上聞かなかった。
「それにしても、“ゴーレム”の改造を施された“メガオーク”を倒すなんて凄いよな、トーマ達って!」
「うん、私もそう思う」
「確か、BランクとCランクのパーティーだったはず……」
「マジ?どっちもBランクだと思ってた!」
「見かけによらないわよね~」
ターニャさんを中心にメロさんとフォネさんも会話に入っている。
ライラさんは諦観した様子だ。
ミリアさんは歩きながらどこか考え込んでいる。
(あの時、遠目から見ていたけど、【土魔法】・【炎魔法】・【風魔法】・【水魔法】を一度に放出する魔力を感じた。加えて、一瞬だけ凄まじい力が膨れ上がったような一撃……。それにギフトは『何でも屋』……)
俺達が“メガオーク”と戦っている時、ミリアさん達は馬車で現場に駆け付けており、遠くからだが、その戦いを少なからず見ていた。
Aランク冒険者なだけに、ただ強いだけではない何かを感じ取っているようだった。
その表情は興味の中に好奇心と気掛かりも含まれている。
(トーマ・クサナギ……。彼は一体……。何者なんだろう……?)
ミリアさんはそう思いながら帰路に着いていくのだった。
————————
◆一方その頃……
「ふぅ~。楽しかった」
「こらこら。まぁ、確かに僕も楽しかったって思うよ」
「これは後で酔い覚ましのお薬が必要ですね」
「後で飲ませるわ」
酔ったミレイユはクルスに寄りかかっており、エレーナやセリカからも介抱されている。
【ティア―オブテティス】に所属している冒険者は女性が結構多いため、同じ女性同士で会話に花が咲いたのだろう。
まぁ、それだけ楽しい時間だったってのは分かるけどね。
ウィーネスさん達は微笑ましい様子で見守っており、俺とエルヴォスさんは最後尾を歩いている。
「トーマ殿。今回の件は本当にありがとう。協力してくれなかったら、私は今頃、腐敗した騎士団の中で燻ぶったままだっただろう……」
「そんな。滅相もございません!」
(それ言われるの何回目だ~?)
俺はエルヴォスさんに今日だけで何回目になるのやらって回数で感謝された。
その表情は嬉しくもどこか儚さもあった。
「フォローするつもりではない前提で話をさせてもらうが、ノージン隊……いや、ノージンは一線を超えてしまう過ちを犯してしまった。しかし、最初から醜い人間性をしていた訳ではなかったんだ」
「え?」
人気がない広場まで進みエルヴォスさんがそう言うと、俺達は足を止めて話を聞いていた。
「知ってはいると思うが、騎士団は王国に忠義を誓い、雇われる形で国や街、その地方の治安維持や有事の時には冒険者と協力してトラブルの解決に当たる集団だ。冒険者と違い、安定した給与や地位は保証されるが、代わりに自由度や柔軟性は効き辛く、民衆からは守ってくれて当たり前と言う意識を抱かれる傾向が強いのだ」
「確かにそうかもしれませんね。冒険者は才能が無ければ最悪一文無しになりますけど、騎士は戦闘能力が凄く高くない方でも、真面目に人々のために働いていれば、安定したお金や地位は保証されますからね……」
エルヴォスさんが言っている事に対し、ウィーネスさんはそう述べた。
「ノージンは剣術や騎士団を回す才能は確かにあったが、その分上へ駆け上がる野心も本物だった。だからこそ、自分の実力が上に評価されないとどこかで思い込み始め、もっと金や名声、地位を欲していったのだろう。気付けば阿漕な事を企てるクジャール伯爵家を始めとする貴族やヴェヌトイル商会の会長であるゲオルグらと癒着しては金をもらい、賛同してくれる部下らと共に都合の悪い事を握り潰し、本来の騎士としての心を捨て去ってしまい、今回の事件へと繋がってしまったのだと私は思っている。ノージンが隊長になった、いや、なってしまった事がその決定打になってしまったのだとも考えている」
「エルヴォスさんはその……お金とかそう言う不満は抱いた事はないんですか?」
「ないと言えば嘘にはなる。上手くいかなかった時の糾弾を受けても簡単に流せるほど、私は強くない。だが、私はウェシロスと言う街は……ビュレガンセと言う国は本当に素晴らしいと思っている。だからこそ、自分の手で堂々と民衆の方々に寄り添い、治安を守りたいと思って騎士になる事を決めたのだ。守るべき人々のために命をかけて働き、戦えるならばそれは騎士として本望な事だ」
「エルヴォスさん……」
俺達はエルヴォスさんの気持ちを聞いて心が熱くなりかけた。
濁りの無い目で真っすぐに正義を貫き邁進していこうとする言葉を聞いて、これが騎士道精神と言うモノだと感じた。
「俺、分かりますよ。エルヴォスさん……。その想いがノージンとの決闘に勝って、最後は騎士団の腐敗を拭い切ったんだって俺は思います」
「トーマ殿……」
俺はエルヴォスさんの理念に共感した。
セリカ達も同じような表情をしており、皆を見回した。
「ありがとう。お陰で、もっと踏ん張れそうだ」
そう言ったエルヴォスさんの表情は晴れやかであり、ゼロからやり直そうと頑張るバイタリティーが滲み出ている。
俺達は改めて拠点にしている宿屋へと向かっていった。
「ふぅ、今日は楽しかったな」
「そうですね。女性が多い冒険者ギルドなんて初めてでしたから、それはそれで緊張しましたけど……」
俺は拠点にしている宿屋でクルスと一緒の部屋のベッドで大の字になっている。
行方不明になったギンゼルさん達も見つかり、西方支部の騎士団やヴェヌトイル商会の暗部も解決できて、嬉しさと解放感でいっぱいだ。
「エルヴォスさんだったら、きっと立て直してくれますよね」
「あぁ。あれほどまでに真っ直ぐな人だ。それに、右腕的存在のシモーヌさんを始めとする最後まで付いて来た騎士達もいるから、正義の騎士団にしてくれるはずだよ」
「そうですね……」
一日を振り返りながら、俺達は寝る事にした。
そして、ウェシロスで過ごす最後の一夜は過ぎていくのだった。
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