第176話 限界ギリギリ
トーマ達、大ピンチです!
俺達は同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされ、Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。
俺達はウェシロスにある王国騎士団西方支部の副隊長であるエルヴォスさんと協力し、不正や癒着に手を染めている関係者の監査に乗り出していく中、事件に関わっている『テイマー』であるマラリナが引き起こした事件は混迷を極めていく。
「セリカ!」
「ウィーネス!」
「モレラさん!クジャール伯爵家の屋敷が……」
(ほぼ壊滅状態じゃねえか!)
雑木林を抜け、マラリナが従える甲冑の騎士と戦っていたセリカとウィーネスさんのいる場所へと駆け付けるクルスとモレラさん。
最初に目に飛び込んだのは、大爆発による余波でボロボロに変わり果てたお屋敷だった。
その周囲はほとんど荒廃しているような状況であり、煙も立ち込めていた。
(まさか……?)
クルスとモレラさんはその光景を見て絶句してしまい、最悪の可能性が頭を過らせる。
【気配感知】で消息を探ろうとしたその時だった。
「クルス!あそこ!」
「!?」
モレラさんは晴れかかっている煙の中に人影を見つけ、その方角に指を差した。
そこにあった人影は……3つだった。
「「はぁ……はぁ……」」
「……」
「あんた……どうして庇ってくれたの?」
ウィーネスさんが問い掛けた先にいる男。それは……。
「マーカス」
「……」
それは冒険者ギルド【ティア―オブテティス】に在籍するBランクパーティー【スターレック】のメンバーの一人であるマーカスさんだった。
彼は愛用している武具である大楯を前にかざしており、傷を負い、疲労している状態だ。
一目見ただけでも分かるのは、マーカスさんがセリカとウィーネスさんを守ったと言う紛れもない事実だ。
「セリカ!ウィーネスさん!」
「クルス!モレラさん!」
「ポドルゾ達はまだ見つかっていないが、爆発音を聞いて駆け付けた!」
「そう……」
クルスとモレラさんはセリカとウィーネスさんの下に駆け寄った。
体力や魔力を消耗していて疲弊の色はあるものの、それ以外は無事だった。
命があって何よりだ。
もう一つ驚くべき事もある。
「お前は確か、ジゲラと同じパーティーの……」
「はい。マーカスです」
「爆発する直前、マーカスが割って入って助けてくれたのよ」
「「何?」」
ウィーネスさんの話を聞いたクルスとモレラさんは驚きの表情を見せた。
爆発が起きる寸前、【風魔法】で防御しようとしたセリカとウィーネスさんの間に割り込む形でマーカスさんが乱入し、彼の盾と魔法による防御で被害を抑える事ができた。
だが、何故そこまでしたのかが疑問だった。
「利用され続けるのもそうだが、何より……。もう、疲れたのですよ。実家やクジャール伯爵家に肩入れするのも……」
「マーカスさん……」
(あの軽鎧、確か……)
マーカスさんは儚げな表情をしながら、大の字になって倒れている甲冑の騎士の下に歩んでいった。
さっきまで纏っていた筈の甲冑は消滅してしまっており、その下には冒険者向けの軽鎧が剥き出しになっていたが、ウィーネスさんはそれを見て訝しい表情となった。
「本当に、馬鹿な事をし過ぎだよ……」
「「「「!?」」」」
マーカスさんが倒れている騎士の兜を取ると、その素顔はジゲラだった。
命こそ落としていないが、衰弱気味になっており、意識も完全に失っている。
その付近にはマラリナがジゲラに渡した魔道具が転がっており、機能不全になってしまったのか、その光は当に消えていた。
「何でジゲラさんが?」
「その事についてなんだが……」
セリカが驚きながら質問し、マーカスさんが答えようとした時だった。
ドゴォオオオーーーーーン!
