第165話 騎士道と現実
いくら現状に不満があるからって不正に手を染めていい理由にはなりません!
俺達は同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされ、Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。
俺達はウェシロスにある王国騎士団西方支部の副隊長であるエルヴォスさんと協力関係を結び、腐敗した騎士団の浄化のために行動する事となった。
ビュレガンセ王国騎士団西方支部・室内————
「ぐわ!」
「うぅ!」
「お前らの悪事も直に公になる!大人しく投降するのが身の為だぞ!」
「ぐ……う……」
支部において書類管理をしているだろう部屋にて、ノージンに賛同する騎士数名が諦めたように項垂れている。
「協力頂き感謝します!」
「礼には及びませんよ!」
「あなたがいなければ、ここまで強く出られませんでしたよ!シモーヌさん!」
バダックさんが顔を向けた先には、シモーヌさんと言う女性の騎士がいる。
明るい茶色のセミロングヘアーをポニーテールにしている甲冑に身を包んだ、凛々しくも勇ましい雰囲気をしている。
シモーヌさんは騎士団の腐敗を嘆いている副隊長であるエルヴォスさんが最も信頼を置いている部下の一人であり、彼女もまた、それを憂いている。
だからこそ、腐敗の権化である隊長のノージンやその部下達が出払っている間に、エルヴォスさんに賛同してくれている部下の騎士達と共に制圧に乗り出したのだった。
バダックさんとトクサさんはシモーヌさん達のサポートに回り、その面子の中には【ティア―オブテティス】に所属する有志の冒険者達もいた。
それからはシモーヌさんら腐敗を認めていない騎士達が中心となって鎮圧を行っていき、証拠の洗い出しも終えていった。
「皆さん、本当にありがとう。協力していただけなければ、ここまで上手くは行かなかった!心から感謝する!」
「そ、そんな……」
「頭を上げて下さい!」
シモーヌさんが誠心誠意頭を下げている様子を見て、バダックさんやトクサさんは窘めている。
騎士は国のために頑張っている意識が強い一方、自由を求める傾向が大いにある冒険者を軽く見ている者は多い中、シモーヌさんや彼女に付き従う部下らはしっかりと礼節を重んじているのが見て分かる。
エルヴォスさんの指導なのか、シモーヌさんの人柄なのか、もしくは両方かにしても、その振る舞いやここまでの行動を鑑みて、信用しても良いと判断するには充分だった。
「これでノージン隊長が揉み消していた証拠や裏金を受け取っていた証拠は抑えられた。後は……」
「はい。ウィーネスやエルヴォスさん達ですよね?」
「その通りだ」
(どうか、ご無事でいて下さい。エルヴォス副隊長……)
バダックさんとトクサさん、シモーヌさんは倒れている騎士達を縛り上げていった。
その中でシモーヌさんは祈るような表情でエルヴォスさんの無事を願っている。
一方—————
「騎士として、ここで決着を着けよう!ノージン・メノオ!」
「エルヴォス」
俺達は作戦で誘き寄せた倉庫の中にいる。
そんな中、エルヴォスさんが剣を抜き、騎士団を腐敗させた元凶である隊長、ノージンと相対している。
俺達も加勢しようとしたが……。
「申し訳ないが、一対一でやらせてはもらえぬか?」
「え?」
「協力してくれた事には感謝している。その気持ちに嘘はない。だが、ノージン隊長、いや、ノージン・メノオだけは私の手で決着を着けたいのだ。それは、私自身の信念である!」
「エルヴォスさん……」
エルヴォスさんは加勢を拒否した。
騎士団の腐敗を浄化するために戦い続けてきたエルヴォスさんとその権化となったノージンは正反対の価値観を持っている。
不正を拒み続けた者達とそれを受け入れ続けた者達。
それぞれの代表がエルヴォスさんとノージンであり、その象徴だ。
