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第163話 ハイリスク

腐敗した騎士団にメスを入れていく準備をしていきます!

俺達は同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされ、Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。

俺達はウェシロスにある王国騎士団西方支部の副隊長であるエルヴォスさんと協力関係を結んだ。

更にはセリカ達も、事態を動かすだろう情報を得ていた。


冒険者ギルド【ティア―オブテティス】・会議室—————


俺達は今、【ティア―オブテティス】の会議室にいる。

数部屋ある会議室の中でも一番大きな部屋を使い、長い机の真ん中にある上座らしき場所にはヒルダさんがおり、俺とウィーネスさんが黒板の前に立っており、セリカ達は椅子に座っている。


「作戦会議のために来ていただき本当にありがとうございます。エルヴォスさん」

「いえ、私のために時間を作って頂き感謝します」


ヒルダさんに丁寧に挨拶されているのは、ビュレガンセ王国騎士団西方支部の副隊長を務めているエルヴォス・ブレドランさんだ。

彼はクジャール伯爵家やヴェヌトイル商会との癒着によって腐敗した騎士団を浄化するべく奔走しており、俺達に可能性を感じて手を組む事を決めてくれた。

今回来て下さっているのは、エルヴォスさんを交えて綿密な作戦を練るためだった。

合流まで時間がかかると思ったが、まさか朝イチで来るとは思ってもみなかった。


「あの~、副隊長さんが堂々とここに来ちゃってますけど、大丈夫なんですか?」

「心配には及ばない。偶には自分も見回りに行くとでも言っておいたからな。それに、動くにしても作戦を練るにしても、早い方が良いからな」

「確かに……」

「それでは、作戦会議を開始します」


ヒルダさんの号令で会議が始まった。

まずは俺達で集めた情報とエルヴォスさんが自身とその部下達で秘密裏に集めた証拠を共有し合った。


「なるほど。これらは証拠として持ち出せば本来は即刻捜査に入れますね」

「にもかかわらず、捜査に踏み込めない理由。それがエルヴォスさんの上司であるノージン隊長と彼に賛同する大多数の騎士による揉み消しと言う事ですね……」


エルヴォスさんも見せられた証拠を確認すると、普通ならこれで動くに値すると評したが、ヒルダさんがその理由を告げた。

エルヴォスさんが所属する王国騎士団西方支部にはノージンを筆頭に、癒着に賛成する騎士達が大半であり、何か都合の悪いトラブルが起きた際は総出で事件を有耶無耶にするのが常套手段との事だ。

最初は『隊長であるノージンを襲って行方不明扱いにしてどこかに監禁した後、実質隊長となったエルヴォスさんが仕切る形で捜査をさせる』と言う案も出てきたが、それでは却って怪しまれる可能性が高いから却下された。

そもそも、闇雲に騎士団の隊長を攻撃すれば、反逆罪になってそれこそ問題だとエルヴォスさんが言っていた。


「となると、そのノージンと言う男はもちろん、賛同している部下の騎士をどうにかする事がポイントになるって事ね……」

「その通りだ。何の策を打たないで私や私に付いて来てくれる部下の兵士だけで動いてしまえば、数の利で囲まれて、あっさりと邪魔される可能性が極めて高い。そうなれば、私達の動きが大きく制限されてしまい、騎士団の腐敗化が進んでしまう」


ウィーネスさんの指摘に、エルヴォスさんがその理由を説明する。

何かあった時に動く騎士の人数はエルヴォスさんを含めて100人近くいる。

約四分の一がエルヴォスさんに賛同し、不正や癒着に着手していない騎士達だ。

ザッと見積もっても多くて約25人、作戦をしくじればエルヴォスさんも副隊長の座を追われてしまい、彼に付いて行った善良な騎士達も組織の中で針の筵となって苦しむ事は目に見えている。


「その少数派で不正に反対している騎士の皆様とどうやって作戦を進めていけるかが焦点になるわね」

「あぁ、あくどい事を考えている奴を懐に入れてしまえばこっちの動きが筒抜けになるリスクがある。そうなれば作戦どころではないな」


リエナさんとバダックさんがミソとなる点を上げた。

今回の作戦において迅速さはもちろんだが、隠密に行動できるかが重要なポイントである。

密かに行動するつもりが、みすみす内通者を懐に抱えてしまえば、ノージン達に全部バレる危険性が跳ね上がる。

そうなれば作戦はご破算だ。


「それとなく探りを入れると言うのはいかがでしょうか?」

「一人一人聞き込んでは時間がいくらあっても足らんぞ、トクサ。後、不審がられる」

「かと言って一人一人無理に聞き出す形で、芋づる式でやろうにも……」

「それはそれで怪しまれるわよ」

「単刀直入に聞くのは論外よね」

「かと言って回りくどいやり方を続けていては、結局ノージンって隊長に漏れる可能性も大だし……」


セリカ達それぞれが意見を取り交わすも、これと言ったアイデアは中々出て来ない。

俺達のしている事は、治安を取り締まる騎士団相手に喧嘩を売るような行いと言ってもおかしくない内容だ。

慎重に取り組まないといけないが、余り大胆に動いてしまうのはリスクが高まるだけだ。

俺達は行方不明になった同じギルドの冒険者であるギンゼルさん達を探すため、同じく行方不明になったヒルダさんがギルドマスターを務める【ティア―オブテティス】の冒険者達を探すために動いている。

仲間の動向を追って探し出すのに犯罪を取り締まり、治安を守ろうとする騎士団を相手に事を構えるのは、リターンはともかくにしても、正にハイリスクである。

失敗すれば、クジャール伯爵家やヴェヌトイル商会の悪行だけでなく、王国騎士団西方支部の腐敗をそのままにしてしまい、行方不明になった冒険者達の行く末が分からないまま切り上げる羽目になってしまう。


