第149話 【マーカス視点】便利な道具と言う名の存在(後編)
マーカス視点のお話の後編です!
ある日、俺達は荷物を乗せた一台の馬車がならずものの盗賊団に襲われている現場を目撃した。
そして救援に入った。
「オラ!」
「グァ!」
「こいつら強ぇえ!」
「クソ!逃げるぞ!」
俺達は襲って来た盗賊団を退けた。
盗賊に冒険者ランクなんてモノはないが、それで換算するとDランクと名乗れるかどうかくらいの実力だったため、俺達の敵ではなかった。
「すいません、ありがとうございます!」
「いえいえ、礼には及びませんよ……」
(ん?このマーク?)
お礼を言う御者の男性と感謝されているジゲラ達を他所に、俺は馬車の壁に刻まれているマークを見て、ヴェヌトイル商会の持つ馬車である事を知った。
なりゆきとは言え、俺は義父がトップを張る商会の馬車を助けた事になった。
義父との折り合いが良くないのは相変わらずだが、それとこれとは別の話として割り切る事にした。
「では、俺達はここで……」
「ん?あなたは……」
「何か?」
帰路に着こうとした時、一人の御者の男性が俺の顔を見て呼び止めた。
数秒の沈黙が続き……。
「いや、何でもありません。人違いでした。申し訳ございません!」
「こちらこそ、お気になさらず……」
御者の男性は結局それ以上の事を追求せず、馬車に乗って隣の町まで向かって行った。
「マーカス。さっきの御者と知り合いか?」
「いや、ないけど……」
「ふ~ん。そう……」
ジゲラとそんなやり取りを交わしていたが、彼は素っ気ない対応をした。
他のメンバーも特に突っ込んでこなかったため、とりあえずホッとした。
その数日後——————
「なぁ、マーカス!」
「ジゲラ、どうした?」
ある日俺はジゲラに声を掛けられた。
その時の仕草はいつになく馴れ馴れしく、表情はどこか奇異なモノだった。
そしてジゲラは口を開いた。
「お前……。ヴェヌトイル商会の会長の息子なんだってな……」
「え……?」
俺の素性がバレてしまったのだ。
ジゲラは交友関係が結構広い人物であるため、独自で調べ上げたと言っていた。
俺は隠し通すために努めてきたが、まさかバレるとは思ってもみなかった。
するとイミニやアコナも食い付いてきた。
「え?と言う事は、マーカスの本名って、マーカス・ヴェヌトイルって事?」
「マジで?」
「そ、それは……」
「何で本名じゃないの?」
「ぎ、義父の意向で伏せていて……」
俺はジゲラ達に質問攻めにされてしまい、変に隠そうとするのは逆効果だと悟り、仕方なく話す事にした。
自分はヴェヌトイル商会の会長である義父・ゲルグオとは血の繋がっていない親子関係である事、冒険者になって現在に至るまでの経緯まで……。
「ふ~ん。と言う事は、あの時助けた商隊の馬車はヴェヌトイル商会の所有物って意味だろ?そこを俺達が助けたって意味だ……」
「うん。まぁ、そうなるな……」
「つまりだ。俺やイミニ、アコナはお前の義父であるヴェヌトイル商会の会長であるゲルグオ様の恩人達って意味だろ?」
「え?」
(ジゲラ。何を……?)