だからこそ、一対一の勝負で決着を付けたい気持ちが伝わってくる。
「さっきから聞いていれば笑わせてくれる!ならば貴様を斬り伏せ、反逆罪でお前やその部下達を一人残らず投獄させてやるよ!」
「ッ!」
ノージンは高らかに笑いながら剣を抜き、エルヴォスさんの表情は一層険しくなった。
「エルヴォスさん、分かりました。ノージンの相手はお任せします。ただ、どうか……」
「ありがとう。任せて欲しい。必ず勝つ!」
エルヴォスさんは決意の姿を見せてノージンと向き合い、俺達は倒れている騎士達の捕縛に専念した。
そしてエルヴォスさんとノージンが剣を抜いて向き合う。
「覚悟してもらうぞ!」
「フン、俺に勝てると思っているのかエルヴォス?」
「やってみなければ分からんだろう!」
(私も職務の傍らで鍛錬を欠かした事は一日足りともない。全てはこの日のために……)
ノージンは自分が勝つと信じて疑わないような表情をしているが、エルヴォスさんは気合を入れ直している。
「まぁ、ここでお前達や邪魔になる冒険者共を屠って反乱分子となるモノは排除しておくに越した事はないからな」
「どう言う意味だ?」
「エルヴォス。お前は何も思わないのか?騎士団の、いや、騎士として正義を貫きながら生きていく事の意味を……」
「意味だと?」
ノージンの口からは不穏な言葉が出てきて、エルヴォスさんが語気を強めて反応する。
それは、国のため、人のために治安や命を守る騎士から出る言葉とは思えない内容だったからだ。
「俺はな……。腹が立ってるんだよ!国のため、街のため、人々のために治安や命を守る騎士に俺は憧れた。そのために騎士団に入って、沢山の努力を重ねてきた!なのに、モンスターや輩から守るために命や信念を持って取り組んでも、この騎士団内でポジションを上げても、手間や苦労が増えるだけで給与だって大して増えねえ!にも関わらず、民衆は俺達が些細なミスをしたらすぐに責めてくる!こっちは身体を張って貢献しているんだぞ!守ってやってるんだぞ!もっと感謝してくれてもいいはずなのにだ!多額の報奨金だって貰ってもいいはずなのにだ!」
「ノージン、お前……」
「それなのにあの野郎は『民衆を守るのが騎士の務めであり誉れだ。そのために正義と不屈の心を持つ事こそ大切なのだ』等とのたまいやがって!正義や不屈の心が金に代わる訳でもないのにだ!」
「止めろ!ザガール隊長を悪く言うな!あの方からは私もお前も世話になったはずだろう!その教えを踏みにじった挙句に数々の薄汚い真似を!」
「黙れ!いつだって目障りなんだよ!耳障りなんだよ!ザガールもお前も!何が正義だ!何が不屈の心だ!馬鹿馬鹿しいんだよ!」
ノージンは内に溜め込んでいた感情を爆発させた。
騎士に憧れていたはずなのに、現実に直面しては打ちのめされて、それでも立ち上がってを繰り返して踏ん張ってきた。
だが、正義と不屈の精神を持っても、失敗やミスをした時は周囲から悉く責められる。
命や騎士のプライドを持って邁進しても、それに見合わない給与と待遇。
少しずつ確実に不満が積もりに積もってしまい、遂には正しき心を捨て去り、目の前の金に執着するようになった。
ノージンの不平不満が大いに入り混じった叫びを聞いたエルヴォスさんは深呼吸した後に口を開く。
「分かった……。よ~く分かったよ……。お前は騎士道を捨て、我欲に走った落ちた騎士だ。ノージン・メノオ!貴様は私が斬り伏せる!」
「いいぜ!ここで白黒を着けてやるよ!」
「エルヴォスさん……」
そして、エルヴォスさんが咆哮を上げる。
俺達はその決闘を見守るしかなかったが……。
(どうか、勝って下さい!)
「「行くぞ!」」
ビュレガンセ王国騎士団西方支部のツートップ同士の決闘が今、始まった。
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