第159話 家族との再会
嫌な思いでのある家族と再会するって、
想像以上にキツイと思います。
俺達はギルドマスターであるカルヴァリオさんの頼みで同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされた。
Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。
そんな中、ウェシロスにある王国騎士団西方支部が行方不明になった冒険者達の捜索に力を入れていない現状を知り、それを憂いている西方支部の副隊長であるエルヴォスさんと接触し、気持ちを知ったトーマ達は協力関係を結んだその一方で……
「お父さん……。お母さん……?」
(お父さんにお母さん?この人たちがミレイユの?)
(そう言えば、ミレイユの両親は行商人だったが、商売が傾いた末に蒸発したまでは聞いているけど……)
年季の入った服に身を包んだ男性と女性がセリカやミレイユ、クルスの前にいる。
特に女性の方は、髪色と顔立ちはどことなくミレイユとどことなく似ており、その面影を感じた。
そしてミレイユが名前を呼んだ。
実の両親の名前を……。
「あぁ、ミレイユ……。分かるか……父さんだぞ……」
「お母さんよ……。こんなに成長して……」
「何で?お父さんとお母さんがウェシロスにいるの……?」
(あの時感じた気配……。やっぱり)
ミレイユの両親は行商人だったが、商売が傾いた末に蒸発し、挙句に彼女を見捨てた。
その時の事がミレイユの脳裏にフラッシュバックした。
「ごめんね……。あなたを置いて行方を晦まして、ずっと後悔していたの……」
「どうしても、謝りたくてな……」
「いい……」
「ミレイユ?」
ミレイユの両親は後悔の言葉を口にしている。
反省の気持ちを示しているのは見て取れる。
すると……。
「そんな事はどうだっていいの!何であの時私の事を置いて、逃げるように行方を晦ましたの?アンタ達がいなくなってから私がどんな思いで生きてきたと思っているの?商売の事ばっかり考えていて、段々と娘として見てくれなくなった私の気持ちを考えた事があるの?ずっと辛かったのよ!苦しかったのよ!寂しかったのよ!そんな謝罪なんかで受け入れられるはずないじゃない!」
突然、ミレイユは激発した。
娘の気持ちよりも、商売の事ばかり考えて優先していった両親は最終的にミレイユを残して蒸発した。
ミレイユは涙を零しながら腹の中に溜め込んでいた怒り、辛み、恨み、虚しさ、そして悲しさを爆発させた。
「ミレイユ、私は……」
「下らない言い訳しないでよ!二人が出て行ってからどこで何をしてたかなんて興味ないけど、見捨てられた時のあの気持ちは今でも私の胸に残っているの!」
「ミレイユ、落ち着いて……」
「黙ってよ!」
「ぐっ!」
「クルス!」
ミレイユの母が何かを言おうにも、ミレイユは続けざまに罵声を飛ばし、落ち着かせようとするクルスを思わず引っ叩いてしまう。
怒りのままの気持ちからか、『魔術師』とは思えない力でだ。
「ボロボロな格好を見ていて分かるわ!どうせまた商売に失敗して借金とか背負って苦労に苦労を重ねたんでしょ!私の事を見捨てた天罰が下った!いい様じゃない!」
「ミレイユ、ただ、私達は……」
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!アンタ達の顔なんかもう見たくない!金輪際私に関わらないで!一生泥水でもすすって生きていなさいよ!」
「ミレイユ!」
「僕が追いかける!ミレイユ!待って!」
いつになく口汚く他人を、ましてや自分を見捨てて行方を晦ました両親を罵ったミレイユは感情に任せてどこかへと走り去ってしまい、セリカが動こうとしたところにクルスが制止し、その背中を追いかけていく。
「「ミレイユ……」」
「あの……。つかぬ事をお伺い致しますが……。本当にミレイユの……ミレイユ・パプリフォスのご両親でお間違いないでしょうか……?」
「はい。私はガンギ・パプリフォスと申します。彼女が私の妻であるミラユリ・パプリフォスでございます」
「初めまして……」
「どうも……」
力なく項垂れるミレイユの両親であるガンギさんとミラユリさんは、セリカに確認される形で自己紹介した。
それから二人が落ち着いたところでセリカは話を聞いてみる事にした。
「行商人を営んでいたけど、商売が傾いた末に蒸発したところまではミレイユから存じ上げております」
「はい……」
「どうして、ミレイユを置いて蒸発したのでしょうか?」
セリカもミレイユの過去については本人から聞いている。
俺やセリカはもちろん、ミレイユよりも後でパーティーに加入したクルスやエレーナも把握している。
「あの、信じてもらえるかは分かりませんが、まずは蒸発した時の状況よりも、最近の私達の状況からお伝えしたく思いまして……」
「それから、見て頂きたい物もございます……」
「何でしょうか……?」
ミラユリさんは懐からある物を取り出し、ガンギさんが口を開き、セリカは耳を傾ける。
その時……。
「おーい!待たせたな!」
「「「!?」」」
するとバダックさんの声がして、セリカ達はその方角に顔を向ける。
「こっちも物資の調達が終わったぞ~!」
「バダックさん!皆さんも……」
「面白い弓矢があったからつい時間がかかって……。ん?セリカ、ミレイユとクルスは?それに、そのお二人は……」
物資の買い出しを終わらせたバダックさんとモレラさん、トクサさんだった。
そこでモレラさんがミレイユとクルスがいない事やガンギさんとミラユリさんの存在に気付く。
「あの~、実は……。ミレイユのご両親なんですよ」
「「「えぇ?」」」
「この二人がミレイユの両親?」
(確かミレイユの両親って、行商人を営んでいたけど失敗した挙句に蒸発したはず?何故ウェシロスに……?)
