第151話 危険な匂い
ここから事件が少しずつ、動いていきます!
俺達はギルドマスターであるカルヴァリオさんの頼みで同じギルドの冒険者パーティー【ゴーファイターズ】のギンゼルさん達が行方不明になったと聞かされた。
Bランクパーティー【ブリリアントロード】のウィーネスさん達と共に捜索や調査に当たる事となった。
そんな中、捜索対象であったギンゼルさんがウェシロスにある治療院に運ばれた事を知り、俺達は駆け付けた。
「ギンゼルさん、大丈夫かな?」
「大丈夫だろって言いたいが、あの様子だと分からないな……」
「ギンゼル以外のメンバーは見つかっていないらしいけど、そっちも心配ね……」
セリカ達は待合室で待機している。
同じギルドに所属する冒険者なだけに、心配でしょうがない様子だ。
運ばれた時のギンゼルさんは右眼を潰され、左腕も一部欠損しており、今もなお意識不明の重体なのだから。
加えてギンゼルさん以外のメンバー3名は未だに行方不明のままだ。
不安になるのも無理もない話である。
それからしばらくして……。
「皆、お待たせ」
「トーマさん、ウィーネスさん。ギンゼルさん、どうでしたか?」
「おう、セリカ。皆も……」
俺はウィーネスさんと一緒に待合室へと入っていき、気になって仕方ない様子のセリカ達が駆け寄って来る。
そして、ギンゼルさんの治療を請け負った主治医の先生から聞いた話や状況を余すことなく説明した。
「ギンゼルさん、今日が山場、ですか……」
「見るからにヤバそうだったもんね……」
「ギンゼルさんの容体もそうですけど、他の方々も心配ですよ……」
セリカ達もギンゼルさんの事を気に掛けている。
一方、ウィーネスさん達は……。
「にしても、“ニコテク”がギンゼルの体内から検出されたとは……」
「何か、怪しいわね……」
かなり険しい顔をしている。
“ニコテク”とは、摂取すると身体の中枢神経を麻痺させ、一時的に強い多幸感や陶酔感、高揚感を抱かせる薬だ。
しかし、薬と言っても、健康にするための類ではない。
摂取そのものが危険な方の薬だ。
“ニコテク”は大量摂取や継続的に服用し続けてしまうと、脳の機能そのものにまで悪影響を及ぼしてしまい、判断力が鈍り幻覚が見えてしまう作用がある。
そして終いには狂乱状態になってしまう可能性も高まると言う危険性を持った薬である。
言うなれば、麻薬って意味だ。
この“ニコテク”を使用するのはもちろん、所持や製造そのものが禁止行為とされており、最悪の場合、王都の牢獄に長期間収容されてしまうとの事だ。
だが、大きな懸念がもう一つある。
「このままだとギンゼルさん。犯罪者になってしまう可能性があると思われるのですが?」
「えぇ、正しくその通りよ……。今はまだ大丈夫だけど、もしも目を付けられでもしたら、ギンゼルは薬物中毒の前科を背負う事になる……」
「そうなったらギンゼルさん、冒険者として活動するどころか、人生を棒に振る事になりかねませんよ……」
「でも、主治医の先生も外部には漏れないように対応していくって言質も貰っている。少なくとも入院している間は安心と思っていいよ……」
俺とセリカが不安に思った事を言うと、ウィーネスさんとリエナさんは答えてくれた。
今のギンゼルさんの容体や状況を思えば、当然の問答だと再認識させられる。
ギンゼルさんと大きく太い繋がりはないけど……。
「何で……。あんなに真っ直ぐな人が……。このまま訳の分からない事件で無実の罪を着せられるなんて、許せるはずがねぇよ……」
少なくとも、同じギルドに所属していて、性格も良くしっかりした真っ当な人間がこのまま法による裁きを受けてしまうのは納得ができない。
同時に、今回の冒険者達が行方不明になっている事件を解決しなければならない気持ちも一層強くなり、それは皆も同じだった。
「そうね……。少なくともギンゼルは……ギンゼル達が違法薬物に手を染めるなんてアタシには考えられない。今回のトラブル、アタシは裏に黒幕がいると思っている」
「と言う事は、ギンゼルさん以外の冒険者達も……」
「恐らく同じかそれ以上に危険な目に遭っている可能性が高いわね……。例えば、強い権力を持った人とか……」
セリカの問いに対し、ウィーネスさんは厳しい表情で推察している。
ギンゼルさんの重体に危険な薬の検出と言う事実から、少なくとも偶発的に起きた事故でないのは明らかだ。
れっきとした事件であるのは、もう全員が理解している。
「何にせよ、ギンゼルさんが意識を取り戻すかどうかが今は大事ですよね……」
「彼が目を覚ませば、今回の事件について何かしらのヒントや証拠がきっと得られるはず。まずはヒルダさんにも報告しにいきましょう!」
こうして当面の方針がまとまり、まずは俺達【トラストフォース】が看病する事になり、ウィーネスさん達は【ティア―オブテティス】に戻ってヒルダさんに確認できた事を報告しに行った。
状況や事情を知ったヒルダさんはギンゼルさんに及ぶかもしれない俺達の懸念事項についても理解してくれており、“ニコテク”が検出された件も周囲に漏れないように秘匿してくれる事を約束してくれた。
「ギンゼルさん。大丈夫だよな……」
「大丈夫と思いたいところですけど、何とも言えませんからね……」
「今は意識を取り戻してくれる事を願うだけですよ……」
「そうだな……」
俺はセリカとエレーナと共にギンゼルさんが眠る病室で彼の看病をしている。
未だに意識が戻らない状況である事に変わりはなく、心配だ。
一方、ミレイユとクルスはと言うと……。
「こうして見ると、本当に品揃え良いな……」
「名を上げ続けている商会が直営するお店なんだもん。当然でしょ!」
「確かに、『ロマンガドーン』よりもデカい店だしな……」
回復用のポーションや補助アイテムを買い集めていた。
ミレイユとクルスには俺達が看病している間に買い出しをお願いしていたのだ。
ヴェヌトイル商会の直営店なだけあって、品揃えも豊富で強そうな武具も多くある。
「まいど~」
「こんなものかな?」
「うん、これだけあれば、当面は問題ないわね!」
「何事も、準備は大切だからな……」
買いたいアイテムを買えた二人は店を出た。
「ギンゼルさん、大丈夫かな?他の皆も……」
「今は目覚めるのを待つしかないよ……」
「そうよね……」
「治療院に戻ったらトーマさん達と合流しよう!ミレイユ!」
「うん!」
ミレイユとクルスはそう言って歩いて行った。
それから数秒後、路地裏から一人の人影が見えた。
「ミレイユ……?」
それは、年季が入り寂しい印象を感じさせる服に身を包んだ一人の中年の男性であり、ミレイユの名前を呟いていた。
その隣には一人の中年女性がおり、彼女も同じく、ミレイユの姿を捉えている。
女性の方の容姿は心なしか、ミレイユと似たような雰囲気があった。
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