「「「「「!?」」」」」
「今度の爆発は?」
「あの方角、バダックやトーマ達だわ!」
「私達も向かいましょう!」
「えぇ!」
「……」
セリカ達は近くで待機させた馬車に向かおうとした。
「あの、皆さん……」
「何?今から私達は」
「俺も連れて行ってもらえませんか……?」
「え?」
そこでマーカスさんがセリカ達を呼び止め、同行を申し出た。
◆
一方——————
「グォオオオオオ!」
「トーマ!離れて攻撃しろ!」
「ハイ!」
「【剛戟LV.3】&【岩石魔法LV.2】『ロックライナー』!」
「【剣戟LV.2】&【風魔法LV.1】『ソニックブーム』!」
「ギョァアアアア!」
俺は“ゴーレム”の改造を施された“メガオーク”を相手に奮闘中だ。
支援にはエレーナとトクサさん、魔法による攻撃や防御はミレイユとリエナさん、そして前衛は俺とバダックさんのフォーメーションだ。
しかし、“メガオーク”の頑強さと“ゴーレム”の改造を施された事による更なるパワーアップや攻撃手段の増加のせいで、膠着状態のようになってしまっている。
「はぁ……はぁ……」
(これが“ゴーレム”の改造を施されたモンスターの強さかよ?改造元のモンスターのスペックを加味しても、面倒臭いくらいのタフネスだと思うぞ……)
一進一退の攻防ではあるが、言い換えれば、俺達にとっては不利でないけど有利でもない、かといって逆転の決定打も見いだせない状況でもある。
しかし……。
「「ふぅ……はぁあ……」」
(くっ。埒が明かないとはこの事かよ)
(俺とバダックさんもそうだが、ミレイユ達も……)
前線を張っている俺とバダックさんには息の上がりが見え始めていた。
常に魔法で援護や防御を担っているミレイユ達にも疲労が見え隠れしている。
まさに虫の息の一歩手前と言っても差し支えないような状況だった。
「【剣戟LV.2】&【風魔法LV.1】『ソニッ……』!」
「グォオオオオオ!」
「「!?」」
俺がもう一度攻撃を仕掛けようとした時、“メガオーク”の腕から再び魔力が収束された主砲が放たれ、俺に目掛けて飛んで来た。
「「【氷魔法LV.2】『アイスウォール』!」」
「【岩石魔法LV.3】『ロックランパード』!」
ミレイユとリエナさんは【氷魔法LV.2】『アイスウォール』で、バダックさんは【岩石魔法LV.3】『ロックランパード』で俺を守ってくれたが、俺も衝撃の余波で吹き飛ばされてしまった。
「「はぁ……はぁ……」」
「くっ!」
(トーマを守るために、ミレイユもリエナも限界ギリギリだ。そんで……。この俺も……)
しかし、その代償は大きかった。
“メガオーク”の身体や覆っている鎧も攻撃を浴びせ続けたお陰もあってか、最初に見た時よりもダメージは大分受けているものの、それ以上に俺達の疲労の方が厳しかった。
ミレイユとエレーナ、リエナさんとトクサさんは魔力切れ寸前であり、バダックさんもそれに加えて体力も切れかかっており、身体には痣や傷の数も多い。
俺自身も限界ギリギリな状況だ。
それでも、街へ行かせる訳にはいかない。
(また、あの時みたいな戦い方をするかもしれない。また、セリカ達を泣かせるかもしれない。それでも俺は……)
俺の脳裏には、同じギルドの一員であり、魔改造されたドキュノとの戦いを思い起こし、その時の戦いを振り返った。
あの時は俺のユニークスキル【ソードオブハート】を限界まで使った末に勝利したけど、5日間も意識不明で命も危ない状況になった。
目が覚めた時には仲間達、特にセリカはボロボロと泣いていた。
それほどまでに無茶な戦いをしてしまった、と言うよりもせざるを得なかったと言った方が正しい。
また同じ事になるかもしれないけど……。
(俺は……皆を守りたい……)
俺はその想いだけを胸に抱きながら、“メガオーク”と向き合う。
その時、一秒にも満たないような感覚が俺を襲った。
それは、暖かくも清く、強くも優しいような感覚だった。
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