セリカが打ち明けると、バダックさん達も驚いた。
一時期ウィーネスさん達と修行した際、彼女達もミレイユの過去についてはいくらか話している。
「ちょうど今、ミレイユのご両親からお話を伺おうとしていたところだったんですよ……」
「「……」」
「大丈夫ですよ!彼らは私と同じギルドに所属する大事な仲間ですし、信用に値する方達ですよ!安心して下さい!」
ガンギさんとミラユリさんは少し身構えているが、セリカは笑顔で優しく諭した。
「分かりました。皆さんを信じてお話します……」
勇気を振り絞るように、ガンギさんとミラユリさんは口を開いて話し出す。
それから数分後……。
「え?それって……」
「どえらい爆弾じゃねぇか……」
話を聞いたセリカ達の表情は凍り付いていた。
一方……。
「……」
(お父さんやお母さんの事はともかく、クルスを思わず引っ叩いちゃった……)
ミレイユは広場のベンチで一人座り、クルスを叩いた右手を見つめており、後悔と憂いが入り混じったような表情をしていた。
口が強いところのあるミレイユだったが、あそこまでの罵詈雑言をほざいたのはほとんどなかった。
許せない気持ちが強すぎたとは言え、人が通りそうな場所でみっともなく暴言を吐くなんて情けないと悔やんでいる様子だ。
「ミレイユ!」
「クルス……?」
ミレイユは声がする方角に身体を向けると、そこにはクルスがいた。
するとミレイユはすぐにクルスの下に駆け寄った。
「さっきはその……。引っ叩いてしまって、本当にごめんなさい!私自身、凄くみっともない事をしたって反省してる……」
「ううん、もう気にしてないよ……」
「あっ、ちょっと待って」
ミレイユは頭を下げて謝罪しており、クルスはもう気にしていないようだ。
するとミレイユは広場の噴水に寄り、所持しているハンカチを水につけて絞る。
「え?ちょ?」
「本当にごめんね……。痛かったでしょ?」
「もう大丈夫だって……。でも、『魔術師』とは思えないようなビンタだったな」
ミレイユはクルスを引っ叩いてしまった頬にハンカチを当てた。
それから二人の顔には笑顔が零れていた。
「じゃあ、セリカの下に戻ろうか?」
「……」
クルスがセリカ達と合流しようと呼び掛けるが、ミレイユは躊躇い気味だ。
先ほど怒りに任せて罵ったばかりなのだから、今戻る事を躊躇うのも無理はない。
「まだ、両親に会うのは心苦しいか……」
「本音を言うと……そうなるね……」
「それなら、遠目から見て、もしもまだいるようだったら、その場から離れてもらい、大丈夫だと思ったら合流するって形でどうかな?」
「え?うん、それでいいや」
クルスの提案にミレイユは飲んでくれた。
そして二人はセリカ達の下に向かった。
「う~ん。うん、どうやらいないね」
「そう……」
クルスが遠くから確認し、ミレイユのご両親であるガンギさんとミラユリさんがいないと分かった。
それから二人はセリカ達と合流した。
「セリカ!皆さんも物資の調達が終わりのようで……」
「あぁ。終わっている……」
「「……」」
「セリカ?バダックさん達も、どうしたんですか?」
(何だろう?皆の表情が険しい……)
しかし、セリカ達の周りには重い空気が漂っており、その表情も深刻だ。
ミレイユとクルスもそれを感じ取っている。
「ミレイユのご両親であるガンギさんとミラユリさんから話を聞いたの……」
「何を……?」
「まずはね……」
「お~い!皆~!」
「「「「「!?」」」」」
セリカがミレイユに対して何かを話そうとした時、声が響く。
「こっちも終わったよ!」
「お待たせ!」
騎士団の西方支部から戻ってきた俺達だった。
「トーマさん!」
「どうでしたか?」
「実はな……」
セリカとミレイユとクルスが駆け寄り、俺達は結果を報告した。
セリカ達も俺達と別行動を取っていた間に何があったかを教えてくれた。
「マジかよ……?」
「それって、凄い味方を得たようなモノじゃないですか!」
「えぇ、もしかしたら一気に事が進むかもしれないわ!」
俺とセリカは驚き、ウィーネスさんも自信に満ちた表情をしている。
この時、俺は今回の冒険者達が行方不明になった事件も佳境に入ろうとしているのは本能的に理解し、それは皆も同じだ。
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