(何かないか?不正に手を染めている騎士達を区別する方法は?不正に関する情報……。癒着している証拠……。バレないために隠す……。ん?いや、待てよ……?不正を、後ろめたい事をしている奴ほど、自分の保身に走りやすいって事だろ?加えてそれに関係する事には敏感になりやすい。だとしたら……)

「あの、エルヴォスさん、一つよろしいでしょうか?」

「トーマ殿、何か?」


俺が思案している中、ある考えに辿り着き、エルヴォスさんと向き合った。


「エルヴォスさんから見て、今ある情報や証拠の中で、不正に関わっている騎士が多くある場所や案件は何かをお伺いしたいのですが……」

「不正に関わっている騎士が多くある場所や案件、と言うと……?」


訝しんでいる様子のエルヴォスさんに対し、俺は耳打ちした。

するとエルヴォスさんは頷いた。


「なるほど、不正に関わっているかどうかを一度のアクションで善悪のふるいにかけるなら、それは良いアイデアかもしれんな……」

「何?トーマ、どうしたの?」


何事と言わんばかりな表情のウィーネスさんが俺とエルヴォスさんに詰め寄る。

そこで俺とエルヴォスさんは考え付いた事を皆に共有する。


「なるほど……。絶対とは言い切れないが、それはベストかもな……」

「はい。それでお伺いしたいのですが、エルヴォスさんから見て、裏切る懸念がないと思われる方はどれくらいいらっしゃるかをお伺いしたいのですが……」

「私が分かる限りでは、不正に手を染めたくないと言っている者が20人ほど、付き合いの長さや口の堅さを基準にして、心から信頼に足るのは10人いるかどうか……」

「でしたら、こうしてみるのは如何でしょうか?」


俺は思い付いたアイデアを会議室にいる全員に伝えた。


「それだったら、トーマが言っていたアイデアでふるいにかけるのも、確かに有効と思えるかもね」

「ご理解いただき感謝します。エルヴォスさん、さっきのアイデアについては……」

「あぁ、理想的に進めば、早くとも半日以内で解決できる可能性もある。戻り次第、信頼に足る部下達に早速共有し、協力を仰いでみよう」


こうして、俺達は作戦実行のための下準備に動いていった。

武具のメンテナンスや必要なアイテムの在庫確認、必要な人員の数や役回りの確認、不正を働いているのが分かり切っている騎士達の動向やスケジュールの共有まで、綿密ながらも、周囲に悟られないように努めながら進めていった。

最初は行方不明になった冒険者達の捜索だったのが、それを上手く進める第一段階で騎士団と対立しようとしている状況に置かれている。

今まではモンスターとの戦いで命のやり取りになる事が主な俺達だが、今回の相手は治安を守る事は名ばかりの腐敗している騎士達。

倒して当然のモンスターと違い、人間であり、取り締まる権限を持っている集団だ。

もしも失敗してしまえば、反逆罪で王都に移送された末に投獄され、冒険者としての活動が絶望的になってしまうと言う、ハイリスク以外の言葉が見つからない状況だ。

それでも……。


(必ずやり切って見せる!)


俺は決意を新たにするのだった。


一方———————


「それでさ、その時のあの夫婦と見たらよ……」

「何だよそれ、受けるぜ~」

「その捜索願を蹴るとかヤバくないか?」

「いいんだよ。相手は貧相な農民だ。体の良い事を言ってれば諦めるさ」

「おいおい、悪いな~」

「何を言う、何てな!それでさ、その時あの野郎のツラったら、ハハッハハ!」


ウェシロスに根差しているビュレガンセ王国騎士団西方支部の飲食スペースにて、休憩中の騎士達でごった返していた。

だが、節々で聞こえる会話の内容は意義を感じられる事ではなかった。

不満、不平、侮蔑、愚痴、根も葉もない噂等と、普通の人ならば聞いていて我慢が仕切れる内容ではなかった。

しかし、ほとんどの騎士達はその良くない話題で盛り上がっていた。

ストレス発散を加味しても、聞いていて気分が悪いような内容だった。


「おう、何の話をしているんだい?」

「あ、ノージン隊長」

「お疲れ様です」

「あぁ、お疲れさんだな……」


そこに現れたのは、一人の騎士だった。

それから少しの談笑をしていた。


「ふぅ、改めて思うが、全く大変なのだな。騎士団の隊長と言うのは……」

「隊長、気苦労お察しします。まずは紅茶を……」

「はい。こちらです!」

「あぁ、悪いな……。はぁ……」


その男は雑に椅子へ腰を掛け、悪態を隠そうともしないような様相であった。

取り巻きの側近達も、主への忠義を尽くすより、媚を売って機嫌を取っていれば大丈夫だろう苦手な先輩を相手にしているような様相だった。


「支部の隊長の給与や待遇は割に合わないな……」


如何にも騎士団のリーダーと思わせるような装飾をした甲冑を身に纏った深緑色の短い短髪と若干人相がキツイような風貌をしている人物こそ、ビュレガンセ王国騎士団西方支部の隊長であるノージン・メノオその人だった。


「全く、愚かな民のために点数稼ぎ等、億劫でしかないのにな」


そう呟くノージンの表情は不機嫌さを隠そうともしない様相だった。


冒険者ギルドと騎士団の駆け引きの結果は、ウェシロスどころか、直にビュレガンセを巻き込みかねない凄まじい事件へと発展するのは、この時、誰も知る由もなかった。


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