第157話 騎士団に行ってみた
騎士団について分かってきます!
俺達はギルドマスターであるカルヴァリオさんの頼みで同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされた。
Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。
そんな中、ウェシロスにある王国騎士団西方支部が行方不明になった冒険者達の捜索に力を入れていない現状を知り、誰かしらの権力者と癒着している可能性に辿り着いていた。
「結論から言うと、トーマの仮説は概ね正解と思っていい。ウェシロスにある王国騎士団西方支部は、財力のある権力者と癒着している可能性が高い」
「騎士団が悪事に加担しているって意味ですか?」
「認めたくはないけど、話を聞いていればそう思わざるを得ないかもしれないわね……」
ヒルダさんの答えに俺は驚き、ウィーネスさんの表情には怒りが滲み出ている。
本来ならば国民や治安を守るべき役目を与えられた騎士団が悪事に加担していると言う余りにも無情かつ非情な答えを聞いて、俺達も怒りを覚え始めている。
「騎士団が当てにならないんだったら、アタシ達でどうにかするしかないって事ね……」
「【ティア―オブテティス】や他の冒険者達も必ず見つけ出してみせる!」
「皆さん、引き続きの協力感謝します……」
俺達が息巻いていると、ヒルダさんは丁寧にお礼をした。
「もうすぐミリア達も帰って来る。彼女達にも協力を申し出てみるわ!」
「あの、ヒルダさん!」
「ん?」
俺は挙手をしてヒルダさんに声を掛けた。
セリカ達の視線が一斉に集まった。
「私、一つやってみたい事があるんですけど、よろしいでしょうか?」
「何を?」
俺は一つの提案を思い付き、それを皆に打ち明ける。
「なるほど……。悪くないアイデアだけど、気を付けてね」
「もちろんです!」
「我々も付いてますのでご安心を……」
「では、すぐに行動に移ります」
俺達はそう言ってヒルダさんの執務室から出て行った。
その足で向かった先は……。
「ここがビュレガンセ王国騎士団西方支部か……」
「東方支部に負けないくらい大きな建物ですね……」
ウェシロスにあるビュレガンセ王国騎士団西方支部だ。
石造りの大きく立派な門や建物があり、その外観は武骨さを感じつつも、荘厳さも醸し出させるような印象だ。
余談だが、ティリルにあるビュレガンセ王国騎士団東方支部も同じようなスケールだ。
扉の前には槍を持った門番らしき兵士が2名立っている。
恐らく授かったギフトは『槍術士』かもしれないな。
「余り大勢で入ると目立つから、ここから先はエレーナ……」
「はい、分かっております」
「アタシとリエナも付き添うから、皆は広場とかで待ってて!」
「分かった」
「無理はするなよ……」
「ハイ!」
【トラストフォース】陣営からは俺とエレーナ、【ブリリアントロード】陣営からはウィーネスさんとリエナさんであり、セリカやバダックさん達は近くで待機してもらう事になった。
そして俺達は建物中へと入っていく。
「ここが騎士団の中ですか……?」
「広くて立派なロビーですね……」
「騎士団は街の治安を守るための組織だからね……」
「威厳を見せたいって言う魂胆が見え隠れするけど……」
中はお屋敷の玄関を彷彿とさせるほどに清潔で立派だった。
俺とエレーナが少し驚くのを他所に、ウィーネスさんとリエナさんは平常心を崩さない。
それから俺達は受付嬢に話しかける。
「こんにちは」
「ようこそお越し下さいました。どのようなご用件でしょうか?」
「その前に、一点お伺いしたい事がございまして……」
「何でしょうか?」
「犯罪が起きた際、こちらに被害届を提出すれば、捜査をしていただけるんですよね?」
「はい、そうです。まずはお話をお伺いさせていただきますね」
女性の受付嬢はスラスラと丁寧な受け答えをしている。
この辺りは【アテナズスピリッツ】の受付嬢であるナミネさんを思わせる。
それから俺は話し出す。
「この辺りで一つ事件が起きましてね」
「事件とは何でしょう?」
「ウェシロスの近郊にある町村付近で冒険者達が誘拐されてしまいました。我々は冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】の冒険者であり、その者達は被害者です」
「ッ!?」
俺がストレートに切り出すと、受付嬢の顔色が若干崩れた。
俺は行方不明ではなく、誘拐と言うワードを選んで質問する事で、事件性があると帯びさせてみた。
普通なら冒険者が行方不明になったらその人物が所属するギルドが探しに出るシステムだが、誘拐事件となれば衛兵も一緒に動いて捜索する義務が発生するからだ。
「誘拐事件が起きましたので、被害届を提出したく思います。用紙をもらえますか?」
「お待ち下さい。その冒険者様方が誘拐されたと言う証拠がなければ、動く理由には……」
俺が被害届を求めると、受付嬢は渋り、平静をどうにか保つ振る舞いが目立ってきた。
「確かに【アテナズスピリッツ】はビュレガンセ王国騎士団東方支部の管轄とは言え、そちらの管轄の土地で誘拐事件が起きたんですよ!」
「今いるウェシロスからほど近い町村にてその事件が起きたんです。少なくとも、応じる義務はあると思いますが?」
「そんな必要はない!」
「「「「!?」」」」
そこへウィーネスさんとリエナさんが追い打ちをかける中、別のところから男性の声が飛んできて、俺達はその方角に視線をやった。
「誘拐事件となれば実際に目撃した人物がいなければ、動くに値はしないですぞ」
(この支部の騎士か?真ん中にいる人が中心人物っぽいな……)
そこに現れたのは甲冑を着た騎士であり、後ろには部下と思しき兵士が6人いる。
向かって真ん中にいる騎士は明らかに実力者と思しき雰囲気を纏っており、トップかどうかは定かではないが、少なくとも部下を束ねるようなポジションに付いていると言うのはイメージできる。
「実際に我々のギルドだけでなく、ウェシロスに拠点を置く冒険者ギルド【ティア―オブテティス】の冒険者達も数組が誘拐されているんですよ。騎士団も一緒に……」
「さっきから聞いていれば誘拐誘拐と、下手を打ってギルドに戻るのが恐くなって行方知れずになったの間違いではないのかね?」
「え?」
「本当に犯罪ならば我々が動くのは当然の事だが、冒険者同士の些細なトラブルや事件に我々を巻き込むのは筋違いではないのかな?」
(些細なトラブルだと?)