俺はジゲラが何を言っているのか理解し切れていないのに対し、イミニとアコナは察したような表情を見せた。
「何が言いたいかって?マーカス!お前にとっての俺達は、ヴェヌトイル商会を助けた恩人って事なんだよ!」
「恩……人……?」
その言葉を聞いてジゲラが何を言いたいのか、何がしたいのかが読めてしまった。
隣で聞いていたイミニとアコナも少なからず悪い笑みを浮かべている。
「だからよ……。お前がお前の親父さんに上手く取り入って、武具やアイテムを安く卸してってお願いしてくれよ!」
「は?」
「俺達ってさ、Cランクになってから何年も経っているんだけど、そろそろBランクになれちゃってもいいって思ってんだわ!だからさ、もっと強力な武器や防具とかが必要なんだよ!そこでお前の出番だ!」
「俺が、義父に口利きしろと……?」
ジゲラの言葉に俺は絶句した。
続いて無言になっている俺を他所にこんな事を口に出す。
「当然じゃねぇか!つーか、何で隠してきたんだよ?言ってくれりゃもっと早くさっきの提案も早く浮かんだのにさ!」
「けど、俺と義父、義兄との折り合いは良くないってさっき……」
「それなら商売が繁盛できるようにお前が親父さんに提案するなりしろよ!モノが売れりゃお前んとこの商会も万々歳だろ!?」
「それは……」
何とも勝手な発言だ。
ジゲラは自信家で口が達者な男だが、同時に損得勘定の側面も強いところは何度も垣間見ていた。
加えて自分が損失を被る事をどうにかして避けたがる傾向もあり、パーティー内でも誰かにミスがあったら当たり前のように責める事も珍しくなかった。
それでも、最もらしい事がほとんどだったので、俺だけじゃなく、イミニとアコナも納得できていた。
だが、俺がヴェヌトイル商会の会長である義父と親子関係である事が判明した途端、それを利用して自分がおこぼれを貰おうと理解できてしまった時には開いた口が塞がらなかった。
「定期的に実家に帰っているんだったら、今度会った時に親父さんによろしく言っといてくれよ!後、この事は俺達だけの秘密だからな!」
「私達の昇格はアンタにかかっているから、どうにかやってね!」
「てなわけで、よろしく~」
「……」
ジゲラだけでなく、イミニとアコナも同調していった。
俺はそれ以上何も言えなかった……。
丁度その翌日、俺は数ヶ月に一度の冒険の成果や近況報告のため、実家へ顔を出した。
義父や義兄を前に、俺はウェシロスにある武具屋やアイテムショップ等、冒険者に関連する店舗に格安で商品を卸して欲しいと懇願した。
この時俺は商会にどんなメリットがあるのかを懸命に説明しながら話した。
祈る思いでいたが……。
「なるほど、構わんよ」
「え?」
断られる確率は高いと思っていたが、意外とアッサリ受け入れてくれた。
「確かに、冒険者達が我々の扱う商品をクエスト達成等に役立ててくれれば、相対的に評価も上がり、利益の向上に繋げられるな……」
「だが、誰でも彼でも格安で売るのはいかがかと……」
「そのためにも、俺が所属している冒険者ギルド【ティア―オブテティス】の冒険者に限定するのが得策かと……」
「そうだな。ウェシロスを中心に商売をしているなら、それが賢明だな……」
俺は何とか義父を説得する事に成功し、心の中で胸をなで下ろした。
これでジゲラ達に良い報告ができると思うと、気持ちが軽くなった。
ジゲラに説得が上手く行った事を報告した。
「へぇ~、【ティア―オブテティス】に所属する冒険者限定で安くしてもらえるように頼み込むとはやるじゃねぇか?」
「何とかなったよ……。これで……」
「はいはい、お疲れさん!やっぱり持つべきものは、便利な冒険者だな!」
(は……?)
帰って来たのは上辺だけの感謝の言葉と、便利と言う人間ではなく、道具のように見ているとも捉えられる言葉だった。
俺はただ、呆然とするしかできなかった。
それからは商会が【ティア―オブテティス】に所属している冒険者には格安でモノを売るだけでなく、中々出回らない武器や防具、アイテムも店に置かれる事となった。
結果的にジゲラ達は強力な武具を手に入れたお陰で一層の活躍をするようになり、他の冒険者達も成果を挙げられるようになっていった。
「よっしゃー!Bランク冒険者に昇格だー!」
「「やったー!」」
俺が所属している冒険者パーティー【スターレック】はBランクに昇格した。
Bランクの冒険者を名乗れる事は素直に嬉しかった。
しかし……。
「マーカス!俺達はこの調子でAランク冒険者を目指していくから、上等な武器とか色々と用立てられるようにしてくれよな!」
「あ、あぁ……」
使い勝手の良い便利な道具と言う存在から抜け出す事が叶わないままだった。
ジゲラ達に俺の義父がヴェヌトイル商会の会長である事が知られて約一年、俺の中には仲間とすら思えてもらえない虚無感を確実に強くしていった。
回想終了———————
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「クソ……」
今までの人生を振り返っても、義父や義兄と過ごした日々はともかく、ジゲラ達とパーティーを組んだ最初の頃は楽しかった。
イミニとアコナとも関係は良好だったが、今では表面上の薄っぺらい繋がりに成り下がってしまった。
過ぎてしまった事はしょうがない、それでも……。
「俺は……、道具じゃない……。冒険者のマーカスなんだよ……」
ただ、道具のような存在から脱却したい願いを抱きながら、葛藤するしかできなかった。
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