しかし、騎士の男性の態度は腹正しいモノだった。
ここに来る道中、冒険者に対して上から目線や舐めた対応をする騎士は結構多いと聞かされたが、目の前にいる男の騎士はその一人である事がすぐに分かった。
「一つ言わせてもらいたいが、余りに騒ぎ立てるようだったら我々騎士団への迷惑行為及び公務執行妨害であなた方を捕らえる必要性が出てくるのだがな。一度でも投獄されてしまえば冒険者を永久に出来なくなるリスクも抱えてしまう事になるが?」
「クッ……」
(こいつら……)
(好き放題言ってくれるじゃない……)
今度は兵士たちまで馬鹿にするような笑い声が聞こえ始め、横柄な態度で適当な理由を付けては逮捕までチラつかせてきた。
その振る舞いに俺だけでなく、ウィーネスさんとリエナさんの眉根が寄り始めている。
「騎士様。そして兵士の皆様……」
「ん?」
するとそこへエレーナが前に出てきた。
瞬間……。
「申している誘拐と言うお言葉が出てきておりましたが、こちらもお言葉を選ぶべきでした。この度は不快な思いをさせてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした」
「エレーナ……」
(ん?この女性は……?)
エレーナの大変丁寧な謝罪の振る舞いを見て、俺達は落ち着いた。
男の騎士や兵士達もそれを見て呆気に取られた様子だった。
すると騎士はエレーナに少し歩み寄り、その顔をジッと見ている。
「そなたは……。ハイレンド伯爵家の子女であるエレーナ殿とお見受けしますが?」
「はい。わたくしはエレーナ・ハイレンド。以後、お見知りおきを……」
「エレーナ・ハイレンドって、確か……」
「あぁ、ハイレンド伯爵家のご令嬢だろ?」
「数カ月前にどこかの貴族の令嬢が冒険者になったって聞いたけどあの方が……」
「今は一介の冒険者です。お気遣いなく……」
男の騎士はエレーナの名前を当てると、彼女は淑女らしい挨拶をした。
後にいる兵士達もエレーナの事を思い出し始めてざわついている。
「こ、これは大変失礼致しました!」
「いえ、ご心配なく。わたくし達も騎士団に粗相を働くおつもりはございませんよ。そうですよね!皆様?」
「「「え?」」」
男の騎士は打って変わって謝罪をし、エレーナは許したと同時、俺達に手間をかけさせるつもりはない事を証明するための同意を求めてきた。
「も、もちろんです!我々も騎士団の皆様にご迷惑を掛けに来たつもりは毛頭ございませんので!」
「「彼に同じく!」」
俺は取り繕う表情を見せ、ウィーネスさんとリエナさんも同意した。
「先ほどはご忠告感謝いたします。考えた結果、被害届は提出しない事にしますので、これで失礼します!」
「うむ、それが賢明だと思いますぞ」
「……」
俺達は騎士団の支部を去って行った。
その時の様子を物陰から見る一人の騎士がいた。
「エレーナ、ありがとう。窘めてくれて……」
「礼には及びませんよ」
俺はエレーナにお礼をしていた。
あの場で突っかかっていたら現行犯逮捕されるところだったのだから。
冒険者は自由のために、騎士は秩序のために活動しているため、相容れない事は覚悟していたが、想像以上にシビアなモノだった。
「それで、トーマの答えを聞きたいんだけど……」
「はい、騎士や兵士達には腹が立ちましたけど、お陰で一つの確信が持てました!」
ウィーネスさんの質問に対し、俺は答えた。
「騎士団は財力に優れる権力者と癒着している」
俺の答えに皆は押し黙った。
しかし、ここで新たな疑問が出てきた。
「問題は誰と癒着しているかなんですよね~」
「その、ギンゼルを薬物で操った人とかって可能性は?」
「何とも言えないですね……」
捜索が暗礁に乗ろうとしていた時だった。
「そこの者達!」
「「「「!?」」」」
すると一人の男性の声が届いた。
俺達はその方向に顔を向けた。
「少しばかり、話はできぬか?」
そこには騎士の甲冑に身を包んだ一人の男性がいた。
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